明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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「……で、なんだこれは」

 

「おーぅ……」

 

 ウォルターは、何故か頭痛がする目覚めに呻いていた。

 グレンダンにて、女王に派手な剄弾で喧嘩仲裁されてから数日の現在、ここ、養殖湖近くにある合宿所に来ている。

 昨日からここで合宿が始まり、ウォルターは第十七小隊のひとりとしてここに来ていた。

 だが、何故か今日に限って頭痛がする。

 

―――――なンでだ……?

 

 ウォルターは様々な理由を考えるが、それでも答えは出ない。

 

「……ぅー……」

 

 久しぶりの頭痛にやや涙目になりつつ上半身を起こす。

 

―――――そういえば……

 

 この“世界”に来た頃は、よく頭痛がしていたなと思う。

 その理由は単純で、色々な事を行ったからだろう。

 まあ具体的に言えば世界に適応する為に武芸者、念威操者としてのちからを発現させたり、時を操るちからを使えるようにしたりした為。

 事実前者は必要なものだし、後者もウォルターには必要なものだ。

 ただ、念威操者の能力は正直要らないかとも思っていた。

 だが外へ出る事になった時に都市外用スーツを着ないウォルターは、レイフォンやニーナ達などといった都市外用スーツを着る他の武芸者達が付けるフェイススコープも付けない。

 そうなれば自分で周りの把握が出来ない場合において、外で活動が出来ないということにもなりかねない。

 それの防止、という意味では得ておいて正解だったかとも思うのだが。

 しかし、と更に思考を巡らせる。

 ウォルターが得た、時を操るというちからは実質的にはただ時空を行き来するだけ、という方が言い回しとしてはあっている。

 事情により時間を巻き戻して行く場合もあるので、その表現も当てはまる、というだけだ。

 だが、いまウォルターが強く考える事はそんなことではない。

 

「…うー、水が欲しい…」

 

 水、というよりもどっちかといえば、すっきりするもの。

 いっその事レモン汁でもいい、などと投げやりに考えつつ、頭痛のする重たい身体を起こして、ウォルターは厨房の方へと向かっていった。

 

 

「……で、なんだこれは」

 

 元々の頭痛に加えて、目の前で繰り広げられる奇怪な現状にウォルターは呆れた顔をしていた。

 厨房の入り口で、ニーナとフェリどちらもが片手で調理道具を握り、引っ張り合ってどちらも譲らないという気迫の中静かに取り合いをしている。

 そしてそれをシャーニッドがにやにやと見ているというのが現状。

 そんな厨房の入り口を放って、厨房の中では和やかにレイフォンと今回の合宿の料理手伝いに来てくれているメイシェン・トリンデンが料理を進めている。

 ウォルターの呟きにシャーニッドが笑いながらこちらに寄ってきた。

 

「いや、実はな。ピューラーの取り合いだよ」

「…見れば分かる」

 

 ニーナとフェリの手に掴まれ、引き寄せられたり離されたりしている調理道具がピューラーだということは料理をするウォルターにはわかりきったことだ。

 

「…いまなかで2人が仲睦まじくじゃがいもの皮を剥いている……。大変そうだろう、だから手伝ってやりたいがしかし出来ない! だがそこに現れる、そんな2人の味方、ピューラー! …しかし、そこには大きな罠があった……! …それはひとつしか無い、ということ……それはつまり……、取り合いだ!!」

 

 隣でいきなり熱弁し始めたシャーニッドに酷く冷めた目線をウォルターは向けた。

 

「…………………要するに、手伝いたいけど技術がねぇからピューラーを使おうと思うがひとつしか無いってことで、どっちも譲らねぇからああなってる、と」

「…まぁ、普通に言えばそうだなー」

「普通に言え、普通に」

 

 ウォルターはやはり呆れた顔で言う、しかしシャーニッドは楽しそうに笑っているだけだった。

 ともかく、と本来厨房に向かっていた目的を果たすためウォルターは2人とわらうシャーニッドを尻目に厨房に入る。

 

「……水、くれないかな、水」

「おはよう御座います、ふてぶてしいですね朝から」

「……喧嘩なら買うぞ、あとで」

 

 頭が痛い事と、起きたばかりだからということが重なったため、いつもより二割増しくらい機嫌の悪いウォルターはレイフォンを静かに睨め付けた。

 ほんの少しそれに怯えているメイシェンから水をもらい、コップに口をつけながら「外に2人居るぞ」と告げる。

 まぁ、厨房に入ったウォルターは、現在どういう状況かわかっていたのだけれど。

 

「あぁ、それならもう終わりましたから」

 

 驚愕の顔で固まっているんだろうなぁ、とか思ったら、廊下からシャーニッドの笑い声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 朝食が終わった十七小隊は、軽い準備運動を済ませて練習に取り組むべく話を進めていた。

 

「今回は、試合形式で行う」

「試合形式? …人数足らねぇンじゃねぇの?」

 

 ニーナの言葉に誰もが首を傾げた。

 ウォルターの問いは最もだったが、ニーナは頭を振った。

 

「いいや、今回はウォルターとレイフォン、その他だ」

「僕と…ウォルター、ですか?」

「そうだ。さすがにひとり対というのは卑怯だろう」

「……そうかぁ? オレとアルセイフって方がチートだと思うンだが」

「じゃあどうする?」

 

 レイフォンの隣にいたナルキが首を傾げた。

 ふむ、と手を顎に当てて、ウォルターは「あ」と呟く。

 

「オレが引っ込む」

「他の案ないか」

「即スルー……。冗談言っただけなのに」

 

 ウォルターは困った顔をして遠くを見た。

 しかし他に有力な案は出ない。

 

―――――…正直ここまで来るとどれだけ影響力があるか分かるよなぁ

 

 何気なくレイフォンは案を模索しながらしみじみと思った。

 ウォルターが強いことはよく分かっているし、自分の実力も一応は理解しているつもりだ。

 だが、意外な所で困ることが出てくるとは思っていなかった。

 

「んー…。じゃあ……」

「他。他ないか」

「おいアントーク。オレ、まだなにも言ってないぞ」

「お前が言う事は五分五分で適当だ」

「いやそれ……。…まぁいいや、こうしようぜ。オレ対他のヤツ。そっちにアルセイフが居ることだし、ある程度は力量のバランス取れるンじゃねぇの? どうだ?」

「………………そう、ですね……」

 

 やや不満そうではあったがレイフォンはとりあえず納得したようで、そういう方針で進むことになった、のだが。

 

「待ってください」

 

 ひとり異議を唱えたのはナルキだ。

 ナルキは不満そうな顔をして、ウォルターを見た。

 

「4対1なんて、フェアじゃないですよ」

「えー…? フェア、…だよなぁ」

「……ですね。というよりウォルターが少し頭抜けていてすでにフェアじゃなくなってますけどね」

「い、いや……そうじゃなくて! レイフォンも隊長さんたちも居てウォルター先輩だけを相手なんて、」

「まぁまぁ」

 

 そんな熱くなったナルキをなだめたのはシャーニッドだった。

 ウォルターは珍しい介入者に一瞬眼を丸くした。

 

「やれば分かるって」

「……そうですか……?」

「そうだよ、ナッキ。ウォルターには頭かち割る勢いで行っていいからね」

「えっ」

 

 レイフォンの不吉な発言にさすがにウォルターが動揺した。

 

 


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