明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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3人寄れば文殊の知恵、4人寄れば喧嘩が勃発

 

 

「…おひさー」

「あら、ウォルター」

 

 ウォルターは久々にグレンダンに顔を出していた。

 突然現れたウォルターだったが、それに動じる事無く廊下を歩くグレンダン女王、アルシェイラ・アルモニスは返事を返した。

 ウォルターがここへ来たのは、まぁ単純だ。

 約一ヶ月前の廃貴族の騒動についてということ。

 

「話は来てるか?」

「えぇ、あんたんところに廃貴族が出たんですって?」

「おう。ライアから手紙が来たかねぇ」

「そんなところよ。大変ね、あんたも」

 

 アルシェイラがそう言って渋面を浮かべた、ウォルターは苦笑して肩を竦める。

 

「いやぁ。それほどでもねぇな。……ところで、お前からリヴィンの剄の反応があるンだが…」

「…実はね、さっきシメちゃった! テヘペロっ」

「……アルモニス……」

 

 ウォルターは呆れた顔をしてアルシェイラを見つめた、見つめられたアルシェイラはそれでも舌を出して「てへ」と言う。

 

「てへ、で済まされることじゃないぞ、それ。お前がやったら殺人事件になる」

「酷いなー、これでもある程度手加減したんだぞ」

「お茶目全開だって顔するのはやめてくれ、対応に困る」

 

 言葉程怒っているわけでもなく、ただ淡々とウォルターは溜息を吐く。そして本題らしい話を切り出した。

 

「……まぁ……、どうせ天剣がどうたらこうたらでなったンだろ? オレはどうでもいいけど」

「んー…あんただったらどうする? 廃貴族」

「弱いからいらねぇ」

「……さすがあんたね」

 

 アルシェイラがどこか呆れたような顔をしながらウォルターに言った。

 言われたウォルターはなにがさすがなのかがさっぱり分からず首を傾げる。

 

「でもあんたのほうがやっぱ頭柔らかくていいわね、帰ってこない?」

「ヤだ――――」

「え―――――」

 

 二人して微笑み合いながら呟きあう。

 するとふと、アルシェイラが真面目な声音でウォルターに呟いた。

 

「ねぇ。わたしって要ると思う?」

「……は? いきなりだな」

 

 突然の問いにきょとんとして、ウォルターはアルシェイラを見た。

 ウォルターのよく分からないという目線にアルシェイラが渋面を浮かべる。

 

「…実はね、いまなーんとなく、唐突に思ったのよ。…だって、ウォルターはすっごく強いでしょ? 実質わたし以上。あんたの事情はある程度教えてもらってるから強い理由も知ってるけど……。それでも、あんたが居るならわたし要らないんじゃないかなーって。……思ったり」

「……ばかじゃねぇの」

「え」

 

 アルシェイラの意外すぎる言葉に対して、ウォルターは吐き捨てるように言った。

 今度はアルシェイラがきょとんとしてウォルターを見る。

 

「お前な、オレが“どういうヤツか”知ってるだろ? そのくせしてその言葉は無いンじゃねぇの?」

「……え、っと…?」

「………だから、いいか? オレはあくまで“外”のモンだ。この“世界”の事は、はっきり言ってオレには関係ない。オレが守ると言ってンのは、“ここ”の下に居るヤツだ。…だから、この“世界”を守るのはきっちりお前の仕事なんだよ、アルモニス。最後に選ぶのはオレじゃない。お前らだ。……そこを履き違えるな」

 

 ウォルターがそう言って金の腕輪をかつんと叩く。

 アルシェイラは少し考える素振りを見せて、ウォルターに問うた。

 

「……じゃあ…、いざとなったら戦ってくれないって事?」

「……さぁな。状況による。それに、お前と対峙することになるやもしれないって事は頭に入れておいてくれよ」

「…そんなことは、わかってるわよ。あんたはいま、ツェルニの“生徒”なんだものね。……あんたが生徒だなんて、笑えるわ」

「えー」

 

 アルシェイラが笑みを浮かべて言う。

 ウォルターはそれに対して苦笑を浮かべただけで特にそれ以上言うつもりも無い様だった。

 丁度そんなアルシェイラとウォルターの元へ、サヴァリスがやってきた。

 

「……ありゃま、ルッケンス」

「おや、ウォルター。久し振りだね。と言うかキミ、“ありゃま”って……」

 

 くつくつと楽しそうにウォルターを見てサヴァリスが笑う。

 ウォルターはそれに対して眉を寄せる気も無いらしく、ただ呆れた顔をした。

 

「なんか文句でもあったかねぇ?」

「いいや? キミらしいなと思ってね」

「おう、ならばよし」

 

―――――それもどうなの

 

 サヴァリスは喉まで出かけた言葉を飲み込んで、アルシェイラの方に向き直ると言葉を紡ぎ始めた。

 

「…陛下、実はツェルニに居る弟から手紙が来たものでして」

 

 サヴァリスは相変わらずの笑みを浮かべている。

 つい先程その話で不機嫌だったようで、眉を潜めた。

 

「……不機嫌だってわからないかな? 天剣授受者は最近調子に乗っているみたいだね。ウォルターも居ることだし少しシメちゃおうか?」

「こら。オレはなにもやらねぇぞ」

「そう言わない。で? それ以上になにかあるのかな? サヴァリス」

「いえ、よろしかったら僕を使っていただけたらと」

 

 サヴァリスの言葉に、ウォルターが今度は眉を潜めた。

 

「なに? 廃貴族に興味でもあンのか、お前」

「…なんだ、ウォルターも知っているのかい?」

「もちろん。お前が喋ってきたンだろうが」

「あぁ、そういえば。……欲しくない、と言えば嘘になるけれど…、まぁ、それでもあくまで興味の範疇だよ」

 

 サヴァリスが言う、しかしウォルターは眼差しを鋭くしてサヴァリスを見やる。

 その視線にサヴァリスが肩を竦めた。

 

「まぁ、別にどうということはないんだよ。ただ、陛下と並ぶその力。使ってみたいと思っただけだよ」

「……あ、そ。どうでもいいや」

「キミは本当に興味のないことには無関心だよね」

 

 ウォルターがため息混じりにそう言い放ち、サヴァリスはそれに対して再び肩を竦めた。

 それでも特に悪気は無いらしく、ウォルターはあっけらかんとして居る。

 

「だってよ、廃貴族っていってもそんな劇的に変わる訳じゃないンだぜ? 完全使役できようと、適応する精神と身体を持っていない事にはどうにもならねぇ」

「ふぅん…、そういうものなのかな?」

「そ。だからどうかねぇ…」

「まぁ、僕も心の底から欲しいとは思っていないんだ」

 

 サヴァリスが言う、だがウォルターはやはりあっけらかんとしたままで居る。

 そしてその視線をアルシェイラに向けた。

 

「まぁでも、送ンなら送ればいいンじゃねぇの? お前、戦いの事に関しては“割と”律儀だから」

「……そうねぇ……、考えておくわ」

「ありがとうございます」

 

 アルシェイラは言葉と共にウォルターに手を振り、先を行く。

 残ったサヴァリスとウォルターだったが、サヴァリスがウォルターに声をかけた。

 

「助け舟を出してくれたのかな?」

「いいや、そういうつもりは無い。……ただ……」

「げっ」

 

 新たな声がその場に響き、そちらへ顔を向けた。

 

「あ、ノルネに……フィランディン?」

 

 バーメリンとトロイアットという珍しい組み合わせにウォルターは首を傾げた。

 

「おや。どうしたんです? バーメリンさんとトロイアットさんが一緒に居るなんて珍しいですね。…ははぁ、明日は老生体でも来るんでしょうか」

「来そうで嫌だなー。お前らが一緒に居るなンて、老生体どころか槍が振るンじゃねぇ?」

「避けれるからその程度は……」

「じゃあ老生体戦の時に槍が降る」

「なにそれいやだ」

「おいあんたら勝手に話を進めるな」

 

 バーメリンが苛ついた様子でウォルターとサヴァリスを睨んだ。

 

「悪い悪い。じゃあどうしたンだよ」

「……行く方向が一緒だった、それだけ。じゃなきゃこんなくそと一緒に歩くか、キモい」

「…………そう言う割に隣に並ン、」

「…………………そういう言い方ウザ、ウォルター消し飛べ」

「酷い」

 

 バーメリンが手荒く錬金鋼を剣帯から引き抜き、銃を復元した。

 

「あはは、頑張って」

「えげつないな、お前。つかお前のせいでもあるだろ」

「キミがあぁいう言い回しするからじゃないのかな?」

「うっせ」

「仲いいなー、お前ら」

「仲良くねぇよ、お前の脳みそはやっぱり腐ってンだろ、フィランディン」

 

 ウォルターはバーメリンの射撃を避けながら、錬金鋼……黒鋼錬金鋼を抜き出してトロイアットに向かって剄技を放った。

 トロイアットが軽く悪態をつきながらそれを避ける、続いてトロイアットも錬金鋼を抜いてサヴァリスに向かって剄技を放つ。

 

「ちょっと、なにしてくれるんです」

「いや、ここまで来たらお前に打つべきかと」

「違うだろ」

「あぁもう、避けるな、うざい、死ね! マジ死ね! 焼かれてそのキモい髪までチリになれ」

「おいキモい毛ってなんだ、これ地毛だぞ。人権の侵害だ」

「お前に人権なんてあんの?」

「フィランディン? あとで真面目な話を3時間くらいしようか」

 

 ウォルターは苛立たしげに剄を放ち、射撃の軌道を変えつつトロイアットに狙撃の剄を撃った。

 しかしやはり避けられる。

 加減している剄技ではさすがに天剣授受者、避けられる事は決まりのようだ。

 

「ノルネじゃねぇけど、うざい」

「わたしじゃないけど、ってなんだ。うざいのはあんた。とっととチリになれ」

「言葉遣い、言葉遣い」

 

 ウォルターは上半身を仰け反らせて剄を避けるとそのまま地面を蹴る。

 

「つか、こんなに大騒ぎしてたらアルモニス怒るンじゃねぇの?」

「陛下なんて知るか」

「まぁ陛下は陛下だから」

「いまはなかなか楽しいのできりつけられないです」

 

―――――だめだこいつら

 

 ウォルターは遠い目でそう察して、結局はこの微妙な戦いに真面目になる。

 

「なんだこの四角関係! 凄まじい!」

「お前がルッケンスに手を出さなければこうはならなかったンだが」

「そうですよねぇ」

「耳障りだ、消えろこのくそ共!」

 

「耳障りはあんたらよ!!」

 

 最終的にはアルシェイラの剄弾が飛んでくることになった。

 

 

 


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