「……ルレイスフォーン、どうした?」
唐突に、共に機関掃除をしていた同僚にそう声をかけられた。
ウォルターは首を傾げて同僚を見やる。
「なにがだ?」
「いや、妙に浮かれてるっていうか……なんというか」
訝しげな表情を浮かべながら言う同僚の男に、ウォルターはへにゃりと笑みを浮かべた。
「…いや、近々合宿があってな」
「ふぅん、合宿が楽しみなのか?」
「…………いや?」
「じゃあなんだよ!」
ウォルターの真顔の答えに同僚は強くツッコミを放った。
しかし、そんな同僚の渾身の一撃もなんのその、けらけらと笑いながらウォルターは呟く。
「んー、なんとなく、かな」
「なんとなくの上下差が激しい」
「そうか?」
「そうだよ」
そう言われて、ふむ、と考えた。
そんなに眼につくような行動だっただろうか。
確かに少し浮き足立つようなテンションだった事は否めないのだが……
「そうかねぇ…」
「はぁ…、もういいよ…。悪いけどおれ、先に上がるわ。おつかれー。お前、向こうで今日担当してる後輩ともう一人が居るから行けよ」
「えー」
―――――そんなにオレあからさまだったかな
自分の事に関しては特に気にしたことがないのでよく分からない。
どういう程度で他の人にどうとられるかということもあまりよく考えたことが無いウォルターはただ首を傾げるだけだ。
それでもウォルターは、去っていく同僚の背中から目線を逸らして溜息を吐く。
先程より幾分かは落ち着いた足取りでウォルターは去っていく同僚の背中から目線を逸らしてしょうがないと溜息を吐く。
バケツとモップを持って移動していくと、明らかに見慣れた背中が見えた。
「…………………おぅふ」
「…ウォルター。お前も今日シフトだったのか?」
「……あぁ、そうだけど……。居るのってアントークとアルセイフかよ」
「悪かったですね、僕で」
「はいはい」
レイフォンの言葉にウォルターは肩を竦め、バケツをおいてモップを構えた。
「…そういえばウォルター」
「んー?」
ニーナに声をかけられ、ウォルターは構えたモップを少し下げた。
「さっき話していたんだが、レイフォンの事をナルキ達に伝えるべきだろうか」
「んー……? アルセイフの事か?」
「そうだ」
「…さぁ…。他のヤツの感性まではオレも知らないし、どういうヤツらかあんまり知らないし…」
時々関わるけど、と付け足してウォルターはモップを動かす。
ニーナはそんなウォルターに呟くように言う。
「やはり、言うべきでは無いか?」
「まぁ、最後は結局アルセイフが決めることだしな。今回ゲルニが新しく隊に入ったンだし、仲間意識をきっちり持つならそういう隠し事はすべきじゃないとは思うンだが……」
こういう話をするのも、本日ナルキが改めて第十七小隊に入ってきた為だった。
違法酒の事で一旦入っていたナルキだったが、潜入の為ということが主だった為、ナルキが改めてきっちりと入りたいといったのだ。
ニーナもそれを素直に受け止め、ナルキの入隊試験を行なって合格と判断した。
ナルキは実際内力系活剄においては1年生でなかなかいい筋をいっていた。そういうこともありウォルターも反対しなかった。
「警察になりたいとか言ってるヤツだし、ちょいと厳しいかもな。…けどま、堅物の代表アントークに納得してもらえたンだし、なンとかなるンじゃねぇの?」
「……それなら、いいですけど」
ニーナがウォルターの言葉に嫌そうな顔をした、しかしウォルターは特に気にもせずレイフォンに声をかける。
「…全部恐れてたら、なンにも出来ねぇぜ、アルセイフ」
「…………………わかってます」
ウォルターの言葉にレイフォンは不満そうに頬をふくらませた。
その日の機関掃除は、終了までずっとその話をしていた。