「オレさ、一回でいいから腹の底から叫びたいわ」
(……なんの話ですか)
ぼそりと呟いた言葉を聴きとったらしいフェリが冷めた声でウォルターに言う。
念威端子から届くフェリのその冷めた声に、ウォルターは苦笑を零す。
「いやさ…、この歳になると、もう青春って遠くてね……」
(時々イオ先輩の年齢を疑います)
「酷ぇな~。オレはぴっちぴっちのじゅ、」
(集中してください)
ウォルターが、軽く言おうとしたことをフェリに遮られ再び苦笑浮かべる。しかし確かに実際、そこまでふらふらとしている暇は無い。
事実もう試合は始まっていて、ウォルターは野戦グラウンドに居るのだから。
―――――まぁ、実年齢は確かに違うけど
今年何歳になったんだっけ?
そんな途方も無い事を何気なく思考した。
右方向より強襲 到達まで4.6
―――――遅……
ウォルターはすぅっと眼を細めた。
復元されたツェルニ支給の錬金鋼……少し前に新調した黒鋼錬金鋼は、すでに朝の素振りにより手にある程度馴染んでいる。
手元を狂わせはしない。
横に目もくれないまま、的確にウォルターは相手の錬金鋼の鍔元を叩き、錬金鋼を破壊する。
相手が驚愕に表情が染まるところだけを横目で見流し、相手に蹴りを放つ。
「っとに、面倒だねぇ……」
ウォルターは何気なく呟いた。
―――――あっちでもこっちでも面倒ばかり。疫病神でもついてンのかね
“此方側”で仕事をやっている間であろうと厄介事は容赦無い。
ウォルターが溜息を吐く、そしてレイフォンが居るであろう方、シャーニッドが居るであろう方に視線を向けた。
「さて。どうなるかな」
場合によっては多大な干渉をすることになりそうだ、そう思いながら左方向から来た相手を無表情で蹴り飛ばす。
それと同時、レイフォン側で煙幕が撒き散らされた。
「それはおれっち達の獲物さ~」
レイフォンがディンに封心突を放った矢先、ディンの真後ろには何故か黄金の牡山羊が出現した。
それに驚いていたレイフォンだったが、新たに現れた姿に眉をひそめずに居られなかった。
レイフォンに睨まれた姿は、間延びした声で野戦グラウンドに落ちた。
突如現れた男……ハイアはやはり笑みを浮かべている。
「……ハイアっ!」
「廃貴族はおれっち達がもらう。そういう約束さ~」
ディンが跳躍した。
しかし四方から放たれた鎖が、ディンをがんじがらめにすることでそれは阻止され、更にハイアの蹴りによって地上に落とされる。
ディンの少し後ろに現れている金色の牡山羊……廃貴族には目もくれず、ハイア達はディンを捕らえる。
「どういうつもりだっ、廃貴族はあっちだろう」
「あれはおれっちは捕まえられないし、元天剣授受者のレイフォン君にだって無理。我らが女王陛下でも無理さ~」
「どういう……」
「だけど」
ハイアがにやりと、笑みを悪戯に変えた。その笑みにレイフォンが一瞬戦慄を覚えかける。
「宿主を見つけたなら話は別さ~。それなら、おれっちだって捕まえられる」
「彼をそのままグレンダンに連れ帰る気か!」
「ま、つまりはそういうことさね」
ハイアがあっけらかんとした様子で言い放った。
レイフォンの後ろに立つナルキは、2人の放つ気に圧倒される。
―――――凄まじい、気だ
剄の波動は並のものではない。
相手のハイアはサリンバン教導傭兵団、しかも団長であるため当たり前といえば当たり前なのかもしれないが、ナルキからしてレイフォンも同じような気を放つことにほんの少し違和感を覚えていた。
―――――もしかして……ウォルター先輩もこういう風の人なのか?
ウォルターはこの2人に平然と、そして不敵に絡むこの学園で唯一の人物だ。
であるならば、やはりこの2人と同じ程……いいや、それ以上の強者であるような気がしてならない。
「待てっ」
鉄鞭を構えてやってきたニーナがハイアに向かって叫んだ。
ニーナが会話に加わるも、ナルキには話している内容が酷く高次元のものに思えて、話の内容は一切頭に入ってこない。
ニーナがハイアに宣戦布告をした。それは、レイフォンの動く方針が決まったということ。
レイフォンが簡易型複合錬金鋼を剣帯にしまい、青石錬金鋼を抜きながら言う。
「お前たちの相手なら僕がする。サリンバン教導傭兵団四十三名。技の錆を落とすにはちょうどいい質と数だ」
すでにハイアと戦う気で居るレイフォンに、ナルキは制止をかける。
「サリンバン教導傭兵団と言えば、猛者の集まりだろう。無茶だ、やめろ」
しかし、レイフォンの瞳はすでに感情が沈殿しつつある。
話をきこうとしないレイフォンは、剣をだらりと下げ、ハイアは鋼鉄錬金鋼を復元して斜め上段八相に構えた。