「不快です」
「最近そのセリフよく聞くなぁ」
「イオ先輩は少しのんびりしすぎなんです。……あのハイアの目的がはっきりしない以上、油断はできません」
「…いや、目的ははっきりして…」
「そ・の・遂・げ・る・方・法・で・す」
「…………………はい」
フェリはどうやらピリピリしているようで、ウォルターの些細な言葉にも過敏に反応してきた。
現在は第十小隊との試合の為の準備時間なのだが、どうやら十七小隊はウォルター以外気が重くてしょうがないらしい。
そういうウォルターも人並みには気が重いつもりなのだが、どうやら表情に出ないためにあまりわかってもらえていないらしい。
「あなたの“人並み”は八割程人並みではありません」
「ひでぇ言い草」
「……ウォルター、今回のことに対してもまだ軽い気持ちか?」
「……アントークまで言うか」
ニーナの真剣味を帯びた表情と言葉に問われ、ウォルターは肩を竦めた。
「いやぁ、そこまで軽いつもりじゃないンだが……やっぱりそう見えるかねぇ?」
「…生憎、わたしには普段の表情と変わって見えない」
「ウォルターがはっきり表情変わるのって甘いもん見た時だけだもんな」
「それだけじゃねぇつもりなンだがねぇ……。……アルセイフ?」
「……………………………………」
「アルセイフ?」
「……あ、…なんです?」
呼びかけに反応せず、何処か遠くを見つめるレイフォンの態度にウォルターが怪訝にレイフォンを見た。
「どうした?」
「……いえ」
ウォルターがレイフォンに怪訝な顔を向けて居るうちにニーナ達は野外グラウンドに出た。
移動の速さに苦笑いをしていると、未だ腰の上がらないレイフォンがウォルターの戦闘衣の裾を引っ張った。
「……あの、ウォルター……」
「…どうした?」
「今回の事…、ウォルターがやる、って…言ってましたよね」
「ん? …あぁ、そのつもりだが」
「……僕が、やります。…………やらせて、ください」
レイフォンがまっすぐにウォルターを見てきた。
そんなレイフォンの視線に、ウォルターは問いを返した。
「…お前がやるというなら、オレはそれに反対はしない。……だが、やれるのか? いざって時に迷ってたら意味がねぇンだぜ」
「わかってます。……けれど、迷っているのはいまです。…僕は、天剣の時も技を汚さない為に剣を使い続けた。外れているというのは、今更だとわかっています。でも、僕はいまさら剣を握るということが…酷く…僕自身が無様に思えて……」
レイフォンは剣帯に収まった簡易型複合錬金鋼の柄尻を静かに握りしめる。
見つめたままではあったが、わずかに視線が泳ぐレイフォンにウォルターは辛辣に言い放った。
「お前が無様なのはいつもだろ」
「ちょ、酷……ッ」
「けど」
言い返そうとしたレイフォンの頭をくしゃりと撫で、ウォルターは、にやっと笑う。
「そう思える事が大事なんだよ。人間どれだけ無様でも生きられる。…大事なのは、それを見過ごさない事と、そこからどうするかだ。……オレは先に行く。決めてこい。もしやるというなら、それでいい。やり切るならな」
ウォルターは足早にその場を去り、レイフォンをひとり残した。
「……だから、そういう余裕たっぷりなところがのんきにみられるんですよ、ウォルター……」
最近、頭を撫でられる事が多くなったな、と思いながら悪態をついて、レイフォンは撫でられた頭に触れる。
「…やるしか、ないのかな」
たしか、一番初めに試合に出た時も同じ事を思ったような気がする。
あの時は本当に投げやりに思ったけれど、いまはこの言葉を噛み締める。
都市の命。
ハイアの思惑。
ウォルターの意志。
十七小隊としての思い。
“レイフォン・アルセイフ”の思い。
それぞれのすべきこと。
レイフォンはゆっくり立ち上がって、更衣室から出た。