試合前日。
ウォルターは学校の視聴覚室に来て居た。
―――――第十小隊の事、あんまり知らねぇかも
レイフォンもそのようだが、ウォルターとしても情報を事前に知ることはあまり好きではない。
だからといって、行き当たりばったりというもの癪にさわる。
せめて、どういう小隊なのかをしろうと思って、視聴覚室の準備室から第十小隊の情報資料をかりて、視聴覚室に入った。
「……あ」
「…ウォルター」
視聴覚室には先客が居た。
「エリプトン……先輩」
「お前、相変わらず“先輩”つけるの苦手な。どうしたんだよ」
控えめにウォルターが言うとシャーニッドが苦笑を返してきた。
シャーニッドの問いに、ウォルターはやや視線を泳がせる。
「いや…オレはちょっと第十小隊の資料見ようと思って」
「……珍しいな、お前が」
「今回はちょっと事情が違うからな。気にしておくべきかと思って」
「ふぅん」
そう頷きながら、大きなテレビの前に座っていたエリプトン……シャーニッドは席を開けた。
「あ、悪いな」
「いや。ところで、どの資料持ってきたんだ?」
「あーっと……。この間の試合のヤツ」
「じゃあ、つい最近か」
「そ」
ウォルターは記憶媒体をデッキにセットすると映像を流し始めた。
しばらく映像を静かに見ていたシャーニッドが、映像を見ながら呟いた。
「……やってねぇな」
「……誰が? なにをだ?」
「シェーナが。違法酒を」
「…じゃあ、使ってンのはディン・ディーだけということか……」
「そういうことだ」
ふむ、と一瞬納得しかけて、ウォルターはシャーニッドの言葉に首を傾げた。
「…第十小隊は、うちの小隊と似たような考えなんだよな?」
「……まぁ、そうだ。ツェルニを守る。そう掲げてるな」
「…じゃあ、おかしいンじゃないのか、これ」
「そうだな」
シャーニッドも苛立ったような様子でそう呟いた。
ウォルターは、そんなシャーニッドにあえて冷ややかな目線を向けた。
「……ダルシェナ・シェ・マテルナ……だったな、確か」
「あぁ」
「そいつは、気付いてンのか? ディン・ディーのやってることに」
「……おそらくは、な」
「………となれば、相当趣味が悪ぃ」
ウォルターは小さく舌打ちをする。
シャーニッドは肩を竦めただけだったが、それでも何処か納得のいかない様子ではあった。
「おかしいよな。困ったもんだぜ、本当に」
「……エリプトン…先輩は、元々この2人と居たンだよな」
「……そうだ」
「じゃあ、そのほころびは分からなかったのか?」
「…わかってたからこそだ。…だからオレは、あそこを出た。あのままじゃだめだと思った。……だが、オレは結局中途半端に壊しただけみたいで、もつれを残していたみたいだ」
「……みたい、じゃないな。残してたンだ」
シャーニッドはウォルターの言葉を沈黙で肯定した。だが、特にそれに対してウォルターは責める気は無い様で、なにも言わなかった。
逆にその静かさにシャーニッドが不安になったようで、口を開く。
「……なにもいわねぇの?」
「いまさらどうしようもないだろ、こりゃあ。こうなっちまったンなら、もう後はあんたがきっちり壊しきる以外ない。…残したもつれという因果は、あんたじゃないヤツには切れない」
「……………………」
ウォルターはシャーニッドが沈黙した事に続いて沈黙し、映像を見つめた。
「……なあ」
「あ?」
「レイフォンは、オレがシェーナと戦わせてくれって言ったら、させてくれっかな」
「させてくれるだろ。あいつだってこういうことは分かってンだろうし……、大丈夫だろ」
ウォルターはシャーニッドにそう言って話を切った。
端的な話の切り方にシャーニッドはやや苦笑をして、それからまた画面を見た。
「……壊す事に、恐怖は覚えてねぇのさ」
「…………………?」
ぽつりと、シャーニッドが言葉をもらす。
「…あいつらとの関係。入学したての頃。抜けて、十七小隊に入る少し前までの状況。それらの終止符を打つことに対して、恐怖はねぇんだよ」
「…………………」
「一番こえぇのは、そのせいであいつらが死ぬことなんだよ。……だけど、やるって決めたからには、手を抜く真似なんて、しない。したくねぇ」
「………そうだな………。決めたならやり遂げるべきだ。たとえそれが、非道だと罵られることであっても、やるべきことならば……な」
ウォルターがうっすら笑みを浮かべながら座っていた椅子から立ち上がった。ウォルターは視聴覚室の扉を開け、出ようとする。しかし、その一歩手前でピタリと足を止めた。
そんなウォルターをシャーニッドは静かに視線でそれを追い、そして視線を背けた。
「たぶん、ディン・ディーとはオレがやる。……と言いたいが…、アルセイフがどう言うかが現時点でわからない。からなンとも言えないが…、ある程度はあんたの好きなようにやるといいだろ」
「…………………分かった」
ウォルターは視聴覚室の扉を静かに閉めた。