「大体、お前もあんなに怒るなよな」
「……………………」
「面倒くさい事になるってことだけは確かだっただろうが」
帰り道、先を行くウォルターはぽつぽつとそう語る。
レイフォンはただ黙りこんでなにも言わなかった。
「ライアもライアだが、お前もお前だ。嫌なら嫌だって言って、それで終わらせればいいだろ」
「……………………」
「ったく、本当に手のかかるばかと犬しか居ねぇ……」
「……うるさいです」
「…アルセイフ?」
珍しく怒気が迸るレイフォンを、ウォルターは振り返った。
それと同時、剄の波動がウォルターの身体をうった。
レイフォン・アルセイフ、錬金鋼復元。
斬線角度、75.67 こちらの復元まで、0.1 回避まで、0.5
……当たらない
ウォルターは金の腕輪をかざして、刀を復元した。刀でレイフォンの突き出した青石錬金鋼をいなしながら避ける。
レイフォンの瞳には感情が溢れ出ていて、いつもの冷静な沈黙を宿す瞳は無かった。
「……いい加減、そのおしゃべりな口を閉じてください」
「やり方ってモンがあンだろが、」
「……関係ない」
「おおありだ」
ウォルターは静かにレイフォンの錬金鋼を刀で押しのける。
レイフォンの視線は沈黙を宿し始め、静かにウォルターの刀を見た。
「……刀」
「…あ?」
「…………僕にとって……これはとても大切なこと、なんです。……武芸を汚す行いをするからこそ、したからこそ、刀を捨てたままで居たいのに――-……」
レイフォンは復元していた錬金鋼を基礎状態に戻した。
基礎状態の錬金鋼を握りしめて、レイフォンはウォルターを見た。
「どうすればいいんですか……! 僕は…、……何か偉そうに言う前に教えてくださいよ…! ウォルター!」
「……………………」
「…なにか…なにか言ってくださいよ……っ、ウォルター……っ!」
「……お前が刀を握りたくないというなら…握らなくていい」
「………え………?」
ウォルターが真剣な表情で言った。レイフォンは驚いた顔をして固まる。
「……どう、いう……」
「グレンダンで封心突は見たことがある。やろうと思えば出来る。お前がやらないと言うなら、オレがやるとライアと約束した」
「……………………どう……して」
「簡単だろ」
ウォルターはつかつかとレイフォンに歩み寄り、その無造作な鳶色の髪に手を乗せてぐしゃぐしゃと髪をかき回した。
「……っ……?」
「約束したからだよ。お前とな」
「僕、と……?」
レイフォンは首を傾げていた。
きょとんとした表情をするレイフォンにウォルターは苦笑を返し、髪をかき混ぜていた手を離して、微笑んだ。
「まぁ、いいよ。お前が気に留めてなかろうとな。…じゃ、オレはそろそろ行くから」
「……………………」
レイフォンはウォルターに言葉を返す事は出来なかった。喉の奥で言葉が詰まって、紡ぎ出そうと思った言葉はせき止められた。
そんなレイフォンに、ウォルターは笑みを苦笑に変えて跳躍した。
―――――ウォルター……
ひとり残されたレイフォンは、ウォルターの去っていった方向を見つめながら考えに耽る。
刀を握る事。
ハイアの事。
本当に苛立っている理由は……
「……………………」
レイフォンは頭を振り、手に持った錬金鋼を見た。
刀を握らないと決めてからずっと握ってきた剣。
だが、やはり剣では出来ないこととできることがありすぎる。
―――――別に……ウォルターが僕を“支えてくれる”って言ってくれた事を忘れた訳じゃない
だが、それでもやはり怖くなるのだ。
ウォルターが何かをするために動いている事は知っている。それをにおわせる言葉を何度もウォルターは言っていた。
だからこそ、怖いのだ。
―――――僕は、いつか置いて行かれるかもしれない
ウォルターの“すべきこと”の為に
そう思うと、酷く大きな恐怖に襲われるのだ。
「……………………っ」
僕は、いつからこんなにも弱くなった?
どうして、こんなにも恐怖する
ツェルニ、クラスメート、十七小隊。
失いたくない人たち
その中に、ウォルターも入っているのだ
決して、言ってはやらないけれど、それでも尊敬しているのだ。
「……ウォルター……僕は……」
レイフォンはしばらく、その場から動くことが出来なかった。