明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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葛藤

 

 カリアンにフェリと共にハイアを迎えに行ってくれと頼まれたウォルターは、フェリと並んでサリンバン教導傭兵団のバスへと向かっていた。

 

「不快です」

 

 フェリがあからさまに声のトーンを落とした。

 ウォルターはそんなフェリに対して肩を竦め、苦笑した。

 

「そういうなよ。しょうがないだろ」

 

 ウォルターが諦めた様子で呟くが、フェリはそれにもやはり顔をしかめていた。

 念威操者であるフェリがここまで表情を動かすとは、余程嫌なのだろうと察した。

 

「……だいたい、あなたのような人にしかなつかないあの男はどうしようも無いですね。そしてさらに言えばそんな人をそばに置くあなたもあなたです」

 

 フェリがウォルターをじろりと睨んだ。

 そんなフェリに対し、ウォルターは再び肩を竦めた。

 

「けど実際、そんな悪いヤツじゃあないぜ? あいつ」

「……性格の話はしていませんよ」

「じゃあ何の話だ?」

「……もういいです」

 

 フェリに呆れた眼を向けられ、ウォルターは首を傾げる。

 結局、到着してもフェリは答えを教えてくれはしなかった。

 

 

 

 ハイアと合流して生徒会室へと戻る道の途中、ハイアがふと思い出したというふうに口を開いた。

 

「そういえば、サイハーデンの刀術で思い出した事があるのさ~」

「?」

「サイハーデンの刀術の中で、ある技があるのさ。今回のことにはぴったりだと思うのさ~」

「…それは、アルセイフにできることなのか?」

「当たり前さ。それこそ、あいつにはちょっと野暮ってもんさ~。ま、腐っても天剣授受者だったヤツってことさね」

「……お前の言い方だと、ちょっと含みがあるように思えるんだが?」

 

 ウォルターはハイアの探るような発言に眉根を寄せた。

 ハイアはそれでも笑みを浮かべる。

 

「さすがさ、ウォルター。そう、あいつはあのままじゃ全力なんて出せるわけ無いさ。剄を出せる訳は無いだろうけど、それでも技量という点では剣を使って刀と同じ事が出来るわけ無いさ~」

 

 ハイアのレイフォンを下に見た言い方に、フェリは不機嫌な声で言った。

 

「では、あなたは出来るんですか」

「出来るさ~。けど、生徒に対しておれっちがやったらそれこそ都市間の問題で大事になっちゃうさ。もしあいつがやってくれるんだったら、それは都市内での揉め事。それこそあの会長さんがうまくやるさ~」

「…まぁ、ライアもサイハーデンを修めてるからな。出来てもおかしくはない。それに、ライアの言っている事にも一理ある」

「……………………」

 

 ハイアの言葉をウォルターが肯定した。

 フェリはハイアに味方するウォルターを睨め付ける。

 睨まれたウォルターは肩を竦めた。

 

「本当の事だ。実質は合っている」

「…………」

 

 フェリは沈黙した。

 ハイアが先に歩いて行った事を確認すると、ハイアのその背の横にレイフォンの背を並べ、頭を振った。

 

「フォンフォンは……刀を持ちたくないと言っているのに。わたしは……念威を使いたくないといっているのに。…わたし達は…何故、こうも意志と反することをしなくてはならないのでしょう」

「……そういう世知辛い世の中だからな」

 

 ウォルターはフェリの頭を軽く撫でると、ハイアの後を追った。

 

 

 

「……なにが言いたい?」

 

 結局はフェリが来るのを待ってから、フェリと共に生徒会室に入ったウォルターの耳に入ったのは、酷く冷えきったレイフォンの言葉だった。

 ハイアはやはり挑発的な笑みを浮かべており、レイフォンの発する雰囲気はどんどんと悪くなっていく。

 

 レイフォンはふつふつと腹の中で煮えたぎるような怒りを感じていた。

 誰も彼もが、レイフォンの事を知ったような口で言う。

 キリクにしても、ハイアにしても。

 どちらもずかずかとレイフォンの入って欲しくない領域へ踏み込もうとしてくる。

 レイフォンはその憤りをあらわにしつつあった。

 そして、ハイアが口を開いた。

 

「要するにお前は、ウォルターがいないとなにも出来ないガキってことさ~」

 

 その瞬間、レイフォンの頭の中で火花が散った。

 レイフォンが動く。

 錬金鋼を復元し、レイフォンは斬線に迷いなくハイアに剣の錬金鋼を振るった。

 それに対してハイアも応戦し、生徒会室に乾いた金属音が鳴り響く。

 

「……今度は手加減しない」

「上等さ。刀も使えない腑抜けな技がおれっちに通用するか、試してみたらいいさ~」

「やめたまえ!」

 

 レイフォンとハイアが睨み合う中、カリアンが叫ぶように制止の声をかけるが、ふたりとも錬金鋼をひこうとはしない。

 それを見ていたウォルターは、大きく溜息をついて足裏に剄を凝縮させて一気に爆発させた。

 レイフォンが使う、内力系活剄、水鏡渡りの応用だ。

 ウォルターは競り合いを続けるレイフォンとハイアの錬金鋼を素手で掴み、離れさせる。

 

「!!」

 

 2人の身体が一瞬傾いだのを見逃さず、ウォルターはそのまま2人襟首を引っ掴んで両サイドのソファに向かって投げるように体勢を倒させた。

 

「って!」

「っ!」

 

 2人がソファに倒れこみ、ウォルターは再び大きく溜息を吐いた。

 

「なにしてンだ? お前らは」

「……だって、そいつが」

「……だって、ハイアが」

「あ?」

 

 ハイアとレイフォンが同時に言い訳をしようとしたが、ウォルターの凄みのある眼に制されなにも言えなくなった。

 

「…ライア、時と場合を考えろっていつもいってる筈だよな。いつでもどこでもその挑発的な態度はやめろって事も言ってる筈だよな」

「……だって」

「……………………」

「……ごめんなさいさ」

 

 まだ言い訳をするか、と言わんばかりに睨むとハイアはすごすごと謝ってきた。

 続いてレイフォンの方を向く。レイフォンは苛立たしそうに眉を寄せ、ウォルターから眼をそむけて地面を見つめていた。

 ウォルターはひとつ大きな溜息を吐き、レイフォンに向かって口を開く。

 

「……アルセイフ。お前も軽率すぎだとは思わないのか?」

「…あなたに何か言われる筋合いは無いです」

「……確かに、普通ならな。だが、ここは学園都市だ。お前はオレの後輩で、オレはお前の先輩だ。ばかやらかしてる後輩を叱らねぇ訳にはいかねぇだろう」

「……だからって」

「……アルセイフ」

 

 低く、重低音の声で静かに名を呼ぶ。

 レイフォンは一瞬それに身体を竦ませた。ウォルター以外は気付かなかったようだったが、それでもウォルターにははっきりとわかっていた。

 

「…ともかく、だ。ライアもこれ以上暴れるなら商談は無しになるぜ」

「…それは……困るさ」

「だったらここでお開きだ」

 

 カリアンに一言告げると、ウォルターはレイフォンの制服の襟首を掴んで生徒会室を手荒に出た。

 

 


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