明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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“オレ”と“レイフォン・アルセイフ”

 

「やっぱりか……」

 

 数分前に生徒会室へ呼び出しがかかり、ウォルターはどうやって言い訳をしようと再び思考を巡らせた。しかし、言い訳をするために巡らせた思考は、いつの間にか先程見たレイフォン・アルセイフの方へとちった。

 レイフォン・アルセイフ。

 孤児でありながら卓越した剄力と、サイハーデンという小規模武門の剄技を修め、戦う、というよりかは生き残る、という方に特化した技能を持つ。サイハーデンが少数派でありながら残り続けたのは、生還者が多かったせいでもある。

 天剣授受者の決定戦に、負け無しでウォルターに挑んできた。その瞳は乾燥していて、幼い頃から世の非情を味わってきた苦渋さがにじみ出ていた。

 それを自身も酷薄な瞳で見下ろしながら、感情を沈殿させながらも必死さを纏わせつつ振るう剣を、非情に弾き飛ばした。

 子供ながらの必死さを纏わせた剣はウォルターが再びはじいたことにより、レイフォンを地面に縫いつける磔の釘と化した。

 

『天剣が、欲しいか?』

 

 感情の沈殿した瞳は、問うたウォルターを追わず常に天剣を追っていた。

 斬り合いのさなかでさえ、天剣授受者を追わず、天剣を追っていた。

 こちらを睨む眼は、ウォルターを睨んでいるつもりだろうが、ちらちらと天剣に眼がいっている。

 

『……勿論』

 

 瞳が、睨みあげてくる。

 

『何故?』

 

 それでもウォルターの態度は変わらない。

 

『家族を、守るために、そのために、いま、ここにいる』

『……………………』

 

 感情の沈殿した瞳を見つめる。

 家族。それを守るために。そのために、ここにいる。

 ウォルターの脳裏に、ただひとりの肉親が過ぎった。

 ただひとりの弟。ただひとつのことのために、身を堕としたひとりの哀れな弟。

 おもむろに持っていた天剣を投げた。

 身を強張らせたのが目に見えて分かった。だからこそ、言う。

 

『……くれてやるよ』

『…は…?』

『そんなに欲しいなら、そんなもんくれてやる。オレの負けだ、審判』

 

 審判が観客にレイフォンが勝者であると告げる。

 観客が沸く。レイフォンの問いかけにウォルターは、さらりと答えただけで去る。

 もう、語り合うことは無いはずだ。

 

 

「おっと」

 

 思考に気をとられすぎて、生徒会室を通り越しそうになった。考えを現在に引き戻し、ウォルターは生徒会室の扉をノックした。

 

「失礼しますよ……っと」

 

 扉をくぐると、そこにはレイフォンが先客としていた。

 意外な人物に一瞬眼を見張ったが、すぐに戻して生徒会長……カリアンに眼をやった。

 

「…生徒会長、今回のことは不可抗力だって分かってくれませんかねぇ?」

「勿論。今回のそのことは不問だ。だけど、彼の事で呼んだんだ」

「……アルセイフの事?」

「そう。わたしだって彼の情報は持っている。だけど、実際見た……と言うより戦った君の方がよく知っているだろうと思ってね。君はレイフォン・アルセイフくんを武芸科に転科させることをどう思う」

「……どう思うって言われても」

 

 ウォルターは頭をかく。

 レイフォンにやる気が無ければまず話は進まないし、やる気がなかったとしても何処の小隊に入れるかでいろいろと考えが違うんじゃ。その上ウォルターがいる十七小隊へ入れるのは良くないような。

 そんなことを悶々と考え、説明するのも面倒だと溜息混じりにさっくりと結論だけを口にした。

 

「……………………やめた方がいいンじゃ」

「だが、戦力の増強にはなる。君の助けにはなるんじゃないのかい?」

「ならねぇな」

 

 あっさりと言い切ったウォルターに、レイフォンも驚いたがカリアンも驚いている。

 

「何故?」

「剄の量だけはいっちょまえだからな。扱いを知らないクソガキにゃ、改善する気がねぇンだから何させようと無駄だ」

「……別に、そんなことありません」

「オレには関係も無いしどうでもいいが、そう言うってことはやる気があるっていう表明か?」

「武芸は失敗しています。やる気なんてあるわけが……」

「……それ、本当に失敗してンの?」

「は?」

 

 ウォルターの言葉に、レイフォンが素っ頓狂な声を出す。

 そんなレイフォンに対して、特になんとも思わないウォルターは平然と言葉を紡ぐ。

 

「…その様子を見るに、都市外退去ンなったって感じだろ? 金稼ぎに手ぇ加え過ぎたって所だろ? お前の悪いところは…何でもかんでも自分でしようとする所じゃねぇの?」

「あ、あなたに……っ、あなたに何が分かるんです? 僕の何が、分かるって言うんですか!」

 

 レイフォンが明らかな憤りを見せた。しかしウォルターは相変わらずの酷薄な瞳で、冷徹な態度でレイフォンのそんな態度を見やる。

 

「知るかよ。大体な、何が分かるンだっつわれても、お前から何も言われなけりゃ真意なんて知らねぇよ。お前から言われないンなら誰もお前の事なんか分かンねぇし、分かろうともしねぇ」

「……………………っ」

 

 低く重いウォルターの言葉に、レイフォンが黙った。カリアンは話の流れを見ていたようだったが、ウォルターに言う。

 

「それで、ウォルター・ルレイスフォーン。君はどう思う?」

「……好きにしろ。オレは別に止めやしねぇよ」

「……………………そう」

「じゃ、オレは行くぜ」

 

 ウォルターは足早に生徒会室を出ると、自宅……アパートに向けて歩みを進め様としたが、ふと思い立って練武館に歩を進めた。

 

 


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