翌日からの十七小隊の訓練には、レイフォンの同級生、ナルキ・ゲルニも参加していた。
硬球を使った訓練も、参加しているナルキは必然的に行うことになる。
ナルキは頬を伝う汗をタオルで拭いながらレイフォンに問うた。
「ふぅ……。レイとんや…その…、ウォルター先輩もしているのか?」
「え? あぁ…うん。でも今日はまだ簡単だった方だよ」
「…そうか…やはりハードだな」
「そうか~? オレとしてはもう少し動きたいンだが」
『……………………』
率直な意見を言ったら白い目で見られた。
いまの発言のなにが悪かったんだろうかとウォルターは苦笑した。
「ウォルター……体力ばかのあなたと僕らを一緒にしないでください」
「……お前な……。お前だって一緒だろうが」
「僕は違います」
「生意気、言うなっ」
「うぁっ! っちょ、なにするんですか! う、首、しまッ……!!」
「……レイとん……」
「ナッキ……っ、言ってないで、助けて……」
レイフォンが呻きながらナルキに助けを求める中、ウォルターはにやにやとしながら首を締める。
「ぐ、ぇっ…、や、やめ……」
「……………………」
「真顔になってもだめですよ、ウォルター先輩! 離して上げてください」
「しょうがねぇなぁ……」
「……はぁ……死ぬかと思った」
「んー……帰りに柔軟でもしていこうかなー」
「…それはいいですけど。決して僕を巻き込まないでくださいね」
「えー……」
「……する気だったんですか?」
明らかに不服そうな表情を浮かべるウォルターを、レイフォンは面倒くさそうに見た。
ウォルターは不敵に笑みを浮かべると距離をとったレイフォンに歩み寄る。
歩み寄ってくるウォルターに、レイフォンはやや眉を潜めた。
「…な…なんですか…?」
「……ん~」
ウォルターはやや首を傾げながらレイフォンの不造作な鳶色の髪をかき混ぜる。
「っちょ、やめてください! なにするんですか!」
「ん~……なんかなぁ……」
「……やめてくださいって、言ってるじゃないですか……!」
「おいよ、考え事してるんだからほっとけよー」
「もうちょっとマシなやり方は無いんですか?」
「ないー」
「もー…あなたって人は」
レイフォンは苛立たしそうにウォルターの手を払うが、それでもウォルターはしつこくレイフォンの頭を撫で続ける。
「……………………」
頬は引きつったままだったがレイフォンはどうやら抵抗することを諦めたらしい。
ナルキはやや慌てた様子だったが、それでもレイフォンが耐えだした事にひとまず安心したらしかった。
「ん~……」
―――――ライアは果たしてうまくいったかねぇ…
カリアンに会いに行くだけ……その前にゴルネオに会えといったが、まぁとって食われる事はないだろうし、さほど心配はしていないのだけれど。あの性格でなにも報告が無いというのは、また少し心配になることだった。
なんとなくそう思いながらレイフォンの頭を撫で続ける。
「……………………一体なにに悩んでいるんですか?」
早く解決したほうが得策だと考えたらしいレイフォンがウォルターにそう問うてくる。
ウォルターは「ん?」とやや口角をあげて微笑み、一瞬考えた後に笑みを浮かべて言った。
「……明日の弁当、どうしようかなぁ…って……」
「そんなことは勝手に考えてください!!」
レイフォンは今度こそ手を払いのけ、足早にウォルターから離れていった。
「ははは、怒り症だねぇ」
「さっきのは……ウォルター先輩……が、いけないんじゃ」
「ひでぇなー…。オレは真剣に悩んでたのに」
ウォルターは空笑いをこぼした。
「イオ先輩」
「ん、ロス?」
少し離れた場所からフェリに呼ばれ、ウォルターは歩み寄る。
「どうした?」
「……………………」
「……………………?」
フェリがひょいとウォルターの手をとった。
普段のフェリらしからぬ行動にウォルターは一瞬戸惑う。だが、フェリはとった手をほんの少しじっと見つめると、ばしっと叩き落とされた。
「いてっ」
「痛そうに聞こえません」
「いってぇなぁ、なにするンだよー」
「……………………」
「いてっ」
「わたしに対して舐めた態度をとった罰です」
「ひでぇなぁ」
フェリに脛を蹴られ、ウォルターは苦笑をフェリに返した。
不機嫌はなかなか治らず、レイフォンたちと解散になる。
ウォルターはフェリと帰る事になった。
ウォルターは、レイフォンとニーナ、そしてナルキ達が都市警察の仕事で動いている事を知っているので特になにも思わなかったが、知らされていないフェリとしてはなかなかおもしろくないことらしく、不満そうだった。