翌日、ウォルターは大あくびをしながら錬金科を尋ねた。尋ねた理由は単純で、定期的な錬金鋼の検査だ。
ウォルターの剄が多いことはすでにハーレイやハーレイと同室であるキリク達には伝えてある。
どれだけ加減をして剄を流して使っても、錬金鋼がだめになるのは早く困ったものだと思うがそういうふうなのだから仕方ないと思う。
もう少し効率の良い使い方はないものだろうかと考える。
そうしている間にハーレイたちに振り分けられている錬金科の部屋の前まで来た。
「失礼するぜー? サットンいるか?」
「いるよ。っと、いまレイフォンの錬金鋼見てるから、ちょっと待って」
「ん? なんでアルセイフも……って、また派手に壊れた錬金鋼だな。一体どうした」
「………………いえ、少し」
「…昨日の都市警察の仕事か?」
「………えぇ………まぁ」
レイフォンのはぐらかしたような言い方に眉を寄せたものの、ウォルターはおとなしく待つ。
「えーっと、これはもう新調しようか。修復じゃあどうにもならなそうだし」
「分かりました」
「ウォルターは……検査かな? レイフォン、これにデータ入れたら復元してみてね」
ウォルターの鋼鉄錬金鋼をハーレイは受け取ると、レイフォン用の複合錬金鋼を取り出してデータを入れる。
片手で作業を済ませ、レイフォンに複合錬金鋼を渡すとウォルターの方の作業にとりかかる。
「えーっと、これが……あぁ、これももうだめそうだ」
「えー、本当かー……。………こりゃあだめだな、確かに……だったら、もういっその事青石錬金鋼とかでどうだ」
「それはなぁ…。キミには向いてないとおも、」
「これって……!」
ウォルターとハーレイが話していた中で、レイフォンが驚いた声をあげた。
「これ、刀……ですよ」
「あぁ…、そうなんだ。キリクがその形にしちゃったんだよ」
ハーレイは小首を傾げながら言う。レイフォンが動揺する中、ウォルターはへぇ、と感心していた。
―――――あれで見破ったか
レイフォンは少し前の老生体戦で、幾度か錬金鋼を破棄していた。そしてその中で、レイフォンが持ち帰った錬金鋼からレイフォンの本領は剣ではなく刀だと見破ったようだ。
実際そのよみはあたりだ。
ハイアも言っていたように、レイフォンはサイハーデンという刀の流派であり、その動きは叩き斬る動きではなく斬り裂く動きだ。それはまさに、幼少期から刀の訓練をしていたからこその賜物なのだろう。
「それは、その形が最もふさわしい」
キリクがそう言ってレイフォンを鋭い目つきで見た。レイフォンは何か言いたいような顔をしていたが、唇を噛み締めていた。
「……向こうは向こうでさせようぜ。サットン、頼むわ」
「え? あ、うん…」
ハーレイはウォルターに促され、新しい錬金鋼の素材を引っ張りだす。
「もとはどうする? やっぱり機能性を求めるなら鋼鉄錬金鋼だけど、そうなるとやっぱり壊れやすいといえば壊れやすいよ」
「んー…」
ウォルターはハーレイが差し出した錬金鋼の素材をがらがらとあさる。
「バランス型として考えるなら、やっぱりレイフォンと同じ青石錬金鋼をおすすめするよ? だけど、キミは剄の奔り過ぎとかのせいで熱膨張して錬金鋼がだめになりやすいから、そういう点を考えると少し慣れるまでは不便かもしれないけど黒鋼錬金鋼とかはどうかな?」
「んー……そうだなぁ……」
黒鋼錬金鋼。確かにそれもありといえばありだ。だが、慣れるまでにかかるのというのは、それはそれで困るのだが……
「……まぁでも、汚染獣相手の時は自分の使っていいって言われてるしな。それでも困らねぇし、じゃあ黒鋼錬金鋼で頼むわ」
「いいの? 流される感じだったけど」
「特にこだわりねぇし、いいよ」
「ふーん……分かった」
ハーレイに設定してもらっている間、右から左への後ろの会話を聞く。基本ウォルターは自分に関係がないならば気にはしない。
勿論、それは気にかけているレイフォンであっても同じだ。レイフォンの精神的問題ならば、それはウォルターが干渉する幅では無い。
例外があることは認めるが。
なんだかんだと言いながらレイフォンは結局押し黙り、飲み物を買いに行くと言ったウォルターの言葉もすべて上の空で聞いていなかったようだが、それでもウォルターは構わなかった。
新しく設定してもらった錬金鋼は、まだ剣帯にまだ馴染んでいなく何処か違和感をもたせた。
そんな違和感を覚えながら自販機で飲み物を買っていると、少し体格が太めな男と、その後ろにふてくされた顔をしたレイフォンの同級生……ナルキ・ゲルニが居た。
「あれ、ゲルニ。それに……えぇと」
制服は養殖科の制服。男は苦笑しながらウォルターに声をかけてきた。
「はじめましてだな。おれはフォーメッド・ガレン。養殖科5年だ」
「……はぁ、よろしく……」
「あたしの所……都市警察の課長なんだ」
「へぇ、課長さん」
ウォルターが感心した様子で頷くと男……フォーメッドは苦笑した。
「武芸科のヤツらにはかなわないがな。ところで……バッヂがある所を見ると、小隊員か」
「あぁ……えっと、ウォルター・ルレイスフォーン。十七小隊。一応」
「一応って……」
ウォルターのよく分からない自己紹介に、ナルキが呆れた顔をしたが、フォーメッドは気にしていないようだった。
「そうか、丁度良かった。ニーナ・アントークは居るか?」
「……練武館の方に居ると思うけど」
「そうか」
「丁度戻るし、行くよ」
ウォルターはそう言って先頭を歩く。