明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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“サリンバン教導傭兵団”の男

 

「っはー」

 

 単純な作業というものは、単純であるという分だけ考える余裕があるということ。つまり端的に言えば、ウォルターは現在考えに耽っているということだ。

 

「ん~…」

 

 やはり気になる。リーリン・マーフェスに感じた雰囲気。

 あの時アルシェイラに聞けば良かった、なんて事は思わないが、それでも一度気になると気になり続ける。

 

(あぁもう)

 

 誰かばっさり関係ないことだよと言ってくれ。

 

(悩んでるね、ウォルター)

(おー…絶賛悩み中だ)

(やっぱりリーリン・マーフェスの事?)

(そうなンだよなー…なんか懐かしい感じがするンだよな…)

(そう言ってたら、ここの世界の人はみんなあいつの子孫じゃないか)

(そうだけど)

 

 そう言われたら終わりだ。まぁ、それが一番しっくり来る答えなのかもしれないが。

 確かにそれはそうだ、すべてこの世界に居る人間はあいつの子孫だ。だがそういうことではなく、何処か“完全に”懐かしいと感じるのだ。となると、濃い因子を持っているという事になるのか……

 

(ん~……)

(悩むのはいいけど、あまり悩み過ぎないでね)

(あ? あー…、んー…)

(ウォルターの思考があんまりにも他の人のことでいっぱいになってるなんて考えたら、僕が死んででもこの世界の人々を全員“拒絶”して消したくなっちゃうから)

(……怖いからやめろよ、そういう事言うの)

 

 この世界が出来上がる前、敵対していた頃実際に“そういう事”の補助をしていた事を考えると本当にやりそうで怖い。

 

(あはは、冗談だよ)

 

 そう楽しそうに笑うけれど何処から何処までが冗談なのかがはっきりしない点、ウォルターはやや気苦労が増えた気がして溜息を吐いた。

 

 

 機関掃除が終わった。とはいってもウォルターはいつも早めに切り上げることが出来る。

 任された範囲が終わった者から帰ることが出来るので、早く終わった外はまだ真夜中だ。

 

「さて」

 

 呟きは小さく。声が出ることは仕方がない。ただの気持ちの切り替えだ。だが、切り替えた気持ちはすべて違う方へと切り替わる。

 近くの建設中の建物が倒壊を始めたのだ。

 

「………………なんだ?」

 

 おそらく都市警察が活動しているのだろうが、それにしては派手すぎる。

 ウォルターは眉を潜め、倒壊した建物に近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 倒壊した建物には2つ程気配があった。

 ここでは感じたことのない気配だったからおそらく他都市の者だろうと検討をつける。だが、そうなると犯罪者の可能性もある。

 こんな学園都市で出会うような知人はいない。そう思いウォルターはツェルニ支給の錬金鋼を復元して近づいていく。

 

「!」

 

 いきなりだ。

 闇夜に乾いた金属音が鳴り響く。鍔迫り合いとなり、そのまま自然と押し合いが始まる。

 目の前には、闇夜の中でもはっきりと分かる暖色系の短髪を揺らす、顔の半分を布で隠した青年と思しき男。

 身長的には同年代くらいか。瞳には明らかな闘争心が宿っている。しかしウォルターは、その剄の波動と質から眉を潜め、目元や髪色を見て違和感を覚えた。

 どこかで出会ったことのあるような風貌、感触だったからだ。

 

「………………お前は……?」

 

 だが、問う暇は無い。男は衝剄でウォルターの刀を弾き、ウォルターを後退させると上段に振りかぶり、間合いを詰めながら振り下ろした。

 ウォルターは仰け反る形で鼻先を掠めていく刀を避けると、そのまま蹴りを放って相手の刀を真横にあった壁に突き刺した。

 足で刀を固定したまま自身の刀を瞬時に逆手で持つと男の首を切り落とす勢いで突きを放った。だが、その突きは不発に終わる。

 男が自らの刀からぱっと手を離して、降参のポーズをとりながら制止をかけたからだ。

 

「ま、待った……!!」

「……?」

 

 ウォルターは訝しげな視線を向ける事はやめず、そのまま刀の鎬を男の顎にひたりと付けた。

 

「……参った、さ~……。おれっちもだいぶ強くなったと思ったけど、やっぱりあんたには敵わなかったさ」

「………………その口調」

「覚えててくれたみたいで嬉しいさ~」

 

 片手はあげたまま、もう一方の手で男は顔を覆っていた布を外した。

 目の前に居た男は、グレンダン時代の知り合いだった。

 

「ウォルター・ルレイスフォーン。久しぶりさ~」

「……ハイア・ライア」

 

 

 目の前の暖色の髪を揺らす男、ハイア・ライアは、にこにこと笑ってウォルターにまとわりつく。

 

「ライア……動きにくいンだが」

「別にいいじゃないかさ。久しぶりに会ったんだからこのくらい許してくれたって」

「……あのなぁ」

 

 さすがに夜中に屋根の上で話し合いという訳にもいかない為、ウォルターはハイアを連れて自分のアパートに戻ってきていた。

 

「それにしてもここ、ウォルターしか住んで無いのかさ?」

「そうだけど」

「へー、1人で広々出来て結構楽しんでるみたいでなによりさ~。けど、ここ交通の便が悪すぎさ」

「それは思うけど、一番安かったから楽だったンだ」

 

 大人数と居るのは苦手だし、と言うとけらけらとハイアが笑った。

 ここは駅からも随分と離れた年季の入ったアパートだ。今のところ住人はウォルター1人。

 ウォルターだけで使うならばとても広い。広すぎる程に。ともかくとハイアを椅子に座らせて、ウォルターは台所に立つと飲み物の準備を始めた。

 ハイアはウォルターの言葉に嬉しそうに椅子にまたがって座るとウォルターを見やってくる。

 

「そういう所は相変わらずさね! ……ウォルターは変わってないみたいで、安心したさ」

「なンだよ、その意味深な言い方は」

 

 ウォルターは眉をひそめながら台所から自分の分のカフェオレとハイアの分のカフェオレをつくってくると、ハイアに差し出した。

 

「ほら」

「あ、こりゃ丁寧に。いきなり邪魔しちゃって悪かったさ~」

「別にそれはいいンだけどな」

 

 ふぅ、と先程淹れたばかりのカフェオレを吹き冷ます。

 さすがに熱湯で作るべきじゃなかったか、と思いながらも口をつける。

 

 


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