「都市がセルニウム鉱山に向かうに辺り、休校が近づく今日この頃。オレはいつもと同じ重箱弁当。感慨に浸っても今日の朝と変わらないおかず。あぁ……口が飽きるぜ」
「何言ってるんですか? と言うか誰に言ってるんですか? ついでに言うと無駄に真面目な声で言わないでください」
呆れた声で言うのは、十七小隊で同じ隊に所属する、後輩でもあるレイフォン・アルセイフだ。
年齢の割にはウォルターからして武芸の能力が逸脱しており、ウォルターよりは劣るものの、それでも都市で最強とも称される人物だ。
彼は昼寝を邪魔されたのが苛立たしかったのか、ウォルター自身を毛嫌いしているからこそ顔をしかめているのかは定かでは無いが、ウォルターは構わなかった。
「うるせぇなぁ、オレはいま黄昏れてンだぜ? 放っておいてくれよ」
「痛い一人言は心で呟いてください」
「もうちっと心遣いがお前には欲しいぜ」
老性体との戦いや廃都市での事などもあり、昔ほど毛嫌いされてはいないものの、やはり仲が悪い…ととれる対応をしてくるレイフォン。
ウォルターはやれやれと頭を振り、溜め息をつく。
溜め息をつきつつも嘲笑うかのような顔でレイフォンに言うと、レイフォンはやはり苛立ったような様子は見せたもののそこまで突っかかって来なかった。
これは進展か? と思いつつもウォルターは笑みを変えず、そのままで居る。
「レイとん」
「え?」
「うわっ」
いきなり現れた影は勢いよくレイフォンの胸ぐらを掴みあげ、もの凄い形相でレイフォンに詰め寄る。
「レイとんだな? あたしの事を隊長さんに言ったのは」
「え? え? な、なんのこと……?」
未だレイフォンの胸ぐらを掴みあげているのは、ナルキ・ゲルニ。
レイフォンと同級生の女子武芸科生徒だった筈だ、とウォルターは記憶回路から情報を引き出す。
―――――ナルキ・ゲルニ。
将来の夢、警察官になる。都市警察に所属している為、練金鋼は一応所持。形状は打棒。
たまに独自の技…というよりは父直伝の捕縛術なども習得。
レイフォン・アルセイフを巻き上げたことがある。それと同時にフェリ・ロスも。
ウォルターは丁度良い整頓の機会に、記憶の整頓を行う。
「レイとんが言ったんだろう? 隊長さんがあたしの所へ来た」
「え? ……いや、…あ、確かに言ったけど、意見を求められたからで」
「なに? 言ったのか」
「いや、言った、言ったけど! それに過敏過ぎ! 意見求められたからって言ってるじゃん!」
レイフォンがやや涙目で言うが、ナルキに耳を貸す様子はない。ウォルターは溜め息をつきつつ、ナルキに声をかけた。
「こらこら。あンま締め上げてやるなよ、来たくらいならいいじゃねぇか」
「そんなわけない! あたしは警察官になると決めているんです!」
ウォルターは面倒くさそうに頭をかく。掻きながら苦笑いし、ナルキに言う。
「でもほら、無理に来いなんて言われてねぇンだろ? だったら行かなけりゃいいだけだ。ンな締め上げるほど怒ることじゃねぇだろう」
「……ですが……。……そう、ですか……? で、も!」
わたわたと慌てるレイフォンを笑いながら、巻き込まれないうちにウォルターは少しレイフォンから遠ざかる。
ナルキの後ろには同じ幼馴染の2人がいた。
ミィフィ・ロッテンと、メイシェン・トリンデンだ。
ちなみにミィフィ・ロッテンの方は、ちょこちょこ小隊のインタビューなので会うので知り合いではある。メイシェン・トリンデンの方も、時たま気が向いた時に行く喫茶店……という名の菓子屋でバイトをしている為知り合いである。
「久しぶりだな、ロッテン、トリンデン」
「お久しぶりです、ウォルター先輩!」
「相変わらず元気だな」
「あ、えと、お久しぶり、です」
「おう、久しぶり」
ミィフィの元気な返事に笑みを返し、控えめなメイシェンの答えにも笑みをこぼした。