明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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苦悩

 

 レイフォン達は機関部に降り、ウォルターは外で来た道を帰っていた。

 というのも、ウォルターは第五小隊の方を見てこいと言われたせいであるからして。

 先程は地上ルートを使った為到達まで時間がかかったが、いまウォルターが使っているルートは屋根上だ。

 あっという間に第五小隊のところまで辿り着くだろうと思っていた。

 

(ん?)

(ウォルター、赤い野生児の反応)

 

「……シャンテ・ライテ……か」

 

 足を止めて視界を駆け抜けた赤の去った方向を見つめ、何処へ向かうのかと見やっていたウォルター。どうやら進行方向的には十七小隊の方……のようだが。

 

「嫌な予感しかしない」

 

 そう呟いて、ウォルターはきた道を引き返し始めると、下の地上ルートに第五小隊隊長、ゴルネオの姿が見え、そちらへ降りた。

 

「おい、ルッケンス」

「…お前…、……シャンテを見なかったか」

「ライテはこの先だ。見たところうちの小隊の居る方へ向かった」

「…あの馬鹿が…、まさか勝手にレイフォン・アルセイフの方へ向かうとは」

 

 その言葉にウォルターが眉を寄せた。

 

「まさか、こないだ言ってた事で? アルセイフを闇討ちでもしようってのか?」

「分からん。だが、アイツの事だ、そういうつもりだろう」

「………あほらしい………」

 

 正直なところ、実力差ではレイフォンの方が明らかに上だ。

 剄の量という点では似たり寄ったりかも知れないが、それでも技量という点ではレイフォンにシャンテは劣っている。

 シャンテの熱くなると周りが見えなくなるという事を思い出して、それではレイフォンには到底かなわないだろうな、と何気なく思う。

 

「んー……面倒な事になってきた……」

 

 そう呟きながら、ゴルネオとともに機関部への入り口へ駆けつけると、入り口近くの木陰にフェリが倒れていた。

 

「ロス!」

 

 ウォルターはフェリに駆け寄って脈を確かめる。幸い気絶しているだけのようで、ウォルターは胸を撫で下ろした。

 

「無事か……。さすが子供」

 

 さすがに殺すまではやらないな。そう言いかけて口を噤んだ。

 ウォルターの場合、昔の仕事柄や事情により息の根を止めていただろうが、学園都市に居る事や、まだそういう裏社会というものにスレたことの無い子供が、軽々と殺しをする筈も無いかとやや軽率だった自身の思考を咎めた。

 

「くそっ、あいつに離したのは迂闊すぎたか」

「まぁ、ガキだしねぇ……。ともかくだ。サポートは任せろ、オレも後で追う」

「………………分かった」

 

 ゴルネオはウォルターのサポートとというものがはっきりしなかったが、そのまま暗闇に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

(ルッケンス、見えているか?)

 

 後方から追いかけてきた念威端子からウォルターがそう声をかけた。

 ゴルネオはフェイススコープをつけていないものの、端子から発せられる高密度の念威がどういう仕組かははっきりしないが、ゴルネオ自身に作用して暗闇でもあたりが形をとらえられるくらいには見えるようになった。

 

「…お前…、念威操者なのか?」

 

 驚いた声でそう問いがかけられたが、すでにウォルターはこの質問に飽きている為溜息で問いを無視した。

 

(ともかくだ。エリプトンとアントークの生存は確認済み、アルセイフとライテは現在戦闘中。こンなと所で戦うなんて、なかなかアグレッシブだな)

 

「……返す言葉もない」

 

(いいさ、アルセイフが殺られることは万が一も無いだろうし、ロスも無事だったしな)

 

 ウォルターが軽い調子で返す、しかしゴルネオはやや神妙な声で問いを放つ。

 

「………………お前は、何故ヤツを後任に選んだ」

 

(あン?)

 

「ヤツが天剣授受者になった経緯は知っている。ほぼ、譲った形で天剣授受者になったとな。だが、何故だ? 何故ヤツを選んだ」

 

(簡単だ、一番実力があったから。ただそれだけだ)

 

「…それだけ、か」

 

(そうだ。天剣授受者に必要なのは絶対と言えるちから。そして、とどまり続けることを知らない底なしの強さを有し続けることだ)

 

 ウォルターが言い切ると、ゴルネオはやや渋面を作った。

 

「何故、ヤツが認められたのか……ずっと知りたかった」

 

 声に自嘲気味な雰囲気が混ぜられたことに、ウォルターはほんの少し眉を寄せる。

 

「実力……か…。なら、おれはどうしようもない存在だろうな」

 

(いきなりなンだ)

 

「ルッケンスは兄さんが継ぐ。なら、才能も特にないおれはどうするべきなんだろうと、ふと思う時がある、そういう話だ」

 

(まぁ……あの戦闘狂を天才と呼ぶなら、お前は秀才だ。そして、秀才止まり。そこで頭打ちだ)

 

 ウォルターが言い切った言葉に、ゴルネオは小さく唇を噛み締めた。

 

(だが、秀才止まりだからといって、そこで足踏みを続けるのか、そこからそれでも一歩進もうとするか。お前はそういう点ではいいヤツだと思ってンだけどなあ、オレは)

 

「……おれを励ますつもりで言ったのか? いまのは」

 

(え、ハゲマス? なにそれ美味しいの? ……あ、禿げます? 禿げるの、お前)

 

 お前は……と小さく呟いて、ゴルネオはこの若い元天剣授受者を少し見なおした。

 

―――――どうやら気を使わせたようだ

 

 後輩に気を使わせてしまったということにやや苦笑をして、シャンテ達の元へ向かう為足を急がせた。

 

 

 

 

 

 

 ゴルネオがレイフォンのところに追いついたのを確認すると、ウォルターも気を急かせてレイフォン達の元へ向かう。

 だがそこは炎が噴き出す崩落場。どうやらシャンテの放った剄技による炎がパイプ内のセルニウムに引火して火がついたようだった。

 ウォルターは舌打ちをして、炎に包まれながらもシャンテを自らの身を挺して守るゴルネオの姿を視界に捉えると自分が着ていた上着をゴルネオの方に投げる。

 レイフォンがルッケンスの秘奥、砲剄殺を放った。

 

「かぁっ!!」

 

 分子構造を破壊する振動波が紅を貫き、パイプを貫き、そして壁さえも貫く。都市の外が見え、豪風が流れこむと同時、爆音が鼓膜を叩いた。

 

「ぅあっ!!」

 

 なれない砲剄殺の影響により、レイフォンは防御のための剄を充分に練ることが出来なかった。その為後方に吹き飛ばされ、脆くなっていた都市の部品…、天井が降ってくるのが見える。

 そしてそれと同時。背中から誰かに掴まれて、そのまま庇われるように包み込まれた。

 目の前に来たのは、戦闘衣とは違う黒色だった。

 

 


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