明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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異変

 

 グレンダンにいたリーリンは、レイフォンから送られてきた手紙を見て大きな溜め息をついていた。

 頭を押さえてウーアー唸っていた所、後ろからいきなり声をかけられて驚く。慌てて後ろを見れば、そこには銀髪の青年がいた。足を組んで悠々とベンチに座る青年は、リーリンの恥ずかしさなど気にもしていない顔で呟く。

 

「やあ」

 

 

 第五小隊と小隊戦を行っていた十七小隊は、レイフォンの動きとウォルターの働きにより、順調だった。

 レイフォンの身体を剄の煌きが覆い、残光が後をついてまわる。

 活剄衝剄混合変化、千斬閃。

 

―――――アルセイフが独学で千人衝を学んだ末の結果か

 

 ウォルターは剄の流れを追う。追うが、特に変化は見られない。ウォルターは、レイフォンの剄に淀みもないかわりに変動も無い事にやや眉をひそめた。

 

「うーん、なんか違和感」

 

 ウォルターがそう呟いたと同時、勝敗は決した。

 

 

「あ、レイとん見っけー! そしてそしてウォルター先輩も見っけ!」

「…ミィ。どうしたの?」

「おう、元気だなロッテン」

 

 芝生で寝そべっていたレイフォン、そしてそれにちゃちゃ入れに来ていたウォルターを発見したのはミィフィ達、レイフォンの同級生三人娘だった。

 後続に居たメイシェンの手には一般生徒、しかも女子には似合わない大きな弁当箱が握られている。

 

「あ、メイ。そっか、もうお昼だ」

「……なにお前、弁当なんて作らせてンのか」

「違いますよ」

「えー」

「メイが作りたいからーって言ってですね、それをもらってくれてる訳ですよ、ウォルター先輩」

「へぇ……厚意は飢えからアルセイフを救う」

「……なにが言いたいんです?」

 

 じとり、とレイフォンがウォルターを睨みながら上半身を起こした。ウォルターはレイフォンの不機嫌そうな眼に肩を竦める。

 

「はいはい」

「あの…、あたしが作ったわけじゃないですけど、ウォルター先輩も一緒にどうですか?」

「え、いいの?」

「なあ、メイ」

「あ、はい。どうぞ。たくさんありますし」

「じゃあ悪いなぁ。一緒させてもらうわ」

 

 やんわりと笑みを浮かべつつ、メイシェンの弁当をありがたくもらう事にした。

 受け取った弁当を食べながら、大量に作ったなと思いつつ箸をつける。朝には自分が受ける授業の用意やその他もろもろもあるはずだ。前日から作っておいたにしても、重箱にみっちりするほど料理を詰め込んでくるとは、なかなか張り切っている。

 厚意で作るにしては気合の入った料理だとも感じたウォルターは、ふむ、と小さく首を傾げながら口を動かしていると、ミィフィがふと呟く。

 

「それにしても、ウォルター先輩もレイとんもよく食べますよね」

「そうか? 武芸者はこんなモンぐらいが普通なンだけどな」

「ナッキはそんなに食べない?」

「あたしもそこまでは食べないな。確かにミィ達よりはよく食べるが」

 

 ウォルターが肯定し、レイフォンが更に問いを出したが、3人は首をひねっていたまま。

 

「まぁでも、武芸者の人と一般人は運動量が違いますしね」

「そうだな。それに身体のできも違うかからな」

「ですよね。僕も、孤児院の料理当番の時に僕の感覚で作ると多いって言われちゃいますし。まぁ、元々感覚がわからないっていうのもあるんですけど」

 

 量の調整下手なんですよ、とレイフォンは笑った。

 笑ってから、隣でウォルターがへぇ、と頷いている事に気がついてレイフォンは「あっ」と声をもらす。

 

「あ、あなたに言った訳じゃないです」

「……でもさっきお前、オレの後に『ですよね』って……」

「いいい言ってないです、言ってないです!」

「……あ、そ」

 

 ウォルターがくつくつと笑い、レイフォンはふてくされた様子で弁当に箸を伸ばす。

 

「……む……?」

 

 そこで、突然ウォルターの背中をかけた感触に身体を震わせる。その為にウォルターの隣で弁当を食べていたレイフォンが吃驚して箸を落とした。

 今度はメイシェンがレイフォンに驚いて連鎖的に箸を落とす。

 

「ど、どうしたの?」

「どうしたんだ?」

 

 ウォルターの反応に驚いたらしいナルキとミィフィもちらりと見やっている。

 

「……………………」

 

 下を見ながら、地面を撫でるように見つつ、後ろへと視線を流す。後ろに何かいるのかと皆が視線をウォルターに付いて動かしていく。

 

「…………なんだ?」

「ウォルターが言ったんでしょう?!」

 

 いきなりウォルターのぼけたような言い草に、レイフォンがツッこんだ。それでもウォルターはレイフォンの言葉に耳をかさない。

 

―――――まさか、グレンダンに汚染獣が…? こんなに反応が古いのに、なんで気付かなかった?

 

 念威も使うことの出来るウォルターは、任意でグレンダンに眠る真の意識……サヤの元に念威端子を置いている。

 とはいえこの念威端子は現在では念威端子という役割すら失っており、電子精霊の縁の空間を通じてルウがグレンダンを覆う領域を発生させている為ウォルターとリンクしている、という状態だった。

 だがそれでも、微かな汚染獣反応であろうとウォルターは見逃す訳にはいかない。

 残っていた弁当を口へかき込むと、勢いよく立ち上がる。

 

「ど、どうしたんですか?」

「アルセイフ、悪いが午後さぼるからアントークに言っておいてくれ。ついでにその鞄も届けておいてくれ」

「えぇ?!」

 

 そういった途端、ウォルターの姿がかき消えた。

 

「ちょっ、一般人もいるのに!」

 

 そんなレイフォンの声は届かない。

 

「……ウォルター先輩は、どうしたんだ?」

 

 ナルキが困った顔でレイフォンの方を見た。ウォルターの姿はすでに見えず、鞄だけがその場に残されている。

 レイフォンもまた、ナルキと同じように困った顔をしている。

 

「時々あるんだよ、あの人……こういうこと」

 

 大きくため息を吐いてレイフォンは芝生の上に残された鞄を拾い、ついた芝をぱたぱたと払う。

 

「もう……しょうがない人なんだから」

 

 そう言いながらしっかり言われたことをするレイフォンも凄いな、とナルキは思いながら、弁当を食べ進めた。

 

 

 ウォルターは縁の空間を流れていた。グレンダンへ行くのには、時を越え、縁を掴むのが早い。

 

「おかしいよな、ルウ?」

 

(なにが?)

 

 ルウに語りかけるが、ルウはいまいちピンときていない様子だ。ウォルターは怪訝な顔で腕を組む。

 

「簡単だよ、お前の領域はしっかりしてる筈なのに、なンでこんなに気付くのが遅れた?」

 

(さぁ……。潜伏とかだと気づきにくいかも)

 

「潜伏ねぇ……汚染獣がそンな事狙ってするか?」

 

(どうだろう。グレンダンのことだし、確実に潰すためにそういうことは練っているかもしれない)

 

「だよなぁ」

 

 だが、反応の様子を確かめると一月だ。一月もかかるようなまでに苦戦する汚染獣なのだろうかとウォルターは首を傾げる。

 

(でも、どうとしてもとりあえずはこのままの時間でとんだほうがいいよ)

 

「ん、それはわかってンだけど」

 

 何処か納得の行かない、と言った様子でウォルターは縁の空間を抜けた。

 

 


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