「お願いですウォルター、助けてください!」
いきなりそう血相を変えてレイフォンが飛び込んできた時はどういうことだ、どうすればいいんだとやや慌てたものだ。
だがまぁ、用件はニーナが倒れたということだったので「あぁ」とそれのおかげで落ち着いた。
最近ふらふらしていたし、全員に黙って1人で訓練しているということも知っていたことだ。だからこそ倒れたと言われても特に驚きもしなかった。
それ以上に驚いたのはレイフォンが駆け込んできたことだったけれど。
ともかくということでニーナをウォルターが抱えた。
最近緊急指定の病院は減っている訳ではないのだけれど、結構特定の生徒しか行けないということもある為レイフォンが来たという事らしいので、ウォルターの知り合いがやっている病院へ向かうことになったからだ。
いまは病院でニーナが治療を受け、寝ているという状況。理由はまぁ、ウォルターが懸念していたとおりに剄脈過労、というところだった。
ウォルターは診断結果だけ聞くと、外の自動販売機に飲み物を買いに行った。
「ウォルター先輩」
「お、ロスか。どうした?」
「……兄から封筒をあずかっています。探査機が持ち帰った写真が同封されています」
現れたフェリから封筒を受け取り、買ったジュースの缶をフェリに預けると封筒の中身を取り出した。
数日前に見せられた写真よりも克明に撮影された写真。
(間違いないな。雄生体……しかもこれは……)
(老生1期、ってところかな?)
(だろうな……)
内心での呟きに声をかけて来るのはルウしかいない。ウォルターはふぅ、と溜息をついてふとフェリの方を見た。
「おぅい、ロス。それはオレの缶ジュースだ。なにをしようとしている」
「見ればわかるでしょう……飲もうと思ってプルタブを開けようとしています。しかし開かないので開けてください」
「……なにしてンの、本当に……しゃあねぇヤツだな」
ウォルターは苦笑とともにプルタブを開けると、買った缶ジュースをフェリに渡す。
平然とした顔で飲み始めたフェリをおいて、もう2缶、缶ジュースを買った。
「2つも飲むんですか?」
「もう1本はアルセイフに」
「そうですか」
そう言いながら病室に戻ると、レイフォンとハーレイが何故か壁を見ていた。2人の前にはうつ伏せに寝かせられたニーナの姿がある。
背中には針が大量に刺されており、剄脈の治療をしているのだろうとそこまで考える。
フェリが用心深くニーナを確認し、その後にレイフォンとハーレイを睨み、言い放つ。
「スケベ」
「見てませんよ」
「そういう返事が帰ってくるあたりスケベです」
「うっ」
「………? ロス、なにがスケベなんだ?」
「あなたは気にしなくていいです。気にしたところで無駄なので」
「ん~…? そうなのか? よく分からねぇンだが」
ウォルターは首を傾げて、やや赤く染まるレイフォン達の顔を見ていた。
レイフォンに缶を投げてよこし、先程ウォルターが受けた説明をフェリが話す。ハーレイ、いや、ハーレイ達が開発していた錬金鋼は、複合錬金鋼と名付けれたらしい。
1本しか無い為、必然的にそれはレイフォンが使うことになる。
「怖いですか?」
「……ロス?」
「怖いですか? 汚染獣と戦うのは」
その問いは2人に投げかけられていた。ウォルターはフェリの頭にぽふぽふと手を乗せる。
「大丈夫だよ。もうなンかそういう次元の話じゃねぇし。平気平気」
「……ですか。それあらばいいです」
「もう、止まりようもねぇさ」
そう呟き、ウォルターは軽く笑みを作った。