翌日、練武館に遅れて行ったウォルターの視界に飛び込んできたのは、レイフォンが身の丈より大きな大剣……らしきものを振り回している、と言っても上段からの振り下ろしなどだが、をしている姿だった。
「でかいな、あれ」
「うん。こないだの調査の続き」
「成程ね」
おそらく、これはあの汚染獣専用だろう。そう思いながらレイフォンの動きを見やる。
―――――剄の煌めきはそこまで悪くなくなってきたな
そう思いながらレイフォンの動きを見やっていた。ふぅ、と小さな吐息が落ち、動きが止まる。
「……満足しましたか?」
冷ややかな声が聞こえて来る。
―――――まぁ……気付いてたけどね……
フェリが、後ろに立っていたことには。フェリの輝かしい銀髪は風圧により巻き上げられ、ぐちゃぐちゃになってしまっている。
シャーニッドはわざとらしく口笛を吹き、レイフォンはレイフォンで頭が上がらないらしく懇切丁寧に謝っていた。
ハーレイはほぼとばっちりのような形で怒られ、ウォルターはさすがに苦笑する。
「まぁまぁ。ロスも許してやれよ」
「いやです。これ、どれだけの手間がかかってると思っているんですか」
「んー」
「……そう言うなら、あなたが梳いてください」
「オレが? ……いいけど……」
フェリが元々持ち歩いているらしい櫛を借りて、フェリの髪を丁寧に梳く。
ニーナが到着し、今日の野外訓練も平和に終わった。だが、その後が平和ではなかった。
ニーナが最近行なっていたレイフォンとの連携訓練をしばらくしないと言い出したのだ。ウォルターと話していた事がひっかかっているのか、とも思ったが、そうでも無い様子で、ただやらないとだけ言って。
夜の練武館にて、レイフォンの大剣の練習を終え、フェリ、レイフォンと共に再び3人でカリアンを待っていたウォルターはよくわからない会話に巻き込まれた。
「そんなことよりも、先輩という呼ばれ方は他とまとめられていて嫌です。別の呼び方を要求します」
「え?」
「レイとん、とか呼ばれているそうじゃないですか。ウォルター先輩も、私のことをロスと呼ぶので不快です」
「酷ぇ言い草」
元々は「やれる人がやれることをすべきだ」という話だった筈なのに。いつからこんな話に。
「ともかく、あなたの別の名前を捜索しましょう。……レイ、レイちん、レイ君、レイちゃん、レイっち……どれがいいですか?」
「え? もうその中で決定ですか?」
「他に何か候補がありますか? ウォルター先輩はどうですか? これ以外に」
「んん……『閃光のレイ』とかどうだ?」
ちょっとふざけてみた。
きりっとした様子で言ったら、まぁレイフォンはいつもの通りの反応なんだけど、フェリが異様にツボったらしい。
「閃光のレイ……ですか。なかなか馬鹿っぽくていいですね、呼びたくは無いですけど」
「だったらやめてくださいよ! と言うか閃光ってなんですか!?」
「閃光っていうのはだなー、一瞬できらめく光、または瞬間的にきらめく、閃く光の事を言い、」
「そんなことは聞いてないです!!」
「ンだよ、最後まで言わせろよな」
「……では、フォンフォンにしましょう」
「うわっ、大逆転! なんですかその珍獣みたいな名前は」
「いいじゃねぇか、フォンフォン」
「あなたが呼ばないでください!」
「やったぞ、ロス。お前は呼んでいいってよ」
「やりましたね。よくできました、褒めてあげます」
「うわー、嬉しくねぇ」
ウォルターはそういって笑いながらフェリを見た。
そのあと、カリアンが来て、結局はフェリとレイフォンと食事をして帰ってきた。
ふとベッドに寝そべって、過去に思いを馳せた。