「さて、本題に入ろうか」
フェリが皿を片付けるのをウォルターが手伝い、いまはフェリが淹れてきたお茶を飲みながら、カリアンの話を聞いている状態だ。
ひとつの封筒をとりだして、中から1枚の写真を取り出した。
「これは、五百キルメル程離れた山だ。そして、気にしてほしい場所はここ」
カリアンがぐるりと指でそこに円を描く。
ウォルターは一見して「あぁ」と呟き、レイフォンはしばし写真に見入って「あぁ」と呟く。
「どうだい?」
「んー」
「ご懸念の通りかと」
「なんですか?」
フェリが隣から声をかけた。それに対し、ウォルターが口を開く。
「汚染獣だよ」
そう告げると、フェリがきっとカリアンを睨みつけた。
「兄さんは、また彼らを利用する気ですか?」
フェリとカリアンの論争が繰り広げられる中、ウォルターは写真を手にとって見る。
(んー…これはちょっとやばい気がするなぁ…)
(どうして?)
唐突にウォルターの頭のなかに声が響いた。ルウの声だ。
(これはたぶん、ツェルニの錬金鋼じゃ太刀打ち出来ないだろ)
(あ、もしかして……?)
(たぶん、そうだ)
ウォルターが思考でルウと会話していると、レイフォンが口を開く。
「おそらくは雄生体でしょう。何期の雄生体かは分からないけれど、この山と比較すると1期や2期とはいかなそうだ」
「……………」
「……ウォルター? どうしたんですか。珍しいですね、黙りこくって」
「オレが日頃騒がしいみたいな言い方をすンな。……確かに雄生体ではあるンだろうが……」
「なにかあるんですか?」
「ん~…。これは本当に嫌な予感がすンだよなー」
ウォルターがこめかみを押さえながらそう言うと、カリアンは苦笑した。
「となると、余計に2人に出てもらう事になりそうだね」
「…まぁ、オレは構わねぇけど。埃かぶってる剄も使えるしさ」
「その表現の仕方はどうかと思いますけど…」
レイフォンの呆れた言葉を聞き流しながら、お茶を口に含んで、喉に流し込んだ。
螺旋階段でのレイフォンとフェリのやり取りをウォルターは苦笑混じりに見やりながら、レイフォンとウォルターは帰路についていた。
「ウォルター」
「あ? どうした」
突然レイフォンから声をかけられて、ウォルターは内心驚きながらも平然と返事を返した。
「ウォルターは、今回の件、どう思ってますか」
「今回の事? ん~…まぁ、オレはどうでもいいかな」
「……どうでもいいんですか?」
ウォルターがあっけらかんとして言った一言に、レイフォンはどこか呆れたような顔で聞き返した。そんなレイフォンに対して、やはりウォルターはすらすらと答える。
「そうだなぁ。オレはしたい事があるし、別にそれの阻害にならなければどうでもいいかな」
「……もし、阻害になる事になったらどうするんですか?」
「単純だろ。…全力で排除する。それだけだ」
「…そうですか。……もし……、もし、ですよ? 旧友がそうだったら、どうするんですか。いま言い切ったように、排除するんですか?」
「……お前は問いばかりだな」
ウォルターはレイフォンの質問攻めに肩を竦め、ふむ、と考えてから答えた。
「そうだなぁ…。それが“どの”旧友かによるかなー。別に天剣授受者のヤツらなら問答無用で叩き斬るけど…」
「他にも、旧友が居るんですか?」
「……お前、オレがぼっちみたいな言い方やめろよな。あいつらのもっともっと前の知り合い」
「そうですか……」
レイフォンは俯いて何かを考えだした。
ウォルターは空を見上げて、“闇”が覆い、星が輝いて、色がところどころ変わっている空に懐かしさを覚える。
「……あの……」
「あ?」
「ウォルターは、どうしてそんなに思い切りがいいんですか?」
「……ンな事知るかよ。昔からオレはこうだ」
「…やっぱり性格的なものでしょうか」
「だろうなぁ…。昔っからだし」
「……そういえばウォルターって、きょうだい居るんですか?」
「居るけど……」
「え?! 居るんですか?」
「なンだよ。居るぞ、弟が」
突然話の話題が変わった事にウォルターは少し戸惑ったが、それでもレイフォンの狼狽ぶりに一瞬笑いかけた。
「えぇ~、意外です」
「意外か? オレに弟って…」
「意外です。…どんな弟さんなんですか?」
「んー、双子なンだが…」
「双子!? ますます意外です…」
「そんなにか。一卵性双生児なンだが、性格はまったく違うぞ。寧ろ逆だ」
「良かった。非道な兄とは似てつかなくて」
「失礼な」
人間性でヤバいというならばルウの方がよっぽど凄いぞ、とレイフォンに言ってやりたいが、さすがにそれはやめた。
オレと2人で居たいが為に世界中の人間を殺した――実際したのはニルフィリアだが――なんて知ったらどんな反応するだろう。
ちょっとそんな誘惑にかられるけれど、さすがに言わない。やばいから、本気で。
「ま、知らない方が幸せなこともあるってね」
「……………?」
「ほら、帰ろうぜ」
ウォルターはそう言って、話を切った。