明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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影が、忍ぶ

 

「……ふむ。まぁこんなものなのかな」

 

 腕を組み、尖塔の上でサヴァリスは呟く。その隣で立ったままのウォルターは、不機嫌な顔で立ち去り始めたレイフォンと、その場から動かないハイア達を視界に据えた。

 

「……どうだろうな。やはり、ライアもアルセイフもガキだ。いつまでたっても部門に固執する」

「うーん、あれはそういうものじゃあないと僕は思うけどな。どうだろう」

 

 サヴァリスはそう言って苦笑する。はっきりしないサヴァリスの言葉に、ウォルターが怪訝な目を向けた。

 

「…まぁ、自分が大切にしてきたことを蔑ろにされたらやっぱり嫌だろうな、ってことだよ」

「そういうものか?」

「まぁ……、そういうものじゃないかな? ウォルターだって、自分が培ってきた技術を変に貶されたら嫌だろう?」

「……さぁ…。オレの刀術は我流のモノだしな。なんとも言えない」

 

 肩をすくめて言うウォルターに、サヴァリスはまた苦笑した。

 その苦笑を呆れととったウォルターが、ため息混じりにサヴァリスに向けた視線を不快だというものに変える。

 

「……考えてみなよ。レイフォンはサイハーデンの刀術を汚さないためだ、と言って、刀を使うこと、そしてサイハーデンの技を使うことを自ら封じた。……そんなレイフォンが、あぁいう場で怒らないと思うかい?」

「……まぁ、あいつだしな」

「それは言えるかもしれないけれど。……正直、僕は強くなれるのならルッケンスの部門だって捨てる気でいるけれど…、きっとレイフォンにとってサイハーデンの刀術っていうものは、ただひとつのものなんだろうね」

「……お前でもそんな事言うンだな」

 

 ウォルターの言葉にくつくつと笑い、サヴァリスは口を開く。

 

「ただ、せめて僕がいる間は楽しい時代になってほしいと願っているだけだよ。少しでも、ね」

「……戦いへの悦楽か? その感情は」

「さて、どうだろうね」

「……まぁ、別にいい。オレは行く」

「そうか。じゃあ、また後で」

 

 ひらりと手を振ったサヴァリスには目もくれず、ウォルターは尖塔の上から飛び降りた。屋根を伝って降り、レギオス地上部へ降りようとした時、異様な雰囲気を感じた。

 

「……これは……」

 

(ウォルター、狼面衆の反応)

 

「……マーフェスにつられて、やってきたか? 脆弱な塵共が」

 

 ウォルターは苛立たしげに眉根を寄せ、しょうがないと踵を返す。

 地上部ではレイフォンとフェリ、ニーナといった面々に加え、合流したらしいリーリンもいる。それを視界の端で確認しながら、ウォルターは反応の方へと跳躍した。

 

(しかし奇妙だね。ここへ侵入したのなんて、バンアレン・デイ以来じゃないかな?)

 

「あぁ、火神…じゃなかった、シャンテ・ライテの時か」

 

 ディックにはすでにその話をしている。

 かつてディックとウォルターが共にツェルニにいた頃に、ディックと一度関係を持ったことのあるレアン・バール。彼女が持っていたちからを顕現させた姿が火神。そして、そのちからを抑えこみ、現在あるものがシャンテだ。

 森海都市エルパにディックがおいてきたそうだが、そこに住んでいた野生動物に育てられ、立派な野生児として育ったようだった。過去の面影など何処にもない。

 だが、少し前はそれを利用された。バンアレン・デイの時に狼面衆はシャンテの育った環境と習慣を利用した。結果として大事には至らなかったが、これ以上火神のちからを放置することは危険だ。

 あの時、事後報告だったがレイフォンも妙な仮面をかぶった男と接触したらしい。

 レイフォン(関わらずの因子)までもが狼面衆と接触するほどに、狼面衆はツェルニに迫ってきていたのだ。

 

「……厄介だな」

 

(そうだね…、どうするベきなのかな)

 

「…さぁな。とりあえず、現状としては侵入した狼面衆を叩くしかない」

 

(離れてて良かったね。近かったら面倒だったもん)

 

 ルウの言葉は何処か気に食わないと言った雰囲気を醸し出していた。

 先程話していたサヴァリスの話にはあまり興味はなかったようだが、フェリとの話についてはルウも考える所があったようだ。

 

「…ルウも、やっぱり他人と関わることは嫌いか?」

 

(……嫌い、っていうか……)

 

 ルウはやや言葉を転がした。

 どう答えればいいのかがわからないようで、ルウは唸る。

 

(なんか…、気に食わない)

 

「気に食わない、か」

 

(僕は別にどうでもいいんだけどさ…正直。でも、ウォルターがなんだかんだと文句付けられるのは、気に食わない)

 

「……それは、お前のことじゃなくてオレのことじゃないのか……?」

 

(うん、ウォルターのことだよ?)

 

「…いや、オレはお前のことを聞いたンだけど…」

 

 ウォルターは苦笑を浮かべながらルウにそう言ったが、ルウは頬をふくらませる。

 

(だって、他人と関わってるのはウォルターだもん。僕は関係ないよ)

 

「……そんなことないだろ。ルウだってオレと一緒に関わってンだから…」

 

(…いいの。とにかく、いま僕が気に食わないのはこの一連の流れだよ)

 

「……ライアのことか?」

 

(それはそれだけど……タイミングの悪い狼面衆に、ばかを晒すハイア・ライアもそうだし、もたもた戦うレイフォン・アルセイフ、わざとらしいヴリスト・ウェーバーに面倒な天剣授受者サヴァリス・ルッケンス、どうしようもないフェリ・ロス。…なんか、本気でむかついてきた)

 

 ルウがむすっとした顔で腕を組んだ。ウォルターはそれに苦笑しながら跳躍し、反応のある場所に到達する。

 ウォルターは調子を取り戻し、ルウに声をかけた。

 


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