「おや……意外な結果だ」
「存外、肩の傷が深かったみたいだな」
サヴァリスがやや眼を丸くして戦況を見る。そんなサヴァリスの隣で、ウォルターは小さく眉を動かしながら呟く。眉を動かしたのは、鳴り響いたブザーの大きさに顔をしかめたからだった。
戦況を興味深そうに見るサヴァリスは、楽しそうに口角をあげる。
「やっぱりレイフォンは腐っていたのかな」
「…さぁ、な」
「キミの眼からはどうだい?」
「……対人戦をした経験の差じゃないのか」
ウォルターの言葉に、サヴァリスはふむ、と顎を摘んだ。
レイフォンが後方に吹き飛び、地面に倒れる。
そんな状況を見ていても、自身の胸には、この程度で終わるのかと言う呆れもしょうがないなという諦めのようなものもなかった。
「……なんだろうな……」
「ウォルター? 何か言ったかい?」
「……いいや」
ずっと胸にのさばっているもの。
フェリと話してから、更に肥大したような気はしないでもない。だが、それに称すことのできる名前はやはり見つからないまま。
ただ、小さく懸念しているだけだ。この胸にのさばる何かに、気付けるのかどうか。
―――――もし、これに気付けるなら……オレは
もう少しだけ、進めるのかもしれない。
そう考えながら、ウォルターは視線を戦場へと戻した。
ハイアとレイフォンの戦いは、まだ続いている。
胴体を薙がれた。胸から腹にかけて刀の冷たい鉄の感触が通り過ぎていった。それと同時に激しい激痛と熱。咄嗟に下がったことで皮膚を裂かれ、肉を裂かれたまでにとどまった。内蔵まではとどいていない。
だが、勢いに押されてレイフォンの身体は後ろへ傾ぎ、外縁部の地面に倒れ込む。
血が流れる。右手はまだ青石錬金鋼を握っている。まだ、足にもちからは入る。なら、まだ戦える。なのに、動かない。
―――――油断した僕が悪いんだ。だけど……
あの声がどうしてウォルターの声を呼んでいたのか、分からない。
ウォルターがレイフォンを叱っていた時聞こえたあの声。
((………………………消す))
ただ、その一言。だけどはっきりと覚えている。あの冷えきった、殺意を込めた声音は。
「……おれっちは、お前に勝つ」
ハイアは歩を進め、レイフォンが青石錬金鋼を掴んでいる手を鍔ごと踏みつけた。
刀を握りしめて、ハイアはレイフォンを見下ろす。
「ただそれだけさ」
ブザーの音が一際大きくなった。ハイアは言葉を言い放つ。
冷えきったハイアの眼。言葉は鋭く、レイフォンに突き刺さる。
―――――あぁ、そうか
ハイアの瞳が冷めていたのは、彼への申し訳なさがあったのは確かのようだ。
だが、それ以上に「勝つ」というそれに冷めてしまっている様だった。何故か、というのはわからない。それは、レイフォンにはわからない。しかし、レイフォンにもわからないが、おそらくハイアにも分かってない様に思う。
レイフォンとの決着をつける。それは、圧倒的に。確実に。
このハイアの眼を見たことがあるはずだ。
―――――天剣授受者決定戦の時の、ウォルターの眼に似てるんだ
酷薄で、冷酷な眼。
彼程の鋭さがないとはいえ、普段のハイアからは考えられないような鋭い目つき。
ウォルターの技、ウォルターの構え。先程はそんな余裕もなくて考えていなかったが、戦況の運び方もウォルターに似ていた気がする。
―――――……ハイアはウォルターに…憧れているんだっけ
だからだろうか。いいや、だが、そうだとしても。
レイフォンは手を踏まれたまま、青石錬金鋼の柄を握りしめた。