レイカは真っ暗闇の中でぽつんと立っていた。
一瞬動揺したが、これはいつもの夢だということに気づいて安堵し、これからあの幽霊であるベイリーフの過去を視るんだろうと推測する。
夢の中で感じるはずはないのだが、レイカが立っているこの暗闇は、いつもどこか冷涼とした空気だった。
まるで電気が点いたかのようにいきなり映り出した映像は、ベイリーフ視点で流れ始めた。
ベイリーフはもともと臆病な性格で、バトルに向かないポケモンだった。
そんなベイリーフのマスターであるトレーナーはカントー地方でベイリーフのことを思って逃がし、その後は自由気儘な野生生活を送っていたのだが、ある日捨てられた1体のチコリータを見つける。
『どうして泣いているの?』
『お前は使えないって、捨てられてしまったから……』
どうやって彼女を慰めればいいか、分からない。
放っておくこともできず、涙を止める方法も知らなかったベイリーフは、マスターにまた会いたいと大粒の涙を溢す寂しがりなチコリータの傍に、ずっと居続けた。
チコリータの寂しさが薄れた頃には、2体は愛し合って子供が生まれており、子供のチコリータはベイリーフと母親であるチコリータに挟まれて気持ち良さそうに眠っていた。
ここで映像は一旦途切れ、再び映像が流れる。
木々の間を通り、何処かへ向かっているようだった。
レイカはその風景に見覚えがあり、思案している間にベイリーフはポケモンと出会う。
『おや、ここらへんでは見ない顔だな』
『あぁ、いつもはもっと西の方にいるんだけど、今日はおいしいモモンの実を息子に食べさせてあげようと思って、こっちに来たんだ。ここの辺りで実っているモモンの実は美味しいと評判だったから』
『そうかそうか。それならオレ知ってるから案内してやろっか?もうすぐ夕方になるから早く着いた方がいいだろ?』
『それはすごく助かる。ありがとう。ほら、君達も』
『ありがとう!』
『ありがとうございます』
ベイリーフ達は親切なスピアーに感謝し、先導するスピアーの後についていく。
レイカには、スピアーの羽音がやけに耳に残った。
夕方になり、木の葉たちが顔を赤く染めるなか、ベイリーフは内心首を傾げていた。
スピアーについていってから、もう1時間はとうに経っている。モモンの実がなっている木はそこまで遠かっただろうか?
『ねえあなた、まだ着かないのかしら? あの子ちょっと疲れちゃってるみたいなのよ』
後ろにいる妻のチコリータが小声で訴え、休憩を促してくる。
確かに、子供の足で1時間歩きっぱなしは疲れるだろうと納得する。彼も正直ここまで時間がかかると思っていなかった。
『ごめんなぁ、奥さん。さっきオレちょっと迷っちゃっててよぉ、思い出したからもうすぐ着くと思うんだ。悪ぃけどもうちょっとだけ我慢してくれねぇ?』
『っ……! は、はい』
『っすみません、こちらは大丈夫なのでお願いします』
まさか聞こえていたとは思わず、ベイリーフとチコリータは身体をびくつかせる。気まずい空気が流れるかと焦ったが、スピアーはご機嫌そうに飛んでいた。