スピアーがチコリータを探す。そんな命がけの鬼ごっこが開始してから、どれほど経っただろうか。長時間は経っていないはずだが、チコリータには何十分も経過しているように感じた。
『出てこいやおらああああ!!』
チコリータは冷や汗を垂らす。
隠れて、見つかりそうになってはまた隠れて。そんな緊張状態が続いているため、精神的疲労が激しく、蓄積し、集中力がもう少しで切れそうだった。
最初はチコリータを追いつめようと楽しげに探していたスピアーだったが、あまりにも見つからない。それに苛立ちが募ったところで、丁度マジカルリーフで傷つけられる。短気なスピアーは、それで完全に頭に血が上った。
『生意気なガキが、このオレサマを騙そうってか!? 上等だクソがああぁぁぁ!!』
今までのお遊びとはわけが違う本気の捜索に、あと少しで見つかってしまうだろうと覚悟する。
スピアーは【きあいだめ】をし、【こうそくいどう】で飛び回りながらダブルニードルで草木を刈り取っていく。身を隠す場所が少なくなり、とうとうチコリータは鬼……の形相をしたスピアーに見つかってしまった。
『舐めやがってぇえ……す……殺す……殺す殺すころすころすコロスゥゥゥ!!』
【どくづき】で止めを刺そうと高速でスピアーが迫ってくる。その狂気にあてられ震える足とは裏腹に、チコリータはゆっくりと流れる時のなか、嬉しい気持ちでいっぱいで、涙が溢れそうだった。
こんな風に、父もスピアーに見つかって殺されたのだろうか。
父はおくびょうな性格だった。
そんな父が、この狂った敵に恐怖しないわけがないのに、あの時、自分や母を守ろうと、後ろを振り返らず前だけを見据えていた。
あぁ……自分の父は、とても偉大だったのだ……。
嬉しくて、誇らしくてたまらなかった。
だからこそ、
──そんな父を、殺したこいつは赦せない!!!
チコリータの怒りが爆発し、その身体は眩い光に包まれた。
決着は、一瞬でついた。
『な……んで、だ』
どうして己が負けたのか、痛みを必死に訴え悲鳴を上げる身体を無視しながら、スピアーは考えていた。
「【カウンター】よ」
連れてきたハピナスの【いやしのはどう】でチコリータから進化したベイリーフを回復している間、サーナイトの特性によるテレパシーで、レイカはスピアーの心を読みとる。
「カウンターは、相手の物理攻撃のダメージの2倍をその相手に与えるの。あなたとベイリーフのレベル差、相性、タイプ一致補正などから考えられるどくづきのダメージは110以上。それにあなた、スナイパーという特性でしょう? あの攻撃はきあいだめの効果で急所に当たっていただろうから、その特性で110×2.25×2……つまり約500のダメージを負ったのよ」
『さっ……ぱり、わか……ね』
スピアーと戦う前に、レイカはベイリーフにあるものを持たせ、草木に隠れたら【こうごうせい】で体力を限界まで回復しておくようにと伝えていた。
そして、スピアーのどくづきをベイリーフは食らう。ベイリーフになったとしても、その攻撃は普通、耐えられるものではない。しかし、レイカはあるものを持たせていた。
それは、“きあいのタスキ”。
そのタスキの効果によって持ちこたえたベイリーフは、父親のベイリーフから遺伝で授かった技であるカウンターで、スピアーに勝利したのである。
「何か辛い過去があってそうなってしまったのかは分からない。けれど、過去があったとしても、罪のないポケモンをただ楽しんで殺したということは、決して赦されることじゃないわ」
レイカはスピアーを静かに見据えた。遠くからはサイレンの音が聞こえる。
「罪を贖いなさい」
言い放った言葉は静かに、けれど凜と森に落ちた。