『なに言ってくれてんのよばカラ! 勝手にぶっそうなイメージ与えるのやめてよね! ばカラの方がすぐに怒ってあばれるくせに!』
『なんだとぉ!?』
『なによぉ!?』
『あ、あのっ……』
ムナとカラが火花を散らせ、今にも取っ組み合いが始まりそうな空気におろおろしていると、巨体が前を横切った。
『こら! ふたりともやめなさい。チコリータが困ってるでしょう? すぐそうやってケンカするんだから……。アンタたちの方がお兄さんお姉さんなんだから、困らせるようなことしないの! わかった?』
瑞々しい鱗を纏わせた尾を揺らす、美しい風貌をしているのはミロカロスだった。
『はーい……ごめんなさい』
『ごめん、なさい』
『うん、いい子ね。ごめんなさいねチコリータ、いきなり驚いたでしょ? アタシはミロカロスのロカよ。ロカ姐とでも呼んでちょうだい?』
『こう見えて姐さんはオスなんだ……』
『何か言ったかしら、リオ?』
『イエ、ナンデモナイデス』
上下関係が垣間見えた。ひきつった笑顔のまま固まっているリオを見て、絶対にロカを怒らせないようにしようと誓う。
『私も、自己紹介してもいいだろうか……』
『うわっ!?』
後ろからいきなり声が聞こえ驚いたチコリータはその場を離れ、距離をとって向き直ると、そこには落ち込んだダークライが悲しげに浮かんでいた。
『やはり、私は驚かせてしまう存在のようだ……こんな、無意識に悪夢を見せたり迷惑をかけてしまう不吉な私なんて、やはりここにはいない方が……』
『わあああ! ちがうんだよ! ちょっと後ろから声がいきなり聞こえたから驚いちゃっただけなんだ! ごめんなさい!』
自己嫌悪するネガティブな性格をしたダークライをどうにか落ち着かせようと弁明するも、気分が浮上するどころか更に沈んでいってしまう。
『ムナ!』
『うん!』
タブンネに呼ばれたムナは、少し離れているダークライのところへ飛んでいき、ピタリとその顔にくっついた。
『ライ、どうしたの? 悲しいの?』
『ああ、ムナ……私の一番の友よ……私は私が嫌でしかたないのだ。こんな迷惑しかかけない自分が情けなくてたまらない』
『迷惑なんてかけてないよ! ライの何が迷惑かけてるっていうの? 悪夢を見せてしまうから?』
『……そうだ。悪夢を見せてしまうことが嫌なのだ。見せた者にも、悪夢を食べてくれる君にも申し訳なくて、消えてしまいたくなる』
『ここにいるみんなは、ライに消えてほしいなんて思ってないし、迷惑とも思ってない。もちろんレイカだってそう。みんな、ライのことが大好きなんだよ』
どうしてこんなに深刻なことになったのかいまいち理解できないチコリータは、話についていけず、居心地が悪い。驚いてしまった自分が悪かったのだろうかと悩んでいると、ロカがダークライのことを説明してくれた。
『ダークライ……ライはね、傷つきやすい子で、自分を守るために周りの人やポケモンに悪夢を見せてしまうことがあるの。でもそれは無意識にだから、あの子に悪気があってやっているわけではないのよ』
『そういうことだったんだ……』
『あの子はとっても優しいから、迷惑をかけてしまっている、と自分を責めてしまう。自分を好きになれない。だから、あの子を救いたくて、レイカは拾った』
その時のことを思い出しているのか、ロカは目を細め遠くを見ていた。
『だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。みんな、きみのないているかおより、わらったかおがだいすきだから、そうしてるだけ。めいわくだなんておもってないんだよ』
ムナとは反対の位置で顔をくっつけているラティアスが、安心させる優しい声で話した。
『ラティアスとラティオスのティアとティオは相手の気持ちが分かるんだ。ふたりの言葉に偽りはない。だから信頼できて、とても説得力があるんだよ』
これでライも落ち着くねと笑ったタブンネの言ったとおり、ライは落ち着きを取り戻し、チコリータは安堵の溜め息を吐いた。
『先程は驚かせてすまなかった、ダークライのライだ……。気軽に呼んでくれ』
『大丈夫だよ、よろしくね』
『じゃあもうそろそろでレイカが戻ってくるだろうし、ぱっぱと自己紹介しちゃおうか。僕はタブンネのタネ。さっき紹介したティアとティオ』
『きのうもあったよね、よろしくねー』
『ティオだ。よろしく』
『は、はい!』
『サーナイトのサラと、ハピナスのピー』
『よ、よろしくお願いします……!』
『元気になってよかったね。癒したかいがあったよ。よろしく』
『よ、よろしくおねがいします……』
『照れてる? まぁサラとピーは綺麗だからね。そしてベトベターのベトと、最後にデスマスのデシー』
『ぼく、ベト。なかよくしてほしいな』
『うぇ、私はデシーデス! よよよよろしくお願いしマスッ!』
『よろしくお願いします!』
個性的なポケモン達に囲まれ挨拶をし終えると、見計らったかのようなタイミングでレイカは戻ってきた。
「お待たせ。どう? みんなと少しは打ち解けられたかしら?」
「チコ、チコリ!」
チコリータの気持ちが通じたらしい。レイカは微笑むと、次は一変して真剣な顔つきになる。
「さて、決戦の前にチコリータはどんな技が使えて、どのくらい戦えるのか見ておきたいから、バトルしましょう?」
どこからともなく吹いてきた風が、レイカの髪とチコリータの葉を靡かせた。
乾いた地を踏みしめる。
幾多の枝の隙間から漏れる日差しによって、森の中は明るく、涼やかな風が微かに吹いていた。
チコリータは己を奮い立たせ、仇であるスピアーの前に立つ。
時は満ちた。