インフィニット・ストラトス~The Lost Rabbit~ 作:ヌオー来訪者
拙作束がマッドとはいえ比較的まともというか色々な所が下方修正されてたり、非ISの無人兵器など、ある程度独自路線を進んでいるとはいえ心情的に原作の方もちゃんと拾っておきたい所ですし早く出る分有り難いんですが、11巻がやや早足だっただけに色々心配だったり。
12巻でがっつり関わらせない限りISAB要素は拾わない知れません。これ以上キャラクターや設定を増やして死にキャラにするのも忍びないので……
機体の性能差が戦力の決定的差ではないという事はどこぞの仮面の人が実証している通りである。
事実、シャルルの操るオレンジ色の専用機ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡという長ったらしい名前の機体は第2世代後期で、対する白式は第3世代のやや上に位置するシロモノだ。
放課後。夕日が照らすアリーナのど真ん中、瞬時加速で突撃する一夏は雪片弐型を振り上げる。
シャルルは両手に携えたサブマシンガンの引き金を引き迎撃をかける。サブマシンガンのおびただしい数の弾丸を浴びながらも一夏は瞬時加速を止めぬままシャルルの傍まで肉迫する。
その、弾丸を一切恐れぬ猪突猛進、特攻とも言えるその行動に一瞬焦りを見せるものの、両手のサブマシンガンを投げ捨て一夏の一閃をギリギリ回避する。シャルルは入れ替わりに高周波ナイフを呼び出して返す刀で一閃し、新たに呼び出したハンドガンをばら撒きつつ距離を取ってから、2丁のグレネードランチャーを呼び出し、容赦なく白式にグレネードを叩き込んだ。
「うわ強っ……」
観戦していた玲次が闘牛士に振り回される牛のようになっている一夏を見て呟いた。
すると玲次の近くで戦闘を見ていたセシリアと鈴音が口を開く。
「機体の性質を熟知しているデュノアさんと、高い性能に振り回されている状態の織斑さんとでは差は歴然ですわね……デュノアさんはラファールの性質を理解しつつ多彩な武器を使いこなしています」
「ラファールの使い手こそ多くてもここまで使いこなせる方はそうそう居ないわよ。流石はデュノア社長の息子なだけあるって奴かしらね……」
シャルルの武器特性を完全に把握しているテクニカルな戦い方は玲次としても注目したい所だ。鈴音もセシリアもどちらかと言えば特化型のもので、武装を幅広く使いこなせるシャルルは貴重だ。
ラファール自体容量があるのでまるで武器庫だ。無論積むだけなら簡単だ。それを全て使いこなしそれぞれ適切に使いこなしているとなると下手な3世代乗せるより強い。
「あーくそ! 駄目だ……!」
墜落した一夏は苦虫を噛み潰したように、地面を殴る。玲次は口惜しがる一夏にポカリのペットボトルを投げ渡し、一夏は危うくキャッチする。
「っとと、悪い。……なんかシャルルの戦い方、お前の戦法を一回り厄介にしたような感じですげー苦手だ」
「器用に戦えるように努力しないとね。多彩な技で相手を手玉に取って相手をイラつかせるってなんか憧れるねぇ? いやーおれも真似したい」
「性格悪いなお前……」
ゲス顔でわざとらしく笑う玲次に一夏はツッコミつつ、白式を解除してポカリを呷る。
玲次はシャルルにもポカリを投げ渡す。こちらは一夏のこともあって身構えていたか危なげなくキャッチし「ありがと」と女子なら即堕ちしかねない眩しい笑顔で応えた。
シャルルはポカリを一口呷ると一夏の方に向き直ると少し考え込んでから口を開いた。
「織斑君はちょっと焦り過ぎじゃないかな。こう、無理してでも一撃を当てようって感じがする。それで相手の射撃武器の特性を直感的な把握も出来ず焦って突撃してるから今回のようになっちゃった……と思うんだ」
「まずは落ち着け。そして視野を広く持て。そう言う事か」
一夏の解釈に「そうそう」とシャルルはにこやかに頷いた。的確な指導に一夏は食い付いてシャルルの説明に耳を傾けており、その光景を見ていた鈴音は不満げにぶーぶーと口を尖らせていた。
「一夏の奴なんか楽しそうなんだけど……」
「――いやぁ言うのも何なんだけどだって強いし分かりやすい教え方してるし」
玲次のツッコミに「あたしも強いわよ」と更に不満気に返す。
しかしこればかりは玲次もツッコミを入れたかった。強いのは事実なので別に否定しない。ツッコミたいのは教え方だ。鈴音は既に一夏にIS操縦を教えるのを数回やっているものの――
「や、ISの装甲越しに殺気を感じろとか何なの? ニュータイプか何か?」
という、直感的教え方だった。
その時の一夏は「そんな無茶な」と訴えたがっていたのを記憶している。
「えぇ? 普通殺気を感じて対応出来るでしょ。変に考えるから駄目なのよ」
「いやいやいやいや普通って何普通って」
殺気を感じろなど中々山勘に頼った戦法を平然と行える点においては彼女はある種の才能を持っているのだろう。……誰かに教えるには圧倒的に向かないが。
不満気に語る鈴音に玲次が必死に突っ込みを続けていると、セシリアが割って入った。
「理論的な説明でなければ分からないでしょう? ちゃんと言葉に、理論的に説明しなければ駄目ですわ」
セシリアもセシリアで、専門用語に数字のオンパレードで一夏の頭にクエスチョンマークで一杯にさせたのであまり褒められたものでは無い。一応セシリアも分からない点があれば説明してくれるもののそちらも良くわからない専門用語のオンパレードで予習復習として用語集を必要以上に読み込まされる羽目となっている。
なお、必死に突っ込み入れている玲次の場合知識も経験も両者に劣っている所為で教えるどころではないので実質論外だ。
それでも辛うじて鈴音やセシリアの教えに喰らい付こうとしている辺り一夏の執念と熱意を感じる。その様はいわゆる修行僧のソレであったが、今シャルルに教えてもらっている姿は人気教師に面白おかしくそして分かりやすく説明して貰っている生徒の姿そのものだ。
玲次はその姿を見ながらシャルルの話に耳を傾けた。
「一夏の武装って後付武装がないんだっけ」
「あぁ、何度か調べて貰ったんだけど、拡張領域――つまるところ容量不足で量子変換は無理だって言われた。だからあるのは雪片弐型だけ」
「多分単一仕様能力に容量を持って行かれているからだろうね……それにしても白式の単一仕様能力は異常だよ」
「……というと?」
「まずは白式は第一形態なのに単一仕様能力を持っているという点。これは知っての通り有り得ない事で第二形態から発動するのが普通……最悪発動しない可能性もある。もう一つ――その能力、織斑千冬が現役だった頃使用していた単一仕様能力のそれと全くの同一であるという点」
「そりゃぁ一応姉弟だからとかじゃないのか?」
シャルルは首を横に振った。
「残念ながら既に姉妹のIS操縦者が現実に存在していたけど彼女らは全く違う単一仕様能力を発現させているからその線は無いと思う。ISと操縦者のシンクロが重要だからいくら意図的に再現しようとしても全く同じになるなんて事は普通有り得ないんだ」
シャルルの言う通り普通有り得ない。一連の話を聞いていた玲次は眉を顰める。
だからこそ白式か一夏に何かしら謎が隠されている。あの金色の瞳然り、一夏か白式には何かしら謎が隠されているのは確実だ。
ラウラか、倉持技研、若しくは織斑家が鍵を握っている。
「最っ悪だ……どれも口が堅そうだ」
「何がよ?」
独り言を耳にした鈴音が訊くと玲次は「いや、何でもない何でもない」と返した。
比較的口を割って貰えそうなのは織斑家からか。一夏本人はアテにならないとして千冬を問いただすか。……千冬も口を割って貰える望みが薄いものの、まだ組織というしがらみが見えない以上可能性はあるだろう。
――偶然じゃないはずだ。おれたちがISに適合した事は、絶対に何かしらの必然性がある。
偶然じゃないはずだ。一夏の金色の瞳とラウラの片目。そしてシュヴァルツェア・アイゼン――きっとこの件は繋がっている。まぁこれ以上思考した所で答えなぞ望めないので身体を動かして鍛える事にしよう。
思い立った玲次は深呼吸してから、気持ちを入れ替えた。
「さて、おれも参加しようかねぇ」
玲次は腕をぶんぶんと回し、ピットの方へと向くと鈴音が玲次の腕を見る。玲次の腕には待機状態の黒鉄の姿は無かった。
「そういえば篠ノ之弟、アンタ黒鉄どうしたのよ」
「アレはオーバーホール中。代替機のラファールを用意して貰ったから、今からそいつを取りに行く。そいじゃ、首を洗って待ってろ野郎ども」
シャルルと一夏におちゃらけた宣戦布告をして去って行く玲次を見送りシャルルは「篠ノ之君って変わった人だなぁ」と感想を漏らし、一夏も「だろ?」と肯定した。
「そこ聞こえてるよ!? デュノア君共々覚えたからなぁ!」
やり取りを聞いていた玲次は振り返って抗議の色を見せる。
「そうやって道化やるから転校生にも変な奴扱いそれるんだぞーそういうところだぞー」
と容赦ない一夏のツッコミに「おうおう言ってくれるじゃん……覚えてろよー。おれは恨み深いからなー2回言うけど首洗って待ってろー」と攻撃的な笑みを見せて今度こそ振り返らずピットに走って行った。
「……二人とも仲いいんだね」
玲次がピットへ消えた所でシャルルが溢す。その横顔は楽しそうに見えて一夏は「そう見えるか?」と疑問符付で問う。
「うん、見えたよ。羨ましいな。そういう友達が居るのは」
「シャルルにもフランスに友達が居るだろ?」
悪気があって言った言葉では無い。シャルルなら友達が沢山居るだろうと短いながらも普段の穏やかな様子を見て一夏は思ったのだ。しかしシャルルの反応は一夏が思ったものとは違った。
少し、俯き瞳に陰が差した。
◆◆◆
「さて、このラファールは可能な限り性質を黒鉄玄武に近付けた再現機だ。手加減は要らない」
玲次は持ってきた代替機ことラファール・リヴァイヴを身に纏い2丁のリボルバー《陽炎》をクルクルと回してからホルダーに仕舞う。
陽炎の使い方も慣れて来た所だ。玲次のラファールの武装は黒鉄玄武が搭載していた装備の通り肩部にシールドと実体スナイパーライフルを搭載しており、脚部にミサイルポッドを搭載。
カラーリングはデフォルトカラーの暗めの緑色のままだがこればかりは玲次の専用機という訳でも無いので致し方なしである。
――なお本機は玲次が整備班及び研究スタッフに提供した例の
とはいえ整備班の機嫌はかなり良くなった。おまけにデータ取りのラファールを多少の調整込みで借りる事が出来た。
我ながら中々せこい事をしたのは熟知している。
相手はシャルルと一夏のタッグ。玲次はセシリアと組む形となる。
お互い所定位置にまで移動して玲次は即座に肩部のスナイパーライフルを外し地面に落とした。
「捨てた……何故!?」
「さて、何故でしょうな?」
一夏が玲次の突然の行為に驚愕の声を上げ、玲次が誤魔化す。
黒鉄玄武は特殊能力との相性こそ良いが容量不足もあり部分的な武装の格納は出来ないようになっている。だからこそ部分的に格納という器用な行動が出来ない欠陥を抱えて居る。
ラファールの容量ならそうする必要は無いが、玲次の専用機という訳では無いので黒鉄の仕様に合わせておく。いずれこのラファールは返却し黒鉄は戻って来る。その予行演習だ。
無論、このスナイパーライフルが必要ない訳では無い。決定力に欠ける本機にとって重要な攻撃手段なのだ。だから一夏の捨てた、という反応は間違いだ。
甲龍を纏った鈴音が両タッグの間で手を上げた。
「あたしが審判するわ。……行くわよ、3、2、1――READY……」
「GO!」
鈴音の声を皮切りに両チームは戦闘を開始した。
初手、セシリアが後退し狙撃位置につく。対して玲次は前進。引き抜いた一丁の陽炎の銃口をシャルルに向ける。
そうは問屋が卸すまいとシャルルはサブマシンガンを片方玲次目掛けてばら撒きつつ、空いた手のアサルトライフルをセシリアに向けた。
「――ッ」
玲次は咄嗟に肩部シールドでサブマシンガンの弾丸を防ぐものの、その隙に一夏が上空から玲次目掛けて急降下、雪片弐型を振り下ろす。
「隙ありッ!!」
すると玲次は空を見上げ――ニタリ、と悪役めいた笑みを見せた。その時、一夏は悟った。――この隙は自身を陥れる為の罠だという事に。上体に血を巡らせ、捻ろうとしたもののもう遅い。
構えていたシールドを急降下し雪片弐型を振り下ろそうとする一夏目掛けて投げつけた。ゴン、と金属が硬いものにぶつかる不穏な音を響かせ一夏が怯む。衝撃で手元から雪片弐型がすっぽ抜けて、地面にずしんと落下した。
「ごふっ……おっ、お前っ……」
「おれが隙を見せたらそいつァ罠だ。おれは近距離以外のサブマシに防御態勢取るほど流石にチキンじゃァない。まずは一夏お前を討ち取る」
恨めし気な顔で体勢を崩す一夏に2丁の陽炎の銃口を向ける。しかし一夏の表情は追い込まれた人間のするものではなかった。――まだだ、まだ終わっていない。諦めていない人間のする顔だった。
「舐めるなよ――俺だってただの
瞬時加速。一夏は無理矢理体勢を立て直し、玲次は咄嗟に陽炎をトンファーモードに変え、立て直しざまに放たれた一夏の瞬時加速パンチを防いだ。
「――っつぅ……なんてデタラメで無茶苦茶な……!」
陽炎の銃身から玲次の腕に伝わり、全身に伝播し痺れる。
性能差で完全にパワー負けしている。地上すれすれまで機体が押し込まれ玲次は歯噛みする。
それにつけても瞬時加速で勢いの乗った拳を食らって銃身が歪まない陽炎の強度も大概だ。あれだけの一撃を貰ってまだ使用可能と来た。伊達に格闘前提で造られていない。
しかし乗り手のダメージとラファールの性能ばかりはどうしようもなく、全身に走った衝撃が玲次の身体を麻痺させる。四肢の感覚が薄い。無理矢理その身体を動かそうとするとピリピリと僅かに痛みが奔った。
まだあの一撃が響いているようだ。
「剣を喪えばあとは拳しかない……だったらそっちも戦えるようにするってのが筋だろう?」
「おれに体術で挑もうってのかい……!」
1対1ならその勝負に付き合っていただろう。しかしこの試合は2対2のタッグバトルだ。押し込まれる拳を強引に払い除け、先ほどのパンチのお返しに片方の陽炎で殴り飛ばし、もう片方の陽炎の引き金を一夏目掛けて引く。反応した一夏は咄嗟に射線から退避し回避。
「生憎付き合ってやる余裕は今は無いんでね……!」
シャルルは既に多彩な武装でセシリアに接近していた。先に一夏をセシリアが遠距離で仕留めるという算段がご破算だ。
玲次は即座に陽炎の銃口を落ちた雪片弐型に向け発砲し、更に遠く離れた場所まで弾き飛ばした。容赦ゼロの行動に一夏は悪態をついた。
「お前ほんと性格が悪いな!」
「悪く思わないでよ。そうでもしないと零落白夜叩き込まれてお陀仏さね!」
「だったらさっさと雪片を回収しないとな!」
「ケッ、言ってくれる……じゃぁ全力で邪魔してやろっかねぇ……!」
一夏並びに玲次は獰猛な笑みを浮かべる。いかにして相手を出し抜くか両者ともこの一瞬のうちに思考を巡らせる。一方セシリアは後退しつつスターライトMk-Ⅲを撃ち続け、シャルルはそれを回避しつつ持ち替えた2丁のアサルトライフルで追撃を掛ける。
手数は圧倒的にシャルルの方が上だ。後方支援でこそ真価を発揮するブルーティアーズと、手数で押せ押せのラファールとでは真正面で戦うには相性が悪すぎた。
アンカーで破棄したスナイパーライフルを引き寄せつつ、弾切れの陽炎を一夏目掛けて投げつけ接近を防ぐ。
スナイパーライフルの回収を終えた所で、一夏がすぐ目の前まで迫っていた。シャルルに不意打ちの弾丸を撃ち込むのが先か、一夏の鉄拳が玲次に炸裂するのが先か。
「ここだ……ッ!」
ほぼ同じタイミングだった。スナイパーライフルから弾丸が射出されたと同時に一夏の鉄拳が玲次に炸裂した。一撃を貰って吹っ飛び地面を派手に転がるもののその顔はほくそ笑んでいた。
「――必要経費だ」
その言葉の意味を悟った時にはシャルルの機体のスラスターから黒煙が出ていた。瞬時加速で墜落するシャルルのもとへと翔ける。
さて、これで仕切り直しだ。今度は巧くやる、玲次が内心で腕を捲る。
双方体勢を立て直しを図った所で、新たなISの反応がカタパルト付近から発生した。
「――アイツ」
反応の主は黒いボディ、それに似合わぬ搭乗者の小さな体躯に真紅の隻眼、流れるような銀色の長い髪。
ドイツのIS、シュヴァルツェア・レーゲンとその搭乗者ラウラだった。これだけなら単に観戦に来たと思えばいいだけの事だった。しかし、どうやら観戦の為だけに来るという見通しは甘かったらしい。
レールカノンの照準を一夏に向けていた。
「今度は乱入かい?」
玲次の呆れ交じりの問いにラウラは鼻で笑った。
「黒鉄を持たない貴様には興味はない。織斑一夏、私と戦って貰おうか」
煽りを完全にスルーされた挙句、相手にされていない事に玲次はショックを受け「興味ないのね……」とがっくりと項垂れた。愛想が無い事を除けば端正な顔つきの女の子に興味ないとバッサリ言われるのは少々堪えるものがあるというものだ。
一方一夏は毅然とした態度で首を振って拒否した。
「悪い。後にしてくれ……何で俺をやたら敵視するのか分からないが今は取り込み中だ――」
「貴様になくても私にはある。貴様が居なければ織斑教官は力を喪わずに済んだのだ……貴様のせいで、何もかもな」
姉の名前を出された事を聞き過ごす
「待てよ。それはどういう事だ。俺のせいって――」
……まるで訳が分からない。身に覚えのない罪状を突き付けられた一夏は怪訝な表情をする。立ち直った玲次は一夏の反応に嘘はないように見えた。しかしラウラからすれば一夏の反応は許しがたいものがあったようでその怜悧な表情が一変し、憤怒の色に変わる。瞳の色に似合わず無機質的で冷たい印象のあったラウラの瞳に昏い火が宿る。
「とぼけるなッ! ……3年前あの人は貴様の所為でモンドグロッソ2連覇はおろか二度とISに乗れぬ再起不能に陥った……無力な貴様の所為でな……!」
一夏の反応も本物だが、ラウラが一夏に対して抱いている憎悪も本物のように見える。ラウラの話を聴いていた玲次とシャルル、鈴音、セシリアは話が見えず各々が混乱していると、誰か一人が頽れた。
頽れたのは一夏だった。地に膝を付き、頭に手を当て苦悶の色を浮かべ始めていた。
「一夏? どうしたのよ一夏!」
尋常ならざる何かを感じた鈴音が一番に一夏のもとへと駆け寄り頭痛に苦しむ一夏の介抱を始めるものの、一夏の様子は目に見えて酷くなる一方だ。脂汗も尋常ならざる量で流れ、眼は見開かれている。
「あっ……ぐっ……3年前――誘拐事件……モンド・グロッソ……俺は……俺は……」
「何言ってんのよ一夏一体何があったのよ! その3年前って奴に!」
鈴音が必死に一夏のうわ言のような声を拾いながら問うものの、今の一夏にはうわ言を吐き続けるのが関の山だ。流石に今の一夏を放置するのは後味が悪い。見かねた玲次は苦しむ一夏を庇うように立ち、カタパルト先端に立つラウラを見上げた。
一夏の様子からしてこのラウラという少女は何か知っている。とはいえ今の一夏の様子を見る限りこれ以上の刺激は危険だ。一夏が壊れてしまう。そんな予感がする。
「……何を知っているかは知らないけど用事は後にしな。今はアンタに構ってる場合じゃない」
「仮病で戦えないふりか……見下げた男だ。そこを退け、
「そう言われると地味にショックだけどアンタの興味なんて今この状況じゃ知った事じゃない。これ以上やるってんならおれが相手になるけど?」
介抱していた鈴音も同じ気持ちのようで彼女もラウラをキッと睨みつける。シャルルもセシリアも事情こそ測り兼ねているものの今の状況を良しとしていなかった。
一触即発の空気の中一夏は頭痛に耐え切れず、糸がぷっつり切れた人形の如く全身から力が抜け落ちた。
3年前Ⅱへ続く
どうしても女性陣が男前になる……可愛く書けません……(震え)