インフィニット・ストラトス~The Lost Rabbit~   作:ヌオー来訪者

17 / 31
17 アンノウン

「ッ――ダメージ、ゼロ。当てる気は無かったってか、それとも」

 

 玲次は砲撃を放った者を睨む。

 そいつは玲次のISと同じく黒いISだった。両腕が不自然な程巨大で、顔はまっ黒な仮面に覆われて素顔は見えない。

 黒い仮面には目のような剥き出しの赤いセンサーレンズが不規則に並んでおり、この機体を簡単に評すならば『異形』という言葉が適切だった。

 人のカタチから少し離れたフォルムが不気味さを際立たせる。こんな禍々しい形状のISは見たことがない。

 

「念の為に聞いとくけれどおたく――何モノ?」

 

「…………」

 

 もしかしたら返答をくれるかも知れない……などと期待をした自分は馬鹿だったようだ。

 黒いISは答える気なぞさらさらないと意思表示でもしているかの如く5つの赤いセンサーレンズを鋭く光らせ、玲次は思わず目を細めた。

 

――ま、名乗る気あるなら顔も隠しちゃいないよねぇ……

 

 わざわざ必要ない全身装甲で出て来るのだから。こちらとコミュニケーションを取る気など毛頭も無いのだろう。

 

 黒いISは右腕に搭載されたビーム砲を光らせる。咄嗟に上半身を逸らす事で直撃は避けられたが、掠った一部の装甲が少し焦げ付いていた。

 威力は掠っただけでも分かる。出力はセシリアが駆るブルー・ティアーズより上だ。

 

【警告、9時の方向にIS反応有り】

 

「嘘ォ!?」

 

 あんまりな展開に素っ頓狂な声が出た。

 9時の方向――つまり左から黒いものとは別のISの反応があると報せるアラートが鳴り、玲次は迅雷を引き抜いて防御姿勢に入る。狙い通り、横殴りにやってきた新手のISによる斬撃を受け止めた。

 

「2体も居るって……」

 

 新しく出て来たISは紅のカラーリングで、両手には日本刀型のブレードを携えている。このISも見たことがない。黒いISとは異なり、通常のISと形状は変わりなく、顔に付いた紅いセンサーレンズは一つだけ――言うなれば某ロボットアニメに出て来る量産機を思わせる思わせるモノアイだった。

 どちらも初見のIS×2による襲撃などと言う異常事態に玲次は歯噛みした。

 

 ――こいつは本物だ。

 

 2機のISを使ってまでIS学園の中で襲撃してくる。このような事をそこら辺の自律兵器だよりのテロリストが出来る芸当ではない。ヴァンパイアを一夏に仕向けた奴と恐らくは同一かあるいは――

 同一じゃないという可能性など考えたくもなかった。もし同一じゃなかったとしたら世も末だ。

 

「ッ!」

 

 膝の仕込み刃を展開して、切り結んだ状態のままの紅いISに膝蹴りを放つ。手ごたえは無い。動きを読まれていたのか、後退されて見事にスカった。

 黒いISと紅いISが並び立ち玲次を見据える。

 

 

 得体の知れない敵と2対1という悪夢のような光景。このまま後手に回れば殺られる。

 嫌な汗が玲次の頬を伝った。

 

 

 ◆◆◆

 

 玲次が所属不明のIS2機に襲われるより十数分前――

 

 一夏はアリーナの規定位置に移動してから、ハイパーセンサーを使って360度に広がる観客席を見渡した。見た所、一年生はほとんど出ているようだ。上級生の姿もちらほらと。更には視察に来たらしい何処かのお偉いさんが特等席に座っている。

 意識を眼前の相手へと戻すと、ISを纏っている鈴音が立っていた。

 

 その纏っているISはマゼンタと赤みがかった黒を基調としたカラーリングで、非固定浮遊部位が二基、浮かんでいる。そいつにはスパイクが付いており、実に攻撃的な外見をしている。

 

 ――名は甲龍(シェンロン)。中国製第三世代型IS。

 セシリアから聞いた話だと、燃費と安定性を重視したタイプだとの事。攻撃力も見た所高そうだ。

 なんかガンダムみたいな名前しているよねぇ――と、玲次の談である。一夏はドラゴンボールに出て来る方の龍を連想したのだが。

 

 そんな事はどうだって良い。いかにどう立ち回るかが今の一夏に課せられた課題なのだ。

 

「一夏、今謝るなら少しぐらい痛めつけるレベルを下げてあげるわよ」

 

「どうせ雀の涙くらいだろう? それに手加減されるのは俺の望みじゃない」

 

 一夏の返しに鈴音は訝し気な顔になった。

 

「はぁ? ……まさか、あんたマゾ?」

 

「違う。手加減されるのは嫌なのと同時に――今の俺がどこまでやれるか。それを知りたい」

 

 力が欲しい。姉に迫るだけの力が。人を守るだけの力が欲しい。

 その過程で手抜きされてしまうのは困る。

 

「……ったく分かったわよ。身の程知らずもここまで来ると表彰モノよ。でも、ISバトル自体模擬戦で兵装にセイフティが掛けてあるけれども完全な安全は保障されていない。死なない程度に――殺すわよ」

 

 鈴音の口ぶりからして一夏に対しての怒りはまだ収まっていない様子。一体何故鈴音は自分に対してキレているのか一夏には分からなかった。

 鈴音は身の丈以上の大きさの青龍刀『双天牙月』を構える。一夏も雪片弐型を展開させて構えを取った。まだ零落白夜は発動していない、何の変哲も無い実体剣の状態だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()。そう玲次やセシリアに口が酸っぱくなるほどに言われたのだから。

 

『これより凰鈴音対織斑一夏によるリーグマッチ第一回戦を開始します。生徒の皆さんは安全の為、席に着いてください』

 

 戦闘による流れ弾を防ぐためにアリーナの戦闘領域をバリアが覆う。バリアがドーム状の空間を構築する間、一夏は両手に持った雪片弐型を握り締め、鈴音はキッと一夏を睨んだ。その時にはもう、自分の知る幼馴染はそこにおらず――代わりに一人の戦士が目の前に居た。彼女の眼差しは刃物のような鋭さを持っていた。

 

『開始まで……3、2、1、はじめッ!』

 

「ッ!」

 

 開始の合図と共に先に打って出たのは鈴音だった。一夏はワンテンポ遅れてから機体をブーストさせて勢いよく両者の振るった得物による斬撃が衝突した。

 

「ふうん、初撃に対応出来るなんてやるじゃない」

 

「そりゃ、伊達に色んな奴から鍛えられてないさ――」

 

 ここまで来るとパワー勝負だ。

 切り結ぶ両者。押し合いが始まり、雪片弐型と双天牙月から火花が散る。鈴音の体格の割にはパワーが白式に負けてはおらず、一夏は戸惑い、それによりやや圧されていた。

 

「押しなさい――甲龍!」

 

 鈴音の声に応えるように甲龍の出力が上がり、一夏の焦りは加速する。力を籠め、白式も一夏の想いに応えるように出力を上げる。

 これでパワーはほぼ互角。このままでは埒があかないと判断した鈴音は力一杯に一夏を振り払った。

 

「くっ!」

 

 一旦仕切り直しと行くべく、一夏は敢えて鈴音に振り払われる選択肢を取った。25メートル程の距離が空いたところで、鈴音はもう一本の双天牙月を出現させた。形状はほぼ同じで、得物が増えた事を確かめるように鈴音は軽くその2刀を振るう。素人目でも分かる――これは手慣れている。

 

 次が来る、と思った時には既に鈴音が直ぐ近くまで接近していた。

 

 一刀が振り下ろされ、一夏はそれを雪片弐型で弾く。弾かれた所で、もう一本の双天牙月を振り下ろして来る。パワーもあり、手数もそれなりにあるのは一夏にとっては脅威だった。

 ――が、玲次ほど連撃は速くはないのが幸いした。

 

 現状、鈴音の斬撃は全て受け流す事が出来ていた。

 伊達に篠ノ之姉弟にえげつない連撃を叩き込まれてはいない。

 

「さてと――」

 

 鈴音は両手に持った双天牙月の柄と柄を連結させ、それをバトンでも扱うかのように軽々と回す。徐々にギアを上げていくタイプらしい。戦っていて分かる、時間を掛ければ掛けるほど鈴音はどんどん強くなっている。否、力を出している。

 このままではジリ貧になって行くのは目に見えていた。

 

 鈴音の突進と共に迫る双天牙月の切っ先。一夏は上に飛んで避け、鈴音はそれを逃さず喰らい付き、斬り上げた。

 下から襲って来る斬撃を紙一重で躱す。スレスレのところで下から上へと、勢いよく一夏の横を通り過ぎる双天牙月から起こる風が一夏の肌を撫でる。

 当たれない。攻撃を受ければ受けるほど自身の攻撃の機会を失う事も意味している。

 一旦距離を取ろうと後方へとある程度下がった矢先、非固定浮遊部位の球体部位の中心部が開き、そこから一瞬光を放った。

 

 最初、何が起こったのか一夏には理解できなかった。

 なんせ次の瞬間鈴音がやや離れた位置に居たのに関わらず、急に巨大なボールを力一杯に投げつけられたような衝撃を身体に受けたのだから。

 

「なっ……」

 

 ナニカに吹っ飛ばされた一夏は、一時的に制御を失い地上へと真っ逆さまに落ちかけたところを慌てて体勢を立て直し、そのナニカを仕掛けたであろう鈴音を見た。

 何か新しい武器を構えている様子は無い。そしてナニカに吹っ飛ばされる直前何が飛んできたのかも見えはしなかった。

 

「今のはジャブだから、次は直撃行くわよ――」

 

「えっ……」

 

 鈴音の宣言と共に非固定浮遊部位が光を放つ。

 一体何が起こっているのかイマイチ分からなかったが、確かな事が一つ。

 

――俺は今、見えない攻撃を受けている。

 

 そう悟った次の瞬間、再び見えないナニカに吹っ飛ばされて勢いよくフェンスに衝突した。

 

 

 ◆◆◆

 

 

「何が起こっている! 急に一夏が吹っ飛んだぞ!?」

 

 ピットのアリーナ監視区画にてリアルタイムモニターで試合を見ていた箒が声を上げた。今しがた一夏が2度目の見えない攻撃を喰らってフェンスに衝突したところである。

 

「――あれは……衝撃砲」

 

 同じくモニターを見ていたセシリアがポツリと呟いた。無論、それを聞きのがす箒ではない。

 

「衝撃砲? なんだそれは」

 

「空間自体に圧力を掛けて砲身を形成。余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾として撃ち出す。ブルー・ティアーズと同じく第三世代型兵器ですわ……」

 

「……? んん?」

 

 訊いたのは良いが、正直意味が分からない。理解出来たのは第三世代型の新しい武器……と言うぐらい。そもそも予備知識ゼロの状態の人間に口頭で話されても分かる訳がない。

 

「拙いですわね……衝撃砲は砲身と砲弾が見えないようになっているのが最大の特徴。このままでは……」

 

 箒は、衝撃砲とは空気砲のようなもの、と脳内で納得させた。あまり理屈めいたものは苦手だしこれ以上考えても仕方がない。そう言うのは玲次とか束が得意そうだが。

 

「砲弾はおろか砲身すら見えないとなると、これは手詰まりではないか」

 

 威力は一夏と白式が派手に吹っ飛んだ光景を見るだけでも充分に分かった。初見であれに対処できるかと言われたら箒でも首を横に振っている。

 

「いえ、衝撃砲とて完璧な兵器ではありませんわ。織斑さんがそれに気が付けばあるいは……」

 

 気弱な発言をした箒とは対照的に、確信があるのかきっぱりと言い放つセシリア。

 一夏にはまだ勝算が残っているというのか。

 モニターに映った鈴音が地上の一夏を見下ろしている光景を目の当たりにしつつ、箒はセシリアが示唆した本当にあるかどうかも不明確な勝算に賭けていた。

 

「――それにしても篠ノ之さん……貴女の弟さんの方まだ来ませんわね」

 

 ふと、セシリアは話題の矛先を変えた。箒は辺りを見回したが、モニターの操作をしている山田先生とその近くにいる千冬の姿しか、箒とセシリア以外の姿はなかった

 セシリアの言う通り、玲次の姿がここにはない。本来ならここに来ているハズだというのに。

 

「一体何処をほっつき歩いているというのだあいつは……」

 

 箒は呆れを込めて深く溜息を吐く。玲次が方向音痴だったとかそのような話は生まれて15年と数か月まったく聞いた事はない。なら寄り道でもしているのだろう。

 どうせ待っていればいずれ来るだろうと思い、再びモニターに意識を集中させた。

 

 

◆◆◆

 

 こうなれば動き回るしかないだろう。

 一夏は機体を全速力でかつ予測されないように不規則な動きで翻弄をしようと試みた。直ぐ近くで何かが掠めたり、粉塵が舞い、石や土の塊が白式の純白の装甲を汚していく。

 方角の制限は無いらしく背後に回っても、真上や真下へと飛ぼうとも見えないナニカが飛んでくる。

 

 避けていく最中に一夏は理解した。非固定浮遊部位の発光が攻撃の合図なのだという事を。更には僅かにだがハイパーセンサーがその衝撃砲に反応している。

 そしてISで玲次と戦っている時の事も思い出した。

 

 気付いてからというもの、直撃の回数は目に見えて減っていた。

 

「初見でよくここまで躱すじゃない。衝撃砲『龍咆(りゅうほう)』は砲身も砲弾も目に見えないというのに」

 

 鈴音の表情にやや焦りが見えていた。様々な状況が重ならなければ初見でここまで避けられはしない。

 一夏とそれを取り巻く環境が異常だったのだ。

 

「見えないモノとやり合うのは慣れているからな……! あっちは見えないのは機体そのものだから色々違うが、気付けば避けられない訳じゃない」

 

 玲次の電磁迷彩は厄介だった。ハイパーセンサーすら反応しない迷彩を展開し、身を隠して攻撃を仕掛けるという厄介極まりない代物だ。……それと対峙した経験もあって見えない攻撃を出されてもそこまでパニックにはならなかった。あれが無ければもっと手こずっていたに違いない。

 

 セシリアのように多方角から狙い撃ちを仕掛けて来るわ、引き撃ちもするわ、偏差射撃も得意なタイプよりは比較的戦いやすかった。

 一夏は雪片弐型を握り直す。

 

 シールドエネルギー残量は64%。衝撃砲の龍咆とやらの直撃を貰ってから幾度となく掠めていたので大分ダメージを受けてしまっている。対して鈴音のシールドエネルギーは100%。

 まぁ避ける事だけに専念していれば当たる事はあまりない。そう、()()()()()()()()()()()()()()

 

 攻撃に移るとなると話は違ってきてしまう。嫌でもあの射角制限ゼロかつ不可視の攻撃に晒される事となる。

 このまま逃げ回ってもジリ貧だ。ならば――

 

――瞬時加速を使うしかない

 

 瞬時加速を使えば一気に鈴音に詰め寄る事が出来る。しかし、その代償に機体や操縦者に掛る負荷など相応の対価を払わなければならない。

 発動中は操縦者及び機体の空中分解を防ぐためのシールドバリアも摩耗してしまうし、接近中に攻撃を受けた場合通常のほぼ2倍のダメージを受けてしまうだろう。

 

 RPG風に言ってしまえば、『HPが僅かに減少、防御力低下、スピード超大幅アップ』と言う諸刃の剣。

 諸刃の剣(瞬時加速)の上に諸刃の剣(零落白夜)を重ねる訳なのでハイリスクハイリターンで収まらないレベルの分の悪い賭けだ。

 

 成功すれば億万長者、失敗したら破産。実にシンプルだ。

 

 やるしかない。やらなかったらジリ貧で潰れるだけ。仮に倒れるとしても前のめりで倒れてやる。

 雪片弐型を握る両手に汗が滲み出る。

 

――力を入れすぎるな、落ち着け。悪い癖だぞ

 

 自分に言い聞かせながら瞬時加速の為のチャージに入った。

 瞬時加速の為のエネルギーが徐々にブースターへと集まって行く。

 その最中にも容赦なく襲い来る龍咆の衝撃波を避けていく。チャージが終わり、瞬時加速の起動スイッチを入れようとした次の瞬間――

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 一夏側ピットのゲートから、黒鉄を纏った玲次がフィールドのど真ん中に向かって、凄まじい勢いで突っ込んで来た。

 違う、これは――飛ばされているのか。

 

 飛ばされている玲次は地面へと墜落し、25メートルほど転がってから漸く静止した。

 

「な、何なの!?」

 

 鈴音は龍咆による射撃を中断し、反射的に声を上げる。まさか試合中に邪魔者が現れるなどと思いもしなかった。常識的に考えて有り得ない状況を前にすれば叫びたくもなる。

 一夏もワンテンポ遅れつつも玲次が突然アリーナに突っ込んで来た事に思わず声を上げた。

 

「何でお前がここに!」

 

 二人の反応を他所に玲次は立ち上がる。玲次の顔はいつになく険しい。そんな彼の視線の先はいつの間にか解放されていた一夏側ピットのカタパルト。試合開始時には閉じていた筈なのに今は完全に開き切っていた。

 

 それに対し白式と甲龍のハイパーセンサーがアラートを鳴らしていた。

 

『IS反応あり。数は2。いずれも識別コード無し』

 

 識別コード無し。それは所属不明である事を意味していた。普通のISならば識別コードを入力しているのが義務とされている。

 ゆえに、鈴音と一夏はおぼろげながらもこれはただ事ではない事を察した。

 

 

 ガシャ、ガシャ、と音を立てて、カタパルトを歩く2つの影が開いたゲートの向こう側から出て来る。

 

 片方は異形、異様、異質、としか言いようがなかった。不必要な程に大きな両の腕と、全身を覆う黒い装甲。そして素顔の見えない黒い顔に赤く光るセンサーレンズが5つ不規則に配置されている。

 腕の大きさとセンサーレンズも相まって、辛うじて人のカタチをした機械仕掛けの怪物(モンスター)にしか見えなかった。

 

 そしてもう片方は、あの黒いISに比べれば明らかに標準的な形状をしたISだった。紅を基調としたカラーリングと、両手には日本刀型のブレードを1本ずつ携えている。

 この二つのISに共通して言える事はどちらも素肌の一つも見せていないという事だった。

 

「玲次、一体何なんだよ、アレ!」

 

「おれにも分からない――うわっ!?」

 

 黒いISが右腕を突き出し、何のためらいも無くビーム砲を玲次目掛けて発砲した。玲次は辛うじてこれを躱し、黒いISは左腕も突き出して右腕から放ったビームと同じものを玲次目掛けて撃ち、躱し切れなかった玲次の右肩を掠めた。

 

「くそッ! やめろ!」

 

 友人が襲われているのを見て、居ても立っても居られなかった。一夏は黒いISに向かって全速力で飛び掛かる――が、それを紅いISが行く手を阻み、2本の刀で一夏を迎え撃つ。

 両者の得物が衝突して、火花を止め処なく散らし始めた。

 

「何なんだ! お前らは!」

 

「…………」

 

「答えろ!」

 

 紅いISはだんまりを決め込んでいる。それが一夏の苛立ちを募らせる。鍔迫り合いは紅いISがやや押しており、何のためらいも無く一夏を蹴り飛ばした。

 

「一夏!」

 

 最早試合どころでは無かった。鈴音は蹴り飛ばされて落ちていく一夏の身体を咄嗟に受け止める。鈴音が受け止めなければもう少し吹っ飛んでいただろう。

 

「あいつらは――一体」

 

 苦々し気に一夏は疑問を口にする。それに答えてくれる人間は誰一人とて居なかった。鈴音も、玲次もあの2機が一体何者なのか、知る訳もなかった。

 鈴音から離れて、雪片弐型を構え直す。

 

 連中が何をしでかすかまだ分からないが、誰かに危害を及ぼすのであれば護らねば。護らなければならない。

 そんな事を思っているとまた、脳裏にあの赤い光景がちらつく。それを振り払うように一夏は首を横に振った。




 紅椿、やや速めの登場。

 次回は速めに出します(´・ω・`)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。