インフィニット・ストラトス~The Lost Rabbit~   作:ヌオー来訪者

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 たつな氏のご指摘もありまして、場面転換に使っている記号を変えてみました。少しでも見やすくなったならば幸いです。


11 斬り裂け、奴よりも速く

 翌日。

 朝早めに教室にやって来た玲次と一夏だが、二人より先に教室にやって来ていたセシリアに声を掛けられた。

 

「よろしい――でしょうか?」

 

「ん、何さ?」

 

 玲次がやや間抜けな声で疑問符を浮かべる。態度はやや、前より丸くなった、と言うのか、刺々しさは感じられなかった。一体どうしたのやらと気になった一夏と玲次は教室の片隅にセシリアと共に場所を変え、聞く姿勢に入る。

 そして、セシリアが深々と頭を下げた。

 

「先のクラス代表決定戦前の選挙の件ですわ。取り乱していたあまり失言を重ね、挙句怒りをぶつけてしまった。その非礼をお詫びしたいのですわ。……本当に、申し訳ありませんでした」

 

 

「「……あっ」」

 

 …………忘れていた。

 一夏も玲次も正直色々あり過ぎてそれどころではなかったし、インパクトがやたら強かった奴隷云々しか記憶に残っていなかった。思い出してみれば割と腹立つ事を言っていた気がする。

 だがこのままだんまりを決め込む事だって出来たハズだ。負け惜しみも、インチキしたとか嘘を吹聴してしまう手段もあったが、女尊男卑をここで武器にしない辺り潔さを一夏は感じた。

 

「うん。ぶっちゃけ野蛮人、モルモット、猿扱いされたのは正直アレだし腹の立つ話だよ。こちらとて相応の事情というものがあった訳だし」

 

 しれっと返す玲次にセシリアは少し俯く。やはり自分でも何を言っていたのか自覚はちゃんとしているあたり悪い人間ではないのだろう。取り乱す時点で些か問題はあるのかもしれないが、自分たちはまだ15か16なのだ。

 

「でも謝ったからこれで手打ち。これ以上ズルズル禍根残して引き摺っても仕方が無いし」

 

 怒った理由は知らないがそれ以上玲次は追求しなかった。一夏もまた追求しなかった。謝られた以上あれこれ言う気にはなれなかった。頭を下げたままのセシリアに頭を上げさせる。

 セシリアはそれでいいのかと言わんばかりの表情をしていたが、もうそれで良かった。本人が謝っている以上、これ以上互いにギャーギャー言うよりはずっと精神衛生上宜しいものだ。

 

 セシリアのあの暴言抜きならば、物珍しさでは無く実力や実績、信頼性で推薦しろ。と言っているようなものなのである種理にかなっている上に、実力も努力も碌にないぽっと出の野郎にクラス代表になる可能性を持って行かれたとなると腹も立つものだ。

 まぁ、怒りをぶつけられた玲次たちにだって相応の事情があるし、望んで選ばれた訳でも無いのに罵倒されて堪ったものじゃなかったが。

 

「…………放課後の第2戦目、楽しみにさせて戴きますわ」

 

 そう言ってセシリアは再び深々とお辞儀をしてから自分の席へと向かって行く。そんな彼女の背中を二人は何も語ることも追う事も無く見送っていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 放課後。

 

「シールドエネルギー残量、ハイパーセンサー、絶対防御、PIC動作チェック、及び単一仕様能力、量子変換システム問題無し」

 

 ピットにて一夏は白式を起動しカタパルト前に立ち機体状況を最終チェックを行っていた。簡単なチェックの仕方は矢川に教えて貰っている。

 クラス代表決定戦開始前に異常でも起こられたら困るのだが。念の為だ。

 

 箒は既に観客席に居るし千冬たち教師陣も事務室で取り仕切っている。

 

 玲次と戦う事になるとは半分予想出来ていなかった。心のどこかでセシリアが勝つのではないかと思っていた……が現実は玲次の辛勝でこうして戦う事になっている。

 まだセシリアよりはマシとは言え、あのグレネードランチャーは脅威以外何でもない。

 

 奴隷にされる可能性は無くなったが、一夏としては手を抜くつもりは無かった。

 あの吸血鬼女を倒せるだけの力を付ける。その過程で玲次は越えるべき壁なのだ。そして、セシリアも。

 

「織斑一夏、白式、行きます!」

 

 脚部をカタパルトに接続し、安全装置を解除。発進準備に入り宣言する。呼応するようにシグナルによるカウントダウンが始まり、

 

【3、2、1、ready】

 

 カタパルトが火花を散らしながら一夏を外まで運び、白式と一夏を投射する。その瞬間、一瞬バランスを崩しかけるが、PICを作動させ、機体の姿勢制御を行い安定させ、定位置まで移動する。

 1分後玲次と黒鉄も向かいのピットから投射されてバランスを崩す事無く安定した動きで定位置についた。

 

「まさかお前さんと戦う事になるなんてね」

 

 少しおどけた声色に聴こえたが玲次は言う。だが眼は笑っていない、真剣そのものだった。

 

 黒鉄は他のISと比較するとシャープなシルエットで、機動性を重視している事が分かる。手甲、肘、爪先、膝には仕込み刃があり、手根部辺りにはアンカーが仕組まれている。

 腰部のアーマーには高周波ナイフがマウントされている。切れ味は言わずもがな緊急用の仕込み刃よりは上だ。

 他にはハンドガンとグレネードランチャーを量子化させて収納させている。

 

 近中距離対応型だ。

 迂闊に近づけば全身凶器の黒鉄にボロクソに削られてしまうが、生憎こっちには武器がブレード一本しかない。だがこれが白式最大の強みがある。

 

「……手加減は要らないぜ」

 

 全力でぶつからなければ意味が無い。

 ISの基本操作を教えてくれた時は間違いなく手加減はしていた事ぐらいは一夏だって分かっていた。

 

「言われなくてもしないさね。大人気なくやらせて貰うよ」

 

「あぁ!」

 

 ふと、観客席を見ると、クラスメイトたちが固唾を飲んで見上げているが、前回の試合より数は少なかった。

 興味は無い、と言う事か。

 箒の姿は直ぐに見つかり、少し離れた位置にセシリアも観客席に座っていたのが見えた。

 

『これより、篠ノ之玲次対織斑一夏によるクラス代表決定戦を開始します。観客席に居る皆さまは、安全のため席に着いてください』

 

 開始前のアナウンス後、アリーナがしんと静まり返った。その所為だろうか、心臓の音がいつもより喧しく感じた。

 一夏は深呼吸し、玲次を見据えた。初手攻撃の可能性が高い、それより速く斬りかかれるよう自分の得物を展開する準備に入る。

 

『開始まで……』

 

 カウントダウンが始まる。たった3秒の間なのに妙に長く感じた。

 

『3、2、1、はじめッ!』

 

「「!!」」

 

 開始を告げられた次の瞬間、ブーストの音がアリーナの左右から同時に響いた。

 

「はぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 機体を直進させながら一夏は雪片弐型を展開し一直線に突っ込む。が、玲次は即座に一夏の対応レンジ外を維持するように後方へと後退しつつ時雨を発砲した。

 

「ッ!」

 

 防御の姿勢に無理矢理入る事でダメージを少しでも軽減させようとするが、次の瞬間、アンカーが飛んできた。咄嗟に雪片弐型で弾き飛ばし、弾かれたアンカーの先端は逃げるように玲次の黒鉄の腕部アーマーに戻って行く。

 

 アンカーの先端の行先を目で追っている内に玲次は妙に離れた距離にまで下がっていた。恐らく時雨の射程範囲内だ。50m程離れており、雪片弐型は寄らない限り届かないのは素人でも分かる。

 

「まったく……ホントに大人気ないな」

 

「言ったでしょ? 大人気なくやるって」

 

 毒づく一夏に悪びれずにやりと笑う玲次。少し腹が立ったのもあるし、このままだと、引き撃ちされてなぶり殺しにされかねない事を察した一夏は、ジリ貧になる前に速攻でカタを付けるべく雪片弐型を自身に得物がある事を再確認するかのように握り直してから――()()を発動させた。

 それは白式唯一最大の武器。

 

 その名は――

 

「零落白夜!」

 

 

 雪片弐型の刀身が二つに割れ、その間から青白い光が吐き出されて剣の形を成した。それを見た玲次の表情は次第に険しくなっていく。その最たる理由は言わずもがな零落白夜の効果にあった。

 

 

◆◆◆

 

 

 一夏の雪片弐型が変形し光の剣を形成した事に、観客席がどよめく。そして一部はその剣に見覚えがあるのか口々に言うのだ。あれは雪片じゃないのか――と。

 その指摘は間違っては居ない。

 

 雪片弐型は織斑千冬が使用していたISの武装である雪片の改良型だ。

 

 実質的な世界最強の半身の後継機と対峙している玲次の頬に嫌な汗が流れた。

 

 世界大会をテレビで見て来た身としてはあれの恐ろしさは知っているつもりだ。

 近接武装でかつ唯一の兵装という大きなハンデを背負っておきながらも、だ。

 

「ッ!」

 

 機体をブーストさせて一夏が雪片弐型を携えて肉迫する。玲次はギリギリまで引きつけつつ、寸前の所で回避する。――が、思いのほか一夏の反応も速く食らい付いて来た。

 

【シールドバリアーにダメージ有。シールドエネルギー残量90%】

 

 見極め損ねたか、肩を掠めてしまい、玲次は歯噛みした。

――これを恐れていたんだ。

 掠っただけでも、ここまでダメージが入ってしまう。これが零落白夜、白式の最大の武器だ。相手のシールドバリアーを無効化して安全装置である絶対防御を強引に発生させ、シールドエネルギーを過剰に消費させてしまう。要するにRPGで例えるならば常時クリティカルと言ってしまえば良いかもしれない。

 更に得物の長さは此方の手持ちの得物より雪片弐型の方が圧倒的に長い。

 

 よって発動時の接近戦は危険。それに零落白夜には致命的な弱点がある。そこを突けば勝利は困難では無い。

 

 時雨のグリップを握り締める。

 落ち着け。今この瞬間でも刻一刻と一夏は追い詰められている。

 

 玲次は大きく深呼吸しつつも再び斬りかかりに一夏が鉄砲玉の如く迫る。玲次は黒鉄を後方にブーストさせて、時雨の引き金を引いた。

 

 カンッカンッ、と弾丸が装甲やシールドバリアに弾かれて行く音と白式と黒鉄のブースト音が綯い交ぜになった騒音が鳴り響く。

 

「うおおおおおおおおおおッ!」

 

 その騒音を斬り裂くような一夏の叫び。

 ハンドガンでは白式と一夏は簡単には止められない。だからとて何もしないで放っておくのは危険だった。

 猪の如く突っ込んでくる一夏に玲次は機を窺う。

 

 ()()()()()()()は白式のシールドエネルギーが0%になるまで。その秒読みはシールドエネルギー残量そのもので、()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()

 

 

◆◆◆

 

 玲次が既に白式の弱点を知っている事は一夏も知っていた。目に見えて表情がやや焦っており、動きも零落白夜を恐れているようにある一定の距離を保ちつつ、詰め寄られたら後退していく。

 

 時雨の一発一発は弱いのだが、塵も積もれば山となるし、零落白夜の代償もあって落ち着いては居られない。早々に決着を付けなければ負けるのはこちら。

 分の悪い賭けは正直したくはなかったが、分の悪い賭けをせざるを得ないのなら仕方が無い。

 

 それに自分に与えられた力は世界最強に至った姉とほぼ同質のモノだ。

 不可能では無いハズだ、自分の使い方次第で、玲次に勝つ事は不可能じゃない。きっと。

 

 自身の気を落ち着かせるべく、雪片弐型を持っていない開いた手を握り、開きを繰り返す。こうすれば気が落ち着くような気がする。()()()()()()()()()()()()

 ふと、自身のシールドエネルギー残量を確認する。

 

【シールドエネルギー残量84%】

 

 零落白夜は掠っただけでもISに大ダメージを与えてしまうだけの力を持っている。だが代償が余りにも大きすぎた。

 それは――零落白夜の発動に自身のシールドエネルギーを徐々に削って行ってしまう事だ。それでいて飛び道具が無い為に大きなハンディキャップと化してしまっている。

 

 だが言い方を変えると一発深く踏み込み一撃を叩き込むだけでも勝負は終わってしまうのだ。

 一夏は機体をジグザグに動かしながら、玲次の照準をブレさせつつ接近する。

 

 近づかなければ話にならない。時雨の装弾数がどれだけあるかは知らないので弾切れまで待つ選択肢は無い。

 彼我の機動力は、白式のほうが出力が高いが、加速力と旋回性能は黒鉄の方が上となっている。

 

 一夏は再び、玲次に向かって直進で踏み込んだ。踏み込んだ瞬間、玲次は後方に下がる。

 

「逃がすかッ!!」

 

 被弾及び反撃を恐れず踏み込み、縦に雪片弐型を振り下ろす。が、玲次はそれを見切っていたのか寸前で横に回避。返す刀で一発パンチを放った。

 衝撃が肩に奔り、機体が後方に圧されるも無理矢理ブーストさせる事でそれを防ぎ、それどころか強引に雪片弐型で突きを放った。

 

「何っ」

 

 想定外の反撃に玲次の表情が焦燥に変わる。反応し切れず突きを喰らった玲次は怯みつつも脱兎のごとく距離を取る。

 踏み込みが足りなかったのか、玲次の黒鉄のシールドエネルギーはゼロにはなってはいなかった。だがごっそりとアリーナが示す玲次の黒鉄のシールドエネルギー残量は減っており――

 

【黒鉄・シールドエネルギー残量50%】

 

 確かな手ごたえを感じていた。勝てない相手では無い、と言う実感がある。

 あとはあのグレネードにさえ気を付ければいいのだ、と。

 

◆◆◆

 

 致命傷は避けられた。とはいえど痛手である事には変わりはないだろう。

 

 黒鉄のシールドエネルギー残量を確認しつつ歯噛みする。近寄れば斬られる。正直近寄りたくは無い。だがシールドエネルギー総量は零落白夜を前提にした機体構成なのか他の機体よりやや多い。

 

 だからこちらから出向いて行くしかない。時雨でチクチク削っている内に接近されてまた斬られる。接近すれば言わずもがな斬られる。

 玲次からすれば白式は苦手なタイプだった。しかも猪突猛進に一夏が突っ込んでくるのでこちらの小細工は余り通用しない。更にこのアリーナには建造物等と言った障害物も無い。そしてグレネードは既に見切られているとなれば――

 

――アレを使う。

 

「行けるね――黒鉄」

 

【システム・異常なし。電磁波放出可能】

 

「じゃ、アレを使う」

 

【レディ。電磁迷彩、展開】

 

 玲次の問いに答えるように黒鉄の装甲に紫電が奔る。そして――まるでワイパーで拭われる窓ガラスに付いた雨水の如く黒鉄と玲次の姿が――『消えた』

 

「なっ」

 

 流石の一夏でも困惑せずにはいられない。

 対セシリアならばすぐに見破られただろうから使わなかったし、一夏への救援の際は此方の気を引くために使う事が出来なかったのでこれを戦闘で使う事は実質的には初めてとなる。

 

 玲次の目論見通り、一夏は焦りあちこちを見回っている。ハイパーセンサーでも探知は不可能だ。

 先ずはジャブだ。側面から時雨を発砲する。

 

 突然の側面からの被弾に一夏は驚きつつ、時雨の飛んできた方向に向いて斬りかかるが見事に空ぶった。玲次が一体どこに居るのか分からずハイパーセンサーから得られる情報と視覚で得られる情報から玲次の位置を探そうとするも一向に玲次を見つけた様子は無かった。何故ならば――

 

 玲次自身一夏の視界に入らないように動いていたのだ。そして時間を置いて時雨を撃っては場所を変えてかく乱する。

 電磁迷彩とて完全なステルスではない。目を凝らしてよく見れば居場所の空間が歪んで見えてしまう。故に迂闊に視界の内に入る訳にはいかないのだ。

 だがいつまでもチクチクと攻撃している程こちらには余裕はない。電磁迷彩とて無限に使える訳では無い。必ず限界があり効果を切らしてしまう。持続時間は発動開始から勘定すると180秒。

 

【電磁迷彩持続時間、残り130秒】

 

 そして黒鉄のシールドエネルギー残量は50%。白式のシールドエネルギー残量は60%。時雨と零落白夜の代償で今も尚じりじりと減りつつある。

 だがこのままでは削り切れない事を悟った玲次は空いた右手で右越しにマウントされた高周波ナイフ、迅雷を引き抜いた。

 

 そして一夏の背後から――!

 

 一閃。

 横一文字に迅雷が閃いた。

 

「そこかッ!!」

 

 振りき様に雪片弐型を振るう。玲次は咄嗟に下方向にブーストして回避。更に追い打ちで時雨を申し訳程度に発砲し、位置を悟られないように射撃を中断し、今度は正面から攻撃を行う。

 思惑通り一夏の注意は後方に向いており、正面への注意はおざなりになっていた。持っていた迅雷を投げつけ、迅雷が電磁波の力が玲次から離れるごとに弱まって行きその姿を現していく。

 

 電磁波の力が無くなった迅雷が姿を現した時には最早躱せるような距離には無く、シールドバリアを貫通し深々と突き刺さった。

 

「クソッ!」

 

 一夏は舌打ちした。

 意識外を狙って来る。その戦い方は最早暗殺者(アサシン)か忍者だ。

 迅雷を投げつけた後、もう一本の迅雷を抜刀し意識外を狙って斬りかかる。電磁迷彩を利用したヒットアンドアウェイの戦術でほぼシールドエネルギー残量は逆転していた。

 

【電磁迷彩の効力消失、通常モードに移行】

 

 玲次の姿が再びはっきりと、明確になって行く。それを好機とみた一夏は機体をブーストさせて玲次に詰め寄った。

 

 今度は切り上げの斬撃。寸前の所で躱してカウンター気味に迅雷の一閃を打ち込む。

 接近戦は危険だが、時雨の残弾数は残り僅かで一夏を倒し切るには明らかに足りては居なかった。ならば最早残されている効果的な手段は迅雷ぐらいとなる。

 残った時雨の残弾は牽制だ。

 

 一旦蹴り剥がし、距離を取り体勢を立て直す。

 黒鉄のシールドエネルギー残量は40%、白式のシールドエネルギー残量は零落白夜の代償とダメージも相まって10%を切っていた。

 両者は一度地上に降り立つ。泣いても笑ってもこれが最後だ。

 

「勝負だ……!」

 

「ここまで来たら小細工ナシ……白黒付けますか!」

 

 一夏の言葉に応えるように玲次も迅雷を逆手持ちで構える。そして肘、爪先のブレードも展開し、そして――ほぼ同じタイミングで互いに向かって地面を蹴りその勢いのまま機体をブーストさせた。

 両者が今、望む事、目指す事はただ一つ。

 

――斬り裂け、奴よりも速く。

 

 そして一夏が雪片弐型を振り上げ、玲次は回避の姿勢に入る。一夏が拙いと察した時既に遅く身体が脳の反応に追いつかず無情にも斬撃が空ぶりそして――

 

「俺の――勝ちだッ!!」

 

 玲次が勝利を確信し、迅雷を振るったその時――()()()()()()()()()()()()()()()()に見えた。

 

 

 

 

 両者が擦れ違い、一定の距離が開いた所で武器を手にした両者の動きが止まった。痛い程の沈黙がアリーナを支配する。

 

 

 先に頽れたのは――――玲次だった。

 

「ッ、マジかよ……」

 

 玲次は引き攣った顔で呟く。表示されているシールドエネルギー残量は0%となっており、一方の一夏のシールドエネルギー残量は7%。これが意味する状況なんて小学生でもわかる。

 

――俺は、負けたんだ……

 

『篠ノ之機、シールドエネルギー残量0。織斑一夏対篠ノ之玲次による模擬戦は織斑一夏の勝利となります』

 

 アナウンスを聴きながら玲次は全身を襲う脱力感に襲われて大きく溜息を吐いた。

 

 

◆◆◆

 

「やった……のか」

 

 一方一夏には勝利した達成感より本当にやったのか、と言う釈然としない気持ちが大きかった。

 最後、斬撃を躱されて玲次の反撃が飛んできた時、もう駄目だと思った瞬間、意識がクリアになって何をするべきかするりと頭の中に入り込みそれを直ぐに行動に移せてしまったのだ。それが些か信じられないような気がした。

 

 エネルギーが切れて雪片弐型から発せられた零落白夜の光が消え、元の実体ブレードへの形態へと戻って行く。それに気づく事無くぼんやりと暮れゆく空を見上げた。

 

 そして、深呼吸する。

 

――取り敢えず勝ちは勝ちだ。まずは玲次に勝てた事を喜ぼう。

 




 零落白夜は結構恐ろしい……かもしれない。

 原作より白式の基礎性能がやや高くなっています。

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