オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

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四章です。
後書きに重大なお知らせがあるので目を通して下さい。

では、どうぞ


第三十五話 金ヶ崎前夜

 

今川義元を将軍とする今川幕府の開府後、信奈は今川幕府の名の下に畿内周辺の諸大名に祝いのために京に使者を派遣するよう書状を送った。

つまり、畿内の諸大名の色分けを行なったのだ。

畿内の諸大名にとって使者を出せば織田政権に味方したことになり、使者を出さないことは織田政権と敵対することを意味する。

結果として畿内のほとんどの大名は使者を出して来た。

一方で阿波讃岐に逃れた三好政勝と三好政康、越前の朝倉義景とその隣国、若狭の武田家は使者を送らなかった。

この結果から信奈は地理的な条件などを勘案してから若狭征伐に踏み切ったのだった。

 

「とは言っても若狭征伐はただの口実だろうな。そうでなくてはこんなにも攻め急がない」

 

攻め落として間もない若狭武田家の本城・後瀬山城にて昭武が呟いた。今回の若狭征伐にも在京熊野軍は昭武、桜夜、左近、宗厳を将として参陣していた。

 

「朝倉家の同盟国に浅井家がいるからかしら?文句を言わせる前に潰すつもりね」

 

昭武の右に侍る左近が断言する。

朝倉家と浅井家の関係は朝倉宗滴が六角定頼と浅井家初代の浅井亮政の戦いを調停したことから始まる。

この際に宗滴が亮政をよく手助けしたことから両家は戦国にも珍しい強固な友好関係が結ばれた。

長政が織田家と同盟をする際に政略結婚を条件としてしきりにあげたのも長政の父、浅井久政が織田家と朝倉家の家柄の差を気にして納得しきれなかったからである。

ゆえに朝倉を攻めると浅井に知られれば織田政権と軋轢、下手をすれば離反を招きかねなかった。

 

「理屈はわかるが、やはり無理やりだと思うな。このままうまく行けばいいが……」

 

昭武が危惧するも織田軍の予定が変わるわけではない。嫌な予感を感じつつも従うほかなかった。

 

 

織田政権が越前に入り、敦賀に侵攻したのと同刻。

浅井家の本城・小谷城で長政は突如久政に呼び出されていた。

 

「長政。すでに織田信奈は我らとの約定を破って越前へと攻め入り、金ヶ崎城へと攻めかかっているという。だというのに、我ら浅井家に文の一つも寄越してこない。信義にもとる畜生の行いよ。わしは隠居の身ゆえ嫌々ながら静観したが、もはや我慢ならぬ。織田家は浅井家の盟友にあらず。今すぐ軍を起こして盟友たる朝倉家を救え」

 

この久政の言葉は長政を震撼させた。

今、浅井家が織田家を裏切れば織田政権の遠征軍三万が敵地に孤立する。こうなれば信奈は容易く破れ、織田政権はあっけなく瓦解してしまうことは違いなかった。

 

「ですが、父上。既に織田家と浅井家は縁戚関係にありますが」

 

久政が、長政の耳元に顔をよせて耳打ちする。

 

「お前たちは女同士。縁戚関係など詭弁でしかないではないか」

 

久政はお市姫が織田家の長男、津田信澄であることを知らない。ゆえにそう信じ切っていた。

実際はしっかりと縁戚関係が結ばれており、堅い男女の愛においても結ばれているのだが。

 

「お聞き下さい、父上!」

 

「黙れ、長政!もはやわしは黙りはせんぞ。わしの邪魔をするというのならそなたの家督はしばしわしが預かる!」

 

久政の決心は固かった。

その後久政は家臣に命じて長政を竹生島に幽閉させる。

長政は一応、逆に久政を竹生島に押し込めることができる状態にあったが、この時ばかりは自らが家督を継ぐ時、一度久政を幽閉したことが引け目となりできなかった。

 

「わしは、織田信奈などではなく、そなたに天下人になってもらいたいのじゃ。このような好機は二度とない。許せ、長政よ」

 

連行されゆく長政を見やって久政は呟いた。

 

********************

 

越前金ヶ崎城を落とした織田軍三万は、怒涛の勢いで木ノ芽峠へと向かっているところだった。

木ノ芽峠を織田軍が越えれば、朝倉義景は一乗谷城に孤立する。こうなってしまえば朝倉家の滅亡はもはや秒読みと言えた。

北国から京への通り道である越前を落とし、そこを一大拠点となし、しかるべき時に加賀を落として熊野軍と協力し対長尾景虎の防衛線を構築する。

これが信奈の構想であり、これを実現させるために信奈は朝倉討伐を急いだ。

しかし、その足はすぐに止められることになる。

京にいたはずの良晴が必死の形相で駆けて来たからだ。

 

「浅井家が、謀反した。織田軍は今、この小豆袋のように京への退路を断たれている」

 

良晴が手に持っている小豆袋は小谷城から逃亡した信澄が託したものであった。

信澄自身は浅井家の手に落ち、竹生島に抑留されている。

 

「サル、何を言ってるの?長政はどういうわけか勘十郎と仲良くしてるじゃない。朝倉と織田の間で板挟みになるけれど長政だって天下布武を成すために越前を抑える必要があることはわかっているはず……」

 

はじめ信奈は良晴の言うことを信じられなかった。

 

「長政は久政に家督を取り上げられたらしい。無断で攻めたことに腹を立てたんだろう」

 

「確か浅井は六角に臣従し、朝倉と盟を結ぶことでようやく家中を整えることができたと聞く。それを主導したのは久政だ。六角はともかく朝倉と手を切るのに耐えられなかったという線はあるな」

 

「そう…、嘘では、ないのね…」

 

良晴と昭武が説いてようやく信奈は事態を飲み込めた。

 

「ああ、そうだ信奈!今すぐ撤退しろ!ここで前後から敵を受けて戦えば全滅するぞ!」

 

「わたし自身が囮になる。しんがりをつとめて……」

 

信奈がその先を言おうとするが長秀が制止した。

 

「なりません姫。この退却戦のしんがりは、全軍玉砕する他はありません!」

 

「でも、わたしはここにいるみんなを死なせたくない。わたしが降伏すれば……」

 

「それはなりません。姫!天下布武を諦めなさるおつもりですか?」

 

長秀は首を振った。久秀までもが降伏しても「此度の例ではどうしても信奈は殺されてしまう」と諌める。

 

「姫。この織田家は、いえこれからの日ノ本は、姫なしには立ち行きません。この場にいる家臣の一人に、しんがりの役目を……死を賜りますよう。天下布武の大号令を発した以上、犠牲は出ます。お覚悟を!」

 

「……そんな命令……できるわけが……!」

 

信奈は逡巡する。

この場にいる誰もが信奈に負い目を感じさせてはならないと思い、名乗り出そうとする。が、一歩先んじた者がいた。

 

「ここは俺だろ!」

 

相良良晴である。

 

「サルッ⁉︎」

 

織田の家臣団に動揺が広がる。

相良良晴は決して武闘派とはいえない武将である。

そんな彼が真っ先に名乗り出るとは皆思えなかったのだ。

だが、昭武は違った。

 

(やはりお前か……)

 

昭武は美濃動乱の折に良晴の忠義を垣間見ていた。そのため昭武からすれば名乗り出ない方が不思議であった。

 

「今はねねがいるがそれでも俺はもともとこの時代にはいない人間なんだ。ここで俺が出ないなんて選択肢はない」

 

「でも、死んじゃうのよ……⁉︎あんたまでいなくならないでよ……!」

 

もはや信奈はここが家臣の前であることを忘れて良晴に泣きすがっていた。

 

「いつもそう……!わたしが好きになった男の人はみんなみんなみんな……!」

 

「大丈夫だ信奈。他の家臣なら確かにそうかもしれない。だが、俺が本当に藤吉郎のおっさんの代わりなら生き残れるはずだ」

 

泣きじゃくる信奈の頭に良晴は手をやって諭すように言った。

 

「ほんと?」

 

「ああほんとだ。俺は、お前の運命を変えるために、この世界に来た」

 

良晴は泣き続けている信奈の体を抱きしめていた。

もう、誰も咎めようとはしなかった。

 

「お前が無事に京へ帰り着いて、そして俺が生きて戻ってきたら……今度こそ、天下一の恩賞をよこせ」

 

「……うん。わかった」

 

信奈はこくりと頷き、良晴は信奈の体を手放す。

良晴は、悲しさを押し殺して微笑んでいた。

 

 

殿が良晴に決まり、多くの武将が陣払いをする中ただ一軍だけ陣払いの準備をしていない軍がいた。

昭武率いる在京熊野軍二千である。

 

「昭武どの、用意はできましたか?」

 

「すまん桜夜、少し待ってくれ。弾薬をまだ兵に割り振ってないんだ。さっき相良のアレが盛り上がり過ぎて言い出す機会を逃したんだが、熊野軍五百も相良に加勢する。んでその五百を率いるのはオレだ」

 

「そうでしたか」

 

想定外の淡白な反応に昭武は目を見開いていた。

 

「桜夜、お前は驚かないのか?」

 

「はい。むしろ当然かと」

 

桜夜が首肯する。桜夜は昭武が弾薬の割り振りをしていると言った時に全てを察していた。

 

「相良どの、ですね?」

 

今度は昭武が首肯する番であった。

 

「あいつには負けたくないんだ。このまま普通に兵を退いてしまったら多分もうあいつと同じ舞台に立てなくなる。オレはそれが恐ろしくて仕方ない」

 

今、昭武を突き動かしているのは良晴に対して負けを認めるわけにはいかない、あわよくば勝利をという意地である。そのためならば今の昭武は命だって厭わない。

これがいつしか天下泰平の志に次ぐ昭武の譲れないものになっていることは美濃以前から昭武に付き従ってきた者にとっては周知の事実だった。

無論、桜夜はそれを知っていて苦笑いを浮かべている。

 

「わたしとしては行って欲しくないのですが……、きっと昭武どのは言っても止まらないのでしょう?ですから一つだけ、お願いしたいことがあります。

ーーーー必ず生きて帰ってきて下さいね」

 

「ああ、行ってくる」

 

そう笑顔を浮かべて桜夜は死地へと向かう昭武を見送った。

だが、昭武の姿が見えなくなると桜夜は泣き崩れてしまう。

そんな桜夜にただ見てることしか出来なかった左近はかける言葉が見当たらなかった。

 




読んで下さりありがとうございました。
いきなりの金ヶ崎です。
それで重大なお知らせの内容なのですが、原作最新刊を見たところなんとまあ宗厳さんが出てきてしまいました。それもこことは違ってナイスミドルです。
このおかげで宗厳さんについて原作通り(左近との友達設定は崩さない)にするか既存のまま姫武将にするか悩んでおります。
なのでここらで一度、読者の皆様にアンケートで決めて頂きたいのです。アンケートは活動報告の方にすぐにあげますのでお願いします。

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