オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

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第三十一話です。
そろそろサブタイを考えるのがしんどくなって来ました。今話のサブタイは個人的にイマイチなので後で変わる可能性があります。

*10/23に前話に加筆した部分からの続きになっています。今話を読む前に念のため前話を再読することを推奨します。

では、どうぞ


第三十一話 多聞山・清水寺の戦い 前編

名物対決が終わり、昭武たちが大和行きへの準備を進めていると為五郎が昭武に歩み寄って来た。

 

「昭武様。先ほど津田宗及と話して思い出したことですが、過日、天王寺屋に松永様と近衛家の牛車が入っていくところを見たと丁稚が話しておりました」

 

「なんだと⁉︎」

 

これは昭武にとって衝撃的な知らせだった。

 

(近衛前久と津田宗及、松永久秀。この三者が手を組んでいたというわけか、なるほどな……。目的は間違いなく京から織田連盟を排斥することだ。多分武田と長尾が和睦し、武田が上洛するというのはこいつらが意図的に流した虚報か。本気で武田が上洛を行うつもりなら徹底的に情報操作をして和睦の情報すら流さないようにするだろうからな)

 

昭武の予想は半ば外れ、半ば当たっていた。

武田と長尾が和睦を結んだことは事実であり、近衛たちが意図的に流したものであるが、信玄は現状では上洛するつもりはなかった。

ここで視野を畿内に転ずる。

今、織田連盟の軍は武田と長尾に備えるためにそれぞれ領国に帰っており、畿内には京にいる光秀軍千程度と筒井城の熊野と加治田兵の混成軍二千しか兵がいない、もぬけの殻。

 

(まずいな、大和と京は馬で飛ばせば一日とかからない。仮に松永が蜂起すれば京はほぼ間違いなく失陥する!)

 

「為五郎、知らせてくれて有難い。もう時間はねえな。今すぐ筒井城に向かう!」

 

昭武たちは馬を飛ばして筒井城に急行した。

筒井城に着いたのは夕刻。昭武が着くと同時に美濃に行った斎藤利治の妻、佐藤堅忠と筒井順慶が出迎えた。

 

「昭武どの、そんなに急いで……。何かあったんですか?」

 

「ああ、奥方どの。軍を動かす準備を頼む。松永がそろそろ動き始めそうだ。仮に動かなかったとしても今は京に兵力を集中させた方がいい」

 

「はぁ、言われてみればそうですね。わかりました。すぐに準備をさせましょう」

 

堅忠が去ると今度は白雲斎が昭武の前に現れる。

 

「昭武よ。松永久秀が多聞山城から一万以上の軍を率いて京の方角に向かっていると配下から報告があったがどうする?」

 

畿内の事態は明らかに悪い方向へと進んでいた。

 

「ついに行動を起こしやがったか……。ならば話は早い。手薄になった多聞山城を落とす。流石に本拠地で敵軍にうろちょろされれば、気になって松永の進軍速度も落ちるだろうよ」

 

「昭武どの、多聞山城を攻めるというのなら私も連れて行ってくれませんか?左近を迎えに行きたいのです」

 

昭武と白雲斎の話に順慶が割り込む。やはり松永が相手となれば黙っていることができなかったのだ。

 

「順慶どの。かなりの強行軍になるが、構わないな?」

 

昭武の想定では、多聞山城を落とした後は京へ救援に赴くつもりであった。

 

「ええ、私は再起をするつもりこそありませんが、これでも戦国の世を生きる大名でした。倍返しはしてやりたいんですよ」

 

問われた順慶は昭武の目を真正面から見据え、口の端を吊り上げて答えた。

これには順慶を(亡国の姫大名)と無意識のうちに侮っていた昭武も鼻白む。

かつて掲げた「大和一国の統一」という野望の炎が絶えても順慶の心には今なお消えぬ熾火があった。

 

(夢半ばで破れた私なんぞを助けるために多くの者が散っていきました。そして左近に至ってはまだ私のために働いてくれています。これだけの忠を尽くされてまともに報いてやれない主には私はなりたくないのです)

 

それは主としての意地であり、これを通すために順慶は再び武器を取ったのだ。

 

「殿、私を忘れないでくださいよ」

 

さらに筒井城の天井裏から盛清が現れる。

 

「盛清……お前もう大丈夫なのか?」

 

「多聞山城では不覚を取りましたが、城内の構造は把握済みです。必ずやお役に立てましょう」

 

「大丈夫なら構わないが……無茶はするなよ」

 

「はい!善拠します」

 

盛清は年相応の幼さで返事を返す。

これでひとまず大和方面の役者は揃った。

一時間ほど待つと堅忠が準備を終えて、二千の兵を集め、隊列を組ませて大手門前の広場に集める。

その先頭で昭武は叫んだ。

 

「んじゃ、これより多聞山城に進軍する!松永久秀!多聞山城での借りを返してやるぞ!」

 

「「「おおおおおおお!!」」

 

陽はすでに沈んでいるというのに二千の兵が掲げる松明のおかげで周りがよく見える。

 

(今回の戦の最大の敵は時間だな。多聞山城をどれだけの速度で落とせるかが鍵か)

 

********************

 

熊野軍が多聞山城に着いたのは丑三つ時であった。

 

「こうして見ると存外恐ろしいものだ」

 

月明かりに照らされる多聞山城は妖しくも美しい。

されどそれは味方、あるいは中立の立場だからこそ感じ得るもので、敵となってしまえばそんな余裕はない。ただただ不気味さだけが際立つだけである。

 

「島左近の救出は儂と盛清が行こう。昭武と優花と順慶は外で攻めておれ」

 

「白雲斎どの。私も同行します。そうでなくては私が来た意味がないでしょう?」

 

「オレも順慶どのに着いていく。これはオレの個人的な興味だがな、島左近をこの目で見てみたい」

 

「何を馬鹿なことを言っているのだ。お前ら、特に昭武」

 

白雲斎が呆れ笑いを浮かべる。

 

「いや無鉄砲なことを言ってるのは分かるが、そこをどうにか頼む。あと言い訳臭いが、入り込んだついでに城代を始末できれば陥落も早められるだろう」

 

「よかろう。……しかし昭武よ。最近、勝定に似てきおったな。自ら無茶をすると決めると周りの言うことを一切聞かぬところが特に」

 

「親父に似て悪いことはあまりないから良いではないか」

 

「武兄、言い合っている暇なんてないでしょ。城攻めは私に任せてさっさと左近ちゃんを助けてきなよ」

 

見兼ねた優花が仲裁した結果、分担は昭武が主張したもので多聞山城の攻城が始まった。

 

 

多聞山城内に侵入した昭武は盛清の案内を受けながら駆けていた。

 

「昭武よ。総大将の討ち取りか、島左近の救出かどちらを優先するのだ?」

 

敵兵を一刀のもとに斬り伏せながら白雲斎が問う。

 

「どちらも大事だが、判断がつかない。それに加えて松永が京にいても多聞山城の傀儡を動かせるのも問題だな」

 

「ほう、ならば傀儡の始末は儂がしよう」

 

「白雲斎、盛清ですら手玉にとった相手だぞ?無茶じゃないのか?」

 

「これしき、無茶とは呼べぬ」

 

そう吐き捨てると白雲斎は刀で飛び出してきた傀儡を一閃した。

 

「いや、斬りつけたぐらいでは傀儡はやられないらしいぞ」

 

「昭武、良く見てみろ」

 

白雲斎に促されて昭武は切り倒された傀儡を見やる。しかし、傀儡はピクリともしなかった。

 

「あれ?動いてねえな」

「お師匠様、何故こうなるのですか⁉︎」

 

昭武と傀儡に煮え湯を飲まされた盛清は驚きを隠せない。

 

「術理はわからぬが、傀儡である以上術者と傀儡の間に動きを伝える何かがある。それを儂は術者の気とみた。ゆえに気ごと傀儡を斬ってみたが正解だったようだな。傀儡以外にも手応えを感じた」

 

「手応えって……。気なんて白雲斎が気を扱える忍者だとしても、そもそも斬れるようなものではないと思うんだが……」

 

「気を斬ることができるのは儂の力ではない。この刀の力だ」

 

そう言って白雲斎は刀を昭武たちに見せる。

 

「いつもの忍者刀じゃないんだな。普通の刀だ」

 

「この刀の銘は童子切、作者は安綱。童子切安綱と言えばわかるだろう?」

 

淡々と刀の説明をする白雲斎。それに昭武は違和感を覚えた。

 

「ちょっと待て。白雲斎、今なんと言った?」

 

「童子切安綱、と言ったが?」

 

「聞き間違いじゃなかったか……」

 

とんでもない名刀の登場に昭武が動揺する。

童子切安綱。

源頼光が酒呑童子を斬るときに使用した刀でこのことから童子切安綱と呼ばれる源氏重代の刀で足利将軍家の重宝であった。江戸時代になると同じく足利将軍家の重宝、鬼丸国綱と並んで天下五剣の一つに数えられる名刀である。

 

「なんでそんな大業物を白雲斎が持っているんだ……!」

 

「摂津平定の際に三好三人衆から奪ってきた」

 

三好三人衆は御所に足利義輝を襲ったのち、彼が三人衆の軍勢に抗するために畳に突き立てた名刀の幾つかを持ち去っていた。その中の一つに童子切安綱が含まれていたのだ。

 

(オレもわりと無茶なことをやってるが、熊野家中で一番無茶苦茶なのは白雲斎じゃないだろうか……)

 

昭武はそう思ったが口には出さない。

 

「で、白雲斎。その刀には何の力があるんだ?」

 

「退魔だ。酒呑童子を斬り伏せたこの刀は数百年過ぎた今でも陰陽道と同質の気を帯びている。ゆえに振るえば陰陽師でなくとも気を捉えて斬ることができる」

 

「もう驚くのが疲れてくるくらいだな、それ……。じゃあ白雲斎。傀儡は任せた」

 

どっとため息を吐いてから昭武たちは白雲斎と別れ、先に進む。

傀儡が白雲斎に向けて集中運用されているせいか、別れた後はあまり進路を妨げられずに地下牢への隠し扉前にたどり着いた。

 

「殿、こちらです!」

 

盛清が扉を開くと下り階段が現れる。

地下牢は煌びやかな城内とは打って変わって石壁に石畳とひどく殺風景なものであった。

 

「多分、高さ的にここは石垣の中に位置しているようだな……」

 

「傀儡はお師匠様が防いでくれていますが、容易くこちらに回せるでしょう。お急ぎを!」

 

盛清に促されて、昭武たちはさらに足を速める。しかし、すぐに足を止めざるを得なかった。

 

「まさか傀儡が全て出払うほどの敵が現れるとは……、ようやく俺の出番が来たというわけだな」

 

黒い装束を纏った中年が昭武の前に立ちはだかったからである。

 

「忍びか……」

「いかにも」

 

誰何の声に忍びは堂々と答える。

 

(風格からして相当できるな。実力は白雲斎には届かないだろうが、盛清以上はあるかもしれん)

 

ただならぬ敵の出現に昭武は震えた。

 

「陣羽織から判断するにお前は星崎昭武か。総大将がわざわざ侵入してくるとはな……。死にたいのか?」

 

「んなわけあるか。オレはただ好奇心を満たしに来ただけだ」

 

「ふっ、要らぬ好奇心は身を滅ぼすぞ」

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、って言葉をお前は知らないのか?今回の事態はどちらかと言えばこちらだろう」

 

「減らず口をよく叩く奴よ。まあ良い。戦えばどちらが正しいかわかるだろう……!」

 

そう言うと忍びがバックステップして昭武との距離を取る。そして懐から苦無を幾つか取り出し、昭武目掛けて投げた。

投げられた苦無は凄まじい速度で飛んでくる。

昭武は刀を振るって苦無を撃墜するが、何本かは撃墜できず、昭武の体を掠めた。

 

「どうやら毒は塗ってないみたいだな……」

 

塗られていればこの時点で昭武の命はない。

 

「俺の本貫は、水準以上の成果と最低限の手間の両立よ。ゆえに毒を塗るなどいう手間は好まぬ。塗らずとも急所を貫けば容易く人は死ぬのだから」

 

「なるほど、な……」

 

このような独自の美意識を掲げている忍びは大概手強いことを昭武は身内でもって知っている。

 

(このままではいずれ奴の言葉通り急所をやられる。踏み込んでみるか……)

 

昭武がダン!と強く石畳を踏み切り、忍びの懐に切り込みをかける。これは剣士としての昭武がもっとも得意とする動作である。

 

「ちっ、まるで忍びのような速さだな。武の保証はしかと持っていたか」

 

苦無を投擲して切り込みを止めようとするも昭武に当てることは叶わない。忍びは舌打ちした。だが、昭武もまた忍びを一刀のもとに斬り捨てることは叶わなかった。

 

「挙動が速い。やはり忍びは怖いな」

 

苦無投擲に見切りをつけた忍びが苦無で昭武の薙ぎを受け止めたからだ。

これよりは刀と苦無の近接戦が繰り広げられる。

こちらになると昭武が有利であった。薙ぎ、突き、払いなど様々な斬り方ができる刀に対して苦無は刺突と斬りつけしかできない。さらに刀身が短いため、攻勢をかけようとしても昭武の刀が先に届くために断念せざるを得ず、総じて受け身になってしまう。

 

(一瞬だけでも構わぬ。隙を作らねば……)

 

忍びの本心としてはさっさと苦無を放り投げて忍者刀を抜きたかった。一振り抜ければ互角に戦え、二振り抜ければ優勢となる。

だが、そのことは昭武も分かっているため、忍びに息をつかせぬ攻勢をかけている。

しかし、忍びもさるもので昭武の攻勢を苦無で受けつつ、足払いをかけるなど逆転の機会を狙っていた。

いつ絶えずとも知れぬ打ち合いが続く。近接戦での攻防における両者の力量は拮抗していると言っていい。

 

(これは、些細なことで勝敗が変わりますね)

 

横で立会いを胃を痛めながら見ている盛清はそう断じた。

そして、その言葉通り些細なことが形勢を変える。

忍びの何度目かの足払いをかけたその時、わずかな腰の動きで見切った昭武が忍びの足を踏み台にして高く飛び上がったのだ。

 

「避けるにしては動作が大きいぞ!」

 

踏まれた足の痛みを無視して忍びが苦無を昭武の胸に投擲し、忍者刀を一振り抜いた。

 

「うぐっ!」

 

苦無が深々と刺さり呻く昭武。だが、だからといって体勢を崩しはしない。

刀を大上段に構え、落下と共に忍びに斬りつけた。

 

「ぐっ、何という力よ……!」

 

昭武の膂力と重力が組み合わさった一太刀はとてつもなく重い。並みの忍びでは間違いなく一刀両断されているだろうが、忍びは一点の無駄なく忍者刀に己が力を伝えることでかろうじて受け止める。

しかし、それも長く持たず次第にジリジリ押されていき、ついに忍びは石畳に打ち据えられた。

 

「これで終わりだ!」

 

昭武が忍びにとどめをささんと刀を構える。対する忍びはうち据えられた時の衝撃で忍者刀を失っており、忍びにとっては絶体絶命の瀬戸際に立たされていた。

盛清たちにも忍びの絶命は不可避と思われている。が、この忍びの命への執着には凄まじいものがあった。

 

「それはどうかな?」

 

忍びが不敵に笑うや否や、地下牢中に白煙が漂い始めた。

 

「煙玉でも使ったようだな、盛清!」

 

「はい!」

 

昭武が盛清の名を叫ぶと地下牢の入り口近くに盛清は跳躍した。

 

「ちっ、読まれていたか!」

 

跳躍した先には忍びの姿がある。煙を出したと同時にここまで駆けていたのだ。追いかける盛清に舌打ちしつつ、忍びは苦無を乱投して盛清の足止めを図る。

こと苦無の扱いに関しては盛清より忍びの方が技量は上である。

そのため結局、盛清は苦無を弾くのに時間を割いてしまい、忍びの逃走を許してしまった。

 

「殿、申し訳ありません!」

 

「いい。ここまで痛めつければしばらくはオレたちの邪魔をしようとは思わないだろう。これ以上の追撃はいらん。今は島左近を助け出すのが先決だ」

 

 

再び先頭に立った盛清が周囲の警戒をしつつ、昭武と順慶を先導する。

数日前は久秀に邪魔された。

昭武も盛清も打つ手がない明らかな敗北だった。

その当時、久秀が形だけは織田方だったため軍勢で攻め寄せることが憚られて久秀の独壇場とも言える暗闘をせざるを得なかったのだ。

しかし、今は違う。小細工などせずに島左近を拝むことができる。

鉄格子の向こうで左近は訪問者を待っていた。

 

「……嘘、でしょう?」

 

左近は自分の目を疑った。

 

(順慶様が私の前にいる……。それにこの前の忍びも)

 

盛清がなすすべもなく久秀の傀儡に絡め取られたのを見た時、左近は(自分が鉄格子の外に出れる可能性はもう残されていない)と密かに諦めていた。

 

(私は、このまま友の頸城を外すために死ぬと決めていた……。けれど、こんなのを見せられたら諦められなくなるじゃない……!)

 

「左近!助けに来ました!もう貴女を私の、いやっ私たちのために苦しめさせはしない!」

 

順慶が左近に向かって叫ぶ。その双眸にはきらりと光るものがあった。

 

「盛清!今回最後の仕事だ。牢を開けろ!」

 

「承知です、殿!」

 

盛清が事前に牢番から奪っていた鍵で左近の牢を開ける。

牢が開くとすぐに順慶が牢の中に分け入り、左近を抱きしめた。

これには左近も耐えられなかった。

 

「順慶様……!よくぞご無事で……!」

 

泣きじゃくりながら左近もまた順慶を抱き締め返す。

 

「ごめんなさい……!怖かったよね……!辛かったよね……!」

 

まるで赤児をあやすかのように順慶は左近に優しい言葉をかける。

順慶は左近に対して強い罪悪感を持っていた。筒井家最後の戦の時、順慶は逃げ延びるために左近の進言「左近を囮にして脱出」を採用した。大名が生き延びなければならないと理屈では分かっていても心が保たなかった。

 

「いいんです。順慶様、貴女がこうして生きていた。それだけで私は報われました」

 

左近の微笑みはとても透き通っていて、それは順慶の心の傷を見事に塞いだ。

しばし再会の余韻に浸る左近と順慶。話したいことはいくらでもあった。しかし急いでいる昭武の手前そういうわけにはいかない。

二人は可能な限り早く、気を切り替えると二人揃って昭武と盛清の方に向き直り、深く頭を下げた。

 

「昭武どの、今日のご恩は決して忘れません……!」

 

昭武にとっては松永の情勢を探るために首を突っ込んだに過ぎない。順慶にはそれが分かっていた。

ゆえにただそれだけの接点に関わらずここまで助けてくれたことに深い感謝を抱いたのである。

 

(星崎昭武、この人がそうだったのね)

 

左近が昭武を仰ぎ見る。

初めて見る昭武の姿は左近の心に鮮烈な衝撃を与えた。

 

********************

 

「やはり、仕事は選ぶべきだったな……」

 

順慶が左近と感動の再会を果たした頃、早々と多聞山城を脱出していた忍びがボヤく。

忍びは久秀からこの依頼を受けた時、あまり乗り気ではなかった。

傀儡によりすでに充分に硬い城をさらに硬めるための仕事だった。これは攻城を得意とする忍びの目には面白みのない仕事に写った。

しかし出番が少なくとも普通の仕事を受けるよりも格段に多い給金がもらえる。それだけの理由で忍びは唯々諾々と久秀に従って来たのだ。

 

「やはり俺は攻めに用いるべきだろう。たとえ畿内で気軽に雇える腕利きの忍びが俺だけだったとしてもな」

 

書き忘れていたことだが、この忍びの名は伊賀崎道順という。

「伊賀崎入れば落ちにけるかな」と言わしめた、日の本全体の忍びの中でも屈指の攻城巧者だった。

 




読んで下さりありがとうございました。
あれだけ堺で引っ張った以上、戦は長めに書かないとっていう強迫観念に駆られた結果、こうなりました。
次話で三章は終わりになると思います。
誤字、感想、意見などあればよろしくお願いします。

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