オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

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第三十話です。
いや、まさかここまで小説の投稿が続いているとは序章を書いていた時には思いませんでした。皆様が読んでくださったおかげです。
まだ未熟な部分もあるかと思いますが、これからもよろしくお願いします。

*10/23に次話に入れるには半端な部分を加筆。

では、本編をどうぞ


第三十話 三つ巴名物対決

開口神社の境内に、三十六人の堺の会合衆が一堂に会していた。

こたび開口神社では為五郎曰く「最上の市」が開かれていた。この市で取り扱われるのは、堺に新たな風を吹かせる名物。客は日の本屈指の富商たち。なるほど確かに最上の市と言えよう。

境内には三つの屋台が建てられている。二つが「新味たこ焼き」と書かれたのぼりを立て、残りの一つが単純に「新名物」と書かれたのぼりが立てられていた。

 

「場違い感半端無いな……」

 

「織田家の方々は此度の対決が義元様の将軍宣下の成否だけではなく、自らの進退もかかっています。それゆえに堺の商人の誰もが欲しがるたこ焼きを選んでいるのでしょう」

 

ボヤく昭武と説明する桜夜。

新名物の屋台はこの二人が調理を担当することになっていた。

 

「しかし、オレが料理か……」

 

織田家の二人と違って昭武と桜夜は為五郎と助左衛門に頼まれてこの対決に参戦している。

そのため昭武はあまりやる気が湧かなかった。

 

「昭武殿。こたびの対決を制することが出来たなら、我々熊野家にさらなる利益が生まれます。嫌がらず手伝ってくださいよ?」

 

それに対して桜夜は乗り気である。

 

(この対決でわたしたちの名物が勝てば、馬鈴薯の需要を増やすことができますね。昨日の為五郎様たちの反応からして馬鈴薯が食用に堪えることを知っているのは残念ながらわたしたちぐらいしかいないのでしょう。こうした形で人々に知ってもらわねば、馬鈴薯が根付かずに終わるという場合もあり得ます)

 

この桜夜の思考はそのまま為五郎たちが昭武たちを名物対決に割り込ませた理由でもあった。

 

「とはいえ、全てを手伝って頂くのは無理なのは分かっているので、昭武殿は食材を切る役をお願いしますね」

 

「分かった」

 

料理経験のない昭武はこの場においては桜夜の言に従わざるを得なかった。

 

「昭武たちも名物対決に参戦してくるんだな……。桜夜ちゃんあたりが料理が出来そうで強敵になるかもしれない」

 

「良晴さんのおっしゃる通り、桜夜どのは尼見習いの経験があります。おそらく参加者の中ではもっとも料理には秀でているでしょう」

 

「新味たこ焼きじゃないのが救いだな。というか十兵衛ちゃんに負けたら岐阜城の厨房送りだけど、俺と十兵衛の二人が昭武たちに負けた場合はどうなんだろ?」

 

「その場合はそうね……、疑わしきを罰してあんたが厨房送りかしら」

 

町娘・吉に扮した信奈が座敷席で良晴に告げる。

この勝負は元はといえば良晴の痴漢疑惑(光秀によるマッチポンプ)を晴らすためのものである。ゆえに良晴はもともと不利な立場にいた。

 

「ふふん。サル先輩には万が一にも勝ち目はありませんよ。高貴で賢い十兵衛はこの日のために最高級の食材を仕入れてきたのです。熊野家が何をするかはわかりませんが、たこ焼きでなければ私の敵ではないですね」

 

良晴に向かって大威張りをする光秀。熊野家は眼中になかった。

 

『この、尾張のういろう問屋の跡取り娘、吉が勝負の様子を実況してあげるわ!解説役は納屋の今井宗久よ!』

 

『お料理も、ちょっと工夫でこの美味さ。今井宗久でおま』

 

メガホンっぽい紙の筒を持って信奈が大声をはりあげる。

 

『制限時間は半刻!はじめっ!』

 

信奈の号令と共に各屋台が調理を始める。

 

「良晴さん、申し訳ありません。予熱を忘れていました!」

「やべえ、出遅れたぜ。残り時間が減っていく!」

「七輪の薪に火をつけましょう……ああ、薪が湿気ってしまっています!」

「拙者に任せるでござる!」

慌てる良晴と半兵衛の横で五右衛門が焙烙を七輪に投擲。

ドオオオオーーーーーン!!と派手な音を立てると同時に良晴の屋台が崩壊した。

 

「にゃああ〜。火力の調整をしくじったでござる、面目無い」

 

『サル陣営、自爆!』

『相良はん陣営は気合が空回りや。……ほんまにたこ焼きが焼けるのか心配になってきはりました』

 

「いや、普通に火打ち石を使えば良かっただろうに。馬鹿だなー」

 

あまりの間抜けさに昭武も唖然とする。

 

「昭武殿、よそ見をしていても手は動かしておいて下さい。そおすが出来ても馬鈴薯が切れてなければ本末転倒です!」

 

桜夜がそおすを調合する手を緩めずに昭武に怒鳴りつける。一人だけ戦場のテンションになっていた。

 

「ああ、すまない。……あれ?芽がうまく切り取れねえや」

 

このように、良晴と昭武の屋台が手こずっている間に光秀が犬千代を顎でこき使いながらたこ焼きの調理を進めていく。

 

「予熱はじゅうぶん。ほら丁稚、きりきり働くのです」

 

「……むっ犬千代は、丁稚じゃない」

 

犬千代が不満そうな顔をするが、光秀は黙殺。

その後、迅速かつ的確に最高級の食材たちをたこ焼き器にぶち込んだ。

さらにたこ焼き器に油を入れる際「この永楽銭の穴を通して油を入れてやるです。通らなければただにしてやるです」と旧主・斎藤道三の若かりし頃の芸を披露する余裕を見せる。

 

「なんちゅう香ばしい香りや……」

「買うた!明智屋の至高たこ焼き、買うた!」

 

これには、会合衆の大半が大盛り上がり。料理を出すまでもなく、光秀の勝利が定まろうとしていた。

 

 

光秀がたこ焼きが固まるのを余裕綽々と待つ一方、良晴と昭武は手を焼いていた。良晴は屋台の復旧に苦労し、昭武は馬鈴薯の皮むきに手こずっている。

 

「くそっ!このままじゃ刻限までに作れねえ!」

 

はじめに行動を起こしたのは昭武だった。

 

「でやあああ!」

 

馬鈴薯を何個も頭上に放り投げ、包丁を刀と同じ方式に持ち替える。

 

「ちょ、昭武殿。何をやってるんですか⁉︎」

 

「危ないから一歩下がってろ桜夜」

 

そうして桜夜を下がらせると昭武は包丁を四度馬鈴薯の落下するタイミングに合わせて斬りつける。すると馬鈴薯は均一な立方体に姿を変えた。

 

『すごい!!馬鈴薯がきっちり斬れているわ!』

『料理に用いるのはどうかと思わぬことはありまへんが、見事な腕前』

 

これには実況の信奈と宗久もびっくり。

 

「いちいち皮などむいていられるか。要は毒があるところを切り取ればいいだけだろ?」

 

「乱暴すぎますがその通りです」

 

苦笑しながら桜夜は昭武の行為を黙認した。

これ以後、昭武が怒涛の勢いで馬鈴薯を切り続け、桜夜が馬鈴薯を油の中につけていく。

昭武と桜夜が作るのは棒状に切った馬鈴薯を揚げたもの、未来で言えばフライドポテトだった。

 

「この時代にフライドポテト⁉︎」

 

その意図に気づいたのは良晴ただ一人。

とかく馬鈴薯が切れれば後は揚がるのを待つだけのフライドポテトはそんな時間がかからない。

一番早くに出来上がり、信奈たち審査員の前に並べられた。

 

「つけダレとして塩と納屋さんのそおすを基にあらゆる食材を混ぜ込んだ新たなそおすの二つを用意しました。好みの方をつけて召し上がってください」

 

「桜夜は昔から料理が得意だったから楽しみですね」

「そうなの?」

 

ちゃっかりと審査員席にいたのは秋貞と優花。

 

「というかなんでお前らがそこにいるんだ。立場的にオレがそっち側だろう?」

 

「確かにそうですが、私は馬鈴薯の扱い方を知りませんから」

「あたしは美食家って理由でここにいるんだよ」

 

「ああ言えばこう言う………まあいいや」

 

昭武は諦観めいたため息をついた。

 

「よくわからない芋を揚げただけじゃない。美味しいのかしら?」

 

信奈はフライドポテトをまじまじと見やる。

これは昭武や為五郎を別にして馬鈴薯の芋の存在が極めてマイナーなものであることを示していた。

 

「とにかく食べてみてくれ」

 

昭武が促すと信奈をはじめ、審査員がフライドポテトを口にする。

 

(一応、為五郎と助左衛門が太鼓判を押している一品。先入観さえ取り払えば、強いはずだ)

 

成功例はあるものの、昭武たちは緊張している。

この名物対決、過半数を取れなければ勝ちにはならないのである。二者択一ならともかく三つ巴の場合だと抜きん出て美味しくなければ勝てない。

 

(その点今回、相良が自爆してくれたおかげで二者択一になったのはありがたいな)

 

しかし、昭武たちの心配は杞憂だった。

 

「なにこれ⁉︎ものすごく美味しい!」

 

優花が美味しさのあまり席から飛び上がる。

優花に一歩遅れて試食を終えた面々が感動の声をあげる。

 

「芋がほくほくして美味しいわ」

「この二つのつけダレも気が利いてはりますな」

「いくら食べても飽きが来えへん。これだけでも名物の資格を充分満たしてはる」

「なるほど、新食材の南蛮揚げですか……。料理に堺の持つ進取の気風をも内包させるとは、素晴らしい」

 

今井宗久、津田宗久の二人も昭武と桜夜のフライドポテトを絶賛する。

 

(我々の読みは正しかったですな。これで布石は充分に果たせたと言えましょう。これからは我々の時代です)

 

為五郎と助左衛門が美味しさと明るい将来を夢想して表情を綻ばせる。

この後も劣勢だった良晴が揚げたこ焼きを思いつき、これまた大絶賛されるなど光秀にとってプレッシャーがかかる場面が続いた。

 

「まずいです。ソースではあのつけダレやあやしげなマヨネーズには勝てないです。かくなる上は、こちらも必殺の調味料を使うですっ!」

 

「……そんなもの、あった?」

 

犬千代が首を傾げている間に、光秀は屋台の中から一つの壺を持ち出す。

 

「松平元康どのに頼んだ最高級熟成八丁味噌です。これで信奈様が喜ぶこと間違いなしです!」

 

「あんの馬鹿!焼きが回ったか!」

 

意気揚々とせっかくの絶品たこ焼きに味噌を塗りたくる光秀に昭武が絶叫する。

しかしそれでも光秀は止まらず、ついに怪物を作り上げてしまった。

 

「さあさあ。これを喰いやがれ、ですっ!」

 

それから先は地獄だった。

審査員は建前上食べねばならないので、ものすごく嫌そうに怪物をぱくり。

 

「こんなの勝家ぐらいしか喜ばねえぞ……」

 

濃尾の面々はまだマシだった。しかし会合衆は二口三口しか食べられなかった。

 

「ううう……。苦いよ……不味いよ……」

 

もっとも悲惨だったのは優花だった。

理性が食い意地に抗えず、心ならずも怪物を口に運んでいく姿は一同の悲哀を誘った。

 

「確かにこの味噌は高級品。たこ焼きも完璧の仕上がり。料理の完成度はこの場の誰よりも抜きん出ている。そやけど、素材の調和がとれとはん、台無しや。焦りがそのまま料理の出来にあらわれましたな」

 

宗久がピシャリとダメ出しする。

 

「そんな……まさか……!」

 

光秀が落胆して崩れ落ちる。

もはや光秀の敗北は避けられぬものになっていた。……はずであった。

 

「やったですうううううう!」

 

なんと、光秀が勝ってしまったのだった。

それも他の二人に大差をつけての勝利だった。

 

「なんだこりゃ……」

 

この結果に昭武たちも呆然とする。

 

「津田宗及が明らかに手を回しましたね……。わたしたちは馬鈴薯の有用性を会合衆の方々にある程度示せたので、不利益らしい不利益はありませんが……」

 

「相良にとってはキツイだろうな……」

 

(相良の場合は自らの進退がかかっている。明らかに光秀に勝っていたにもかかわらず、不正によって負けたんだ。その無念は察して余りあるだろうな)

 

昭武たちの危惧通り、名物対決のあと相良軍団は立腹して京に帰ってしまった。

 

「さて、オレたちはどうするかな……」

 

「わたしは京に戻ります。これ以上政務に穴を空けるわけにはいきませんから」

 

「そういえば筒井城に二千の兵を置いたままだったな……。オレらは筒井城に寄ってから京に戻るわ」

 

昭武と桜夜はその場で別れて各々の目的地に向かった。

 

昭武たちとは別の場所では今井宗久、津田宗及、半田為五郎、納屋助左衛門の四人で集まって話し合っていた。

 

「いや、津田どの。よくぞこれだけの票を買い取りましたな」

 

「もう少しいい勝負になるとは思っていたんですがね。あの味噌のせいでかなりの痛手です。……それより半田様、いえ納屋さんもそうですが、あなたたち、手前が皆を買収するのを黙って見過ごしましたね?なぜです?」

 

「なにしろ、たこ焼きの独占権を手放すんや。あんたらが買い取らなんだ相良はんの「揚げたこ焼き」はそれがしの独占物とさせてもらおう」

 

「おおっさすがはわいの元主人。がめついですなぁ」

 

「助左衛門、かくいうあんたも何か企んではるんやろ?」

 

「ええ、わいらは主人とは違って「ふらいどぽてと」の販売権を他の会合衆に二千貫で売りつけますわ。ああ、津田はんは要らないんでしたな」

 

宗久と助左衛門のこれらの発言は津田宗及を追い詰めた。

 

「なるほど……名より実を取った、というわけですか」

 

「わいらの目的は「ふらいどぽてと」を通じて馬鈴薯の需要を増やすこと。あれだけの高評価をいただければ、かなり売れるでしょうなあ。そして馬鈴薯の仕入先は今年は南蛮頼りじゃが、来年からは飛騨・熊野領に変える」

 

「そううまく事が運べば良いですな。しかし、織田連盟は京の公家衆にはすこぶる不評だとか。気をつけねばなりませんよ」

 

堺の双頭と新興勢力の四人が互いの腹を探り合う。

 

(まだ私は諦めたわけではありません。堺は必ずや私のものにしてみましょう)

 

これにて名物対決は一応の決着をみる。されど、まだもう一波乱あるであろうことはこの場にいる一部の人間には明らかだった。

 

 




読んで下さりありがとうございました。
以後、舞台は京と大和に戻ります。
誤字、感想、意見などあればよろしくお願いします。

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