オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

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第二十三話です。
今話でこの二章・美濃動乱編が一章・飛騨統一編の字数を超え、最長の字数になりました。一章が大体32,000字で二章は今話終了時点で35,000字です。今話で二章が終わるわけではないので二章は40,000字越えぐらいでしょうか?ともかくこれからもよろしくお願いします。

前置きが大分長くなりました。では、どうぞ


第二十三話 美濃動乱⑤【墨俣】

半兵衛を良晴に譲った昭武たち一行は一路加治田城に帰城した。

昭武たちが調略に行っている間に加治田城の兵は五千から八千に膨らんでいた。中濃三城全てを獲ったことにより利治側優位と見て日和見をしていた豪族たちが一斉に参陣したのである。

城内の士気は軒昂で、今にも戦いたくてしょうがないといった具合であった。

さらに人事でも変わったところがあり、利治が佐藤忠能の一族である佐藤堅忠を娶って加治田城主になっていて、さらに加治田城で半兵衛に突撃を仕掛けた湯浅讃岐が利治の幼名新五郎にちなんで湯浅新六と改名し、利治の配下となっていた。

 

「いやー、利治どの。オレがいない間に祝言を挙げるなんてあんたもなかなか隅に置けねえな」

 

「お戯れを、昭武どの。これが僕が果たすべき役割なのです。佐藤家を継ぐはずだった忠康どのはもういない。僕が自分のために起こした戦のせいで。本来佐藤家はこれからも続くはずだった。失ったものを贖うにはこうするほかなかったんです……」

 

「そうは言いつつこの人ってば、私にベタ惚れなんですよ昭武どの。この人の言うことは今でこそ半分はしみったれた本音ですが、徐々に照れ隠しの割合が増えていきますよ」

 

「堅忠、僕は真面目な話をしてるんだぞ…」

 

「はいはい、わかりました。それでいつまで惚気ずにいられるんでしょうかね〜」

 

しんみりとした話をしようとしている利治の横で堅忠がいちいち茶々を入れる。利治は邪魔されて怒ってみせてはいるが、本当に嫌そうには見えない。

これを見て昭武は(なるほど、中々にいい嫁を貰ったじゃないか)と温かい気持ちになるのであった。

 

 

昭武が加治田城で良晴からの連絡を待っている間に、織田家の美濃侵攻は新たな局面を迎えていた。

本城を清洲から小牧山に変え、主として墨俣に築城を試みるようになった。

墨俣は稲葉山城の西にある地点で長良川などの河川の中洲に位置する。ここは稲葉山城を守るにあたっての要地であり、さらに稲葉山城と西濃をつなぐ街道も通っている。仮にここに城を建てることが出来たなら、稲葉山城と西濃の豪族たちの連絡が途絶え、義龍政権を孤立せしむることができる。

それゆえに警戒が厳しく、一度柴田勝家が築城を試みたが、あっけなく追い散らされて失敗した。

その報が昭武たちに届くと共に、良晴の忍びである蜂須賀五右衛門が昭武のもとに姿を現した。

 

「相良氏からの出陣要請でござる。星崎氏、軍勢を率いて稲葉山城にしゅちゅじんしちぇくじゃちゃれ」

 

「ん?承知したが、墨俣じゃなくていいのか?」

 

「墨俣で相良氏はなにやら大かがりなことをしようとしているようでごじゃりゅ。しょりぇはじょうやらきゃわにゃみちゅーじゃきぇじぇおきょにゃうにょう………」

 

五右衛門がかみかみで昭武にはもはや何がいいたいのかわからなかった。

 

「要は墨俣に援軍はいらない、とそういうことだな」

 

「左様でござる。では、拙者はこれにて」

 

要件を告げると五右衛門が昭武の前から去っていった。

 

「昭武殿、今の方は?」

 

「桜夜か、今のは相良の忍びだ。出陣の要請をされた」

 

「要請先は稲葉山城、ですか?」

 

「そうだ、といっても相良のために城攻めなんてしてやらねえ。稲葉山城を包囲するだけで十分だ」

 

昭武はなにやら考えついたようで口の端を吊り上げて笑みを浮かべていた。

 

翌日の早朝、昭武たちは軍の編成を終え、六千の兵をひきいて稲葉山城に進軍を始めた。

当然、義龍側も進軍を止めようと何度か迎撃を試みたが、義龍と半兵衛の不在が大きく不利に働き、義龍政権の軍は義龍と共に良晴による墨俣築城を阻止すべく出陣したものを除けば、全て稲葉山城に押し込められた。そこを連合軍が包囲することで蓋をする。

 

「織田信奈様からの使者が来ております」

 

信奈の使者が昭武のもとに到着したのは稲葉山城の包囲が完成してすぐの頃であった。

 

「信奈様は昭武様に墨俣へ援軍に赴いてほしいとおっしゃっております。承知して下さりますか?」

 

「却下だ。むしろ信奈公が自ら墨俣に後詰めすることをお勧めする」

 

「何故ですか?」

 

「稲葉山城に織田家が攻め込んでも落ちはしない。それはオレたち連合軍も同じことだ。だが、幸いにも義龍が墨俣に行っている。織田家が墨俣に行けば、わかるな?」

 

良晴の構想にはないことであったが、昭武は墨俣と稲葉山城に軍がいることを利用し、即席の挟撃策を練り上げていた。

即席だけあって昭武たちが義龍を討つために出たと同時に後背の稲葉山城の兵が昭武たちに攻めかかり、挟撃を受けるという大穴こそあるが、それは盛清率いる飛騨忍びたちが稲葉山城内で破壊工作を行うことでごまかした。

 

「……!承知しました。信奈様にはそのように伝えておきます」

 

「あと一つ、信奈公に「相良良晴こそ真の忠臣、決して奴を粗雑に扱うことなかれ」と伝えておいてくれ」

 

「はっ、承知しました」

 

使者が昭武の陣中を去ってのち、昭武は墨俣の方を見やってぼやいた。

 

「さて、相良。お膳立てはしてやった。無駄にしてくれるなよ」

 

***************

 

墨俣では、良晴と川並衆ができかけの墨俣城で義龍軍と戦いを繰り広げていた。

墨俣城は城といいつつ、実態は良晴と川並衆が一晩で組み上げられるように作られたひどく簡易的な砦であるため防御力に乏しく、義龍軍が侵入すれば一時間も経たずに落城してしまう。そのため、墨俣城外で義龍の侵入を防ぐ必要があった。

しかし、義龍軍の兵は八千ほどだが、良晴方の兵は川並衆だけなので二百にも届かない。さらにいえばそのうちの約半数は墨俣城の普請にあてなければならないため、事実上の兵力差は約百倍となる。

 

「くそ、間に合わなかったか!」

 

迫り来る義龍の大軍を見て良晴は独語する。

 

(やっぱ俺じゃ藤吉郎のおっさんの代わりは荷が勝ちすぎるのか⁉︎)

 

良晴はそう思うも口にしない。

自らの目の前で五右衛門と川並衆が多勢に無勢の中戦っている。弱気な言葉を吐いては彼らを裏切ることとなる。

 

「相良氏!」

 

「ああ、五右衛門。種子島をくれ、俺も戦うっ!」

 

五右衛門から種子島を受け取り墨俣城の櫓の上から義龍軍に照準を合わせる。

良晴は未来でも戦国に来てからもを含めて水鉄砲しか鉄砲を撃ったことがないど素人だ。しかしこの圧倒的な数の差ならば川並衆に誤射する心配はない。

 

「この墨俣城を壊させてたまるかよっ!」

 

良晴の撃った銃弾は美濃の将の眉間を見事撃ち抜いた。

 

(よし、イケる!)

 

種子島が有用だとわかると良晴は種子島を何発か義龍軍中に撃ち込む。いずれも見事命中した。しかし種子島を持っているのは良晴だけではない。

 

「あ、危ないでござる、相良氏!」

 

五右衛門が叫ぶと同時に種子島の発砲音がする。

さすがの球よけのヨシも銃弾相手には通じない。

良晴は食らったと思ったが、食らっていなかった。

 

「外した、のか?」

 

良晴がつぶやく。しかしそれは間違いであった。

良晴の目の前で戦っていたはずの五右衛門が良晴の足元でうずくまっていた。

それを見て良晴は自分を貫くはずであった銃弾を五右衛門が代わりに受けたのだと悟った。

 

「……ごえ、もん?」

 

良晴が恐る恐る声をかける。話しかけられた五右衛門は良晴に向けて顔を上げる。

 

「……相良氏……ご無事でござるか……。やはり……すべての実を拾うのは、無理でござったな……」

 

途切れ途切れながらも五右衛門が余力を振り絞り、良晴に話しかける。

 

「ちょ、まてよ五右衛門。マジかよっ?嘘だろ⁉︎」

 

「……おのこは、いずれ……選ばねばなりませぬ……選ぶ勇気を持たれよ、ちゃがらうぢ……」

 

そこまで口にすると五右衛門の頭ががくりと地に沈んだ。

静かに瞳を閉じた五右衛門の小さな身体を抱きながら良晴は慟哭する。

 

「これじゃ、話が違うじゃねえか……!」

 

墨俣一夜城を発生させたはずなのに五右衛門が死んだ。

やはり俺では藤吉郎のおっさんの変わりは無理だったのか⁉︎

口に出さまいとしていた思いが次々と漏れ出ていく。

 

「許さねえ、許さねえぞ斎藤義龍!!」

 

良晴はゆらりと立ち上がり、種子島を構え直して義龍の軍中に何発も何発も撃ち込んだ。

だが、弾薬にも限りがある。四半刻あたりで全て使い切らんとしていた。

何もあきらめないものは結局は全てをあきらめねばならなくなるのか。良晴にはもはや打つ手は残されていない。そう思われた時だった。

 

「た、竹中半兵衛重虎、義によって……いえっ、義より大切なもののために良晴さんに助太刀します……!」

 

「ににに西美濃三人衆筆頭安藤守就も仕方なく相良の坊主にお味方いたす……」

 

「やれやれ、無謀な戦いをしておるな」

 

半兵衛と救出された守就と白雲斎が義龍軍の背後から戦場に割り込んで来た。

 

「なっ、今孔明が敵方にっ!」

「西美濃三人衆の筆頭も敵方だぞ!」

 

半兵衛と守就が良晴についたことは義龍軍に強烈な衝撃を与えた。半兵衛は言うまでもなく、守就も中濃三城無き義龍政権にとっては貴重な戦力であった。

衝撃の余波は将にも広がる。

 

「おうおう……!あの半兵衛が……」

「ついに仕えるべき主君を得たか!」

 

西美濃三人衆の残りの二人、稲葉一鉄と氏家卜全はかねてより半兵衛の将来を嘱望していた。ゆえに彼らは半兵衛が良晴の加勢するやいなや義龍側から良晴方に寝返った。

これで義龍政権から中濃三城と西美濃三人衆が失われ、将兵が動揺し、敗色が濃厚になる。

 

「儂は絶対に負けぬ!この儂こそが美濃の国主!親父どのよ、弟よ、うつけ姫よ、儂が生きてある限り美濃は奪えぬと思い知れい!」

 

しかし、義龍はそれでも苛烈な攻勢を維持した。

化け物じみた義龍の執念が美濃の兵に伝播する。一貫した恐怖が再び義龍軍を統制し、組織的な攻勢が再開された。

その攻勢の前に良晴たちは善戦するも、じりじりと押されざるを得なかった。

 

(ここまでやってもダメなのか?未来知識をもってしてもダメなのか?あと一押しで義龍軍が墨俣城に侵入してしまう……!)

 

気づけば良晴は種子島を槍に持ち替え、築城の前に信奈から預けられた瓢箪を兜に縛り付けて義龍に向かって突撃を始める。

良晴の槍は未だ拙い。だが、諦めたくないという思いが良晴の背を押し、力となる。気力と気迫だけで何人もの義龍兵を討ち取った。

しかし、数の前には如何ともし難く、良晴は城内に後退を余儀なくされる。

だが、もう一度良晴方に追い風が吹き始める。

義龍軍の左側に突然木瓜と永楽銭の旗印の軍勢が現れ、そのまま攻撃を始めたのだ。その先頭にいるのは……。

 

「あれはわたしの瓢箪!墨俣城はまだ落ちていないわ!」

 

「墨俣築城失敗の汚名を挽回すべく柴田勝家ただいま見参!全軍、姫様に続け〜!」

 

「昭武どののおかげで間一髪間に合いました。満点です」

 

「良晴……今、助ける…」

 

信奈に勝家、長秀、犬千代といった織田家オールスターズだった。

 

「信奈⁉︎なんでここに⁉︎なんで稲葉山城に行かなかった⁉︎これじゃ昭武たちを動かした意味がねえ!」

 

良晴は自分が墨俣城を築城し囮になることで、稲葉山城を手薄にして織田軍と昭武たちに稲葉山城を落とさせるつもりだったのだ。しかし肝心の織田軍が墨俣に来てしまえばこの策は意味をなさない。

一方先頭で指揮を執っていた義龍は「まさか」と唸り声をあげていた。

 

「全軍で墨俣を救援だと⁉︎稲葉山城に手勢を割いて向かわせぬのかっ⁉︎」

 

用心深い義龍は、稲葉山城にもたっぷりの守備兵を残しておいた。信奈は野戦には強いが、城攻めを苦手としている。その上、兵力が少ない。だから自軍を墨俣と稲葉山城とに分断しても織田勢を各個撃破できると考えていた。

無論、連合軍に援軍を頼んで稲葉山城を攻城したり、墨俣に援軍として向かわせる可能性も考えたが、中濃三城に引き続き、稲葉山城や墨俣築城まで連合軍に手を貸されては織田家の面子が立たない。ならばこの戦に連合軍は参戦する可能性は低い。そうまで読み切ってのこの布陣だった。

しかし実際は織田勢全てが墨俣に、連合軍が稲葉山城を包囲して義龍の退路を塞いでいる。

連合軍は兵数こそ織田勢と同等だが、主体が精強であることを義龍自身が知っている美濃兵と数年間に及ぶ三木直頼没後の動乱を戦ってきた飛騨兵に、雷源と共に北陸の戦乱の最前線で長年戦ってきた平湯兵で、事実上織田勢の四、五倍の戦力を誇っていた。そして織田勢も柴田勝家や前田犬千代などの猛将がこぞって攻めかかり、義龍軍に多くの被害を強いている。

この時、義龍は自らの敗北を悟った。

 

(儂はついに親父どのにも、弟にも、飛騨の山猿にも、うつけ姫にも勝てなんだ。結局は親父どのの眼鏡が正しかったということか。儂はただ飛騨の山猿のように、織田のうつけ姫のように。親父どのに実力を認めてもらいたかった。そして儂が美濃の後継にふさわしい者であることをもな。そうでなくては儂の存在に意義はない……。負けた以上、もはやその願いも叶わぬか……!)

 

「斎藤義龍!おまえの首はあたしが貰う!」

 

「軍を稲葉山城に返す。負けると決まった戦、これ以上兵を無駄に死なせるわけにはいかぬ」

 

驀進してくる勝家を睨み付けながら、義龍はついに墨俣から退却を決めた。

 

相良良晴の墨俣一夜城は終わった。

戦後の墨俣城にて良晴は信奈に平伏した。が、それはやはり形だけですぐに信奈に食ってかかった。

 

「なんでここにいるんだよ信奈?稲葉山城を攻めろと言っただろうが!長政とそんなに結婚してえのかよっ!」

 

「ふん。あんたを捨て殺しにする気まんまんだったんだけど……どこかの誰かさんのせいで急に気が変わったのよ。運が良かったわね、サル」

 

「しかしなあ……」

 

「わたしもね、あんたと一緒で欲が深いの。墨俣に城も建てたかったし稲葉山城を盗るつもりよ。何もあきらめない主義なんだから」

 

「まあ、義龍は城にも兵を残していたくさいけどな……思ったより寄せ手の兵数が少なかった」

 

とにかく良晴は、命を拾った。五右衛門もまた忍び装束の下に鎖帷子を着込んでいたため、気を失うだけで済んだ。

 

 

義龍はその後どうにか墨俣を離脱するが、井ノ口の郊外で昭武たち連合軍に捕捉されていた。

 

「即席の割にはうまくいったな。信奈公が墨俣に行くかどうかは正直分からなかったが、行ってくれて良かった。やはり相良が大事だったと見える」

 

信奈による強襲ですでにかなりの被害を受けていた義龍軍はもはやかろうじて軍勢としての体裁を保っているだけの集団に過ぎない。

義龍は連合軍相手に墨俣同様奮戦したが、大勢は変わらず優花の矢に射られて落馬したところを捕らえられた。

その後、連合軍は稲葉山城に急行。そして大手門で捕らえた義龍を稲葉山城の将兵に見せつけ、ついに降伏せしめた。

 

こうして美濃動乱は織田軍と熊野・斎藤連合軍の勝利で幕を閉じる。

されど、まだ全てが終わったわけではない。

織田信奈と浅井長政の婚姻。織田家と熊野家の間の美濃の分配などまだまだ解決しなくてはならない問題が山積していた。

 




読んで下さりありがとうございました。
二章・美濃動乱編は残り一、二話を予定しております。
稲葉山城攻めは昭武が包囲した以上義龍は逃げ込めないのでカットし、アニメに近い終わりかたになりました。
誤字、感想、意見などあればよろしくお願いします。

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