オリ大名をブッこんでみた。   作:tacck

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第二十話です。
今回でついに原作のあの娘が出てきます。

では、どうぞ、


第二十話 美濃動乱②【加治田城の戦い】

 

加治田城の空気は一晩にしてがらりと変わっていた。原因は桜夜が放ったくノ一、出浦盛清がもたらした情報が原因だった。

 

「織田信奈は二度に渡り稲葉山城に攻め込みましたが、撤退しました!織田信奈を退けた義龍は関城にとって返し長井道利を助けるために三千の兵を率いて加治田城に迫ってきています!」

 

「信奈公が敗れただと⁉︎それは本当か?」

 

桶狭間にて今川義元を降伏せしめた信奈の敗報に昭武は驚きを隠せなかった。義龍相手に一度ならともかく二度も負けるとは思っていなかったのだ。

 

「義龍が、それほどの将だったというのか……?」

 

「いえ、殿。織田信奈を義龍が独力で倒すことは叶いません。されど今の義龍の麾下には竹中半兵衛という天才軍師がいるのです」

 

「竹中、半兵衛?知らねえ名だな。仮にそれほどの人物がいるなら道三公がすでに家臣にしているだろう」

 

「殿のおっしゃる通り、道三は半兵衛を麾下に加えようとしました。ですが、半兵衛はずっと道三の仕官願いを断ってきたようです。しかし半兵衛は長良川の戦いには義龍側で参陣し、道三を破りました。織田信奈との戦いでは十面埋伏の計と石兵八陣を用いて織田勢を撃退したようです」

 

十面埋伏の計、石兵八陣はどちらも三国志演義で使われた戦術で前者は程昱、後者は諸葛亮が用いた。ただどちらの策も大掛かりなもので実戦で使うには手間がかかる戦術だった。

 

「そうか…、そんな軍師が敵軍にいるのか……」

 

昭武は眉をひそめる。

 

「こちらの戦力は二千五百、向こうは五千ぐらいには膨らむだろうな。加治田城自体は堅城と言っていいが、オレや利治殿に守城戦の経験はない。なかなかに厳しい戦いになりそうだ」

 

昨日の堂洞合戦は多大な被害を連合軍に与えた。死者は四百を越え、重傷者は千に迫る。手傷を負ってない者の方が少ないぐらいで逃亡兵も後を絶たなかった。

 

「殿、いかがしますか?」

 

「籠城して迎え撃つ。忠能殿、義龍軍を防ぐにはどこに兵を配置した方が良いでしょうか」

 

「最優先は西にある絹丸ですな。あそこを獲られてしまえば街道が向こうの手に落ちこちらは守り難くなりまする」

 

「そうか、ではまずは絹丸に弓と鉄砲をうまく扱える者五百名を置こう。指揮は利治殿、忠康殿あと優花と桜夜に任せるか」

 

「昭武殿。我が息子や利治殿や優花殿はともかくとして桜夜殿を激戦地になるであろう絹丸に配置するのは……」

 

忠能が不安げな表情を浮かべる。

忠能は桜洞城でのことが気にしていた。

端から見た場合、桜洞城での桜夜は策の出来は良いものの、兵を多く死なせ、敵に本陣まで迫られた頭でっかちという印象を受けることが多いからであった。

だが、昭武は頑として桜夜の配置を変えようとはしなかった。曰く、

 

「確かに桜夜は現在は頭でっかちの将に見えるかもしれない。だが、けして愚将ではない。きっちり失敗を学び取る力は持っている。しかるべき場しかるべき時に用いれば彼女は強い」

 

「要は使いようだとおっしゃるのですな」

 

「ああ、彼女は兵の支持を常に得ている。桜夜の隊は昨日一人の逃亡兵も出なかったらしい」

 

(桜夜の持ち味はおそらく惹きつける強さ、守る強さ、迎え打つ強さだ。これは長近もそうだが、桜夜のそれはさらに強い。昨日の激戦で逃亡兵が出なかったのはその一端に過ぎないし、桜洞城の時に彼女の近衛兵だった者が言うには桜夜はあの姉小路頼綱の前に出頭し臆さずに一太刀を浴びせようとしたらしい。自分より強い宗晴を軽くあしらったと前もって聞いていたのにもかかわらずだ。弓の名手である優花でさえ、まぁあれは初陣だったが出陣する前は怯えていた。なのに桜夜は違った。詰まるところ琴平桜夜は総括すれば、かなり肝が据わった将と言えるかもな)

 

「昭武殿がそこまで言うのなら信じましょう」

 

忠能はそう言うと自らは加治田城の北東部に鉄砲、弓兵五百名を引き連れ布陣した。

 

 

「利治めなかなかやる……、いや正確には星崎昭武の力か?とかくまさか加治田城、堂洞城が奴らの手に落ちるとは思わなんだ」

 

斎藤義龍は悠々と加治田城へ軍を進めていた。その表情に焦りなどはない。

 

「義龍様、寡兵と雖も油断は禁物。星崎昭武、いや熊野家の名だたる将の多くは寡兵での戦に長じております」

 

その義龍の隣に侍る男は淡々と義龍に言う。

 

「そうか、だが如何に星崎昭武が強いといってもお前には及ぶまい。そうであろう?半兵衛よ」

 

竹中半兵衛、今孔明と呼ばれる陰陽師軍師。彼こそが義龍の自信の根源と言えた。

 

********************

 

翌日の早朝、斎藤義龍軍三千が加治田城を攻め立てていた。

北東部には義龍の妹の斎藤龍興を置き、絹丸には第一波として長井道利と竹中半兵衛が攻め、義龍は少し離れた本陣で待機していた。

 

「敵は連合軍である以上指揮する将が多い。少なく見積もっても熊野軍、残党軍、加治田城軍の三つで三将。一つ崩せば戦線が乱れ、二つ崩せば烏合の衆に成り果てる。三つ崩せば言うまでもなかろう?」

 

半兵衛が采配を振るう。その先には忠康率いる加治田城軍がいた。

 

「くっ!さすが今孔明。なかなか手厳しい攻めをするッ!」

 

忠康は馬に乗って縦横無尽に指揮をして半兵衛の攻めを防ぐがやはり半兵衛の方が優勢だった。

 

「あの騎馬に射点を集中し、射かけよ!」

 

半兵衛が采配を振るうと同時に総数にして数百になろうかというほどの矢が忠康に降り注ぐ。

 

(嘘、だろ?)

 

忠康の意識が暗転する。

身体から力が抜けていき、ついに忠康は落馬した。

 

「うわああああ!若殿ーー!!」

 

忠康の落命は加治田城兵の士気を大幅に削ぎ落とした。

 

「将亡き兵など恐るるに足らず、三斉射せよ」

 

天才軍師によって統率された兵が行う斉射三連は抗いがたい力の暴雨となり忠康の一軍を容赦なく吹き飛ばした。

 

 

絹丸の優花・桜夜隊では、盛清が優花達に戦況を知らせていた。

 

「大変なことになりました。忠康殿が討たれてしまいました!加治田城の兵はすごい動揺しています!」

 

「え、うそ⁉︎」

「……!盛清さん。それは本当なんですか?」

 

戦闘が始まってまだ二、三時間ほどしか過ぎていない。優花達はまだ加治田城兵は持ち堪えているだろうと考えていたのだ。

 

「私自らこの目でしかと見た情報です。間違いとは思えません」

 

出浦盛清は雷源が軍略や武芸を桜夜達に教えたのと同様に白雲斎から忍術を教えられていた少女で、昭武達よりも年少ながら既に技量は一流の域に達していた。

 

「そうですか……まずいですね」

 

桜夜は頭を抱える。佐藤忠康は加治田城兵の士気の源であった。それが討たれた以上、忠能が出張らない限り軍は壊乱したままだ。

桜夜は一寸目を閉じる。

 

(されど忠能殿は北東の兵を預かっている。西の絹丸に来ていただくのは無理、ですね)

 

そして目を開くと同時に命を下そうとしたが、優花に止められた。

 

「盛清さん。わたしの隊と、そして加治田城兵の足軽頭全員にこう伝えてください。蜂矢の陣を組んで全軍……」

 

「ちょっと待ってよ桜夜ちゃん。あたしにいい考えがあるんだけど乗らない?」

 

優花は悪戯を企んでいるような笑顔を浮かべている。その後、優花の考えを聞いた桜夜もまた「それはいいですね」と意図を知らなければ、そこらへんの男がうっかり惚れかねないほどの笑みを浮かべていた。

優花の策が行われてから三時間ほどが経つと半兵衛の軍の攻勢が次第に弱まっていた。

三時間前はまとまって攻撃を仕掛けていたが、今は散発的にしか行われておらず、兵の体力も少なくなってきた。

 

(兵の中に俺の命通りに動けぬ者が増えてきたな…)

 

さらに半兵衛の指揮についてこれない隊も出てきている。

優花の考えは、優花が自ら育ててきた弓隊で敵の分隊長を狙撃しまくるというものであった。

 

「いくら将の知能が高くとも、兵を動かせねば意味はありません。優花殿、お見事です」

 

「桜夜ちゃん。本当はこの策はお父さんの策を改変しただけのものなんだ。櫓の射点が重なるところに誘い込んで分隊を使い物にならなくする……。これがお父さんたちがやっている戦法。でもあたしはそんな器用じゃないし、堪え性がないからあたしにはできない。あたしでもお父さんと同じように戦うためにはどうしたらいいんだろうって考えたらこの策が出てきたの」

 

優花は少し照れ臭そうに解説する。されどそれから一時間が経つと城内に霧が立ち込めてきた。

 

(ここまで俺の指揮が伝わらないとなると、敵は分隊長を狙撃していたと考えるのが自然。これ以上分隊長をやらせはせぬぞ)

 

この霧は半兵衛が陰陽道の呪を用いて作り出したものであった。

霧が出てしまえば、優花はともかく優花兵は分隊長を狙撃できず、優花の策は早くも頓挫した。

しかし熊野軍の将はなにも優花だけではない。

 

「霧が出たのなら柵や櫓の陰に兵を潜ませましょう」

 

今度こそ桜夜が命を下した。霧が出たとしても、守城側である熊野軍は城内をある程度把握しているため潜むにはなんら問題はない。

霧の中、半兵衛の兵に熊野軍は奇襲を仕掛ける。霧により視界が悪くなり、いつ襲ってくるかわからない。その恐怖は半兵衛隊を着実に追い詰めていた。

 

 

絹丸の別の場所にて一人の武士が槍を振るっていた。武士の名は湯浅讃岐。ようやく二十歳になったばかりの若武者であったが、槍さばきの巧みさに定評があった。

 

「敵の動きが鈍くなっている……!これを天祐と言わずしてなんというか!各々、この湯浅讃岐に続けぇ!」

 

「湯浅讃岐?誰だそりゃ」

「けどあの槍さばき、ただ者じゃねえぞ!」

 

「つべこべ言うな!進めったら進めーー!!」

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉︎」」

 

湯浅讃岐が愛馬にまたがり駆ける。右に千鳥槍、左に軍配、背に霧の中でも目立つ赤旗。その後ろには事態が良く飲み込めていないものの、著しく士気が上がった加治田城兵がいた。

 

「加治田城の兵の士気がなぜか上がった。これはいい機会だ!利治隊も進めーー!」

 

便乗する形で利治も半兵衛の軍に攻勢をかける。

 

「ほう…」

 

半兵衛は目を細めていた。

集中射撃で忠康を討ち取ることで加治田城兵を戦略的に使い物にならなくさせたつもりだったのに、加治田城兵が組織だった反攻に出たのだ。そしてその反攻を指揮しているのが、将ですらない湯浅讃岐だったからだ。

 

「血迷ったか?まあよい、向かってくる敵に斉射せよ」

 

「皆の者、馬脚、走力を上げろ!」

 

先ほど忠康を屠った矢の雨が讃岐たちを襲う。だが、讃岐隊は死に物狂いで走り、うまく射点の前方に逃れたために損害は軽微だった。

 

「あんまりにも粗雑に過ぎる……」

 

讃岐の脳筋突撃に半兵衛は絶句する。自分では絶対こんな真似はできないし、しないと。

斉射をすり抜けた讃岐隊は半兵衛に肉薄し、後続も高い士気をもって突撃してくる。半兵衛隊は優花の策によって分隊長を多く始末され、さらに弓兵をかなり多く編成していたためになすすべもなかった。

 

(まさか主の策が馬鹿力に打ち破られるとはな)

 

今この場で式神を召喚すれば戦況を義龍方に取り戻すことができただろう。しかし今ここにいるのは「本物」の竹中半兵衛ではなく、ドーマンセーマンの護符もこの偽半兵衛を召喚するので使い切ってしまっていた。

讃岐隊の突入から三十分弱、半兵衛隊はいよいよ収拾がつかなくなる。

 

「退くしかない、か」

 

半兵衛は渋々撤退を決意した。

 

竹中半兵衛率いる第一波を退けた後、昭武は城に残った兵の半数を率いて突撃し、義龍軍に多大な流血を強いてこちらもまた撤退に至らしめた。

援軍を撃破された長井道利は自らの居城の関城に退き、籠城の準備を整える。昭武たち連合軍は連戦による兵の疲労を鑑みてそれを追うことが出来なかった。

 

********************

 

これにて加治田城の戦いは熊野・斎藤・加治田城連合軍の勝利で終わった。

しかし加治田城に昨日の様な活気はない。忠康の死が色濃く尾を引いていた。

「忠康……!忠康……!」

 

忠能が何度も息子の名前を呼ぶ。八重縁の時は信周への闘志に転化させることでやりきったが、二度目は無理だった。

利治は自らの意思で始めた戦において明確な犠牲者が出てしまったことを悔やんでいた。無論、だからといって稲葉山城への復帰をやめるつもりは毛頭ない。

 

(いつか必ず忠能どのには報いなければ。僕は責を負わなければいけない。この戦を起こした者として)

この時、利治の人生に一つの指針が付け加えられた。

 

「……武兄、やっぱ悲しいね」

「……ああ」

 

昨日ただ一度夜を共にしただけの昭武達にも悲しみが広まっている。昭武の脳裏に昨日の宴の光景がよぎる。

 

(こうなることがわかっていれば、恥ずかしがらずにもっと楽しめば良かった。……俺たちは友足り得る人物をまた一人失ったのか……)

 

昨日の友が今日の死者になる。これは戦国の世ではありふれたことではあるが、だからこそ泰平の世を実現しなければならない。そう昭武は決意を新たにするのであった。

 

 




読んで下さりありがとうございました。
ここで昭武たちを負けさせてしまうと話が続かなくなるので仕方なく半兵衛ちゃんには負けてもらいました。ちと無理やり感が否めません。
次回からはしばし原作に沿わせます。
誤字、感想、意見、質問などあればよろしくお願いします。

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