マシュマロ型提督   作:gromwell

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今回のメインは北上様!
しかし、書けば書くほどキャラがかけ離れてく感じが……。
まぁなんて言うの?そんなこともあるよね……


第七話『デジカメ北上』

 少々、冷え込む日も増えてきたこの頃、そろそろ冬支度を始める時分である。

 

 その冷たさを増してきた潮風に吹かれっぱなしで、埠頭に座り込んだ麻守は黄昏ていた。

 

 丸まった背中からは哀愁が漂っている。

 

「いやー、あの時の提督は格好良かったよ~」

 

 気だるそうな、やる気を感じさせない声と共に、北上が背後から麻守にのしかかっている。

 

 麻守の頭に顎を乗っけて「こりゃ楽だね~」とご満悦の北上こそが麻守が黄昏ている原因であった。

 

「最近のは画質も音質も何気に凄いよねぇ」

 

 北上の両手にはシャンパンゴールドのデジタルカメラが握られている。

 

 そして、その液晶画面にはこの間の棲地攻略作戦前日の夕食の様子が動画という形で映し出されていた。

 

 ちょっといい?と北上に連れ出された麻守は、しばらく前からこの状態に追い込まれていた。

 

 麻守に見せつけるような角度と位置にデジタルカメラの液晶画面をもってくる辺り、北上の性格がよく判る。少し、意地が悪い。

 

 動画はちょうど頬を紅潮させた麻守が熱弁をふるい終わったシーンだ。

 

 画面に向かって立てた人差し指を唇にあてた麻守がウィンクした。

 

「ぬぅ……」

 

「いやー、いいねぇ、痺れるねぇ~」

 

 幾らちょっと酒気を帯びていたとはいえ、随分恥ずかしい事をしたと麻守は後悔した。もう奈良漬けは口にすまいと固く誓った麻守である。

 

「いつの間に撮ったのかね……」

 

「ん~と、普通に撮影してたよ~。写真も撮ったんだけど気付かなかった?」

 

 液晶画面の映像が切り替わり、足柄に介抱される麻守の姿が映し出された。

 

「……おふ」

 

 第三者から見たらこんな風に見えていたのかと麻守は今更ながら、頬を赤らめた。

 

 他にも赤城と加賀がもの凄い勢いでフィッシュカツを頬張る姿や、妙高と高雄が談笑する姿、微妙な表情で奈良漬けを口に運ぶ那智、満面の笑みで羽黒が雪風を抱っこしている動画が次々と流れていく。

 

「作戦終了後の祝勝会のもあるけど見ちゃう?」

 

「いや、遠慮しておこう……」

 

「そこは見りゅうぅぅぅう!!って叫ぶとこだよ提督~」

 

 結局、朝まで飲み明かした祝勝会では、いつの間に酔い潰されていた麻守は食堂の床に大の字で転がった状態で目を覚ましたのだった。

 

「……何が起きたのか知る必要に迫られた時に見せて貰いますぞ」

 

 大の字に寝転がった麻守のお腹を枕に大井が寝ていた経緯について、麻守は事実を直視するのが怖かったのだった。

 

(その、何かしらの間違いなどは無かったと信じたい……)

 

 一度目覚めた大井が、此方を見上げてから二度寝を始めた時など心臓が止まるかと思った麻守である。

 

(今後、酒が出たときは早期撤退せねば)

 

 そんな麻守の決意を知ってか知らずか、北上はご機嫌な様子である。

 

 きっとこの動画を見せて麻守をからかいたくてウズウズしていたのだろう。

 

「それで、用事は何ですかな?」

 

「あー、北上様が撮影した動画はお気に召さなかった?」

 

「……穴があったら入りたい」

 

「そっかー。でさー、提督ってノートパソコン持ってるでしょ」

 

 麻守のぼやきをあっさりとスルーして北上は訊いてきた。

 

「うむ、あるにはあるが……」

 

「あのさ~、そろそろカメラのメモリーがいっぱいになっちゃうから、提督のノートパソコンに動画と写真を保存しちゃっていい?」

 

「それは構わんが……」

 

 全然使ってないから動くか分からんですぞと、麻守は続けた。

 

「あ、大丈夫、たぶん何とかなると思うよ~」

 

 北上がうーんと両腕を伸ばした。

 デジタルカメラはいつの間にかレンズを二人に向けている。

 

 パシリと電子音が鳴る。

 

 北上の手の中でくるりと横に半回転したカメラの液晶画面には、やや右に傾いた麻守の困惑気味な顔とジト目でニヤリと笑う北上の顔が写っていた。

 

「お、意外と上手くいくもんだね」

 

 満足げに写真を保存すると、北上はぐでーっと全身の力を抜く。北上の全体重が麻守にのしかかる。

 

「やっぱ提督といると楽だね~」

 

「む?」

 

「いやぁ、ちょうどいい距離感って言うのかな?疲れないんだよね~」

 

 はて?と首を傾げる麻守。

 

「あまり意識したことはないですな」

 

「だろうねぇ、提督って頭悪いし」

 

 さらりと酷いことを言うが、そんなに的外れでもないので麻守は何も言い返せない。

 

「でもさ、だからかな。私達、艦娘の事をよく見てるよね~……。やだ、提督のえっちー!」

 

「えっちーじゃない」

 

「そだね、うっちーだね。名前的に。あ、うまろっち?」

 

「変なあだ名を付けないでもらいたい」

 

 我が儘だね~と北上が笑った。

 

「真面目な話ね、提督が艦娘をよく見てるってのは視点っていうか、なんかそういうとこなのさ」

 

「む……?」

 

 なんとも要領を得ない北上の物言いに、麻守は首を傾げるしかない。

 

「なんて言うかな~。あれだよ、艦娘ってヤツの定義……かな?」

 

 ますます意味が分からない。この調子だと、傾げた首が一周してしまうのではないだろうか。

 

「提督はさ~、艦娘の事、どんな風に認識してる?兵器?それとも女の子?」

 

「……」

 

「一体、どっちが正解なのかね~?」

 

「むぅ……」

 

「お偉いさんのなかには艦娘は兵器だーってのもいるよね。艦娘は人間の命令に従ってさえいればいいって感じで」

 

 北上が空いた左手で麻守の左頬をむにむに弄ぶ。

 

「反対に、艦娘だって女の子だーって熱く語る奴もいる。戦うだけが艦娘じゃないって」

 

「けどさ、それっておんなじなんだよね~。意見は正反対なんだけどさ。艦娘はこうだって決め付けて、それを私らに押し付けてるってとこはさ」

 

「それは……」

 

「何で女の子の姿なんだろね?」

 

「さあ、なんでだろうなぁ」

 

「やっぱ、わかんないよね」

 

「さっぱり、わからんですな。でも……」

 

 何さーという北上の気の抜けた声が頭上から降ってくる。もう真面目モードは飽きたらしい。

 

「兵器というのも、女の子だというのも、艦娘の一側面に過ぎないのではないですかな」

 

「おー……」

 

 だらけきった声に脱力しかけるけれど、そこはグッと堪える麻守。

 

「どちらが正しいとか、間違っているとかではなく、そのどちらもが艦娘の姿なのではないのかと、儂は思うのだが……」

 

「そだね~、私もそう思うよ」

 

 北上は麻守の頭に乗っけてた顎の代わりに左頬を弄んでいた左手を乗せた。

 

「よーし、よしよし、偉いね~。ちゃんと言えたねぇ~」

 

 撫で撫でわしゃわしゃ、麻守の頭を撫で回す。

 

「痛い痛い、髪の毛が指に絡んで痛い……」

 

 ひとしきり撫でると満足したのか北上は麻守から離れた。涙目の麻守がホッと息を吐いた。

 

「ありがとね、提督」

 

「ぬ?」

 

 思いがけない北上の言葉に麻守は硬直した。

 

 なんだろう、何かお礼を言われるような事をしたのだろうかと麻守は首を捻った。

 

「私ら艦娘を、ただの兵器扱いしないでくれて……、ただの女の子扱いしないでくれて──」

 

 ぽすっと麻守の背中に何か柔らかいものが当たる。何か、温かいものに包まれる。

 

「ちゃあんと、艦娘として接してくれてさ」

 

 耳元で、北上の声が澄んだ鈴の音の様に綺麗に言葉を奏でた。

 

「ひとつ、訊いてもいいですかな?」

 

「んー、なにー?」

 

「何故、カメラで撮影を?」

 

 ああ、私のキャラじゃないよねーなんて北上はケラケラ笑う。

 

「なんかさ、今のこの時代ってずーっと先の未来からみたら、真っ暗な時代だって思われてそうだよねぇ」

 

「それが、ちょっと悔しくて」と照れくさそうに言った。

 

「めそめそ泣きながら生きてたなんて、勝手に決め付けて欲しくないんだよね」

 

 ──だからさ、写真とか動画くらい残してやりたいんだぁ。私らがこの苦しい時代にだって、こんな仕草で、こんな笑顔で笑い声で、前を向いて未来に進んでいったって記録。

 

「こういうの、青葉の方が似合うんだろうけどね~」

 

 少しだけ、北上が沈んだ声で言った。

 

 そんな北上の言葉をスルーして麻守は言った。

 

「カメラ、貸してくれますかな」

 

「どしたの、突然?」

 

「儂も一枚、撮りたくなりましてな」

 

「そっか、じゃあはい」

 

 あっさり、北上はカメラを手渡してくれた。それにしても北上が喋る度に息があたって耳裏がこそばゆい。

 

 先ほどの北上を真似て、うーんとカメラを持って両腕を伸ばす。もちろん、レンズは此方を向いている。

 

「お?」

 

 パシリと音がした。

 

「ちょっと、え?なんでさー!?」

 

 慌てた北上が身を乗り出して腕を伸ばす。麻守から引ったくる様にカメラを奪い返して、液晶画面を覗き込むと、先ほど撮れたばかりの写真を確認する。

 

「うわー、ちょっとこれは……」

 

「む、失敗しましたかな?」

 

「うわ、ちょっと駄目だって~」

 

 気になった麻守が覗こうとした瞬間、北上はカメラの電源を落として素早くカメラケースへ突っ込んでしまった。

 

「うー……」

 

 やはり上手く撮れてなかったのだろうかと、麻守は唸った。

 

「まぁ、なんていうの?そんな事もあるよね~」

 

 先ほどの慌てぶりが嘘のように北上がお気楽な声で慰める。

 

「むー、そういうものですかな」

 

「そうそう、じゃあ私は行くね。早速、ノートパソコン借りるよ~」

 

 トテトテとどこかのんびりした速度で走り去っていく北上の背中を見送って、麻守がよいこらしょと立ち上がった。

 

 随分と長い時間座っていたからか、腰がビキビキと不吉な音をたてた。

 

「なんだかよくわからんが、まあ……」

 

 北上が元気ならそれでいいかと、そう納得する麻守だった。

 

 そして、その夜。

 

 そういえばと思い出した麻守が執務室で、ひさしぶりにノートパソコンを起動した。

 

 真っ青な画面に幾分古いOSのバージョンを示すロゴが現れてすぐにモニターが真っ暗になった。

 

 カリカリとハードディスクを読み込む音が微かに響くと、ログイン画面が表示される。

 

 パスワードなどは特に設定していないので空白のまま、ログインボタンをクリック。

 

 そして、次にモニターに現れたのは……。

 

 ちょっと間抜けな表情でこちらへ両腕を伸ばす麻守と、その麻守をあすなろ抱きする北上の姿。ちょっとだけ焦った北上の表情が印象的な写真がデスクトップの壁紙に設定されていた。

 

 それは、麻守が北上からカメラを借りて撮った写真に違いなかった。

 

 ちゃんと撮れてた事を喜ぶ反面、不安になる。

 

「この壁紙、大井に見られるわけにはいきませんな……」

 

 ポツリと麻守が呟く。

 

 しかし、背後からその声は掛けられた。

 

 「提督、どうして北上さんとツーショット写真なんか撮ってるんですか……?」




なんか、北上様の皮を被った青葉じゃないのコレ……

うん、でも大丈夫!しっかり前向いて未来に向かって進んでくよ!!
後ろは振り向かない!
だって大井さんが怖いから!!

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