マシュマロ型提督   作:gromwell

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やっと書き終えましたー!金剛姉さんの瞳の色をググっていたら2ヶ月経っててびっくり!!


第十四話『金剛夜話』

 その晩、麻守のテンションはおかしかった。

 

 執務室にて、久蘇大尉の初期艦指名の相談を受けて、夜遅くまで話し込んでいた為である。

 

 深夜特有の謎の気分高揚と久蘇大尉がリストアップした初期艦候補の艦娘のチョイスが色々アレだったのがまずかった。

 

 久蘇大尉が候補に挙げたのは何故か提督に対して反抗的な言動を繰り返すドS駆逐艦娘ばかりだったのである。

 

 久蘇大尉のロリコンドM疑惑が、麻守の胸中で急浮上しつつあった。さりとてそんな事など言葉に出来ようはずもなく、相談出来る相手も居ないので、麻守は忘れようと決めた。

 

 どうせ他人の性癖である。直接麻守の害となる訳でもないのである。……そう願いたい、切実に。

 

 しかし、麻守は自分にもその疑惑が浮上している事に気付いてはいなかった。ドMの方では無く、ロリコンの方で。

 

 いや、むしろドMなのは疑惑というより、鎮守府所属の艦娘の間ではもはや決定事項として認知されていたりするのだが。

 

 そんなこんなでテンションアゲアゲで眠れない麻守がハーブティーを淹れていると、ふと視線を感じた。

 

 執務室のドアが僅かに開き、その隙間から紫がかった灰色の瞳が覗いている。麻守は瞳の主としばし見つめ合い、そして言った。

 

「覗いてもいいけどサー、時間と場所を弁えなヨー」

 

 覗いていた誰かが盛大にずっこける音が響いた。

 

 普段の麻守ではあり得ないこの台詞の破壊力は大和砲並みであった。まさにこれこそ深夜テンションの恐ろしさである。

 

「テートクにワタシの台詞盗られたデース!?」

 

「盗ってませんぞ。りすぺくとデース」

 

「Oh……、テートクが壊れてるネー」

 

 これまで一度も見たことのない麻守の変貌ぶりにドン引きしている金剛は、しかし麻守がちょいちょいと手招きするとトコトコと近づいてきた。

 

 麻守に薦められるままに執務室に据えられたソファーに座る。

 

「こんな時間にtea timeデスか?」

 

 テーブルの上の熱湯が注がれたティーポットを眺め、金剛は首を傾げた。

 

「そんな上等なものではありませんな。まあ、気分を落ち着かせる為に口にするだけなので」

 

 麻守がソファー正面のテーブルに空のマグカップをふたつ、ことんと置いた。そうしてもうひとつ、お湯を注いだ紙製のカップを置いた。

 

「コレは何デスか?」

 

 環境に配慮した紙製のカップにはやけにオドオドしている某駆逐艦娘っぽいイラストが描かれていて、フォークが蓋の上に重石のように乗っかっていた。

 

「実は、某食品メーカーと海軍がカップメンを共同開発する事になりましてな」

 

 以前、お菓子メーカーとタイアップして艦娘っぽいキャラクターの採用された知育菓子のサンプルを加賀に試食してもらった事があった。

 

 そして今度はカップメン。何かとサンプル試食の多い鎮守府である。

 

 ティーポットから淡い紫色のハーブティーを二人分のマグカップに注いだ麻守は、一方のマグカップを金剛へ手渡しながらジッと彼女の瞳を見つめていた。

 

「試食、してみないかね?」

 

「……ムードとかタイミングとか時間帯を考えなヨ~……」

 

 花も恥じらう乙女に向かって、真夜中にカップメンの試食を勧めるとか何を考えているのだろう。

 

(深夜のカップメンはヤバいデース)

 

 いくら想いを寄せる提督の頼みでも勧めでも、コレばっかりはノーである。こんな高カロリーかつ塩分たっぷりなものを酒も飲まずに啜れようか。いや、ない。反語。

 

 麻守が金剛の拒絶を受けて、むーと唸ったその時、タイマーが鳴った。

 

 カップメンが出来てしまったのだ。

 

「はんぶんこ……」

 

 上目づかいで麻守は言った。つぶらな瞳をうるうるさせて。

 

 流石に彼でもひとつ丸々は厳しいのだろう、カロリー的にも塩分的にも。

 

「甘えても駄目はものはNOデース」

 

 しかし、そこは高速戦艦四姉妹のお姉ちゃん。きっぱりはっきりノーを突きつけた。

 

「ひとつ食べきってしまうと糖尿病になってしまうかもしれませんなー」

 

 どこか遠い目をしながら麻守が呟いた。なんとも幼稚な企みである。

 

「それなら赤城と加賀を起こして来るデス」

 

 もちろんそんなものに引っかかってやるほど金剛は甘くない。

 

「む……」

 

 このまま食べる食べないと争っていても仕方ない。現にカップメンは出来てしまっているのだ。機を逃せば麺はスープを吸い過ぎてのびてしまう。それでは正当な評価など出来はしないのだ。

 

 しょぼんと眉を八の字にして麻守がカップメンに口をつける。艦娘ラーメン潮の塩味と書かれたパッケージがいやに目についた。まったく、海軍の連中は何考えてんだ。

 

 ズルズルと麺を啜って、啜って飲み込んで、金剛が優雅にラベンダーのハーブティーを楽しむその目の前で、麻守は艦娘ラーメン潮の塩味(試食サンプル)を完食したのだった。

 

 

 

 

「それで、何か用事でもあったのかね?」

 

 深夜にカップメンという暴挙といえる行為を終えた麻守が、金剛に問いかけた。

 

 消灯時間などとうに過ぎている時間に執務室を覗いていたのだ。だからきっと、何かしら個人的な用事でもあったのだろうという判断である。

 

 しかし、金剛は両手で包むように持った空っぽのマグカップへと視線を落としているだけだ。

 

 それは無視を決め込んでいるというより、何事かを言うべきか言わざるべきか迷っているようだった。

 

 何時も騒々しいくらいに明るい金剛だが、この時に限ってはどこか物憂げな表情を浮かべている。

 

「ふむ、無理にとは言いませんし、それにもうしばらくは寝つけそうにありませんからな」

 

 麻守はもう一度ハーブティーを淹れる。

 

 今度はカモミールにしますかなと、わざとらしく独り言。

 

 そんな麻守の独り言も金剛の耳は左から右に通り過ぎていくだけだ。

 

(まさか直接ロリコンですか?とは訊けないデース……)

 

 ここ最近の秘書艦を担当した高雄や加賀・長門から、麻守と久蘇大尉が駆逐艦のリストを眺めつつなにやら話し込んでいると耳にした金剛が、真っ先に思い出したのが件の麻守ロリコン疑惑である。

 

(もし、テートクがロリコンなら由々しき事態デース)

 

 別の艦隊に異動したとはいえ、密かに恋のライバル視している叢雲が駆逐艦なのだ。麻守がロリコンだったならば勝ち目が無くなってしまう。

 

 そういう事情もあって、金剛は気が気でなかった。だから直接確かめようと深夜の執務室で麻守が独りになるタイミングを伺っていたわけで。

 

(どう話を切り出せば良いデース!?)

 

 そんなこんなでいま、金剛は必死に思考を巡らせている真っ最中なのであった。

 

 そんな金剛の様子は端から見ればちょっとした不審者のそれだったりする。

 

 悶々と悩み、顔を赤くしたり青くしたりしながら頭を抱える金剛の姿は珍妙であった。が、待つと言った以上は麻守も詮索せずに待つ他ないわけで。

 

 そうしてカモミールのハーブティーを啜りつつ、麻守が落ち着きのない様子で視線をさ迷わせること数十分。

 

「テートクのタイプの女性を教えて欲しいデース」

 

 ようやく金剛が切り出した話題はそれだった。悩んだ割に、すごく直球ストレートである。

 

「ん、好みの女性……ですか……」

 

 今度は麻守が頭を抱える番だった。

 

 そういえば、そんな事を改めて考えてみると、なんともまあ、なんにも浮かばない麻守だった。

 

 この男の自信の無さは、そういう異性関係の方面もいかんなく発揮されている様子。

 

 そんなわけで、麻守宇麿という男は艦娘を指揮する提督になるまで、特に女性との関わりを持たぬよう生きてきたのだった。

 

 もちろん、男連中が集まれば、やれこんな女が良いだのと好みの女性談義になるわけだが、麻守は詮無いことと、部屋の隅っこで船をこいでいる有り様だったのである。

 

 端っから女性に相手にされることはあるまいと、高をくくって生きてみれば、何の因果か艦娘を率いる提督になっていた。

 

 そのうえ、部下の女性から好みの女性について質問されるという状況に遭っているのだから、人生とはわからないものである。

 

「そうですなぁ……」

 

食い入るように見つめてくる金剛に面食らいつつ、麻守はゆっくりと言葉を零した。

 

「特にこれといってありませんな」

 

 そんな事をバカ正直に言った。

 

「儂はまあ、口下手であるから会話も弾みません。それに何より、見た目もこうですからな。女性にとって魅力的ではありますまい」

 

 誤魔化すことも適当な事を言ってお茶を濁す事もせずに、真っ直ぐに自分の諦観を麻守は言葉にした。

 

 なぜ金剛がそんな質問をしたのかという意図を麻守は分かっていない。けれども、少なくとも何時もの様に、答えを誤魔化してしまって良いものではない事は察していた。

 

「ですから、好みの女性と言われても、考えた事はありませんし、思いつきませんな」

 

 そんな麻守の言葉を金剛はぷるぷると身を震わせながら黙って聞いていた。

 

「申し訳ない、これでは答えになりませんな」

 

 そう言うと麻守は金剛に深々と頭を下げた。

 

 そんな麻守の首根っこを、金剛は右手でむんずと掴んで、麻守の頭を上げさせた。

 

 左手で麻守の頬をぎゅむっと掴むと無理矢理、力付くで麻守と目を合わせた。

 

 麻守の視界が金剛の顔で占領される。

 

「いい加減にするデス……。ワタシのテートクをバカにするんじゃねーデース」

 

 怒りに顔を紅潮させ、キッと睨みつけてくる金剛の目頭にはうっすらと涙が浮かぶ。

 

「見た目とか口下手とかどーでもいいデス」

 

 ほぼ密着状態、あと数ミリという超至近距離で唖然としている麻守の顔に向かって、金剛は吠えた。

 

「こーなったらどれだけテートクがnice guyであるかとくと言って聞かせてやるデスネー!!」

 

 あんまりにも自己評価の低い麻守に対してブチギレた金剛による『麻守提督の良いところについての講義』の緊急開催が決定した瞬間だった。

 

 それはいつしか、金剛が麻守のどこに惚れたのかという内容にシフトしていく。

 

 そうして、金剛による執務室で愛を叫ぶというある種の愛の告白は、夜が明けるまで続くのであった。

 

 早朝、その日の秘書艦である愛宕が執務室で目撃したのは、ソファーに腰掛けたまま白目を剥いて失神している麻守と、麻守のお腹に顔を突っ込んで何やら悶えている金剛。

 

 そして──

 

 テーブルの上に放置された、艦娘ラーメン潮の塩味の空っぽの紙カップだったという……。

 




やっとこさ一巡しましたー。二巡目はどうしようか考え中です。それにしてもいつになったら久蘇大尉の初期艦は着任するのか……?

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