ただいま第四話を執筆中です。やっぱり時間はかかりそう……(汗)
のろのろ更新ですが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。
……感想待ってますよ!!
翌日、21時。犯行予告時刻。
「キッド!キッド!キッド!キッド!」
「キッド様―――――!!」
キッドファンの中を抜け、人気のない駐車場へ向かう。何時かと同じように警官を眠らせ、上手く中へ紛れ込んだ。
(ラクショーだね♪)
警官たちの間を縫いながら、中森警部の様子をそっと窺う。
「いいか!キッドは変装の名人だ!絶対に入れてはならんぞ!」
(もう遅いけどねー♪)
ご機嫌な快斗であった。
「カウント始めます!」
「おう!」
快斗はゆっくり口の端を持ち上げ、呑気にカウントダウンを聞いている。
「3・2・1――」
ガタンッと音がして、ブレーカーが落ちた。あたりが暗闇に包まれる。
……毎度同じ手を使われている警部は、どうなのだろうか……。
「キッド!」
ケースの上に静かに降り立ったキッドを見て、警官たちが構える。
当の本人は実に落ち着いていて、怪盗紳士の名に相応しく、優雅に真っ白な――罪など知らぬかのような、堂々たる純白のマントを翻し、警官らに向き直った。いや、正確には、中森警部、ただ彼のみに。
その姿はまさにマジシャン。舞台に上がった、一人のエンターテイナーで。
「皆さん、今晩は」
そう言いながらキッドは、優雅に頭を下げる。
次に、わざとらしく、無言で不敵な笑みを見せながら両手を見せる。……まるで、そこに何もない事を証明し、警官らにそれを無意識に――強引に認識させるかのように。
更に彼はサッと両手を重ね――
「レッド・ブロッサム――『赤き桜』は、確かに頂いた」
「無い……!」
「くそっ!逃がすな!!」
吠える中森警部などお構いなしに、キッドは天井に向けてワイヤー銃を放つ。次の瞬間、キッドの姿が消えた。
いつの間にか天井のパネルが外れており、つまりそれは、キッドは消えたのではなく、人間の視覚が捉えられる限界を超えたスピードで上に逃亡したと言う事の証明――
もちろんキッドの事だ、この場に残っている可能性も十分捨てきれないし、今までは下に逃げたと思わせて実は屋上だった、なんて事もざらにあったのだ。更には悲しいかな、ダミー人形を必死の形相で追いかけていた事も……。
白は目立つ。故に、闇夜の中では視認しやすい。だが見えるのは衣装だけ。本当に飛んでいるのがキッドなのかどうかは、分からない。
あっちにもキッド、こっちにもキッド、どっちが本物、なんて言うやり取りはもう数百回も繰り返してきた。
「C班!屋上へ向かえ!」
だが、他に手掛かりも無いのだ。彼がいると思われる場所に、行くしかない。もしくは、彼が来てほしいと思っている場所に。
中森警部は叫びながら自身も屋上へ向かう。
「キッドぉぉっっ!」
屋上のドアを吹き飛ばす勢いで中森警部一行が屋上へ乱入する。
月を背景に、怪盗キッドは待っていた。だが、今日の彼は、少し違う。
「――パンドラ」
小さく呟かれたその名は。
運命をゆっくりと、動かし始める――
♠
「さーてと」
警部らがやって来るまで、夜の屋上という所は静寂だ。
いつも通り――もう何も考えずとも自然に体が動くようになってしまっていた――宝石を掲げる。心のどこかにある、<諦め>。所詮『あれ』は伝説であり、存在するのかどうかも分からない、そんな代物で。
<意味>もあり、<目的>もある。でも快斗にとってそれは、『パンドラ』ではない。更にその先にある――得体のしれない『何か』が。
――どの道、もう引き返せない。そんなところまで、来てしまった。
自身の体に残る数多くの銃痕が、彼の<苦労>と、<信念>と――<愛>を、<復讐>を、その<歴史>を、表していた。
風が吹き。
快斗のモノクルに下がる、四葉のクローバーが揺れた。
『四葉』のクローバーは『幸運』を表す。だが、もともと四葉は、幼いころに踏みにじられた三葉の突然変異。よって、その花言葉の一つには『復讐』というものがある。
初代怪盗キッドこと、盗一は『幸運』を意味してこれを身に着けたのかもしれない。だが、今の快斗はどうだろう?
そう自嘲したと同時に――
――光が生まれた。
「なっ……」
ちょうど風が吹いたのと同じ時に満月が顔を表し――それに照らされた宝石が一瞬光を反射し――そしてやってきた、『パンドラ』は彼を魅了する。
快斗は思わず目を見開く。背後から聞こえてくる喧騒も、合図したかのように、今度は強めに吹いた一陣の風も無視して。
あたりが月をも遮る光に包まれた。
警部がドアを開けた声に、ようやく我に返る。そして快斗は宝石を手中に隠した。
「――パンドラ」
「は?」
小さく、思わず呟いた快斗。キッドとしての自分を一瞬忘れるほどの衝撃だった。
シルクハットの鍔が下がっていたことに感謝し、快斗――いや、キッドは再び、凛とした夜の空気を纏う。
首をかしげる警部。だが彼の部下等は何も感じ取ってはいない。
バッと、マントを裁く音。それと同時に、そのマントは白い翼と化した。
「警部、短い間でしたが、とても楽しかったですよ」
「は?」
急に、まるで別れの挨拶でもするかのようにキッドの口から紡がれていく旋律。
「この宝石は頂いて行きます」
「……は?」
怪盗キッドが宝石を返却する際には、必ずと言っていい程の割合で<目当ての宝石ではありませんでしたので>といった事が記されていた。と言う事はすなわち、目当ての宝石が見つかれば――と言う事なのだが、信じている者はあまりにも少なかった。
それは――彼があまりにも長い間<怪盗>として活動しており、そしてあまりにも警察と馴染んでおり、それを世間が<日常>としてとらえてしまっていたが為に、だ。
「では――さようなら」
――怪盗キッド最後のショーの観客があなたで、私はとても嬉しいですよ――
「…………は?」
広がる混乱の渦。
快斗からしてみれば、これはもう、あの日から――二代目怪盗キッド誕生の日から、ずっと決まっていた事だった。パンドラが見つかれば、もう盗みをする必要など無い。シルクハットの鍔を下げ、静かに微笑む。
一方、中森警部。
(別人か……?)
しかし、つい先程までは、あの不敵な笑みを、その形の良い唇に乗せていた彼である。何がどうなって、この一瞬で気持ちが変わったのか。
月夜を背に不敵に笑う彼が漂わせる、あの冷たく鋭い、そんな気配も――今は、どこか弱弱しく――まるで、別人のようだったのだ。
「!?」
「――っ!?」
突然、快斗の視界が赤く染まった。同時に、警部も驚きの表情で固まっている。
だが、警官らの動きが鈍くとも、残念ながらこのような状況に慣れてしまった快斗にはどうという事は無かった。
体勢を低くしながら右へ転がり、中森警部の横を通り抜ける。
「伏せろっ!」
――若い声。
思いがけず、キッドの声が飛んだ。普段からの習慣か、全員が頭を低くする。
と、下の階から悲鳴が聞こえた。そして、階段を駆け上がってくる、複数の足音。
「くそっ――」
快斗の予想は――
「いたぞ!」
――あたっていた。
全身黒いスーツに身を包んだ、顔を隠した、見るからに怪しい男たち――組織の人間だった。
快斗は咄嗟に<レッド・ブロッサム>を夜の街に投げ入れようとして、その動きを止めた。
快斗はどちらかと言うと宝石はがさつに扱うタイプだったが、それでもこんな高所から投げる等という暴挙に出た事は無い。怪しい動きをすればすぐに、この宝石がパンドラだと分かるだろう。今はまだ、組織がこの宝石をパンドラとして認識していないかもしれない――なら、この選択肢は消える。
黒い男たちは自動連射式リボルバータイプのピストルをそれぞれ構えている。見たところ、手慣れだった。
「……?」
警官らがパニックに陥る中、快斗は一人、恐ろしいまでに冷静だった。そして、ふと気付く。
(スネイクがいない……?)
だが、この黒いスーツ、あの言葉から考えるに、彼らは間違いなく組織の人間なのである。
(――なるほど)
要するに、今目の前に居るのは、下っ端か雇われ――
確かに、警察がたむろしているような――いわば敵地に潜り込むのである。スネイク等にそこまでの勇気はない。
(スナイパーは健在。一回目にレーザーを使用。レーザーがここまで来れる狙撃ルートは5か所――)
男たちのうち、一人が引き金を引こうとする。が、今の快斗にはそれさえ遅く見える。
――IQ400――
そんな、普通ではありえない数値を幼少期に叩き出した彼が本気で思考を回せば、一般人が見る時間など、止まっているに等しいのである。
そんな快斗が出した答え――いや、考えるまでも無い、常識。
――殺られる前に、殺るだけ――
(一発目の狙撃に失敗して、引き揚げたのならそれで良し)
すでに快斗の思考は、次の段階まで進んでいて。
パァンと、乾いた音が響く。
無意識のうちだろうか、すでに思考は別のところに飛んでいる快斗――いや、キッドは、<危険人物>から仕留めていく。それを警官等は、魅せられたように眺めいていた。
銃弾に当たらぬよう、右に左にに跳びながら、踊るように彼は移動する。警官等に、流れ弾が当たらぬように、その常識外れの思考回路をフルに使って。
彼には、守るだけの自信と、それ以上の実力があった。
男たちの弾丸は面白いように躱されていった。時には彼のマントをかすめ、時にはそのわき腹をかすめ。しかし、そのどれもが確実に躱されていくのだ。
一方の彼――キッドは、その全ての弾丸を男たちの右腕に入れている。男らの右腕に吸い込まれていく。腕を狙っているのは無意識で、彼がマジシャン――すなわち、手を大事にする者だからなのだろうか。
やがて。
男らは呻いている。警官らはキッドよりも先に男らを抑えにかかっていた。中森警部はというと、キッドをジト目で見ている。
「……いつの間に」
ちなみに、快斗が持っている拳銃は、警部のものである。スった、ともいう。
「動かないでください、警部」
もし快斗がスナイパーなら。
ひと段落つけば、相手は油断する。そこを一発で仕留める。
「ん?」
「なにっ!?」
タイミングはあっていた。が――一つの誤算。
(警部を狙っている!?)
レーザーの赤い点は中森警部の頭に映っていた。
快斗は考えるよりも早く、マントを翻して警部に多いかぶさる。
「うおっ!?」
「警部っ!」
パンッと、今度は小さく銃声が聞こえた。
(さほど遠くない。音がしたおかげで場所は割れた!)
「行けっ!早く中へ!」
快斗は警官らを促す。後に二人も続こうとしたが――
「危ないっ!」
「おうぉっぅ!?」
奇声を上げた警部である。
「……仕方ありませんね」
「へ?」
どちらかというと、下のほうが近いのだ。キッドはすぐにでも、夜の街に飛び込もうとしていたのだから。
「一か八か――」
女ひとり追加は飛べるが……どうだろうか。
(やるっきゃねーな)
――そうして、白い翼が夜の街に沈んだ。
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次回予告
「第四話は『疑惑』!果たして二人は逃げられるのか!?次回はとうとう白馬も登場!?」
「出てくるのは名前だけだよー」
「うおっ!?俺に負けず劣らず神出鬼没の作者だな……」
「うん、よく空気って言われる」
「…………」
「あと、うまく逃げられたから続きの話があるんだけどねー」
「………………」
「ま、がんばってねー」
「……………………あ、はい。あー……次回は疑惑の第四話!Step right,this way,watch carefully!イリュージョンを、見逃すな!」