やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
アニメには出てきませんが漫画版のガルパンやスピンオフ作品のリトルアーミーには出てくる人なので気になる人はチェック(ダイレクトマーケティング)。
ちなみに前に一度だけ出てた大洗放送部の王さんもガルパンドラマCDからの登場、こちらも気になる人は要チェック(ダイレクトマーケティング)。
「15両対6両、それにあっちはT-34/76に85」
「それに加えてKV-2にスターリンと、戦力差でいえば絶望的だな」
さて、いつもの戦車訓練も終わって放課後、俺と西住は教室に残ってサービス残業という名の作戦検討中であった。
…なまじ廃校の事を考えると、倒産間近の会社の為にサービス残業してる風にも思えてことさら悲しくなるな。
「…どうしたの?八幡君」
「いや…なんでもねーよ」
…危ない危ない、西住の奴は変な所で鋭い所があるからな、気を付けないと。
「プラウダがどう動くか気になってるだけだ」
「ここまで戦力差があれば数で攻めてフラッグ車を狙ってくる可能性もあるけど、それは大丈夫…なんだよね?」
「たぶんな、向こうはこっちを全滅させるつもりらしいし」
あのチビッ子隊長を信じればだが、あの人のプライドの高さから考えて早々に自分の考えを曲げたりはしないだろう。
「となると…プラウダ本来の戦い方で来るのかな」
「本来の戦い方?」
「プラウダは引いてからの反撃が得意だから、何か罠を仕掛けてくるのかも」
カチューシャさんの性格的に物量でガンガン攻めてくるのも似合いそうだが、意外と慎重なんだな、身長は低いけど。
いや、あぁいうタイプは相手が罠にかかった所を見て喜ぶ方か、そう考えると納得。
「なら、短期決戦は難しいかもな」
「うん、失敗した時のリスクが大きいし、取り返しがつかなくなるかもしれないから」
油断している隙をついて速攻でフラッグ車を狙う戦法もあるが、相手側が罠を仕掛けているとなると難しい。
「相手の挑発に乗らないよう、慎重にいかないと」
「…あいつら、大丈夫かよ」
正直不安だ、ほいほい挑発に乗っかりそうな奴に何人も心当たりがある。
そもそも今のあいつらは準決勝まで来た事で完全に浮かれている、慎重にいく作戦にのってくれるかも怪しい。
…プラウダは引いてからの反撃が得意、という事は序盤は大洗側が攻めやすいようにあえて攻撃を緩めてくる可能性もあるのか。
だったら…その序盤である程度の戦果を出してしまうのも良いかもしれない、少し意地悪い作戦だが、一つ思い付いた。
「どうかな?八幡君」
「…いいんじゃないか?それで」
だが、この作戦を俺は西住には言わない、別に自信が無い訳じゃない、それよりもっと簡単な話だ。
俺がこの先進言する作戦は一つでいい。
「え?そ、それだけなの?」
「なんでそんな驚いてるんだよ…」
「えっと…その、いつもならまた変わった作戦を用意してくれてると思って」
なんだよそれ、つーか『変わった作戦』って言うと聞こえは良いけど、ようはそれ、『変な作戦』って意味だよね?
「西住じゃないんだから、そう毎回ぽんぽん作戦なんて思いつかねーよ」
「う、うん…、ごめんね、私もそんなに良い作戦思いつける訳じゃないけど、そうだよね」
本人はそう言うがもちろんそんな事は無い、西住の考える作戦はいつも大洗を勝利に導いて来た。
それは俺が居ても居なくても変わらない、実際、西住ならサンダース戦での無線傍受だって試合中に気付けただろうし、アンツィオ戦だってあのやり方以外でも勝ちようはいろいろあった。
「………」
「……?」
妙な沈黙が、ただでさえ俺と西住しか居ない教室を更にしんとさせる、西住は不思議そうに首を傾げているが。
「なんか、会長も八幡君も最近変だよ…」
「安心しろ、いつもの事だ」
「認めちゃうの!?しかも会長も…」
いや、あの人が変なのはいつもの事だろうが….、それこそ俺以上に。
「つーかあの人がどうかしたのか?」
「ほら、前に戦車道の訓練があった日に生徒会室に呼び出されたから」
あぁ、俺がダージリンさんからお茶会の招待状(不幸の手紙)を受け取った時の事ね、そういや会長達は西住を生徒会室に呼んでたな。
…もしかして廃校の件を西住に話そうとしたのかもしれない、いや、きっとそうだろう。
「会長、何の用だったんだ?」
「それがわかんなくて…、結局、生徒会の人達と一緒にあんこう鍋食べて帰っちゃった」
「なんだよそれ」
いや、わかるけどさ、やっぱり言えなかったんだろう。
「あといろんなイベントのアルバムも見せてもらったな、八幡君も時々写ってたよ、だいたい見きれてたけど…」
「あの生徒会め…、いつの間に」
生徒会の手伝いでイベント事がある時は終始カメラマンに徹していたつもりだったが、いつの間に撮られたんだよ、映画泥棒の仕業か?
…なんとか後で処分出来ないかな?そもそも俺生徒会じゃないんだから。
「でもどれも楽しそう、大洗学園って楽しいよね」
「大洗ってか…、この場合うちの生徒会だけどな」
仮に廃校を免れたとしても今の生徒会の人達は卒業する、次の生徒会にこのお祭り好きの精神まで引き継がれてはたまったものじゃないが。
…いや、その時は俺も生徒会からは解放されるけどね、晴れて自由の身という訳だ、『生徒会に関する一切』と、もう関わらずにすむ。
「…そんな楽しそうか?」
俺からすればそういうイベントは面倒くさいだけなんだが、学校行事といえば体育祭とか文化祭でさえ面倒なのに…。
「うん、黒森峰だとこういう事ってやらなかったから私もやってみたいかも」
ほう?つまりそれは夏の水かけ祭りとか、泥んこプロレス大会にも参加したいと申すのか。
仕方ないなー、この2つに関しては手伝ってやらん事もないなー、カメラマンとして記録に残さないとね。シャッターチャンスだっ!!
「今年はもう終わってる行事もあるし、来年が楽しみかも」
「………」
来年…、来年ね。
「来年も戦車道は続けるのか?」
「え?うん…、来年も大洗のみんなで戦車道を続けたいな」
「…そっか」
…決まりだな。
「そろそろ帰るか、雪、だいぶ降ってきてんぞ」
チラリと窓を見ると今もまだ雪は降り続けている、北緯50度はとっくに越え、すっかり雪景色だ、これ以上積もる前に帰った方が良いだろう。
「そうだね、あっ!!」
「どうした?」
「私、傘持ってくるの忘れちゃった…」
何やってんだか…、そりゃ朝は確かに晴れてたけど、降雪地帯にいるんだからそれくらいの用意はしておいて当然だろう、やっぱり西住ってどっか抜けてるよな。
その点、俺ぐらいのぼっちになるとそこら辺は抜かりない、何故ならいざという時、誰にも頼れないからである。
「雪だし、走って帰ればそこまで濡れないかな?」
そりゃ雨よりはマシだと思うけど雪道を走って帰るのも危ないだろう。
「そこら辺の奴の傘パクっちゃえば?」
「そんな事したら駄目だよ、八幡君」
お、おぅ…、真面目に返された、そ、そりゃそうだよね、俺もパクられた事あるしわかるわ、つーか集中的に狙われたまである。
「あー、雨降ってるしキモいけどあいつの傘パクろうぜー!」とかそんな感じで、当時は雨に打たれながら帰ったものだ、あの時、頬を伝う雫は間違いなく雨であって涙ではない。
「いいんだよ、ほれ…ここにちょうど良いのがあるだろ」
「それ、八幡君の傘なんだけど…」
ん、まぁ…その、なんだ…。
「風邪引いたら…困るだろ、隊長なんだから」
だから早く受け取ってくんねーかな、「やーい、お前ん家、おっばけやーしき」とか言う照れ屋なカンタ君じゃないんだから。
「…ごめんね八幡君、ありがとう」
隊長としての責任を感じたのか西住が素直に傘を受け取ってくれた、まぁ実際、こんな事で風邪でもひかれたら大洗は敗北待ったなしだ。
さーて、傘は西住に渡してしまったし、どうやって帰るか、まぁ歩いて帰るしかないんだけどね、この雪では自転車も使えないので乗って来ていない。
そう思っていると、西住がおずおずとしながらも上目遣いでこちらを見ながら傘を差し出してきた。
「ねぇ、八幡君…、一緒に、帰ろ?」
「え?あ、いや…俺は別に」
ちょっと、顔赤くして恥ずかしがるの止めて、俺まで恥ずかしくなっちゃうから!!
「俺はいいから、そのまま帰れ」
「駄目だよ、それだと八幡君が風邪引いちゃうかもしれないし」
「いいんだよ、俺が風邪引いた所で誰も困らん」
「私は…困るよ、私のせいで風邪引かせちゃったんだし」
…またこいつは、変に責任を感じやすい奴だよな、俺なんか気にする必要ないのに。
「だから…ね?二人で帰れば、二人共濡れないよ?」
「いや、まぁ…その」
ーーー
ーー
ー
「………」
「………」
結局、俺と西住は一本の傘を差して雪の降る中を二人で下校している。
あの後、何度か同じようなやり取りを続けたが西住も譲らないし、このまま不毛なやり取りを続けても時間の無駄なので諦めた。
諦めたが…それを今になって後悔しているのもまた事実である。
「…もう少し寄らないと八幡君が濡れちゃうよ」
「いや、別にいい、雪だしな」
一本の傘を二人で使う、当然だがすぐ隣には西住が居る、またも当然だがものっそい近い。
つまり…恥ずかしいのだ、幸い俺達が学校に遅くまで残っていたので他の生徒は見当たらない、一緒に帰ってる所見られて変な噂されたら恥ずかしいでしょ?
「駄目だよ、肩に雪ついてるよ」
そう言って西住は更に近付いてくる、恐らく俺の事を考えてやってくれてるのだろうが完全に逆効果だ、なんかもう、ふわりと良い香りがしてきて、身体が暑くて雪を溶かしてしまいそうだ。
熱い!雪すら俺には熱い!!…これ、俺は傘いらないんじゃないかな?
いや、恥ずかしいのは西住も同じだろう、向こうも口数が少ないし、顔が赤いのは寒さのせいだと思うが。
そんな俺達なのでお互い、特に言葉も交わさずに雪道をただひたすら歩いていた。
試合の為、西住が風邪を引かないようになるべく彼女に傘を向けて歩幅を合わせる、西住のペースに合わせるので自然と普段より歩くペースは遅れるが、このぐらいならそこまで帰るのも遅くならないだろう。
その証拠に、そろそろ西住の住む寮も見えてきた、ようやくこのよくわからん恥ずかしい時間ともおさらばだ。
「…あれ?」
と、不意に西住が立ち止まった、そのせいで少し先に進んでしまい、とりあえず傘を西住に向けて俺も戻る。
「…ん?」
西住の視線の先、寮の前で女性が一人、傘を差して立っていた、西住は彼女を見て立ち止まったのか。
大洗の生徒ではなく、大人の女性だ、しかも和服を着ている。
しんしんと降り続ける雪の中、傘を持って立っている和服の女性というのはとても絵になるな、実際本人も和服美人という言葉が似合う見た目だし。
しかし…誰だ?大洗でこんな人見たことないぞ。
「菊代さん!!」
西住が驚いた顔でその和服美人さんに声をかけた、という事は西住の知り合いか。
「みほお嬢様、お久しぶりです」
和服美人さん、菊代さんが西住に気付くと深々と頭を下げた、…みほお嬢様ね、そういや西住もお嬢様なんだよな。
「お部屋に居なかったので心配しました、お元気そうでなによりです」
「ありがとう、でも菊代さん、どうして大洗に?」
「ふふっ、お休みを頂きました、みほお嬢様をびっくりさせたくて内緒で来ちゃいました」
そういって微笑む菊代さん、なにこの人、お茶目で可愛いんだけど、和服美人…良いよね?
西住の知り合いって事はこの人、西住流の関係者か何かか、そのわりには西住も嬉しそうだな、見ていてまるで姉と妹のようだ、姉住さんェ…。
「それでみほ様…、そちらの方は?」
ひとしきり言葉を交わした西住と菊代さんだが、菊代さんが俺の方を見る。
先ほど西住に向けていた柔らかい表情と違い、少し警戒されているようだ、俺のこの腐った目のせいかな?
…いや、よくよく考えたら今現在進行形で俺と西住は一本の傘を二人で使ってるじゃねーか。
あまり意識したくなかったから言わなかったけどね、これ、世間的には相合い傘してるように見られちゃわない?
「この人は比企谷八幡君、私の友達だよ」
「いや、友達ってか…」
「みほ様のお友達…ですか、殿方の、ふふっ…なるほど」
え?何がなるほどなの?この人何を察してるんだよ。
「ご挨拶が遅れました、私、西住家に仕えている菊代と申します」
「あ、えと…ども」
菊代さんが丁寧に頭を下げるもんだからこちらもつい頭を下げてしまった。
西住家に仕えるって事は…お手伝いさんみたいなものかな?そういえば前に西住が家にそういう人が居るって言ってた気がしたが。
「以後お見知りおきを、比企谷さん」
一見柔らかく見えて何やら裏でもありそうな微笑み、だからさこの人、何を察してるんだよ。
しかし、ここに来て西住家の関係者の登場とか、なんか嫌な予感しかしないんだけど…西住はもちろん、俺個人としても。