やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
カチューシャの性格だったらあの時事情知ってたらフラッグ車狙わなかったかもしれませんよね。
残念ながら作者はロシア語さっぱりです、いや本当に残念ですが書ける訳がないので勘弁して貰う訳にはいきませんか?
世間一般的なプラウダ高校のイメージはどうだろうか?
戦車道における最大流派の一つ、西住流のお膝元であり、全国大会9連覇を果たした黒森峰。
その10連覇のかかった去年の大会において黒森峰は西住流の娘である長女、西住まほを隊長に、次女、西住みほを副隊長に据え、磐石の態勢で挑んだ。
ほとんどの戦車道ファンは黒森峰の10連覇を確信していただろう。
その黒森峰に土をつけ10連覇を阻止し、優勝したプラウダ高校。もともと高校生戦車道4強の一角だったが、去年の大会はその名を全国に知らしめた一戦であっただろう。
去年、西住の乗る黒森峰のフラッグ車を撃破したのが現在の隊長であるカチューシャさんらしい、恐らくその功績から選ばれたのだろう。
…と、ここまでが一般的なプラウダ高校のイメージだ。
さて、ここからは悪意ある者の見方だ、西住流や黒森峰の熱狂的なファンだったり、中途半端に聞き齧った情報だけを鵜呑みにして結論を出すような悪意のある見方。
去年の決勝戦、フラッグ車の車長である西住は悪天候の中、濁流に飲まれた仲間を助ける為に単身、戦車から飛び出した。
その行為に関しては俺も思う所はいろいろあるが、今は関係無いので置いておく、というより俺が口を挟む事ではない。
突然車長を失ったフラッグ車は混乱し、後からフラッグ車を追ってやって来たプラウダ高校のカチューシャさんによって撃破された。
ここで大事なのは西住が人命救助の為にフラッグ車から飛び出し、それをカチューシャさんが撃破した事だ。
悪意のある見方をすれば、人命救助の隙をついた、セコいやり方、非道、卑怯、つけようと思えばレッテルなんていくらでもつけられる。
…とはいえ俺も姉住さんから話を聞くまでは似たような考えだったのかもしれないが。
だが、話を聞いて考えてみれば黒森峰のフラッグ車をあの場所に誘導したのは間違いなくプラウダ高校の作戦であり。
あの状況で西住が仲間を助けにフラッグ車を飛び出した事を知る者は、残されたフラッグ車のメンバーくらいだっただろう、それを後からやって来たカチューシャさんがわかるはずもない。
なんせ舞台は全国大会の決勝戦だ、目の前に動かないフラッグ車があればそれを見逃す理由はない、プラウダ側はただ単にチャンスを物にしただけなのだ。
だが、人間の悪意なんてものは簡単に広がるし、なんならそれに尾ひれだってついてまわる。
【プラウダ高校は人命救助の隙をついて優勝した】
そう思う人間だって0じゃないだろう。
それはプライドの高そうなカチューシャさんにはこれ以上無い地雷だろうが、俺はあえてそれを踏み抜いた。
「…さっきの言葉、取り消しなさい、今なら土下座すれば許してあげてもいいわよ」
「取り消すも何も事実ですし」
カチューシャさんの様子を見るに俺が言わんとする言葉の意味はもうわかっているようだ。
「…あの試合は」
「ノンナ!!」
事情を知っているであろうノンナさんはおそらくフォローしようとしているのだろうが、カチューシャさんはそれを一喝した。
「だからなんなの?普通にやってたってプラウダが勝ってたんだから」
「さて、どうですかね?」
「勝つに決まってるわ!だから今年、黒森峰なんてボコボコにして、プラウダが最強なのを証明してやるんだから!!」
…あぁ、だから黒森峰との戦いにあれだけこだわっているのか。
もし黒森峰とプラウダの試合となれば、一般的に見れば黒森峰のリベンジ戦となるだろうが、リベンジするのはむしろプラウダの方なのかもしれない。
カチューシャさんの悪意を実力でねじ伏せようとするその姿勢は素直に尊敬する、俺にはとても真似出来ない事だ。
この人はプライドが高く傍若無人だが、それに見合う心の強さを持っていると思わせる、身長は低いけど。
だからと言ってここで『あ、じゃ頑張って下さい』とか言えるはずもないが。
「悪いけどあなた達弱小校なんて相手にもしてないの、さっさとフラッグ車やっつけて終わりにしてやるんだから」
それは勘弁して頂きたい、真正面から速攻でフラッグ車狙いに来られたらうちに勝ち目なんて無いだろう。
だがここで焦っては駄目だ、そんな弱みを見せれば準決勝をさっさと終わらせたいカチューシャさんは作戦を決めてしまうだろう。
「…はぁ、そうですか」
だから、あえて俺は含みを持たせるように一度引いた、プライドの高いこの人がそれに不満を持たないはずがない。
「何?言いたい事があるなら言ってみなさい」
…来た、ここが勝負所だ。
「いや、カチューシャさんが言う通りうちは弱小校なんで、そんな当たり前の結果で威張られても…って話です」
「っ!またカチューシャとプラウダを馬鹿にしたわね!!」
「別にそんなつもりはないんですけどね、まぁ…プラウダはフラッグ車を狙うのが得意みたいですし、良いんじゃないですか?」
カチューシャさんも散々言いたい事を言ってくれたんだ、煽り合いがしたいなら望む所だし言葉は慎重に選んだ。
「いいわ!だったらあえてフラッグ車だけ残して他は殲滅してやる!力の違いを見せつけてやるんだから!!」
「カチューシャ…それは」
「ノンナ、カチューシャの決めた事よ、文句無いでしょ?」
「…わかりました」
…予想通り、というか、予想以上の結果に思わず心の中でガッツポーズを決めてしまった、危ない、表情には出さないようにしないと。
カチューシャさんは言ってくれたのだフラッグ車だけ残して殲滅すると、つまりプラウダ側はフラッグ戦で殲滅戦の真似事をやってくれるらしい。
これで少なくともフラッグ車を速攻で倒されて即試合終了、なんて事態は避けられた。
もちろんこんな宣言になんの意味もないし約束も何もしていない、プラウダ側はいつでも撤回し、フラッグ車を狙うだろう。
ただ、プライドの高いカチューシャさんだ、少なくともプラウダ側が不利になるまでは大洗のフラッグ車を全力で狙ってくる事はしないはず。
予想以上の結果に満足し、八幡さん大勝利の巻!いぇい!ピースピース!!
「…それでカチューシャ、彼はどうしますか?」
ピースピース…、ん?俺?俺がどうかしたのか?
「決まってるわ!カチューシャとプラウダを散々馬鹿にしたのよ、しょくせいしてやるんだから!!」
しょくせい…?はて、聞いた事のない言葉に思わず首を傾げてしまう。
「カチューシャ、噛んでますよ」
「うるさいわね!粛清よ粛清!!シベリア送りにしてやる!!」
…しょくせい、しゅくせい、粛清!?
「…えと、どういう事ですか?」
「あんた、まさかこのまま無事に帰れるなんて思ってないでしょうね?」
…え?
「戦車道のルールでは捕虜に関する項目があります、試合終了までの間、我が校の交換学生扱いになりますね」
それは前にアンツィオ高校に行く前に秋山から聞いてたから知っているけど…、え?あれ、もしかして俺、ヤバいんじゃないか?
というか間違いなくヤバい…、この人達、捕虜にする気満々だ!!
考えてみれば今まではサンダースのケイさんやアンツィオの安斉さんが見逃してくれただけで、これがスパイに対する普通の対応なのだ、その前例がある分、俺も完全に調子に乗っていた。
「覚悟しなさい!シベリアで強制労働30ルーブルなんだから」
シベリアってロシアのウラル山脈の辺りだっけ…?学園艦なら行けない事もないけど。
マジで?シベリアに連行されるの!?…なんておそロシア、言ってる場合か!!
「日の当たらない校舎裏で、草むしりやもみの木の伐採、雪かき、穴堀等を30日間ですね、記録しました」
…良かった、さすがに本当にシベリアに送られるなんて事はなさそうだ、いや、ちっとも良くないだろ。
なにそのブラック企業も軽く引くくらいの労働スケジュール!?帝愛さんの地下王国でももう少し優しいくらいじゃないか?
というかカチューシャさんも当然だがノンナさんが怖い、一見すると無表情だが先ほどの俺とカチューシャさんのやり取りの間ずっと怖かった。
カチューシャさんの決定には素直に頷いていたけど、プラウダが不利になっただけだもんね、あれ。
そんなノンナさんを前にしたら逃げられる気がしない、もう駄目だぁ…おしまいだぁ。
「…カチューシャ、彼は私の客人だと伝えたはずよ、残念だけど今日は連れて帰るわ」
ダージリンさん!やっべ!ダージリンさんマジ女神!!これは惚れてしまいそう、あれ?そういや俺が大洗の生徒だってばらしたのこの人じゃなかった?
「なによダージリン、そんなの私には関係ないわ」
「私にはあるのよ、どうしてもと言うならこちらにも考えがあるわ」
ダージリンさんとカチューシャさんの二人が静かに睨み合う、ふぇえ…怖いよぉ。
「…わかったわ、今回はダージリンに免じて許してあげる、寛大なカチューシャに感謝しなさい」
やがてカチューシャさんは小さくため息をつくと引いてくれた。…本当に、今日出会って初めてその寛大な処置に感謝したくなりました。
…ふぅ、もうやだ疲れた、精神的にも限界で今すぐにでも帰りたい。
疲弊してズズズと少し冷めてしまったロシアンティーを飲んでいるとコンコンと、誰かがドアをノックして入ってきた。
誰だろうかと見てみると…日本人じゃない、ちなみにカチューシャさんもノンナさんも日本人です、もちろんイギリス淑女、ダージリンさんも日本人。
だが今入ってきた女子生徒はロシア人だ、そういえばプラウダはロシアと交流があるからロシア人の留学生が多いとかダージリンさんも言ってたっけ。
「クラーラ、何の用?」
このロシアの人はクラーラというらしい、カチューシャさんとノンナさんの様子を見るに、どうやらプラウダの戦車道チームのメンバーらしい。
「ーーーーーーーーー」
…え?何?日本語でおk?
クラーラがなにやら言っているがロシア語なのでさっぱりわからない、こういう時、ひょっとして俺の悪口言われてるのかもと不安になる。
関係ないけど外国の人ってなんで日本に旅行来るとき日本語覚えてこないのかね?日本人が外国行く時は結構頑張ってその国の言葉覚えてから行くイメージなんだけど。
いくらロシアからの留学生とはいえ日本語話せないんじゃ意志疎通なんて出来ないんじゃないか?
「ーーーーーーーーー」
と、思っていたらノンナさんがスラスラとロシア語でクラーラと言葉を交わしていた、本当にすげぇなこの人、何者だよ。
まぁプラウダってロシアと交流があるらしいし、ロシア語の授業とかがあるのかもしれないけど。
「あなた達!ちゃんと日本語で会話しなさい!!」
カチューシャさんが不満そうにロシア語で会話を続ける二人を叱りつけた、あぁ、別にプラウダ生徒が全員ロシア語が堪能な訳じゃないのね、やっぱりノンナさんが特別凄いのか。
俺もさっぱりわからないのでロシア語がわからないカチューシャさんを馬鹿にするつもりはないが、普段の戦車訓練とか大丈夫なんだろうか?
ちなみにダージリンさんは楽しそうにその様子を眺めながらお茶を堪能している、この人がロシア語を理解しているのかは謎だな。
「ノンナ、通訳しなさい、クラーラはなんて言ってるの?」
「はい、お昼寝の用意が出来たようです」
本当にそうなの?なんか二人の会話に比べてずいぶんと短いけど。
「あぁ…もうそんな時間なの、じゃあそろそろ寝るわ」
言われてカチューシャさんが大きな欠伸をする、あれ?確か俺が来た時も寝てなかったかこの人。
「え?今から寝るんですか?」
「なによ、また何か文句でもあるの?」
「いや…文句というか、午後の授業とかあるんじゃないですか?」
言い忘れていたが今日は平日である、ダージリンさんはどうなのか知らないが俺は一応会長から授業免除の許可は貰った。
…このままだと戦車道待遇で単位は問題ないけど学校の授業についていけなくなるかもしれんな、地味にマズイぞ。
ちなみに理由は平日の方が戦車道の授業をやってる確率が高いからである、そこに関しては完全に無駄足だったが。
「同士カチューシャは偉大なる指導者ですから、午後の授業は彼女が起きてから始まります」
…なんだそのカリキュラム、つまりカチューシャさんが起きないと延々昼休みなの?そっから授業開始したら家に帰れるの相当遅くなると思うんだけど。
学園艦の生徒どころか教師まで巻き込まれてるし、なんという暴君、無惨様かよ。
いや、本当にプラウダの捕虜にならなくて良かった…。
「準決勝、首を洗って待ってなさい、必ず痛い目に合わせてやるんだから」
「…まぁ、俺は試合には出ませんけど」
「生意気ね、…そうだ、いいことを思い付いたわ」
「…はい?何がですか?」
いいこと…?なんか嫌な予感しかしないんだけど。
「ふふん、準決勝を楽しみにしてなさい、必ず今日の事を後悔させてやるわよ」
何を思い付いたのかは知らないが、きっとろくでもない事のような気がする、なぜなら今カチューシャさんは悪意に満ちた楽しそうな笑みを浮かべているのだから。
…準決勝もまだ始まってないけど、もう充分今日の事は後悔してます、はい。