やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
まぁアニメでプラウダ高校が登場したのも8話からですし、仕方ないですよね!仕方ないですよね!!
「そろそろ着く頃ね、マックス」
「いや…まぁ、そうですか」
俺とダージリンさんを乗せた船はもうすでに海に氷山さえ浮かんでいるくらい北に進んでいる。
目の前のダージリンさんは今も優雅に紅茶なんぞすすっているが俺としてはそんな優雅な気持ちにはとてもなれないのが本音だ。
準決勝の会場に向かう途中、燃料補給の為に停泊したとある港町だったが、俺はその港町で後からやって来た聖グロリアーナの学園艦に引き渡された。
いや、引き渡されたっておかしいでしょ…、人質じゃないんだから。
「よく準決勝が終わった後、すぐに追いつけましたね…」
本当に、聖グロリアーナと黒森峰が準決勝してる間にも大洗の学園艦は北上してたはずなんだけど。
「あなたの為に急いで来たのよ」
「…そりゃありがたいですね」
ただし、ありがた迷惑であるが、どこのナデシコの艦長ですか、普通なら異性にこんな言葉を言われて喜ばない男子は居ないだろうが…。
「…本当にプラウダに行くんですか?」
「えぇ、美味しいお茶が飲めるのよ」
はい、そんな訳でやはりダージリンさんの言う【御茶会】の会場は準決勝の対戦校のプラウダ高校の学園艦であり、御茶会にはそのプラウダの戦車道隊長、地吹雪のカチューシャが来るらしい。
完全に敵地である、そんな所にわざわざ俺を連れて行くとか、この人の考えもいまいち読めないな。
なので今、俺とダージリンさん、そして聖グロリアーナの生徒数名を乗せた船は聖グロリアーナの学園艦からも離れ、プラウダ高校の学園艦に向かっているのだ。
「ダージリン様、紅茶のおかわりをお持ちしました」
ティーポットを持ってやって来たのは驚いた事にメイドさんである、さすがお嬢様学校の聖グロリアーナ、普通にメイドさんとか居るのか。
「ありがとう、マックス、あなたもどうかしら?」
「あぁ、えと…、いただきます」
しかしダージリンさんの方は慣れているのか優雅におかわりを貰っている、こうして見るとこの人、本物のお嬢様なんだよな。普段格言ばかり言ってるからアレなんだけど。
「どうぞ」
「…どうも」
メイドさんはあったかいもの、どうぞ、とでも言うように俺のカップに温められたホットなマックスコーヒーを注いでくれる。
「あの方がダージリン様の言ってた…」
「どんな方なのでしょう?」
「あの修羅場でも乗り越えたような目付き…、ただ者ではないですね」
去り際にメイドさん達が俺とダージリンさんを見てこそこそと何やら話しているのがチラッと見えて居たたまれない…。
お茶会に向かう途中なんだけどよくよく考えたらもう充分お茶飲んでるんだし、もう帰っても良いかな?え?駄目?
「………」
「………」
いやほら、今までダージリンさんと二人きりになる機会って無かったし、こうして改めて向き合うと何を話せばいいのやら。
「公式戦、あなた達と戦えないのが残念ね」
このまま黙ってマックスコーヒーをちびちび飲んでてもいいけど…、そう思っていたらダージリンさんから話題を振って来た。
…しかしその話題、出しちゃっていいの?俺としてはあまり気乗りしないんだけど。
「準決勝、見ましたよ」
「そう…、勝負は時の運と言うでしょう?」
「時の運というか、戦車性能の差でしょうけどね」
まぁ運が一番大事なのは間違っちゃいないとは思うが、勝負事というか、人生において幸運のステータスが一番大事である。
「…聖グロリアーナはもっと強力な戦車買わないんですか?」
聖グロリアーナの保有戦車といえばチャーチル、マチルダ、クルセイダーである。
イギリス戦車が主流らしいが、それならクロムウェル、コメット、ブラックプリンス、さらにはトータス等もっと高火力の戦車がたくさんある。
お嬢様学校な聖グロリアーナだ、貧乏な大洗と違ってそこら辺、買えない事はないと思うんだが。
「うちの卒業生達にはマチルダ会、チャーチル会、クルセイダー会の3会派があるのよ」
「はぁ…なんですか?それ」
「資金援助の代わりに学園艦や戦車道の運営に強い影響力があるの、その3つ以外の戦車はなかなか導入させてもらえないわ」
「うわぁ…老害ですね」
ようするに自分達がその戦車が好きだからそれで勝って欲しいとか、そんな手前勝手な理由なのだろう、これだからOGとか嫌いなんだよ、完全に老害じゃねーか。
「ふふっ、ダメよマックス、その人達も資金を援助してくれる大切なスポンサーですのよ?」
そう言ってるけどダージリンさん、笑ってますよ…、なんか今まで見た事ないくらい笑顔ですけど。
しかしスポンサーとは、物は言い様とはよく言ったものだ、口出ししてくる卒業生よりはだいぶ心証が変わる、スポンサー様大事だもんね。
「しかし…ぷっふふ、老害、そこまではっきり言ってくれたのはあなたが初めてね」
あー…この人も普段は涼しい顔してるけど戦車道の隊長としてOG達にあれこれ口出しされてるんだろうな。
貧乏だけど好き勝手やれてる大洗だからこそ、西住ものびのびと戦車道をやれているのかもしれない、大洗の戦車は拾い物だが。
「なら新型戦車の導入は厳しいんですね、それはいい情報を貰いました」
「あら?それはどうかしら?」
ニヤリと不敵に微笑んだつもりだったが、ダージリンさんは動じた素振りを見せず、逆に微笑み返してくる。
「来年は私がその卒業生になるのよ?」
「…うわぁ」
そりゃ怖い、この人の事だからそこら辺、大革命でも起こして強力な戦車をバンバン導入しかねない。
「私、センチュリオンが好きなのよ」
「なんでこのタイミングで好きな戦車言っちゃうんですか…、しかもセンチュリオンって」
卒業しても脅威になるって…、案外この人が一番怖いのかもしれない。
「来年こそは公式戦で戦える事を願ってますわ」
「…まぁトーナメントですから、くじ運に恵まれる事を願ってますよ」
「…そうね、来年、戦いたいわね」
「…?」
いや、だからくじ運なんだけど…、なんだろう、ダージリンさんの様子が少し妙に感じる。
「それよりまず準決勝よ、プラウダ高校については知っていて?」
「去年の優勝校、くらいには」
「プラウダは青森県の学園艦よ、ロシアと交流があるからロシアの留学生も多いの、だから戦車もロシア戦車が中心ね」
「ロシア戦車といえば、ジャンプ力…ですかねぇ」
是非とも本家本元の戦車ジャンプを見せてもらいたいものだ。
「…確かにジャンプはロシア戦車が有名だけど、試合中にはやらないんじゃないかしら?」
「…ですよね、戦車はやっぱりT-34とかですか?」
ロシア戦車を代表する戦車だし、間違いなく出てくるだろう。
「それにIS-2、あとはKV-2ね、プラウダの隊長がお気に入りなの」
重戦車スターリンに街道上の怪物とまで言われたギガントの登場ですか…、ますます大洗に勝ち目がなくなってくるな。
ーーー
ーー
ー
「プラウダ高校にようこそ、お久しぶりです、ダージリンさん」
「えぇ、今日は美味しいお茶を期待しているわ」
さて、ついにプラウダ高校の学園艦に上陸である、陸ではないが。
聖グロリアーナの学園艦も大洗の二倍くらいの規模だったがこの学園艦もデカい、サンダースもそうだが戦車道の強い所ってやっぱり金持ちの学園艦が多いな。
「あのー、そちらの方は?」
「私の客人よ」
「そっですか、私、ニーナと言います、こったら所までわざわざすみません」
俺達を出迎えてくれたのはニーナと名乗る小柄で東北なまりの話し方が特徴的な少女だった。俺が大洗から来た事は内緒の方が良さそうだな。
ニーナに案内されてトロリーバスに乗る、窓の外には広大な畑が広がっていた。
レジャースポットの多いサンダースや、イタリアを模したアンツィオと違ってなんか見渡す限り畑ばっかだな、プラウダってもしかして田舎なのん?
途中T-34を何両か見かけたが動いてはいない、今日は訓練はしないのか、動いているのを見れないのは少し残念だな。
とある建物の前のバス停でトロリーバスから降りる、ニーナはこの後用事があるらしいとの事でそのまま発車するトロリーバスに残った。
「ついたわよ」
「…ついちゃいましたか」
…いよいよ地吹雪のカチューシャとのお目通りという訳だ、ビックマムみたいなのが出てこなければいいけど。
怯える俺だが、建物に入って中で待っていた人物を見てそれが杞憂だった事に安心した。
「こんにちは」
中で俺達を待っていたのは黒髪で長身の女性だった、戦車道をやってる選手は基本的に小柄な女子が多いので珍しいが想像してたより大女ではなくて良かった。
「あなたが比企谷さんですね、話は聞いています」
ダージリンさんから事前に話はいっているようで一安心、というかいっていなかったら俺、誘われてもいないお茶会に参加した空気読めない奴になっちゃうし。
「…どうも、えと、カチューシャさん」
たぶんこの人が地吹雪のカチューシャなのだろう、風格がなんかそれっぽい。
「いえ、私は…」
「ふふ…、マックス、私は彼女と少しお話があるから、先に行って待っててくれないかしら?」
「…え?はぁ」
なんか今、ダージリンさんがカチューシャさんに向けて怪しげなアイコンタクトを送った気がする。
「…そうですね、先にお部屋へご案内します」
なんかよくわからんがカチューシャさんに連れられてお茶会の会場であろう扉の前まで連れて来られた。
「私達もすぐに入りますので、お先にどうぞ」
どうぞと言われて扉をあける、部屋にはもうすでにお茶会の用意が出来てるのか、ティーセットが置いてあった。
だがそれよりも気になるのは…なんかベッドが置いてあるんだけど。
「…ZzZ」
しかもそのベッドで誰か寝てんだけど、誰だ?…もしかして冷泉か?
近寄って見てみるとベッドですやすやと眠っているのは小さな女の子だ、本当に小さい、身長が130㎝もなさそうな所から見ても小学生くらいだろうか。
…なんで小学生がこんな所に居るのだろう?
「うーん…ノンナぁ」
そう考えていたら…しまった、寝ているその小学生に服の裾をがっつり掴まれてしまった。
えーと…え?嫌だこれ、動けない、下手に動くと事案待ったなしじゃないの?この状況。
昨今では高校生男子とて、迂闊に小学生に関われば通報されかねない、ましてや寝ている女子小学生の付近で動けないとか最悪だ。
「…Zzz」
そんな俺の焦りは当然知らないこの女子小学生は今なおすやすやと眠っている、まったく…小学生は最高だせ!!…とか言っちゃ駄目だぞ?
「…ん、あれ?」
…あ、起きた、しかもばっちりと目が合ってしまった。
女子小学生は俺を見て何度か目を瞬きさせる、寝起きでまだ状況が掴めていないのか。
「ぞ、ゾンビ!!」
「…は?」
…え?初対面での第一声がそれですか、さすがにちょっと傷付くんだけど。
「か、カチューシャのプラウダにゾンビが!の、ノンナ!!」
「どうしました、カチューシャ?」
バタン、と扉を開けてさっきの長身の女性、…カチューシャさん?がやって来る。
…いや、どうみてもタイミングがおかしい、ドンピシャ過ぎる、扉の前で待機してたとしか思えない。
「ノンナ助けて!ゾンビがカチューシャを襲いに来たのよ!戦車よ!戦車用意しなさい!!」
女子小学生がカチューシャ…いや、違うな、この長身の人はノンナというらしいが、そのノンナさんに泣きそうになりながら抱き付いた。
しかし戦車って…容赦ねぇ、ゾンビ対戦車とか新しいB級映画作れそうだよな。
「大丈夫ですよ、同士カチューシャ、彼はあぁ見えて人間です」
…あぁ見えてって、それはそれで酷くない?フォローになってないよ。
そして女子小学生に抱き付かれているノンナさんだが、顔がやたらとほくほくしているのはつっこんじゃ駄目なのだろうか…?
「…ん?カチューシャ?」
ノンナさん、さっきからこの女子小学生の事をカチューシャって言ってるけど、まさか。
「…彼女がカチューシャ、プラウダ高校の隊長よ」
…この女子小学生が?もしかして飛び級とかしてるの?
「ちなみに彼女も私と同じ三年よ」
…え?