やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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宴会の締めはやっぱりこの二人かなと、しかし今回は文字数ちょっと足りなかったので番外編を書いてみました。
やっぱりラブコメは難しいね…。本編、番外編、共に苦戦したよ。


宴会は終わり、彼女は進み、しかし彼は進まない。【おまけ:本編開始前0話】

「…八幡君?」

 

「なんでもない、気にするな」

 

あぁ、なんという醜態だろうか…、それもある意味一番厄介な子が来ちゃったよ。

 

さっきの俺の言葉、聞こえてないよね?見てて精々悶えてる所までだよね?それも充分醜態じゃねーか。

 

「…よかった」

 

どうやら聞こえていなかったらしい、俺の方こそよかった、西住が難聴系主人公で。

 

「隣、座ってもいいかな?」

 

「え?いや…なんで?」

 

「うん、ちょっと疲れちゃって…」

 

今の『なんで?』はなんでわざわざ俺の隣に座るのかと聞きたかったんだが…、西住は「よいしょっ」とか言って俺の隣に座り込む。

 

「疲れたって…、そういや姿見えなかったな、どっか行ってたのか?」

 

特に特定の場所に定住する事もできなかったので宴会場をぶらぶらしてたが西住は居なかったような気がする。

 

「西住流のサイン下さいってアンツィオ高校の人達に追いかけられちゃってて…」

 

「あー…お疲れさん」

 

あぁ、その光景が目に浮かぶようだ、アンツィオの奴らのノリと勢いを前にしたらもともと人見知りな西住もたじたじなのだろう。

 

「私サインなんて書けないよ…、お姉ちゃんじゃないんだから」

 

逆にあの人がサイン書けるのにちょっと驚くんだけど、まぁ有名人だしな。

 

「…やっぱり戦車道やってると西住流の名前はどこまで行っても付いてくるのかな?」

 

「そこはもう有名税みたいなもんだしな」

 

西住流といえば戦車道の名門である、姉住さんの活躍もあって戦車道の流派として知らない者は居ないだろう。

 

「そっか…、やっぱりそうだよね」

 

俺の隣で西住は体育座りをすると少しだけ寂しそうに呟いた。

 

「…戦車道続けて後悔してんのか?」

 

元々は生徒会の策略とはいえ直接的に彼女に戦車道を再開させたのは俺だ、だからその責任くらいはとるべきだろう。

 

ろくに戦車も無く、戦車道始めたばかりで素人集団の学校が大会初出場で準決勝まで勝ち進んだのだ、話題性としては充分だし西住も自分の仕事は存分に果たしたといえる、この結果には生徒会も文句は言えないだろう。

 

前も思ってはいたが彼女が戦車道を続けた事を後悔しているのなら、俺は責任を取って動くべきだ、それが他人に借りを作ってはならないぼっちの流儀である。

 

「八幡君、私ね…」

 

しかしそうなると生徒会と真正面からぶつかるのかぁ…あの会長には勝てそうにないが、さて、どうしたもんか。

 

「好き…なのかも」

 

「…え?」

 

いや…、ちょっと考え事してて聞こえなかったわ、ほら、俺って難聴系主人公だからね、どこかの自称友達の少ない金髪主人公みたいな。

 

…あれは難聴じゃないし、そもそも俺は主人公なんて器じゃないけど。

 

「前はずっと嫌だったし、逃げたいと思う事もあったんだけど…」

 

いや、今はそんな事どうでもいい…、それよりも。

 

「この学校に来てみんなに会えて、私…戦車道が好きになれたのかも」

 

「………」

 

「?、どうしたの?八幡君」

 

「いや、なんでも…」

 

あーびっくりした、『ずっと嫌だったし、逃げたいと思う事もあった』って下りからもしかしたら俺の事言われてるのかと思った…。

 

「前はずっと勝たなくちゃって…それしかなかったから、こうやって試合が終わってみんなでご飯食べるのなんて考えた事もなかったよ」

 

それは大洗というかアンツィオ高校の連中の存在が大きいと思うが、まぁそれ抜きにしても西住に黒森峰の戦い方は合わなかったんだろうな。

 

「だから私、大洗に来て良かった、私の知らない戦車道がたくさん見れたから」

 

「そっか、可愛い子には旅をさせろってやつなのかもな」

 

ダージリンさん風に言うなら『こんなことわざを知っていて?』と頭に入る所だろうが西住にはこのモノマネは通じないだろうし。

 

「か、可愛いだなんて…、そんな、私なんて全然可愛くなんか…」

 

「え?いや…」

 

顔を真っ赤にさせて体育座りの膝に顔をうずめる西住、あの…そういうことわざだからね?そもそもは親が子供に使うものなんだけど。

 

「でも、八幡君の言った通りだったね」

 

「何がだ?」

 

「前にここは黒森峰とは違うから、今度の戦車道は楽しくなればいいって…」

 

あぁ、最初の戦車探して時の事か、そういえばそんな事を言ってた気がする。

 

「私も戦車道が楽しいって思えたから」

 

西住流のしがらみこそあるんだろうが西住も吹っ切れたのか、戦車道を続けて良かったと、楽しいと、彼女は言う。

 

「そっか…、そりゃよかった」

 

「うん、よかった…」

 

とりあえず生徒会と真正面からぶつかる事はなさそうだと俺も一安心だ、西住が戦車道を続けていたいなら俺が余計な事をする必要もないだろう。

 

「…ん?なぁ西住、【も】ってなんだ?」

 

私も?じゃあ他に誰か居るのかと思ったが、たぶんあんこうチームの連中かな、特に秋山とか。

 

「え?えへへ…、さぁ、なんだろ?」

 

…なんか曖昧に笑って誤魔化されてる気がする。

 

「あっ!いたいた、みぽりーん!!」

 

「みほさん、こんな所に居たんですね」

 

そんな話をしてるとあんこうチームの四人がやってきた、いつの間にかあいつらも合流したのか。

 

「みんな、どうしたの?」

 

「ペパロニ殿が特製デザートを作ってくれるようなので、お呼びに来ました!!」

 

そういや戦車レースの結果はどうだったんだろうか?ペパロニが負けたら特製デザート作るとか言ってたがあいつの場合勝っても負けても作りそうだし。

 

「少し味見したがうまいぞ」

 

「麻子、どうせつまみ食いしたんでしょ?」

 

「味見だ」

 

「たくさんあるそうなので、みほさんもよろしければぜひ」

 

「うん、私も食べたい」

 

「では、直ちに参りましょう!!」

 

西住は立ち上がるとあんこうチームのメンバーに駆け寄る、嬉しそうに笑みを浮かべる姿は本当に楽しそうだ。

 

「八幡君も行こう?」

 

その途中、くるりとこちらも振り返ると俺にも声をかけてきた。

 

「…いや、俺は」

 

「比企谷も来ないと、私達だけで食べちゃうと太っちゃうよ?」

 

「なら沙織さんの分は私が頂きます、残すのは勿体ないですし」

 

「食べる!ちゃんと食べるからね!!」

 

「帰ったらダイエットだな」

 

「1日だけなら大丈夫!…だと思う」

 

「そういえばケイ殿はスタイル維持の秘訣に学園艦を何周か走ってるらしいですよ、武部殿もどうですか?」

 

「ゆかりんまで!?私そんなに太ってないよ!?」

 

サンダースの学園艦は食事の量がすごいらしいが…、なるほど、食べた分すぐに燃焼してるのね。いや、なるほどじゃねーな、サンダースの学園艦って大洗よりもデカイんだけどそこ走ってるってどんだけだよ。

 

「八幡君も、来ないと八幡君の分が食べられちゃうよ?」

 

「あー…、はいはい」

 

少しだけ面倒くさそうにして立ち上がると彼女達の後を追って宴会会場に戻る。

 

まぁ特製デザートは是非とも食っときたいしな。…そもそも俺の分があるのかわからんけど。

 

「そういえば西住殿の好きなデザートって何ですか?」

 

「私?私はマカロンかなぁ…、いろんな色があって見てるだけで楽しいし」

 

「おぉ、女の子らしくてポイント高い!みぽりんもやるね!!」

 

「みほさんは別にそういうのを気にしてるつもりはないと思いますが…」

 

「私は断然ケーキが良い」

 

…どうして、マカロン。いや、やっぱりこれは言っとかないとね。

 

華やかな女子高生トークに混ざる事なく後ろをノロノロと付いていく、見ていて西住も楽しそうだ。

 

「………」

 

戦車道を楽しいと思えるようになった…か、本当に純粋な奴だ、純粋といえば大洗の戦車道チームの連中はだいたいそうなんだろうが。

 

きっとこの中で、不純でひねくれてて、…嘘つきなのは俺くらいなものだろう。

 

口で心で、いつも言っている。

 

戦車道が嫌いだ、人間関係のしがらみが嫌いだ、こういう宴会とか打ち上げみたいなリア充的なノリが嫌いだ、と。

 

でも…一番は弱い、嘘つきな自分がなによりも嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ:本編前、0話】

*尺が余ったのでおまけとして番外編のせます。

 

「く、黒森峰女学院から転校して来ました、に、西住 みほ、です」

 

黒森峰から戦車を避けて、ここ、大洗学園に転校してきた私は黒板の前で教室の皆さんに自己紹介をします。

 

ここなら戦車道も無いし、夢にまで見た普通の、女の子らしい生活が出来ると思ってたんだけど…。

 

「西住さん、よかったら学校案内しようか?」

 

「え?えと…その」

 

「黒森峰って女子校だよね?どんな所だったの?」

 

「う、うん、黒森峰は…」

 

「そんな事より、彼氏は?なんつって」

 

「えぇ!?か、彼氏なんて…」

 

うぅ…やっぱりダメだな、私。

 

もともと知らない人と話すのって苦手だし、大洗は共学だから、男の子が特に苦手だよ…。

 

でも、女子校はどこも小さくても戦車道やってる所ばっかりだったし、戦車道の無い学校を選んだら共学になるのはわかってたから、これくらいでへこんでたらダメだよね。

 

ちゃんと質問に答えないと、せっかく転校してきて、新しい友達ができるチャンスなんだから。

 

「あっ!前の学校では何をやってたの?」

 

「…えと、前は」

 

…戦車道。

 

「………」

 

ちゃんと質問に答えなきゃダメなのに…、やっぱり言葉が出てこないよ、どうしよう、絶対変だと思われてるよ。

 

「はいはい、みんな、転校生の子が困ってるよ、今日はこのくらいにしてまた今度ね」

 

そんな私の様子を見て新しいクラスメイトとなった人が声をかけてくれました、えっと…この人はたしか。

 

「その代わり!質問なら私が受け付けるよ、男子のみんな、なんでも聞いてね!!」

 

「…いや、武部はいいや」

 

「うん、武部は別に…」

 

「ちょっと!なによそれー!!もー!!」

 

よくわかりませんが、武部さんのおかげで助かりました。良かった…あのままだと私、何も言えないままだったから。

 

でも…こんなんじゃダメだよね、よし!私も頑張って友達作らなきゃ!!

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「よしっ…」

 

教室に来て、小さく気合いを入れます。

 

お姉ちゃんが昔言ってました、友達を作るのに必要なのは相手の事を良く知る事だって。

 

名簿見てクラスメイトの名前も誕生日も覚えたし、これでばっちり!いつ誰とお友達になっても大丈夫。

 

友達を作って、普通の女の子として学校生活を送る、それが私の夢だから。

 

「あの、西住さん」

 

「あ、は、はい!!」

 

「わ!び、びっくりした…、西住さんの趣味とか聞かせて欲しいなって」

 

「し、趣味、ですか!?趣味は…」

 

…趣味といえる事なんてボコのぬいぐるみ集めるくらい、かな?

 

でも…黒森峰の時、エリカさんにその話はあんまり他人にしない方が良いって言われてたんだよね…、じゃあ他にはなんだろ?

 

私が黒森峰でよくやっていた事って…やっぱり戦車道、になるのかな。

 

「えと…その、………」

 

「え?あー、なんかごめんね、無理に話させようとして」

 

「え?あの…、その」

 

うぅ…、またやっちゃった、こんなんじゃダメなのに…。

 

考えてみればみんな二年生になった頃に転校して来たんだもんね、クラス内でグループはもう出来ちゃってるし。

 

前の学校じゃ戦車道やっていたから親しくなれた人も居たんだけど、ここじゃそんな人も居ないし…、私も戦車の話はもうしたくないし。

 

…どうしよう、このままじゃお友達ができないよ。

 

「…?」

 

そういえばクラス内で私と同じようにいつも一人の人が居る、今も机で寝ているみたいだけど。

 

あの人は確か…比企谷君、比企谷 八幡君、だったはず、変わった名前だったし、すぐ覚えられた。

 

転校してきた日から話した事も無いけど、あの人も転校生なのかな?

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

それから数日が立ちましたけど、やっぱり引っ込み思案な私は友達ができないまま、ちょっと寂しい学校生活が続いています。

 

何度か話かけられる事はあっても、いつもおろおろしちゃって…、クラスメイトと上手く話せないままの日々。

 

「このままじゃダメなのに…」

 

今日もお昼休み、クラスの皆さんは各々のお友達とご飯を食べに行く中、私は教室でため息をつきます。

 

…今日はどこで食べようかな?

 

そんな事を考えながら授業に使った道具を片付けているとシャーペンが落ちて、それを拾おうとして机にぶつかって今度は消しゴムと定規が落ちました。

 

それを拾い終えると教室に残っているのはもう私だけ…、やっぱり寂しいな。

 

「………」

 

え?あっ!比企谷君が残ってた…、え?今の見られちゃったのかな、なんだか恥ずかしいな。

 

比企谷君はチラリと私を見ると特に話をする事もなく、そのまま教室から出て行ってしまいました。

 

…私もそうだけど、比企谷君が誰かと話をしてる所はもっと見ないな。

 

でも比企谷君は私と違ってなんだか堂々としてる…、ちょっと凄いな、全然寂しそうに見えない。

 

そういえばいつもどこでご飯食べてるんだろ…?雨が降ってる日は教室に居るけど、お昼はいつもどっかに行ってるし、少し気になるかも。

 

…男の子と話すのはまだ苦手だけど、ちょっと付いて行ってみようかな?話せるきっかけになるかもしれないし。

 

「よし…、パンツァー、フォー」

 

…て、戦車道はもうやらないんだから、この掛け声は変だよね、まだ癖が抜けてないなぁ。

 

比企谷君を追いかけていくと外に出ました、雨が降ってる時は教室に居るのは外で食べてるからなんだ。

 

そのまま進むと比企谷君はあまり人の居ない所に座るとパンを開けて食べ始めます、いつもここで食べてるのかな?

 

「…風が気持ち良いな」

 

なんとなく、気持ちがよくわかります、この場所を通る風がとっても気持ちよくて、思わずそう呟いてしまいました。

 

「…あ?」

 

「え?」

 

そんな私の言葉が聞こえたのか、比企谷君はパンを食べる手を止めて私に気付いてしまいました。

 

ど、どうしようっ!?見つかっちゃったよ!!

 

と、とりあえず落ち着いて…、せっかくの機会なんだし、勇気を出して、声をかけてみないと。

 

「あ、あの…、比企谷君、ですよね」


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