やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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【アンツィオ戦前日、八幡と華のメール】


『比企谷さん、見て下さい』
【画像添付】

八幡
『華道の作品か?急にどうした?』


『明日に備えて集中力を高めようかと…、そうしたらとても力強い作品が出来上がりました』

八幡
『確かにすごいな』


『私、自分の華道に足りなかったものがわかってきた気がします、あと二時間程で出来上がるので、完成したらまた送りますね』

八幡
『寝ろ』


意外にも、アンツィオ高校は侮れない。(観戦編)

「ナオミ様!次は何をお飲みになりますの!!」

 

「…ローズヒップ」

 

「はい!なんでございましょう?」

 

「君も座れば良い、一緒に飲もう」

 

「え…、あ、はい」

 

「チョコレートを持って来ている、どうだい?」

 

「あの…、い、いただきますですわ」

 

…何あれ?

 

「…なぁアリサ、ちょっと目を離した隙に何があったんだ?」

 

気付けばナオミの横で頬を赤く染めて初々しくチョコレートを頬張るローズヒップが居た。

 

「くっ…、これだからおっぱいのついたイケメンは」

 

アリサは悔しそうに呟く、すげぇやナオミ、この一瞬でローズヒップを陥落させてしまうとは。…これだからおっぱいのついたイケメンは。

 

…いかんな、思考回路がアリサとかぶってしまった、なんなの?もしかしておっぱいがついてれば俺もモテるの?

 

「始まりましたね」

 

一瞬、俺がモテないのはおっぱいがついてないのが悪い、みたいな新しいぼっち漫画を想像しかけたがオレンジペコの一言で現実に戻ってこれた。

 

さて、今回のステージは山岳と荒れ地、そして森がメインとなるがこのステージの一番のポイントは中央にある十字路だ。

 

視界も広く確保して拠点にするにはうってつけ、西住も地図を広げ大洗のメンバーにそう説明していた。

 

「両軍動いたわね」

 

「えぇ、狙いはやはり十字路ね」

 

ケイさんもダージリンさんももちろんそれには気付いているのだろう、お互いに頷き合う。

 

「数ではアンツィオが有利、戦車性能はほぼ互角といった所でしょうか、ですが機動力では…」

 

「豆戦車を用いるアンツィオ側が圧倒的に有利ですね」

 

まぁそうだろう、大洗側がどんなに頑張っても先に十字路につくのはCV33だ、西住もそこは予想していた。

 

だが拠点を作るとなると必然的にアンツィオ側は防衛戦となる、ノリと勢いで通っているアンツィオがそんな作戦を取るとは考えにくいが。

 

「マックスさん、チョコ!ナオミさんからチョコレート貰いましたの!!」

 

「あー、うん、良かったなローズヒップ」

 

CV33の機動力を見てテンションが上がったのか、ローズヒップが興奮気味にマックスコーヒーとチョコレートを渡してきた。

 

「先ほどのポップコーンのお礼ですわ!少し分けてあげますの!!」

 

おー、よしよし、気がきくな。ローズヒップからマッ缶を受け取り一口飲む、チョコレートとの相性は抜群だ、これが甘い物×甘い物の暴力よ。

 

先に十字路に着いたのはやはりペパロニ率いるCV33隊だ、まぁこれくらいなら問題はない、豆戦車で防衛戦が出来るものならやってほしい。

 

だが、十字路についた彼女達はCV33に積んでいたある物を取り出すと十字路の各地に置き始めた。

 

「ぶっ!!」

 

「はしたないわよ、マックス」

 

思わず口に入れたマックスコーヒーを吹き出しそうになり、これにはダージリンさんも渋い表情を見せる。

 

いや…だってね、これはしょうがないでしょ。

 

ペパロニ達が十字路の各地に置いたそれは、アンツィオ校の戦車が描かれた看板、板だ。

 

CV33にセモヴェンテ、ご丁寧にフラッグ車のP40まで設置する始末。

 

あれれー、この作戦って…。

 

「わぉっ!ファンタスティックッ!!」

 

これにはケイさんもおおはしゃぎ、あー、この人潜入偵察にノリノリだったし、アンフェアはダメでもこういう変わった作戦は好きなのね。

 

「一瞬で陣を作った…、こんな作戦、我が校では考えませんわね」

 

正しくは陣を作ったように見せかけた、といった方が良いか。確かにこんな作戦、強豪校じゃ考えられないだろう。

 

言ってみれば単純な戦車戦の範囲外だ、自軍の戦車性能が劣るなら作戦でカバーする、貧乏学校の辛い所だね。

 

だがこれで大洗側から見ればアンツィオは完全に十字路の制圧に成功したように見える、これはまずいな…。

 

「戦車の看板?はっ!なによ、ずいぶんとセコい手を使うじゃない」

 

その中継を見てアリサさんが口元半笑いで漏らした一言がこれである、これにはさすがに俺含むその場の全員がアリサを見ていた。

 

「なっ!なによ!なにか文句でもあるの!!」

 

いや…むしろなんで文句ないと思うのか、今日のお前が言うな代表になりたいのかな?

 

「そもそもあれがOKなら通信傍受機だって…」

 

「アリサ、また反省会したいの?」

 

「ふ、フェアプレイばんざーい!!」

 

一瞬サンダース校の闇を垣間見た気がしたが…、まぁ気のせいだろう、うん。

 

しかしさすがはスカウトされるほど優秀な人物だな、安斉さん、これでは大洗側も迂闊に手は出せなく…。

 

「…数がおかしいですね、看板とカルロ・ヴェローチェと合わせて全部で12両、十字路に配置されました」

 

「二回戦のレギュレーションは全部で10両まで、これでは作戦はバレバレね」

 

画面の中のペパロニは一仕事終えたぜ!と言わんばかりに満足気な表情で十字路から去っていった。

 

うん、迂闊だったのはアンツィオ側だったか、なんか知らんけど偽戦車の看板を多めに配置してくれたらしい。

 

「あっはっは!あの子面白いわね!!」

 

これにはケイさんも大爆笑、最早コントである。

 

「ふふっ、置き間違えてますわね、1両多いですわ!!」

 

「二両多いのよ…、ローズヒップ」

 

おい…マジかよローズヒップ、なんにせよペパロニがアホな子で助かった、西住ならこの違和感にすぐ気付いてくれるはずだ。

 

つーか、ペパロニだけじゃなくて他のアンツィオの奴らも疑問に思わない辺り、アンツィオはアホな子しか居ないのか?偵察に行った時からなんとなくわかってたけど。

 

実際このポカがなければ大洗側は結構ヤバかったんじゃないだろうか。

 

大洗も八九式を偵察に出しているがそこは戦車の性能差か、セモヴェンテが先に十字路に到着した。

 

まぁ今さらアホな子が増えても…と思っていたらカルパッチョだ、十字路の状況を確認した彼女は苦笑いしつつも余分な看板を回収した。

 

しまった…、そういやこの子が居たよ、つーかカルパッチョは本当にアンツィオ校の生徒なの?ローズヒップと代わった方が良くない?

 

これでアンツィオ側の作戦は成功…か、カルパッチョはセモヴェンテを十字路に1両残すと残りを率いて再び森の中に潜む。

 

これで十字路には本物と看板による偽物が混じった編成となった、これがなかなか厄介で嘘というのは少し真実を交えると信憑性が増すものだ。

 

CV33が警戒を続ける十字路の中に偽物が混じっているとはさすがの西住も考えつかないだろう、しかもアンツィオ側はフラッグ車のP40の偽物まで用意している。

 

「さーて、面白くなって来たじゃない」

 

「えぇ、これにはさすがのみほさんもすぐには気付けないんじゃないかしら?」

 

十字路は完全に囮か…、となるとアンツィオの狙いはなんだ?

 

本物のP40は依然として森の中に姿を隠している、そりゃ十字路に偽物が居るから当然だが。

 

「さてマックス、アンツィオ高校の狙い、あなたにはわかるかしら?」

 

まるでクイズでも出しているかのように楽しそうに言うダージリンさん、そう言うって事はこの人にはもう答えがわかってるのだろう。

 

「大洗側を十字路に集めて包囲、とかですか?」

 

「半分正解で半分不正解、フラッグ車は前線には出さないでしょう?」

 

「つまり、十字路に戦力を集中させれば…フラッグ車は孤立無援となる」

 

「そう、つまり一回戦の私達とは逆パターンね、この場合はフラッグ車同士のタイマンになるんじゃないかしら?」

 

ケイさんが捕捉で説明をしてくれる、つーか…うん、やっぱり強豪校の隊長格の人って判断能力が恐ろしいな。

 

確かに…いくらフラッグ車といってもこのまま隠れていたら重戦車であるP40を買った意味がないもんな、そりゃ戦闘には出てくるか。

 

P40対38(t)とか分が悪すぎんだろ…、そもそもうちの砲手ナメんなよ、ゼロ距離からだって砲撃外せるんだからね、あの人。

 

「カルロ・ヴェローチェとセモヴェンテが八九式を追いかけていきましたね」

 

中継を見ると十字路に残っていた本物の戦車群がアヒルチームの八九式を追いかけていくのが見えた。

 

これで十字路に残っているのは偽物の看板だけ。

 

「これで攻めるにはうってつけの機会、という訳か」

 

上手いな、向こうの指揮をやっているのは恐らくカルパッチョか、小学校の頃から戦車道やってるだけはある。

 

「みほさんはどう出るかしらね」

 

大洗側はあんこうが偽P40の居る十字路の北側に移動を開始、恐らくは南側のウサギチームと挟撃するつもりなのだろう。

 

カバチームのⅢ突が38(t)の護衛に待機している所を見るとアンツィオ側の作戦を看破はしていないものの、ある程度の違和感は感じているようだ。

 

…一応、最悪の結果だけは免れたか。

 

こちらの状況が分が悪い事に変わりは無いが、少しだけ安心した。

 

中継は切り替わり逃げる八九式とそれを追う4両のCV33とセモヴェンテに切り替わる、まぁ今一番派手に戦ってる所だしな。

 

とはいえこの試合始まって最初の本格的な戦車戦が豆戦車対八九式って…、会場の皆さんはそれで納得してくれるのだろうか?

 

そう思っていたが意外にも意外、観客席からはわりと大きめな歓声が上がっている。

 

その理由はアヒルチームが追いかけてくるCV33にきちんと砲撃を当ててぶっ飛ばしている、その映像の派手さからだろう。

 

「行進間射撃で次々当ててるけど…、相変わらずあんたん所の八九式はおかしいわね、なんなの?あの練度は?」

 

「操縦技術だけじゃなく、射撃にも優れているのか」

 

これには並み居る強豪校の方々も目を見開いている。

 

「データ上では大洗が戦車道を始めたのは今年からのはずですが、一体どんな魔法を使ったんですか?」

 

「まぁ…その、根性?」

 

「答えになっていない気がします…」

 

答えにはなってるんだよなぁ…、あれこそ彼女達の純粋な努力の賜物なのだから、それを魔法の一言で片付けてしまうのはどうにも好きになれない。

 

「というか、あれほどの選手を八九式に乗せとくなんて馬鹿じゃないの?」

 

それを言われると辛い、何が辛いかって他に戦車が無いし、そもそもバレー部の連中は八九式に並々ならぬ情熱を注いでいるし。

 

バレーの練習をする時でさえ八九式と一緒にやっている彼女達だ、今さら他の戦車用意しても本人達が断るだろう。

 

なんで根性見せて断崖絶壁をくだって最初に八九式を見つけちゃったのかね、もちろん俺は好きだよ!八九式!!

 

しかし…まぁ、逆に考えれば八九式をここまで使いこなせれるのは彼女達ぐらいだろう、前に西住とも話した事があるが彼女達を他のチームの戦車に乗せても最終的に八九式が戦力にならなくなって大洗の戦力がダウンする事になる。

 

「それより気になってるんですけど、なんでカルロ・ヴェローチェは白旗上げてないんですか?」

 

順調にCV33に砲撃を撃ち込む彼女達だが、どのCV33からも白旗は上がっていない。

 

戦車道の規定では走行不能となった戦車は白旗が上がって撃破出来るはずだが。

 

「マックス、あれを見なさい」

 

ダージリンさんに言われてつい先ほど八九式に砲撃をぶちこまれて横転したCV33を見ると乗組員が横転したCV33を自分達の手で元に戻していた。

 

「なるほど…車体が軽いから衝撃も緩和されるんですね」

 

あぁ、そういうのもアリなのね…、いやいやなるほどじゃねーや、冷静に考えたらやっぱりおかしいでしょ。

 

「カルロ・ヴェローチェって2tくらいの重さじゃなかったでしたっけ?」

 

それをアンツィオ校選手は二人で押し戻してるんだけど…どういう事?

 

「ほらアリサ見なさい、やっぱり戦車道も体力が大事なのよ、アリサ、ナオミ、今日も試合が終わったらウェイトトレーニング、良いわね?」

 

「イエスマム」

「い…イエス、マム」

 

ケイさんの提案に涼しげに頷くナオミに対してアリサが青白い表情を浮かべる、御愁傷様です。

 

ちなみにM4シャーマンの重量はおよそ30tである、是非ともやってもらいたいものだ。

 

『カルロ・ヴェローチェ三両、走行不能』

 

恐らくは西住からアドバイスをもらったのか、ウィークポイントを押さえた八九式の砲撃がCV33を3タテした。

 

「ヒュウッ、やるね」

 

同じ砲手として感心したのか、ナオミが素直にそう誉める。

 

「私のクルセイダーなら当たりませんわ!なんなら今から試してみてもいいですわよ!!」

 

何を思ったかいきなり立ち上がるとどこかに行こうとするローズヒップ。

 

「ローズヒップ、戻りなさい」

 

「はい!ダージリン様!!」

 

そして戻ってくる、本当にせわしない奴…。

 

だが八九式の快進撃も追い付いてきたセモヴェンテに阻まれる事になる、最後に残ったCV33を追いかけた八九式は間に入ったセモヴェンテによって返り討ちにされた。

 

『大洗学園八九式、走行不能』

 

結果だけ見れば大健闘だろう、八九式は敵を充分引き付けてくれたし、おまけに三両も撃破したのだ。

 

ただ今回はその敵すらも囮である、画面は再び十字路に移り変わりいよいよアンツィオ高校の真の作戦が発動する。

 

違和感の正体に気付いた西住がその真偽を確かめる為に偽物のP40に砲撃、それを合図にカルパッチョ率いるセモヴェンテが十字路に向けて動いた。

 

あんこうチームとウサギチームがセモヴェンテに囲まれ、カバ、カメチームには安斉さんの乗る本物のP40が迫る。

 

「大洗学園…ピンチですね」

 

それ、なんか一回戦の時も聞いた気がするなぁ…、本当にすんなり勝たせてはくれないか。

 

「データ上、アンツィオ高校はノリと勢い、ここまで調子に乗られると…」

 

ノリと勢いだけはある、調子に乗ると手がつけられない、これがアンツィオ高校を一言で表す言葉らしい。

 

作戦成功でノリに乗る今がまさにその状態なのだ。

 

とはいえ…。

 

「まぁ…ノリと勢いならうちも相当だと思いますよ」

 

そもそも戦車道始めたきっかけも会長がノリと勢いで始めたようなもんだし、集まったメンバーもあんな感じだし。

 

「あら、それならサンダースだって負けないわよ」

 

あぁ、ケイさんの性格的にもアメリカンスタイルなサンダース的にも確かにノリと勢いはありそうだ。

 

「もちろん私達だって負けていませんわ!!」

 

「そこは対抗しなくて良いんです!!」

 

聖グロリアーナは優雅たれでしょ?いや、ローズヒップ一人でノリと勢いは充分だろうが。

 

「その自信、何か作戦があるのね?」

 

「…こんな言葉を知っていて?」

 

「またダージリン様のマネですか…、しかも前回よりちょっと似てますね」

 

「どこがかしら?ペコ」

 

やったぜ、密かにちょっと練習してた甲斐があったわ、…何やってたんだろ?俺。

 

「切り札は先に見せるな、見せるならさらに奥の手を持て、ですよ」

 

最初はヒヤッとしたがよくよく考えればこの状況はある意味で好都合かもしれない。

 

そう、あの【偽ラブレター作戦】には。

 

「…ペコ、今の言葉は?」

 

「すいません、私もちょっとわからないです」

 

「…おやりになりますわね、後で調べましょうか」

 

あと、君ら二人共なんかすっごい悔しそうだね、ごめんね、少なくとも偉人格言集とかには載ってない言葉だと思うよ。


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