やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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お気に入り登録者数がななななんと2000人突破、…いやいや、おかしい、たぶんこれは夢だ!!(確信)
また何かやろうかなとも考えましたが本編も進めたいのでどうしようか考え中、いずれどこかのタイミングでいきなり番外編とかぶちこむかもしれません。


やはり戦車道にはーーー。

「…暗いね」

 

「なんだかお化け屋敷みたいです」

 

そんな訳で急遽発足された我等が武部と一年共捜索隊は船の中を底を目指して進む。

 

最初こそ船内も明るく、学園艦を動かしている船舶科等、船内で作業している他の科の生徒を見かけたが底の方に進むにつれてだんだん見かけなくなっていき、照明もどんどん暗くなっていった。

 

ここまで学園艦の下の方に来たのは初めてなんだが…、なんかだんだんとダンジョン染みてきてない?なんで船内なのにここまで照明無いの?

 

武部が心配なのか、捜索について来た西住と秋山はさっきからびくびくしながら俺の先を歩いている、秋山の奴、どこから取り出したのかライトのついたヘルメットを被ってて用意が良いな。

 

え?なんで俺が先頭に行かないのかって?べ、別に先頭が怖い訳じゃねーし、本当だし!!

 

「…冷泉、いい加減服引っ張るのやめて欲しいんだけど」

 

「………」

 

最初こそいつものように涼しい顔でついてきていた冷泉だが、船の中がだんだんと暗くなるにつれてその様子がおかしくなっていった。

 

なんかもうぶるぶる震えてるし、下向きながら無言で服を掴まれた俺はさっきから全然先に進めない、ちょっと…制服伸びちゃうでしょ?

 

「冷泉殿…大丈夫ですか?」

 

「お、オバケは…早起き以上に、無理」

 

絞り出すかのようなか細い声でなんとか冷泉が答える。…はい?

 

「なにお前、夜型な癖にオバケ駄目なの?」

 

俺もどちらかといえばそのカテゴリーだが冷泉の奴は夜の方が目が冴える典型的な夜型人間らしい。

 

…朝起きられないのって低血圧云々よりただ単に夜更かししてるだけなんじゃないの?こいつの場合。

 

まぁ気持ちはわかるよ、寝たら1日終わっちゃうもんね、そして起きたら学校だもん、寝なけりゃその分遊んでられる訳だし。

 

「そ、そんなの関係無いだろ、夜でも電気付ければ明るいんだからな」

 

うーん…この現代っ子さんめ、しかし早起きに加えてオバケも弱点なのか、天才キャラだけど何気に弱点多いな、こいつ。

 

「明かりなんて月明かりだけで充分、あとは眩し過ぎるだけじゃないかな」

 

先頭を歩いていたミカさんがカンテレをポロンと奏でて答える、逞しい事に彼女達継続高校の三人組は特に怯えた様子もなく、平然と先に進んでいる。

 

対する我等大洗学園は冷泉はこんなんだし、西住と秋山も頼りない、ただ一人、五十鈴だけが涼しい顔で継続高校の三人について行っている。やだ…なんて頼もしい背中、惚れちゃいそう。

 

「…なんか慣れてるな」

 

「これくらいはなんともないよ、私達よく野宿とかするし」

 

「キャンプみたいで楽しいよな!」

 

…こいつら普段どうやって生活してるんだ?つーか授業は?学校行かなくていいの?

 

「なんなら冷泉、お前だけ先に戻ってろ」

 

こんな調子じゃ前に進めないし、これだけ人が居るんだから武部達もすぐ見つかるはずだ。…あと距離が近いんで俺の心境もヤバい。

 

「…迷子になった沙織をからかうチャンスだからな、ついてく」

 

そんな事を言いながらも冷泉の表情は少し恥ずかしそうだ、たぶん幼なじみの武部の事を心配しているのだろう。

 

「はぁ…、ならさっさと見つけるぞ」

 

冷泉のばぁさんもそうだけど、こいつもやっぱりツンデレだよな、それが冷泉の家系なのか。

 

「…服、掴んでていいか?」

 

「あんま引っ張らなけりゃな」

 

「…すまない」

 

さっきまでと比べたら多少はマシになったか…、これで少しは歩きやすくなった。

 

「第17予備倉庫近くだったらこの辺りだと思うんだけど…」

 

西住が会長から貰った船の地図と、壁に張り出してある地図を見比べる。…つーか武部達もどこまで降りて来たんだよ。

 

「んじゃこの辺りだな、冷泉、武部の奴に連絡入れてくれ、ミカさん、何か一曲弾いてもらっていいですか?」

 

あとはミカさんに何か適当に弾いてもらって、その音を頼りに武部達に来てもらおう。下手に探して二次災害が起きるよりも向こうから来てもらった方が確実だ。

 

「誰かに言われて弾くのはあまり好きじゃないかな」

 

じゃあ何しに来たんですか、あんたは。

 

「もー、ミカ、ちゃんと協力しないとご飯作ってもらえないよ」

 

…あくまでも俺は『お礼に何かご飯作ってくれるかも』って言っただけなんだけどね、彼女達の中じゃもう作ってもらうの前提なのか。

 

「アキが聞きたいなら弾くさ、それは私の意思だからね」

 

「も、もう…ミカったら、またそんな変な事言って…」

 

ちょっと継続さん達、俺達無視して急にゆるゆりな雰囲気作らないで、俺が一番居たたまれないから。

 

「それじゃあ一曲弾こうか、そうだね…こんなのはどうだい?」

 

ミカさんがカンテレを弾き始める、…何を弾くかと思ったらなんかすげぇ悲しげな曲を弾き始めた。

 

この暗い船内でそんな曲弾き始めるもんだからカンテレの音が通路に響いてホラー感が倍増になっている。

 

「素晴らしい音色ですね、私も琴には少し触れた事がありますから良くわかります」

 

「五十鈴殿、やはり肝が座ってますね」

 

というかちょっとズレてると言った方が良いんじゃないかな…、確かに音色だけなら素晴らしいのかもしれんが。

 

「あ、あの…ミカさん、もう少し明るい曲とか、ないんですか?」

 

「私なりに雰囲気に合ったものを選んだつもりだったんだけど、いけないかな?」

 

雰囲気に合ったものを選んだからいけないんでしょ…。

 

「お…オバケが」

 

あとさっきから冷泉の顔色がヤバい、あんまりうちの操縦手苛めるのやめたげて?さっきから震えっぱなしで生まれたての小鹿みたいなんだけど。

 

「ひ、比企谷さん、もう少し近付いても…、うわぁっ!?」

 

冷泉が何か言おうとしているがそれよりも先に俺の携帯の着信がなった、着信音?そりゃ当然砲撃音でしょ?今日はIS_3にしている。

 

「ん?小町からメールか…」

 

結局戦車探しから武部達の捜索になりだいぶ遅くなってしまったからな、返信しようとすると冷泉と目が合った。

 

「…嫌がらせか!!」

 

え?何で怒られたの?理不尽じゃない?

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「みぽりん!みんな!!」

 

そんなこんなでその後、ミカさんには別の曲を弾いてもらった、今度は軽快な感じの曲で、すぐに武部達にもその音色が届いたようだ。

 

しかしその曲を弾き始めた後のアキとミッコが身体軽く揺らしたり、足でステップ踏んだり、若干ノリノリだったんだけど、好きなのかな?

 

「救助隊だぁ!」

 

「私達、助かったんだ!!」

 

一年共が武部に抱きついてわんわんと泣き始める、んな大袈裟な、まぁ不安だったんだろうが。

 

「よしよし…もう大丈夫だからね」

 

そんな一年共を武部は優しく声をかけて宥めている、やっぱりおかんなんだよなぁ…。

 

「武部殿、モテモテですね」

 

「本当ですね、希望していたモテかたとは違うようですが」

 

迷子になった一年共をまとめて面倒見てたんだ、そりゃあモテると思いますよ、母性的にね。

 

「比企谷も来てくれたんだ…、ありがとね」

 

「…気にすんな、会長命令だからな」

 

本当うちの生徒会、人使いが荒すぎない?このままじゃ将来的に社畜として洗脳されそうで怖いんだけど。

 

「つーかお前ら、なんでこんな船の底まで降りて来てんだよ…」

 

前回迷子になった俺が言うのもなんだが、こうなる前に戻ってくれば良かったのに。

 

「でも…せっかく戦車見つけたんだし」

 

「え?戦車あったのか?」

 

「うん、船舶科の人達から話を聞いてね、ここにそれっぽい物見たって人が居て」

 

…何で船の底に戦車が放置されてんだよ、そういえば八九式は崖の下にあったらしいし、Ⅲ突は水の中、M3リーはうさぎ小屋だったか。

 

大洗学園は20年前に一度戦車道を止めたらしいが、なんか捨ててある戦車の場所がどれも妙だな、隠してあるみたいにも思えてくる。

 

「ひ、比企谷さん…」

 

そんな事を考えていると冷泉に服をぐいぐいと引っ張られる、おい、あんまり引っ張るなって言っただろうに。

 

「なんだよ冷泉、幽霊でも居たのか?」

 

「継続高校の人達が…居ないぞ」

 

言われて辺りを見ると…、マジで継続三人組の姿が見えない。

 

「あ、あれ?ミカさん達、どこ行ったんだろ?」

 

「や、やっぱり…オバケか?オバケなのか!!」

 

普段の彼女を見ていると考えられないくらい声を荒げて取り乱している冷泉だが、俺の方は頭を抱えたくなった。

 

忘れてた…本当に怖いのはオバケよりも人間なんだよね、つーか油断も隙もなさすぎだろ、あいつら。

 

「継続高校って…何?」

 

うん、とりあえず事情を全く知らない武部には申し訳ないが、地上に戻るのはもう少し待って欲しい。

 

「武部、とりあえず見つけた戦車の所まで案内してくれ、大至急だ」

 

「え?何で?別に誰かに盗られる訳でもないんだし…」

 

「誰かに盗られちゃうんだよ…」

 

一年共は五十鈴と秋山に任せて、俺と西住は武部の案内で戦車を見つけたらしい倉庫へと向かう、冷泉?修行はしたがはっきり言ってこの戦いにはついていけそうにない、五十鈴と秋山に任せた。

 

「えっと…ここなんだけど」

 

目当ての倉庫の扉を開けると…、段ボール等のなんかごちゃごちゃした資材の奥の方に戦車が置いてあるのが見えた。

 

「こ、これは!!」

 

この戦車ってもしかしてアレか?こんなマニアックなレア物戦車まで大洗にあるのか!!

 

よし、是非とも今度俺も戦車探そう、もちろん一人で、見つかったらそれはもう俺のもんだよね?

 

…でもこれ、試合じゃ使えないな、たぶん。

 

「…あ、見つかっちゃた」

 

「やぁ、君達も来たんだね」

 

やっぱり居た継続高校の三人組、こいつらの戦車発見能力もなかなかヤバいよね、やっぱり普段から戦車探しとかしてるんだろうか?

 

「どうも、んで…どうします?この戦車、持って帰るんですか?」

 

答えはわかっていたがわざと意地悪くそう聞いてみた、何故ならいくら整備に優れてると言われる継続高校でも、この戦車は手に余るだろう。

 

「やめておくよ、私達のポケットには大きすぎるからね」

 

やっぱりこの人絶対ルパンだよ…、がルパンⅣ世とか名乗っても良いんじゃないかな。

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

大洗学園戦車道チームの入浴シーンだと思った?残念!比企谷ちゃんでした!!

 

そんな訳で戦車探しでくたくたな彼女達は現在、みんなでお風呂タイムである、見たい人はBlu-rayでも買って見ようね。

 

ちゃっかり継続高校の三人もついてっちゃってるんだけどね、見たい人は…残念ながら映像化を待とうか。

 

もちろん俺もくたくたなので一応、シャワーだけは浴びた、学園内に大浴場はあるが基本的に家風呂派である、その方がゆったりできるし、なにより知らない奴と入ってる風呂とか落ち着かない。

 

そんな訳で一足先に解散させてもらった、このまま家に帰ってもいいが、少し見つかった戦車が気になったので自動車部の所に来ている。

 

彼女達自動車部は現在、船の底で武部達が見つけた戦車を回収中である、どうやらパーツがバラバラの状態らしく、それを全部船の底から引き上げなければいけないのでなかなかハードな作業だろう。

 

「あれ?比企谷、まだ残ってたんだ」

 

「…どもっす」

 

俺に気付いたのかナカジマさんが声をかけてくれた、というかそれはむしろこっちの台詞なんですけどね、本当にこの人達いつ家に帰ってるんだろう。

 

「見つかった戦車と砲身、使えそうですか?」

 

「うーん、長砲身はⅣ号に付けれそうだし、ルノーもレストア出来るとは思うんだけど、どっちもちょっと二回戦には間に合わないかも、ごめんね」

 

いや、あなた方が謝る事は何一つないと思いますけど、明らかに無理言ってるのはこっち、主に河嶋さんの方ですし。

 

沼に沈んでたルノーは電気系とかいろいろヤバそうだし、試合前にⅣ号を急に弄る訳にもいかないか、この二つの活躍は二回戦以降になりそうだ。

 

「…今回収してる戦車はどうするんです?売るんですか?」

 

勿体ないとは思うけど、武部達の見つけた戦車はスペックを考えても試合じゃ使えないだろう、レア物なのは間違いないので売れば高値はつきそうだが。

 

「なんで?ちゃんとレストアは完了させるよ」

 

「え…いや、レストア完了させてもまともに試合で戦えないと思いますよ、この戦車」

 

単純な性能だけ見れば強い事は強い、むしろ今の大洗最強と言っても良いレベルだが、なにぶん欠陥がありすぎる戦車だし。

 

「試合中に壊れたら敵のいい的になるだけですし」

 

「それは大丈夫だよ、この戦車、私達で乗ろうって思ってるから、試合中壊れたら自分達で直すよ」

 

「…え?ま、マジですか!!」

 

「マジだよ、そうとうマニアックな一品みたいだし、マニアの血が騒ぐね」

 

この人達ガチだよ、…大丈夫かな?走行中にだって壊れる可能性がある戦車なのに。

 

でもこの人達なら普通になんとかしそうなのが恐ろしい、戦車の腕前も申し分ないし、こりゃ今の大洗の最大の助っ人だな。

 

「でもその分じっくり直さないとね、この戦車が大会で使える事を願ってるよ」

 

戦車道全国大会はトーナメント戦だから、負けたらそこで終わりですもんね、今日見つけた戦車も長砲身も二回戦で負ければ意味がなくなる。

 

…せっかく働いた仕事が実は無駄だった、なんて以ての他だ、二回戦は西住達に是が非でも勝ってもらわねばな、うん。

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「…げっ」

 

「やぁ、また会ったね」

 

自動車部の人達と一通り話も終えたのでそろそろ帰ろうかと思っているとミカさんが待ち構えていた、例の如くカンテレを奏でている。

 

「…一人ですか?」

 

「アキもミッコもまだお風呂だよ、これから素敵なイタリアとドイツの料理をご馳走になるのさ」

 

あの後武部に事情を説明して、なんとか継続三人のディナーを約束させる事に成功した。

 

最初は俺も手伝えと言われたがどうせ西住達も行くだろうし、そんな女子ばっかりの空間は俺の心が死にそうなのであれこれ理由つけて断った。

 

それにしてもイタリア料理にドイツ料理ね、二回戦の相手がアンツィオ、黒森峰だからだろうけど、そう考えると武部の料理のレパートリーってすげぇな。

 

「戦車道はどうだい?」

 

「どうって…、別に俺は戦車道やってる訳じゃないですからね、単なる雑用ですよ」

 

この人、何か勘違いしてないかな?あれはあくまでも乙女の嗜み(笑)であって俺自身、別に戦車道をやっている訳じゃない、単なる雑用係だ。

 

「そこはたいした問題じゃない、大切なのは関わって何かを得られたかどうか、なんじゃないかな?」

 

「…はぁ、何か、ですか?」

 

「戦車道には人生に大切な全ての事が詰まっている、でも、多くの人がそれに気付けない」

 

「…そりゃそうでしょうよ」

 

細かく分ければもちろん違うだろうが人類の男女比なんてだいたい半々なんだから。戦車道は女子の武芸でその理屈なら人類の半分は確実に気付けないまま一生を終える事になる、なにそれ悲しい。

 

「あ!ミカやっと見つけた、もう…せっかく武部さん達がお料理ご馳走してくれるのに、どこ行ってたのよ」

 

「そうだぞー!もう腹ペコなんだからな!!」

 

そんなよくわからんやり取りをしていると、向こうからアキとミッコがやって来た。

 

「迎えが来たようだし、そろそろ行こうかな」

 

さっきは二人共まだ風呂だとか言ってたのに、この人、わざわざ俺の事待っていたのか?…んな訳ないか。

 

「君もいつか気づけるといいね、本物に」

 

「…何ですか?それ」

 

「さぁ、なんだろうね?」

 

ミカさんはそう言うとアキとミッコの二人の所に戻っていく、おそらくは今から武部の家かどっかで西住達も交えての食事会なのだろう。

 

…いったいなんだったんだろうか?飄々とした掴みどころのない性格だし、謎の多い人だな。

 

まぁ、戦車が盗られなかっただけ良しとしとこうか。

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「アキ、そろそろ出発しようか?」

 

「出発って…、まだ朝早いじゃない、もうちょっと寝ていようよ、せっかく暖かいお布団で寝られてるんだよ」

 

翌日、特別に生徒会室で泊めてもらった彼女達継続高校の三人組だがまだ日も満足に昇らない早朝から動き出した。

 

「試合も始まるから、そろそろ学校に戻らないとね」

 

「それはそうだけど、別にお昼くらいでも良かったのに…」

 

はぁ、とため息をつくアキだがそこまで不満という事はなさそうだ、というより、彼女からすればミカの突然の行動も割といつもの事なのだろう。

 

「ミカだって、もっとみほさんとおしゃべりしたかったんじゃなかったの?」

 

「なんでそう思うのかな?アキ」

 

「えー、だってみほさんに会いに来たんじゃなかったの?トーナメントの抽選会で見た時からずっと気にしてたじゃない」

 

「顔が見られただけでも満足だよ、それに、たくさんのおしゃべりは必要なのかな?」

 

「もう…、あれ?そういえばミッコは?」

 

ふとアキはミッコの姿が朝起きた時からずっと見かけていない事に疑問を感じた。

 

「先に行ってるよ、準備があるからね」

 

「準備って出発の?」

 

首を傾げながらもとりあえずアキはミカの後をついていく、この先には自分達の乗ってきた船が止めてあるのだ、勿論無断だが。

 

「あ!ミカ、言われた通り、準備はバッチリだよ」

 

「ありがとう、ミッコ」

 

「…ねぇミカ、船の上に乗ってるあの戦車って」

 

船の上で二人を待っていたミッコが手を振り、ミカが答える、そんなやり取りよりもアキの注目は船に乗せられた戦車にあったのだが、その後の三人のやり取りはまた別の機会にでも。

 

「いや~、飲み物もご飯も貰えて、泊まる所も提供してくれて、大洗に来て良かったよなー」

 

「うん、良い人達だったね、今度お礼しなくちゃ」

 

「戦車道を続けていたら、いずれ必要な時が来る、お礼はその時に返せばいいよ」

 

「ミカ、それってどういう意味なの?」

 

「さて、単なる風の囁き…かな?」

 

こうして風のように突如現れた彼女達継続高校三人組はこれまた風のように去っていく。

 

「…スピード、あんまり出ないね」

 

「戦車二両も積んでるし、仕方ないよなー」

 

「たまにはこういうゆっくりとした船旅も悪くないんじゃないかな?」

 

僅かに登り始めた太陽を眺めながら、ミカはいつものようにカンテレを奏でて答えた。

 

朝焼けは彼女達の船と『二両の戦車』を照らし、その影を伸ばしている。


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