やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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*前話の選択肢で【五十鈴となら落ち着いた感じで行けるだろう…】を選択した方のルートです、五十鈴さんと八幡のアンツィオ潜入偵察。

やっぱりアンツィオ校と五十鈴さんとくればこのネタは外せません、いっぱい食べる君が好き。
アニメでは誰一人つっこんで無いのがシュールでわりと好きです。


アンツィオ校五十鈴√『やはり、五十鈴華はお嬢様である』

そしてアンツィオ校への潜入偵察決行日、前回と同じく、アンツィオ行きのコンビニの定期船に乗り込む事になった。

 

…なんで観光客に成り済ます予定なのに、またコンビニ店員の格好して潜入してんだよ、生徒会の全面協力とはなんだったのか?きっと予算無かったんだなぁ…。

 

「私、潜入偵察なんて初めてなのでとても楽しみです」

 

「一応言っとくけど、遊びで行く訳じゃないからな…」

 

俺の隣にはウキウキとした表情で楽しそうな五十鈴が居る、普段の大人しいお嬢様な雰囲気が台無しである。

 

「はい、もちろんです、私、この日の為にいろいろと用意したんですよ、変装の為に必要なサングラスやマスク、あとあんパンはいかがでしょうか?」

 

古い古い、なんかチョイスが圧倒的に古すぎる、いつの時代の探偵だ。

 

「そんなもん余計に目立つだろ…」

 

「そうですか…、それは残念です」

 

自分で選んどいて言うのもなんだが…、連れてきて大丈夫だったんだろうか?五十鈴って実家が華道の家元だし、お嬢様だし、なんか世間知らずなイメージがあるんだけど。

 

「あぁ、でも朝飯まだだったな…、あんパン、貰っていいか?」

 

「それでしたら比企谷さん、お茶にしましょうか?」

 

「…お茶?」

 

「はい、私、多少ですが茶道の心得もありますから、アンツィオ校まで時間がかかると優花里さんに聞いていたので、準備してきました」

 

茶道…、茶道かぁ、お茶はお茶でも抹茶だよね、それ、あんまり飲んだ事ないけど苦いのはやだなぁ…。

 

「少し待っていて下さい、ご用意します」

 

俺の返事も聞かず、鞄から簡易的な茶道の道具を取り出して広げると五十鈴はお茶の用意を始めてくれた。

 

「…茶道までやるのか?」

 

「嗜むくらいなので、未熟でお恥ずかしいですが…」

 

そう言いながらお茶を点てる姿は普通に絵になっている、五十鈴にはやっぱり、こういう日本的な作法、大和撫子という言葉が良く似合う。

 

…大和撫子といえば。

 

「そういや、女性向けの伝統的文化って華道、茶道はわかるがなんで戦車道なんだろうな?」

 

この3つの中で戦車道って異質過ぎないか?前2つに比べて毛色が違い過ぎる、お茶の道、花の道ときてからの戦車の道って…。

 

「並べるのが剣道、弓道、戦車道とかなら…、まぁわからんでもないけど」

 

いや、実際わからんけど、なんでそこで戦車入っちゃったの?剣と弓の時代に戦車とか蹂躙する気満々だろ。

 

「私も詳しい事はわかりませんが…、優花里さんのお話では馬上薙刀道から変化したとか」

 

いやおかしいでしょ?なんで薙刀から戦車になったの?近代兵器どっから出てきた?

 

「ですが…昔から女性の学ぶ伝統文化といえば茶道、華道、戦車道ですから、戦車道も淑やかで慎ましい、婦女子を育成する事を目的とした武芸なのではないですか?」

 

「戦車道がなぁ…」

 

何か俺の知り合いの戦車道やってる奴等が全員特殊なのか知らんけど、とてもそうは思えんな…。

 

あと婦女子と聞いて腐ってる方をどうしても想像してしまうのは俺の耳が汚れているからなのだろうか?

 

「そういえば…茶道も華道も、お見合い等では先方の受けがいいらしいですが、戦車道はどうなのでしょう?」

 

「…どうって言われてもな」

 

ちょっと想像してみる…。

 

「なにかご趣味をお持ちで?」

「お茶が好きなので、茶道を少々…」

 

わかる。

 

「なにかご趣味をお持ちで?」

「花が好きなので、華道を少々…」

 

わかる。

 

「なにかご趣味をお持ちで?」

「撃つのが好きなので、戦車道を少々…」

 

怖ぇよ!少なくともお見合いの場で出る言葉じゃない、むしろ身の危険さえ感じるレベル。

 

「…少なくとも俺には理解できんな」

 

「そうですか?ですが私は戦車道を選んでよかったと思います」

 

「アクティブだからか?」

 

「それももちろんですが…、皆さんと一緒に学べる事が楽しくて」

 

まぁ戦車道は団体競技みたいなもんだしな、つくづくぼっちの俺には向いていない。

 

そう考えると華道は個人競技みたいなもんだし俺には向いているかもしれん、茶道?お茶に呼べる奴いねーよ、お茶濁すわ。

 

「…そう考えると、五十鈴は理想的なお嬢様って感じだな」

 

「…私が、ですか?」

 

「いやだって…、茶道、華道、戦車道、全部やってるんだし」

 

女性向けの伝統的な文化を全部嗜んでる事になる、三冠王だな。

 

「言われてみれば確かにそうですね、ふふっ…、なんだか恥ずかしいです」

 

奥ゆかしく微笑むのがなんとも彼女らしい、そうした1つ1つの立ち振舞いがもうお嬢様といえる。

 

「ですが…堅苦しくはないですか?」

 

「…ん、あんま気にしないけどな、騒がしいの苦手だし」

 

「それは良かったです、…どうぞ、お茶が出来ました」

 

スッと五十鈴が作りたてのお茶を出してくれる、やっぱり抹茶じゃねーか。

 

「お茶菓子と言うには無理がありますが…、あんパンもどうぞ」

 

そしてお茶の横に置かれたあんパンがなんともミスマッチで変な感じである、いいのかよ、こんなんで。

 

「…悪いが茶道の作法なんて知らんぞ?」

 

「流派によって様々な作法がありますので、私は気にしませんからお好きに飲んで下さい」

 

…って言われてもな、つか茶道って流派とかあるの?

 

「えと…、いただきます?」

 

抹茶の入った湯飲みを手に取る、…こういうのは一回回すもんなのかな?

 

「ふふっ、先にお茶菓子を頂いてからお茶を飲むのが一般的なんですよ?」

 

「え?そうなのか?」

 

「えぇ、見ていて下さい」

 

お手本を見せてくれているのか、五十鈴があんパンを食べ、上品に自分用に注いだお茶を飲む、なんとも絵になる光景だ、…お茶菓子があんパンでなければ、だが。

 

五十鈴の作法を真似てあんパンを食べる、口いっぱいに広がる甘さ加減、さて、そっからの抹茶か…、苦くなけりゃいいけど。

 

「…うまいな」

 

苦いどころか、あんパンで甘くなった口をスッキリとさせてくれるちょうどいい味加減だった。

 

「あまり誰かに披露した事はありませんでしたので、お口に合って良かったです」

 

嬉しそうに微笑む五十鈴、えっと…こういう時はなんて言うべきなんだっけ?

 

「あー…、えと、結構なお手前で?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

「…ついたな、ここがアンツィオ校か」

 

さて、船での一悶着もようやく終えていよいよアンツィオ校にやって来た。

 

「建物もどれも芸術的ですね、とても素晴らしいです」

 

「こりゃ観光客が多いのもわかるな」

 

イタリアまで行かなくても旅行した気分になれる訳か、そりゃ安上がりだ。

 

「しかし人が多いな…」

 

結婚情報誌の効果がよっぽどなのか、俺達以外にも観光客を多く見かける、それもカップルがやたらと多い、こいつらみんな爆発しないかな?

 

「あっ!比企谷さん、あそこにCV33がありますよ!とても可愛らしいです!!」

 

テンション高めに五十鈴がCV33を指差す、花器にぴったりかどうかはさておき、そういや好きなんでしたっけ?

 

「移動に使ってんのか…、アンツィオ校じゃ自動車感覚で使ってるみたいだな」

 

あながち、CV33の運用方法としちゃ間違ってなかったりする、豆戦車だし、考え方次第では二人乗りの軽自動車みたいなものだ。

 

そう考えると一家に一台戦車があってもいいのかもしれないな、将来は庭付き一戸建ての戦車がある家に住みたい。

 

「移動用…それは素晴らしいですね!うちは人力車が主ですから」

 

…そういや新三郎さんが送迎用の人力車夫なんでしたっけ?というか人力車と戦車を比べちゃいかんでしょ。

 

「私も是非、移動にCV33を使ってみたいです、今度お母様に聞いてみましょうか?」

 

…このお嬢様、人力車の代わりに戦車で大洗の街中横断するつもりなの?試合でもないのに?

 

もうそうなると五十鈴家がヤの付きそうな方々どころか武装集団にまでなりそうだけど…。

 

「つか…新三郎さんじゃ戦車操縦出来ないだろ」

 

…出来ないよね?あの人が『お嬢~!!』とかのノリで戦車乗ってる姿は想像できそうだけど。

 

「ふふっ、なら操縦は比企谷さんにお願いしますね」

 

「…いや、俺もそんなに出来ないから」

 

たまに自動車部に顔出して試運転させてもらってるくらいだし、いや、そもそも問題はそこじゃない気がするが…。

 

「とりあえず例の新型戦車だな、戦車道チームの練習場でもわかればいいけど」

 

「このままここに居ても仕方ありませんし、少し歩いてみませんか?」

 

それもそうかと、ぶらぶらとアンツィオ校の校内をぶらついているとふと五十鈴が立ち止まった。

 

「? 何か見つけたのか?」

 

「何か…鉄と油の強い匂いがしませんか?」

 

え?そんな匂いする?五十鈴に言われてクンカクンカスーハースーハーしてみる、いや、しないけど。

 

…全然わからん。

 

「…気のせいじゃないのか?」

 

「…いえ、確かに匂います、こちらの方からですね」

 

俺には全然わからんが五十鈴は何やら感じ取っているらしい、そういえば大洗で戦車を探した時も五十鈴は微かに残った戦車の鉄と油の匂いを嗅いだと聞いたな。

 

五十鈴の母親も五十鈴の手から鉄と油、花の匂いを嗅ぎ分けてたし、華道の家柄にとっちゃ必須スキルなの?それ。

 

「行ってみるか」

 

このまま当てもなくぶらぶらしていても仕方ないし、ここは五十鈴の嗅覚を信じてみるか。

 

五十鈴に先導されて歩いていくとなんか馬鹿デカイ建物についた、武部から事前に貰っていた結婚情報誌のアンツィオ校特集を見ると、ここがコロッセオらしい。

 

「匂いはこの奥からしますけど…、中には入れませんね」

 

「…スケジュール表があるな、どうやら戦車道の練習もここでやってるみたいだが」

 

どうやらここがアンツィオ校の戦車道チームの練習場に間違いなさそうだが、練習開始まではまだ時間があるらしい。

 

「とりあえずどっかで適当に時間潰すか」

 

「でしたら比企谷さん、少し早いですがお昼にしませんか?」

 

「まぁ…いいけど」

 

戦車道の練習が始まればその機会もなさそうだし、ここで昼飯を食べておくのは悪くない。

 

地図によると屋台街なるものがあるらしい、本当にこの学園艦なんなの?

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

「…本当にこの学園艦、なんなの?」

 

「賑やかで楽しそうですね」

 

屋台街なる場所にやってくると、多くの屋台と観光客で賑わっていた。雑誌によると屋台の店員は全員生徒らしい、本当に授業はしてるんだろうか?

 

「いろんな屋台があるな…、昼飯、何にする?」

 

さすがイタリア風なだけあってパスタやピザはもちろん、他にもいろいろな屋台が出揃っている。

 

「比企谷さんは席を取っておいていただいてもよろしいですか?お料理は私が」

 

え?いいの?普通逆な気がするんだけど…。

 

五十鈴は足取りも軽やかに屋台の方へ向かって行った。そんな様子に声をかけるタイミングを逃してしまう。

 

…まぁいいか、もうすぐお昼になるのもあって混んで来たし、席を確保しておこう。

 

二人分座れそうな席を確保してしばらく待つ。…遅いな。

 

一人ぽつんとそこに居る身からすれば周りがカップルだらけなのもあって結構ツラい、ぼっちにこの状況は酷というものだ、まさに孤独のグルメである。

 

「すいません、お待たせしました」

 

ようやく五十鈴が戻って来た。…その手に大量の料理を持って。

 

「…は?」

 

「どうぞ比企谷さん、パスタです、ナポリタンとカルボナーラのどちらがよろしいですか?」

 

テーブルに二人分のパスタが置かれる、さすがイタリア風の学園艦、パスタ料理は基本だな。…いや、そうじゃなくて。

 

「それとこちらはピザです、マルゲリータとマリナーラの二種類ご用意しました、分け合って頂きましょう」

 

続けてピザがテーブルに置かれる、ピザかぁ、トマト色強いのはあんまり好きじゃないんだけど。…いや、そうじゃなくて。

 

「あと、やっぱりご飯が必要ですよね、リゾットも買って来ました」

 

あぁ、うん、日本人としちゃお米は忘れちゃダメだよね、イタリアでは米をデザートに用いるのが一般的だったりするらしいけど。…いや、そうじゃなくて。

 

「あとはやっぱりお肉ですよね、私、とても美味しそうなカルパッチョを見つけたんですよ」

 

カルパッチョといえば日本ではマグロやカツオ等の刺身料理が一般的だが本場のイタリアでは牛ヒレ肉の薄切りを使った肉料理である。…いや、そうじゃなくて。

 

「…次は」

 

「待て、五十鈴、ちょっとストップ」

 

「…はい?」

 

…いや、『はい?』じゃないでしょ?もうテーブルに料理置けないんだけど。

 

「まさか…これ全部食べるつもりなのか?」

 

「はい、どれもとても美味しそうです」

 

いや…美味しそうなのは認めるよ、どれもボリューム満点だし、とても学園艦の生徒が作った料理とは思えない。

 

…が、なんだこの量は?大食い王決定戦でも始まるの?

 

「…少し、足りなかったでしょうか?」

 

「なんでそうなるんだよ…」

 

「すいません、比企谷さんくらいの年頃の男性の方がどれ程食べるのかわからなくて…」

 

少なくとも平均的な男子高校生がお昼に食べる量じゃない事は確かである。

 

「足りなければ私のを少し差し上げますから、いつでも言って下さいね」

 

…いや、そうじゃなくて、つーか五十鈴の前に置かれた料理の数も同じくらいなんだけど?

 

「…五十鈴、お前もその量食べるのか?」

 

「…え?はい、そうですけど?」

 

驚愕する俺に対して本人はきょとんとした顔で返した。…マジかよ。

 

あれれ?ひょっとして俺がおかしいのかなー?…そんな訳あるか。

 

「それでは頂きましょうか」

 

「お、おう…」

 

二人してまずはパスタを頂く、…なんだこれ普通に美味いぞ、本当に生徒が作った料理なのか?

 

生徒のやる屋台なんて文化祭とかのパサパサした焼きそばみたいなもんだろうと思ってたが、普通に店出していいレベルである。

 

…とはいえまだピザとかリゾットとかカルパッチョとか、その他諸々が控えてるんだよなぁ…。

 

「このパスタ料理、とても美味しいです」

 

対する五十鈴は…うん、美味しそうにもぐもぐと食べている、この量に対して尻込みしていない。自分で持って来たから当たり前だが。

 

「? どうかしましたか?」

 

「…いや」

 

「あっ!私のナポリタンも食べてみますか?」

 

何を勘違いしたのか、五十鈴はフォークを使って上手くナポリタンをまとめると俺の前に出してくれた。空いているもう片方の手で受け皿を作っている仕草がとても彼女らしい。

 

…いや、問題はそこじゃなくて、いや、そこも問題なんだけど。

 

「えっと…五十鈴?」

 

「どうぞ食べてみて下さい、美味しいですよ?」

 

いや、うまい事はうまいんでしょうけどね、これってほら、状況がアレだし、しかもそれ、五十鈴さんが使ってるフォークでしょ?

 

「お、俺はほら、あんまり食べる方じゃないし自分の分で精一杯なんだよ」

 

「…そうなんですか、それは残念です」

 

シュンと少し寂しそうにされるが、じっさい本音もある、果たして俺はこの料理を全て食べる事が出来るだろうか?うん、無理だろう。

 

「それなら私が少しお手伝いしましょうか?」

 

え?五十鈴さんマジですか、こちらとしても非常に助かるしむしろ皿ごと持っていってくれてもいいくらいなんですが…、自分の分もあるのにまだ食べるの?

 

「いいのか?」

 

「はい、元々お料理を持って来たのは私ですし」

 

どうなってるの?胃袋が宇宙にでも繋がっているのだろうか…、そうじゃなきゃこれだけ食べてる五十鈴が太ってないのはおかしい。

 

…いや、多分アレかな、栄養が全部前についてる豊かな2つのお山の方にいってるのかな?

 

「なので比企谷さんは気にせず、どうぞ食べて下さい」

 

そして俺の前に再び出される五十鈴のフォークとパスタ、あぁ…まだ続いてたのね、それ。

 

これ食べないとダメ?食べないと俺の分の料理食べるの手伝ってくれないんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「ごちそうさまです」

 

「…さまです」

 

はい、まさかの完食でした。しかも五十鈴はまだ涼しい顔をしているが俺はもうお腹いっぱいで動きたくない。

 

「どれもとても美味しいですね、まだまだ屋台はたくさんありますし、もう少し見て回りませんか?」

 

まさかまだ食べるつもりじゃないよね?五十鈴の食事量ってこれが標準なの?なんで西住達はつっこまないんだろう。

 

「…あら、あれは」

 

「造花が置いてあるな…、あれは何て花なんだ?」

 

日本ではあまり見ないたくさんの黄色い小さな丸い花の造花だ。

 

「あれはミモザですね、イタリアでは女性に花を贈る記念日にミモザの日というものがあるんですよ」

 

日本でいうバレンタインデーとかホワイトデーみたいなリア充共の爆発を願う日みたいなもんか、まさかイタリアにも似た風習があったとは。

 

ひょっとして世界的に見たらまだまだこういうリア充共御用達のイベントは多いのだろうか。…まさか世界全体が敵とは、もう地球爆発しちゃえよ。

 

ミモザ以外にも様々な花がそこには置いてある、俺はあまり詳しくないが五十鈴は家が華道の家元なんだし、その辺は詳しそうだ。

 

…屋台街に置いてあるって事はこの店は花屋か、食事関係以外にも色々売ってるんだな。先ほどの五十鈴の話を聞くに、造花だがミモザが置いてあるって事はカップルを狙ってるんだろう。

 

屋台の前ではアンツィオ校の生徒が二人、なにやら準備している、あれは…花瓶か?

 

「とりあえずこんなもんスかね?」

 

「いい感じいい感じ」

 

「しかしさすが姉さん!カップル達を狙ってあえて食事ではなく花で勝負とは目のつけどころが違うッス!発想の勝利ッス!!」

 

「ふふん♪これでうちの部も売り上げ上昇は間違いない!!」

 

アンツィオ校は学園艦全体が貧乏らしいので、別に戦車道に限らず、どこの部活動や委員会もこうやって店を出して予算を稼いでいるらしい、基本的にたくましいな…こいつら。

 

…そう考えるとさっき五十鈴が持って来た料理の中には戦車道チームの屋台もあったりしたんだろうか?あれ?売り上げに貢献しちゃってる?

 

「あとは客引き用にこの花瓶に花を入れるだけ、…どんな感じがいいんだろう?」

 

「適当に目についたの入れればいいんじゃないッスか?花瓶なんてそんなもんでしょ?」

 

アンツィオ校の生徒はそう会話しつつ、ぽいぽいと雑に、それはもうぐちゃぐちゃに、花瓶に花を投入している。こいつら…何故花屋を選択した?

 

…つーか、うん、これはちょっとマズイ、何がマズイかって隣の五十鈴さんがさっきから一言も喋ってないのがマズイ。

 

「よし、完成だ!!」

 

「なんか…、ぐちゃぐちゃじゃないですか?」

 

アンツィオ校生徒二人は一仕事終えた涼しげな表情だが、花瓶の花はなんとも無残なものになっていた。

 

「…比企谷さん」

 

「は、はい!?」

 

恐る恐る五十鈴の方を見ると…、彼女は柔らかく微笑んでいた。うん、その表情には見覚えがある。

 

これ、いつぞやの華道の家元モードがONになった五十鈴さんじゃないか。

 

「私、少し彼女達にご指導をしたいのですが…よろしいでしょうか?」

 

「お、お手柔らかにな…」

 

「えぇ…、もちろんです」

 

ちなみに五十鈴の『お手柔らかに』は華道用のハサミの開け閉め百回を3セットからスタートする、もちろん正座で。本当にもう…身に染みてる。

 

まさか一年の時選択していた仙道の授業がこんな所で役立つとは思わなかったぜ、みんなも霊剣山で待ってるぜ!!

 

五十鈴がアンツィオ校の生徒二人に声をかける、心の中で二人に合掌を送りつつ。ふと、そろそろ戦車道の練習が始まる時間になる事に気付いた。

 

…華道の家元モードの五十鈴には下手に関わらない方がいいだろう、何か巻き添えくらいそうだし。

 

まぁアンツィオ校の戦車道チームの潜入偵察が終わった後にでも迎えに来ればいいか。五十鈴の指導も時間がかかりそうだしな。

 

乙女の嗜む伝統的な芸道といえば、茶道、華道、戦車道。

 

どれも決して中途半端にしない芯の強さこそが、とても彼女らしいと思えた。…ついでに食道とかも極めてそうではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

余談だが、いや、本当に全く関係ない話なんだけど。

 

その日からアンツィオ校の屋台街に置かれた花屋の店先の生け花がとても反響を呼び、雑誌にも取りあげられ、しばらくはこの花屋がアンツィオ校の売り上げトップになったらしい。

 

店員である生徒のコメントは。

 

『食事だけではない、アンツィオ校の素晴らしい所をお見せたいと、このお花屋を始めました』

 

『アンツィオ校にお越しの際は、是非立ち寄って下さい、素敵なお花をお贈りします』

 

との事らしい、そんな!口調まで変わってるとか、五十鈴流華道術、マジパない…。


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