やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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【番外編】どこまでも、武部沙織は恋に戦車に一直線。その3(完)。

「そりゃ私が二人きりになりたいって言ったけど…、何で戦車格納庫なの?」

 

「いや、ここしか思いつかなかったし…、もう戦車の整備も終わって自動車部の人らも居ないしな」

 

と言ってもここに来る途中、自動車部のガレージに電気がついてるのを見かけた。あの人達どんだけ超人なんだよ、たまには休めばいいのに。

 

休日の、しかも時間が時間なので校内に残ってる生徒も比較的少ない、船舶科と違って一般科はそこら辺、きっちりしている。しかしなんで俺は休日に学校に来ているのだろう…。

 

ここなら扉さえ閉めれば西住達も話の内容は聞こえないだろう、さすがに扉開けて入ってくるとかしないだろうし。

 

「いや、他にもあるでしょ?」

 

「他…って、だって家とか行くのはさすがにマズイだろ?」

 

「い、家!?そ、そういうのはもう少し何回かデートしてから…、って!そうじゃなくて、カラオケとか、いろいろあるでしょ?」

 

「…その発想はなかったわ」

 

普段カラオケなんて行かないし、行くとしても一人で行くし。

 

デンモクで曲打ち込んで歌ってまたデンモクで曲打ち込んで歌ってを繰り返す比企谷 八幡のワンマンライブだ、マイクは誰にも渡さない、渡せる相手が居ないから。

 

しかし武部と二人きりでカラオケとかそれはそれで結構抵抗ある、こいつ歌とか超上手そう、というか絶対上手い(確信)。いろいろ声かえて何曲でも歌えそう。

 

「…でも、休みの日に学校に来るのってそれはそれで結構ロマンチックかも」

 

…そうか?数学の補習に戦車訓練、生徒会の呼び出しと基本的に面倒な事ばっかなんだけど。あぁでも確かに自分からわざわざ来たりはしないな。

 

「それにちょうどよかったかも…、比企谷、立ち話もなんだし、とりあえず座ろっか?」

 

「座るってどこに?」

 

「そりゃもちろん、Ⅳ号の中にだよ」

 

勝手知ったる自分の家、という訳ではないが、武部はⅣ号戦車のキューポラを開けて中に入る。

 

「ほらほら、比企谷も早く入りなよ」

 

「いや、俺は別に…」

 

キューポラからちょこんと西住のように顔を出して武部が俺を呼ぶ、余談だがⅣ号戦車はキューポラの数が多く、乗組員全員が顔を出せるのが特徴だ。

 

「いいから、せっかく女の子が招待してるんだよ?」

 

ただし戦車に、である。まぁ…武部達にとっちゃもう部屋みたいなものなのかもしれんが。

 

「お邪魔します…」

 

Ⅳ号の中に入ったのは聖グロリアーナとの練習試合以来か、ただしあの時は強制連行だったが。

 

五人乗りの戦車に六人で乗ってたから狭かったな…。まぁ戦車の中が狭いなんて当たり前だが。

 

…あれ?その狭い戦車の中で武部と二人きりって。

 

「…なんか比企谷と二人きりで入るのって変な感じ」

 

…言うなよ、あぁもう、せっかく意識してなかったのに。

 

だいたいなんで戦車の中なのにこう…、ちょっといい匂いがするの?鉄と油の匂いじゃなくて、女の子特有の男心を惑わす系の匂い。

 

置いてある芳香剤か、それとも隣にいる武部か。…あかん、これは罠だ、正気を失う系の。

 

「や、やっぱり出るか?」

 

「いいよ、せっかく座ったんだし、…話もあるし」

 

あぁ、そうだったな、大事な話があるっていうからここまで付き合ったんだった。

 

「んで…、話って何だよ?」

 

シチュエーションは非常に特殊であれだが、武部の場合、特に警戒する必要もない。何故なら武部の話したい内容に大体の予想はもうついている。

 

きっとこいつの事だ、戦車道で男子にモテるにはどうすればいいかとか、そこら辺の話に決まっているのだから。

 

「比企谷」

 

「ん?あぁ、聞いてるぞ」

 

そんなもん俺が知る訳ないし、そもそも戦車道やってればモテるのかどうか最近怪しくなってきてない?生徒会の用意したあの映像、絶対情報操作だよ。

 

「私に戦車の事教えて!」

 

そう言って彼女は【戦車でーた】と表紙に書かれた一冊のノートを取り出した。

 

「…は?」

 

「ほら、試合の時さ、相手の戦車がどんなのか通信手の私が分かってた方が他のチームにも伝えやすいでしょ?みぽりんもゆかりんも自分のやる事あるんだし」

 

武部の話があまりにも予想外だったので、俺はそのあとに続く彼女の話を呆けた表情で聞いていた。

 

「毎回二人に聞くのもなんだし、少しは私も戦車の種類とか知ってた方が…、どうしたの?比企谷」

 

「あ…、いや、すまん」

 

「…何で謝るのよ?」

 

「いや…本当にすまん、思ったより真面目な話だったからつい」

 

予想外…、ってか、そんな予想立ててた自分がもう恥ずかしい。

 

「そりゃ真面目だよ…、だって麻子も華も大活躍だったし、みんなの足引っ張りたくないじゃん」

 

「武部、お前の戦車道の志望動機ってなんだったっけ?」

 

「戦車道やってればモテるから!!」

 

…うん、これは俺悪くないよな。つーかもう、その志望動機がモテない人の発想なんだけど黙ってた方がいいかな?

 

「…だいたい、サンダース戦なら武部だって充分活躍しただろ」

 

「え?でも私、特に相手倒すのに何もやってないけど」

 

「そんなもんはその担当に任せりゃいいんだよ、何事も適材適所だ」

 

その為の戦車内での役割だ、そこら辺、前にも話したと思うんだがな。

 

「武部、お前の仕事は通信手だ、しかも通信傍受機で無線が満足に使えない中、メールできちんと西住の作戦を他のチームに伝えた、終盤のあの展開まで持っていけたのはお前のおかげだぞ」

 

…しまった、これ、本人には言うつもりなかったのに。

 

「…ありがと」

 

武部は顔を赤くしながらも視線をちょっと俺から外して短くそう呟く。もう、この雰囲気やめて、…よし、話題を変えよう。

 

「だいたい俺を見てみろ、それこそなんもやってないぞ?」

 

試合中ずっとダージリンさんの用意してくれたマックスコーヒーや紅茶を飲みつつ、お菓子とか頂いてただけだし。

 

いや、あのダージリンさんと姉住さんの殺伐とした空気は俺の胃がひたすら痛かったけどね。

 

「…比企谷もいろいろやってくれてたじゃん」

 

「なんもしてねぇよ、居ても居なくてもいいレベル」

 

まぁ基本的に空気になるのは得意なんで、いや、空気は無いと困るな…、じゃあ俺っていったいなんなのだろう(哲学)。

 

「また面倒くさいなぁ…、比企谷、ちょっと後ろ向いて」

 

「は?なんで?」

 

「いいから、早くして」

 

…よくわからんが言われたままに武部に背を向ける、しまった!背中ががら空きだ。これ、後ろから刺されたりしないよね?

 

「えいっ!」

 

「おわっ!?」

 

などとどうでもいい事考えていると、武部がいきなり俺の肩を掴んで来た。

 

「ちょっと!いきなり変な声出さないでよ、びっくりするから」

 

「いや、いきなり肩掴まれた俺の方が普通にびっくりするから…」

 

抗議する為に顔を後ろに向けようとすると、武部が俺の肩をそのまま揉み始めた。

 

「えと…、武部?」

 

「うわ、硬い…、やっぱり結構こってるね」

 

何この状況!?女の子に肩揉まれてる…、そのまま握り潰すつもりなの?

 

「…比企谷はいろいろやってくれてるよ、朝早く麻子起こして学校まで連れてきて、そのまま朝練の準備して、バレー部の練習とか見てて、放課後も練習の後片付けして」

 

「…いや、まぁ、その」

 

「ゆかりんと潜入偵察もして、みぽりんとも作戦話し合ってるし、最近じゃ自動車部の方にも顔を出してるんだよね?」

 

…え?なんでそこまで知ってるの?武部の情報網ハンパねぇな、大方ツチヤ辺りに聞いたんだろうが。

 

「…仕事だしな」

 

「そっか、じゃあ仕事でこれだけ肩がこってるんなら、頑張ってるよ」

 

言い訳もさせてくれないのね…、あぁでも、気持ち的にすっげぇ楽になるな、これは。…やっぱ武部っておかん属性だわ。

 

「どう比企谷?気持ちいい?」

 

「…ぶっ!!」

 

こらこら武部さん、男の子にそんな事聞いてはいけません、その一言がいろいろとあらぬ妄想を生み出すには充分過ぎるんですから。

 

「急にどうしたのよ…?」

 

「いや、なんでも…、しかしお前、肩揉むの上手いな」

 

こう言っちゃいろいろ勘違いされるかもしれんが、めっちゃ気持ちいい、もちろん肩周りですよ?

 

「ふっふーん♪でしょ?ちょっと自信あるんだ、前に近所のお爺ちゃんの肩揉んであげたら順番待ちの列が出来ちゃったくらいなんだから」

 

…それはそれでまた武部の希望とするモテ具合とは全然違うモテかたなんだけど、なんだこいつのちょっとズレたモテスキルは。

 

「いずれ彼氏が出来たら、仕事で疲れた彼の肩をこうやって揉んであげるんだから」

 

「…そりゃそいつが羨ましいな」

 

…あまりの心地良さに素直にそう思って本音が出てしまった。あっ…やべ。

 

「ッ!?痛ッ!なんか急に力強くなってないか?」

 

と思っていると急に俺の肩を揉む武部の力が強くなった、やっぱり握り潰すつもりなの?

 

「…え?あっ!ごめん!!つい…」

 

ついってなんだよ…、ついって。

 

「でもさ…、今はまだ、彼氏も居ないし、私に彼氏が出来るまでなら、…たまにならやったげる」

 

「…そっか、なら末永くよろしく」

 

「私に彼氏が出来るまでだからね!?」

 

ほんっとにこいつは…、そこまで高い女子力をもってしても攻略出来ないとか、うちの学校の男子共の男子力が強すぎるの?やっぱりホモなの?

 

「そろそろ戦車講座でも始めるか、っても、俺よか秋山に聞けばよかったんじゃねぇの?」

 

「だってあんまりゆかりんばっかり頼って迷惑かけるのも悪いし…」

 

俺には迷惑かけてもいいのね?そもそも秋山なら迷惑どころか喜んで教えるだろうけど。

 

武部が自分で用意したであろう、【戦車でーた】なるノートを広げる、まだ何も書かれてない真っ白なノート。

 

「まずは…そうだな、武部、なんか好きな戦車とかってないのか?」

 

「あ!私M26パーシングが好き!!」

 

「…なんか意外なチョイスだな」

 

「だってあれ、あの形って怪獣映画とかでもよく出てくる形じゃん?男の子ってきっとあぁいうのが好きだし、きっと話が合うと思うの!!」

 

…しかしやっぱりこいつブレねぇな、まぁ…いいか。パーシング等の強戦車とこの先戦う事はないだろうし。

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「ちょっとみんな、この前なんで私達の後付けてたの?」

 

「ごめんね沙織さん、私達…、その、心配になっちゃって」

 

さて、休みも終わり再び戦車道の授業…の始まる前、なにやらあんこうチームが揉めているようだ。

 

「手紙の問題はもう解決したのか?」

 

「うん…、それは相手が納得してくれたみたいで…、って、話はそこじゃないから!!」

 

「比企谷殿とのお出かけ、どうでしたか?きっと濃密な戦車トークが…」

 

「ごめんゆかりん、戦車の話はしたけど、戦車ショップには行ってないよ」

 

「そうなんですか?比企谷殿と行く戦車倶楽部は中々充実した時間ですよ、結局は戦車グッズの取り合いになりますが…」

 

「優花里さん、比企谷さんとはよく戦車倶楽部に行くんですか?」

 

「いえ、たまにですけど、あと偶然会う事もあって…」

 

「…そうなんだ」

 

「? 西住殿、どうしました?」

 

…なにやら会話の雲行きが怪しくなって来たぞ、嫌な予感しかしないし、とりあえずぶち壊す事にしよう。

 

「あー、ごほんっ、ちょっといいか?」

 

わざとらしく咳払いをして存在をアピールし、あんこうチームの会話を中断させる。

 

「どうかしましたか?比企谷さん」

 

「…武部宛にファンレターが届いてるから、渡そうと思ってな」

 

「え?私!?」

 

持ってきた1通だけあるファンレターを武部に手渡す。

 

「ひょっとして…、また女子からじゃないだろうな?」

 

「これはまた作戦を練る必要があるかもしれませんね、どうしましょう?西住殿?」

 

「戦車道では同じ作戦は何度も通用しないし…、何か別のやり方を考えた方がいいかも」

 

「ちょっと!なんでみんな男子からのファンレターだって考えないの!?」

 

「ですが…、この前の事がありますし」

 

もう五十鈴や冷泉だけじゃなくて西住と秋山も今後の作戦について話してる、君達基本的に仲良いけどなかなか辛辣だよね。

 

「い、いいから読むよ!!」

 

『あなたのその何事にも一直線で、一生懸命で、ひたむきな、ブレない姿はとても魅力的だと思います、今後も応援しています』

 

「これ、男子の字だ!ついに私の魅力に気付いた男の子が来たよ!!」

 

「本当に…男の人からのファンレター、みたいですね」

 

「しかもこの字、同世代か、ついにやったな、沙織」

 

「でもこれ…」

 

「…名前、書いてないね、誰からなんだろう?」

 

「もう!恥ずかしがっちゃって!やっぱり男の子ってシャイなんだから、もっと照れないで、自分から積極的に迫って来てくれればいいのに!!」

 

…これにて一回戦を突破して少し有名になった大洗学園戦車道チームに届けられたファンレターを巡る問題も解決…って所か。

 

しかしまぁ、武部も名前すら書いてないファンレターによくあれだけ大騒ぎできるものだ、相変わらずブレない奴。

 

彼女の魅力なら、伝わっている者にはきっともう伝わっている、同世代の男は知らんが、それは彼女宛に届けられたファンレターの多さが何よりの証拠だ、何しろ隊長の西住に次いで大洗戦車道メンバー第2位である。

 

今後も彼女宛に届けられるファンレターは多いだろうな…と、これから来る仕事に少し気が滅入ってきた。

 

何故ならきっと、…どこまでも、武部 沙織は恋に戦車に一直線で、それはとても魅力的なことなのだから。




お気に入り1000人突破記念で皆さんのリクエストを募って書いてみた今回のお話、み、皆さん…納得してますでしょうか?
初のちょっと長めな番外編、それも恋愛描写メインという事で上手く書けたか心配です、特に終盤の展開は書きたかった展開ですが話しを上手く書けたかどうか…。

そして何より一番驚いているのはこの番外編を書き始めた今現在のUA数が三十万突破しててお気に入りが1600人以上突破してる事なんですが…、これは罠か?騙されないぞ!!(笑)

また記念になにかやりたいなと思いつつ、本編が全然進んでない事に焦りつつ、さて、どうしたものやら(笑)

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