やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
アニメで華さんが自分のかぶってた帽子を麻子さんに被せておんぶしたの、すごい良いも思います。
「あ、華!!」
「失礼します」
「みぽりんにゆかりんも、入って入って」
病室に入って来た俺達を武部が迎えてくれる、よし、俺の名前はないな、帰ろう。
「比企谷も入り口の前で立ってないで入りなよ」
…いや、だってこれ地獄の門みたいなもんじゃないですか。
「なんだい?あんた達は?」
突然の来客に冷泉のばぁちゃんが怪しむように俺達を見る。
「戦車道を一緒にやっている友達…」
「戦車道?あんたがかい?」
なんだ、冷泉のやつ言ってなかったのか、五十鈴も西住もそうだが家族に黙ってる奴多すぎないか?一応あれ、戦車で撃ち合いしてるんだし、そこそこ危ないと思いますよ?
「私達、全国大会一回戦勝ったんだよ!」
「一回戦くらい勝てなくてどうするんだい」
武部が自慢気に話すが冷泉のばぁちゃんはそう言ってばっさり切り捨てた、このばぁさんも相変わらずだな。
だがまぁ、この様子を見るに、どうやら俺の事は覚えてないっぽいな、まぁ一年以上前に、しかも少しだけ同じ病室に居ただけだし。
そもそもばぁさんだしな、覚えてなくて当然か、いや…よかった。
「んで…、何であんたまでここに居るんだい?相変わらず死んだ魚みたいな目をして、まだだらけた生活してるんじゃないだろうね!!」
冷泉のばぁちゃんがギロリと俺を睨んでくる、…バッチリ覚えてたんですね、お年寄りをナメてはいけなかったか。
「そ、そんなにDHA豊富そうですか?頭良さそうですね」
「ふん!その減らず口も相変わらずだね!」
いや、あなたの方こそ、その怒鳴り声相変わらずですよ…。
「えと…、お婆ちゃん、比企谷の事知ってるの?」
「…もしかして、八幡君の言っていたお婆さんって」
「麻子さんのお婆さんだったみたいですね…」
俺とばぁさん以外の皆が俺とこのばぁさんが知り合いなのに驚き戸惑っている。ちなみに俺は驚きすくみあがっている。
「その腐った目を忘れるもんかい、なんだいあんた、まだこの病院通ってたのかい?」
「えと…昨日話してた、今麻子を起こしてる人なんだけど」
「…あんたがかい?」
「…えっと、まぁ、はい」
しかし武部の奴も余計な事を言うものだ、チラリと抗議の目を向けてやると本人は誤魔化すように愛想笑いを浮かべた。…こいつ。
「なんだいあんたら…、付き合ってんのかい?」
冷泉のばぁちゃんが俺と冷泉を交互に見回して…、なんかとんでもない事言い出したぞ、ひょっとてボケてるの?
「いや、別に付き合ってるとかじゃなくて、その、戦車道の朝練の為に冷泉の奴を起こしてるっていうか…」
「なんでお前は朝自力で起きられないんだい!」
俺の弁明を聞いたばぁさんが冷泉を怒鳴り付ける、あっ…冷泉の奴、俺を睨んでるな。いやこれ、お前の自業自得だから。
「まったくもう、お前ももう高校生なんだから少しは色気くらいだしたらどうだい!そんなんじゃ嫁の貰い手がないよ!!」
よし、冷泉のばぁちゃんの怒鳴りが何だか有らぬ方へと向かって行ったが、とりあえずターゲットは冷泉になってくれた。
「あんたもだよ!将来面倒見るつもりないなら余計な事してこの子を甘やかすんじゃないよ!!」
と思っていたがこのばぁさん、攻撃範囲が広い。いやほら…、俺ってあれだから、将来的に面倒は見る方じゃなくて見てもらう方を希望してるから。
…そんな事、このばぁさんの前で言ったらどうなるかは目に見えてるな。
「えっと…、その、すいません」
まぁこのばぁさんの言う事も正論だしな…、俺も少し甘やかし過ぎだとは思ってたし。
「謝るなら最初からやるんじゃないよ!まったく、お前みたいな手間のかかる子を毎朝起こしてると聞いてどんな奴かと思ってたら…、まさかあんただったとはね」
「おばぁ、その話はもういいから…」
いや…なんかもう、すいませんね、俺で。
「んで、あんたら何の用だい?」
「試合の後、おばぁが倒れたって連絡が、それで心配になってお見舞いに…」
「あたしじゃなくてあんたを心配してくれたんだろ!!」
「…わかってるよ」
…すげぇなおばぁ、風紀委員相手でものらりくらりかわしてる冷泉がたじたじだ。
「だったらちゃんとお礼言いな」
「わざわざ…ありがとう」
「少しは愛想よく言いな!!」
「…ありがとう」
「さっきと同じだよ!!」
…怖ぇよ、というか冷泉がこのばぁさんの孫でいいんだよな?なんか入院生活で孫自慢してた時と態度がまるで違うんだけど。
「えと…、もしかして冷泉がばぁさんが言ってた自慢のーーー」
「あんたは余計な事をペラペラ喋るんじゃないよ!!」
俺の言葉はトラップカード、【怒鳴り声】でかき消された。なんなのこのばぁさん、あんだけ孫自慢しといて孫にはこの対応とか、ひょっとしてツンデレなの?
BBAのツンデレとか誰が得するのよ…。まぁばぁさんが冷泉の事を思ってるのは充分伝わるが。
「…あんたらもこんな所で油売ってないで戦車に注油したらどうだい?」
俺にこれ以上喋らせないようにしているのか、冷泉のばぁさんは話題を変えた。しかしこのばぁさんもなかなか上手い事言うものだ。
「お前もさっさと帰りな、…どうせ皆さんの足引っ張ってるだけだろうけどさ」
いや…、それどころかあんたの言う通り、マニュアルを軽く見たくらいでバリバリ戦車動かすチートクラスの天才だったんだけど。
「そんな…、麻子さん、試合の時いつも冷静で助かってます」
「それに戦車の操縦がとても上手で、憧れてます!!」
西住と秋山がばぁさんの言葉をすぐに否定する、まぁ西住の指示にきちんと対応して戦車操縦出来るのは冷泉くらいだろう。
「戦車が操縦出来たって…、おまんま食べらんないだろう?」
「いや、冷泉クラスなら将来それで充分食ってけると思うけど…」
ばぁさんは知らないだろうがすぐ隣に戦車でバリバリおまんま食べてる西住家の娘さんも居るんですよ?
「あんた…まだ将来は専業主夫になりたいとかふざけたこと言ってるんじゃないだろうね!」
いや…俺の将来と冷泉の将来は関係ないでしょ…。まぁ冷泉のスペックを考えたら戦車道にこだわらんでも何やらしても将来的には問題なさそうだが。
ただし本人の面倒臭がりな性格と低血圧で朝が弱い事を除く…、わりかし致命的な弱点だなこれ。
「…じゃあおばぁ、また来るよ」
五十鈴が持ってきた花を花瓶に生け終え、冷泉がばぁさんに声をかけて病室から出る、俺達もそろそろ出るか。
「…あんな愛想のない子だけどね、よろしく」
去り際に一言だけ声をかけられた…。やっぱりこのばぁさん、冷泉の事大好きだな、だからBBAのツンデレとか誰が得するのよ。ちょっとキュンとしかけたじゃねーか。
「…Zzz」
ばぁさんの病室から通路に出て少し進むと、…冷泉が長椅子で爆睡していた。おい、ばぁさんの目の届かない所に行った途端これかよ。
「…どうします?」
このまま病院に放置…しとく訳にもいかないか、出港するまでに冷泉を学園艦に乗せないとな。
「…比企谷、麻子をおぶってあげて」
爆睡している冷泉を膝枕しながら優しく撫でて武部が言う、こうして見ると武部はやっぱりおかんだな。
…いや、そんな話は置いといて。
「いや、そこは起こせよ、さっきばぁさんにも言われただろ、甘やかすなって」
そもそもこの病院から港までどんだけ距離あると思ってるの?その間冷泉の奴をずっとおぶれって…。
いや…重い軽いの問題じゃなくてね、普通に恥ずかしいでしょ。
「そうなんだけどね…、麻子、昨日からあまり寝てないんだ、お婆ちゃん、もう何度も倒れてて」
…そういや、一年前にあのばぁさんと俺が会ったのも病院だったもんな。
「お婆さんがお元気で…安心されたんですね」
それで緊張の糸が切れたのか、ばぁさんの前じゃいつものように振る舞っていたが、あの冷泉が眠いのを我慢してたなんてな。
「でも、昨日は凄く動揺してましたね、あんな冷泉殿を見たのは初めてです…」
「たった一人の家族だから」
「…え?ご両親は」
「麻子が小学生の時、事故で…」
…だからあのばぁさんのお見舞いに家族らしい人が来てなかったのか、冷泉も普段は学園艦だし、大洗に帰港した時くらいしか会えないのだろう。
「武部、ちょっと手を貸してくれ…よっと!」
武部のサポートを受けて寝ている冷泉を背中に担いだ。
「…ありがとね、比企谷」
「別に…、寝ているコイツを無理矢理起こすよりかはこの方が手っ取り早いと思っただけだ」
まったく…、起こしている方の身にもなって欲しい、俺も早いとこ帰りたいし、この方が効率的だな、うん。
ーーー
ーー
ー
学園艦行きの船についた頃にはもうすっかり日も沈んでいた、さすがに女子一人おぶってここまで来るのは俺の肉体的にも精神的にもキツいものがある。
しかも着くや否や五十鈴と秋山も冷泉の隣で眠り始めるし、なんか家族旅行の帰りの車運転している親みたいな気分だわ。
その三人から少し離れた所では海を眺めてた西住と、その西住に声をかけた武部が何やら話してる。
そんな二人の会話に入るつもりもなく、かといって寝てる三人の側に居ようものなら通報されそうな俺は居場所がなく、とりあえず近場の自販機でマックスコーヒーを購入した。
やはり疲れた時は甘い物に限るのだ。
「マックスコーヒー…、うまそうだな」
「冷泉…、起きたのか?」
あとマックスコーヒーはうまそうなのではない、うまいのだ。
「喉が乾いた…」
「このマッ缶は俺のだぞ」
今日1日頑張った自分に送るご褒美だ、…どこの仕事で疲れたOLだよ。
「自分で買う…」
少しムッとした表情を見せながらも冷泉は自販機でマッ缶を購入する、コイツ、甘い物が好きなのか最近よく飲んでる気がする。
そのまま二人してぼーっと海を見ながらちびちびとマッ缶を飲んだ、俺もそうだが、冷泉も基本的にあまり喋る方じゃないしな。
「悪かったな…、比企谷さんまでおばぁに怒られて」
しばらくマックスコーヒーを飲んでいると、ふと冷泉が謝ってきた。人に謝る時はお腹を見せなきゃダメらしいですよ?
「…おばぁと知り合いなのか?」
「ん?あぁ、一度あの病院に入院したことがあってな」
「そうか、おばぁの話してた同室に居ただらしない男っていうのは比企谷さんだったのか」
「なんだよそれ?」
「あんまりだらけているとその男みたいに目が腐る…、とおばぁに怒鳴られた、…そうか、だから比企谷さんか」
ちょっと、目が腐ってる=比企谷 八幡の計算式を作り上げるのやめてくんない?
「しかしまぁ…、とんでもないばぁさんだな」
「…心配で目が離せない、さっさと卒業して面倒見なければ」
冷泉の奴、やっぱりお婆ちゃん大好きっ子なのね、やっぱりツンデレなのか、冷泉のツンデレとか誰が得する…、得する奴多そうな気がしないでもないが。
「だったら卒業出来るようにちゃんと単位取らないとな、明日からは自力で起きて学校来いよ」
「…それは、困るな」
いやほら、ばぁさんにさんざん甘やかすなって言われたばかりだし。
「諦めろ、そもそも異性の男が毎朝部屋入って起こしてるのがもうおかしいから」
「…私は別に構わない、寝たまま学校につければ」
俺が構うんだよなぁ…、というかやっぱり冷泉は横着過ぎるでしょ、またばぁさんに説教くらうぞ。
「それに…、たまに比企谷さんの作る朝飯がうまかったからな、沙織程じゃないが」
「………」
いや、ほら、俺って専業主夫希望だから。
朝冷泉の奴起こして飯食わして学校まで送るってよくよく考えたらこれ、たぶん専業主夫になるべくスキルを磨いていたのだろう。うん。
「…まぁ毎朝とまではいかないが、たまになら朝起こしに行ってやるよ」
だから…まぁ、たまになら。
「…将来面倒見てくれるのか?」
…あの冷泉がなんか驚いた表情でとんでもない事を言い出した。
「俺は面倒は見る方じゃない、見られる方だ、つーかお前が朝練来なかったら誰がⅣ号操縦すんだよ」
特にⅣ号戦車は西住の乗る隊長車、これが朝練で動かないとか、もうどうしようもない。
まさかコイツ、ここまで考えてⅣ号戦車の操縦手のポジションに収まったんじゃないだろうな。…やはり天才か。
「私は見て欲しいな…、楽だし」
やっぱりこの子、横着すぎんよ…、完全にあれだな、女子がよく言ういい人にされてるな。なお、この場合のいい人とは基本的に都合のいい人の事である。
「仕方ない…、ならこれからは学校のある日はたまに、週4くらいで起こしに来てくれ」
「…ちょっと?俺の知ってるたまにと意味合いが全然違うんだけど?」
もういっそのこと学校に住めばいいんじゃないかな?がっこうぐらしとかなんか楽しそうじゃない?きっと女の子の日常系アニメみたいになると思うよ。