やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
私服なら五十鈴さんの私服が凄い良いと思います、といつかあれ、人妻感満載で…、良い。
…劇場版のお姉ちゃんの私服ェ。
「あれ?お兄ちゃん、こんな朝早くにどこ行くの?今日入学式でしょ?」
「まぁ…アレだ、散歩だ」
高校…、大洗学園の入学式当日。
本日は大洗学園の入学式である、学園艦も大洗の港に停泊し、他から入学する生徒を受け入れている。
暗黒とも言える中学時代を過ごした俺は、今日という日がどうにも落ち着かなくていつもより早めに家を出た、それも自転車ではなくて徒歩で。
なるべく中学の同級生と同じ組にならないよう必死で勉強した甲斐もあって、なんとか普通一科にも入る事が出来た、全員…という訳にはいかないが、比較的知り合いが少ない所には行けたはずだ。
だいたい学園艦というシステムがもうおかしい、海の上で一度いじめのターゲットにされたら中高一貫だしもう逃げ場がないじゃないか。
…いや、いじめられてねーし、ちょっと弄られてただけだし、我が学園艦にいじめはありません。
本当は転校してもよかったくらいだが、小町にも会えなくなるし、実家に寄生出来なくなるし、親父は仕送りするつもりなさそうだし…。
あまり悲観的になっても仕方ない、今はとにかく高校デビューだ、まず噛まずに自己紹介をする事、ただの人間には興味がありません、とか言わない事、これ大事。
…あと、戦車の話もNGだな。
なんだよ、「比企谷って普段は全然喋んないのに戦車の事になると…、うん、アレだわ」って…、男が戦車好きなのがそんなに変かよ?
…それもこれも戦車道とかいう糞武芸のせいだな、なんだよ乙女の嗜みって?
だいたい女子に戦車なんか与えてみろ。
「今日から高校生だね!私、入学早々モテモテになっちゃったらどうしよー!!」
「沙織さん、悩まなくても大丈夫だと思いますよ?」
「…眠い、なぜこんな朝早くから」
「入学試験の成績トップだったんでしょ?表彰の準備あるんだから、早めに行かなきゃ」
「トップだったなら入学式免除してくれればいいだろ…」
そんな三人の女子連中の声が聞こえてくる、朝っぱらからよくもまぁ騒ぐものだ。
これである、いや本当、女子に戦車なんか与えても玩具みたいに適当に扱う事は容易に想像出来るな。
大洗に戦車道なくてよかったわ。もしあったら今頃俺がお持ち帰りぃ~、してた所だ。
そんな事を考えながら適当に歩いていると、目の前を毛むくじゃらの生き物が通り過ぎた。
毛むくじゃらの生き物っていうと表現が変だが、その生き物が珍しいせいだ、普通、街中で見るとしたら犬とか猫だろうが。
「…ウサギ?」
ウサギである、朝っぱらの街中に、誰だよ?ウサギなんて注文したの?大洗の学園艦っていつから木組みの家と石畳の街になったの?
そんな展開に心がぴょんぴょんするどころか呆然となった俺を無視して、ウサギはそのままぴょんぴょんと跳び跳ねて道路の方へ、…は?
そのウサギに向けて車が走って来るのが見えた、このままだと間違いなくぶつかる。
「ッ!!」
そこから先の事はよく覚えていない、身体に猛烈な痛みが走った事と、運転手さん、すいません、とか思ってたくらいで。
俺の意識はそこで完全にシャットアウトした。
ーーー
ーー
ー
交通事故と言えば当然、その後の展開は異世界転生である。
目が覚めた俺の前には神様か女神様かが居て、チート能力を貰った俺は異世界にてチーレム無双を展開するのだ。
八幡って名前はちょっと異世界ではダサいな、よし、異世界ではHACHIMANと名乗ろう。やべっ…格好良い。
やはり俺の異世界転生チーレム無双は間違っていない。
「…身体痛ぇ」
しかし現実は非情である、うん、知ってた。このろくでもない現実に爆炎を!!
「…知らない天井だ」
目が覚めた俺はとりあえずここが病院だという事がわかり、生きてる内に言ってみたかった台詞第9位を言ってみる。
「おー、やっと起きたんだ」
そんな俺の顔を覗き込んでくる三人の女生徒、三人共見覚えはないが制服を見る限り大洗学園の生徒だろう。
「やー、災難だったね、比企谷くん」
そう声をかけて来たのは三人の中心に居たツインテールの女子だ、しかしこいつ、あまりにも背が小さいな、うちの小町よりも下だし。
「…なんで中学生が大洗の制服着てんの?」
起きがけで突然現れた三人組の事もあって、つい思った事がそのまま口に出てしまった。
「き、貴様!会長になんたる無礼な!!」
途端に隣に居た方眼鏡の女子が怒鳴り付けてくる、何この人、怖いんだけど。
…ん?会長?
「まぁまぁ河嶋、落ち着けー」
ツインテールロリっ娘は方眼鏡の人をどうどうと宥めると改めてこちらの方を向く。
「大洗学園生徒会長の角谷 杏だ、よろしくぅ」
「…は?」
生徒会長?このツインテールロリっ娘が?
「比企谷君が助けてくれたウサギなんだけどね、うちの学園で飼っていて逃げ出したウサギなの」
「とりあえず生きててよかったね、あ、干し芋食べる?」
「会長…、怪我をした人に干し芋はどうかと」
さっきの怒鳴り付けて来た方眼鏡の人と違ってもう片方の人は優しそうだな、あとおっぱいがヤバい。何がヤバいかって惑星が二つ衝突間近でヤバい。
「じゃありんごでも食べる?剥いたげるよ」
「いや、つーかさっさと医者か看護婦でも…」
自称生徒会長はこの人達が持ってきたのか、置いてあったりんごを一つ、ナイフを使ってスルスルと皮を剥いていく、というか随分慣れた手付きだなこの人。
「ほい」
そして渡されたりんごは、見事なウサギの形をしていた。
あっ…、俺この人苦手だわ。
ーーー
ーー
ー
「どうしたんですか?比企谷殿、ボーッとしてますが?」
「…ん?あぁ、いや」
懐かしい…って言っても一年くらい前の話だが、つい思い出してしまった。
思えばあの時、あの人達と関わってしまってから俺の社畜人生は始まったんだよなぁ…、さすがに戦車道やるとか言い始めたのは予想外だったが。
しかし…退院して大洗学園に戻ったら中学時代に俺を弄ってた連中が急に大人しくなってたのは何故だろうか?
「えと…、麻子さんのおばあちゃんの病室ってどっちかな?」
なんでまた唐突に一年前の事なんて思い出しているのか、いや、原因は間違いなく、西住達と冷泉のばぁちゃんのお見舞いでこの病院に来たせいなんだろうが。
「聞いてた番号だと1029号室か、ならこっちだな、この先にエレベーターがある」
「比企谷さん、お詳しいんですね」
「まぁ…、そりゃここに入院してたし」
何の因果か、この病院はまさに一年前に俺が入院生活を堪能していた病院である、車にはねられた俺は治療の為、一時的にだが陸のこの病院で入院生活をしていた。
「比企谷殿、ここに入院していたんですか!!」
「えぇ!大丈夫だったの!?」
「大丈夫だったから退院したんだろ…」
俺的にはあのまま入院生活が続いてもよかったんですけどね、ベッドの上で読書してテレビ見てゲームして寝て、飯の時間になれば飯が出てくるとか最高だわ。
「大変だったんですね…、撃たれたんですか?それとも刺されて?」
…何で五十鈴さんはその二択なの?やっぱりこの娘の家元絶対華道じゃないよ。
というか言ってなかったっけ?まぁ言わなくても別にいいことだしな、他人の怪我自慢とか聞いてるだけでどうでもいいだろうし。
「車にはねられたんだよ、今はもう大丈夫だがな」
「そうなんだ…、よかった」
ホッとする西住達、君達も戦車で街中移動することあるんだから気を付けないとダメだぞ、轢くのはもちろん、砲撃とかもね。
誤って人撃っちゃいました!とか本当、謝っても許されるものじゃない。
「そういえば…入学式の時に男子が一人車にはねられたって噂になってましたね、あれってもしかして」
「…そんな噂あったのか」
「入学式の日にいきなり入院なんて…災難でしたね」
「まぁおかげで学校サボる口実になったし、別に災難とは思わんが」
「さすが比企谷殿!転んでもただでは起きませんね!!」
それ…、誉めてるつもりなの?
「その天下も長くなかったけどな、怪我が治りかけたら個室から大部屋に移されたし」
今この場に歴女グループが居ようものなら「3日天下だな…」からの「「「それだ!!」」」になるのは簡単に想像出来るな。
「そういやその大部屋、一人やたら元気なばぁさんが居たな…」
一度昔を思い出せばあの頃のここでの生活がどんどん浮かび上がってくる、実際、入院生活はそこまで長くはなかったけど。
「どんなお婆さんだったの?」
「俺に向けてやたら怒鳴ってくるばぁさんでな…、だらだら寝てたらいつまで寝てるんだとか言って怒鳴り起こされたり、だらだらゲームしてたらゲームばっかしてんじゃないって怒鳴られたり」
本当、こっちがどんな行動してもカウンター合わせるように怒鳴り付けてくる、どこのバルバトスだよ。
「それは比企谷さんの生活がだらしなかったからじゃないでしょうか?」
いや、だって入院生活ってやることないんだもん。
「あと目が腐ってるからちゃんとしろとか言われたな…、だらけて目が腐るなら世の中のニート連中は全員目が腐ってるな」
…いや、実際腐ってるのか?
「あはは…、なんだか厳しそうなお婆さんだね」
「あと孫自慢がヤバい、孫のこと話し始めると延々と自慢話され続けるレベル」
「お孫さんの事が大好きなんですね」
「あぁ、なんでも孫をびっくりさせる為にこっそりタップダンスの練習までしてるらしい」
それを聞いた時はBBA無理すんなって思ったわ、これこそこの言葉の正しい使い方である。
「アクティブなお婆さんですね、何というお名前の方なんですか?」
「…さぁ?そういやなんだったかな?」
まぁ、俺も大部屋に移ってから少ししてすぐ退院したし、同じ病室の他人なんてそんなものだ。
結局自慢の孫の姿も見ずに退院したしな、しかしあのばぁさんの孫の持ち上げっぷりは凄かった。
成績優秀どころではなく寧ろトップ、何をやらせてもそつなくこなし、運動神経も悪くない、そんなチート染みた完璧超人がこの世に居る訳がーーー。
あれ?…なんか該当しそうな奴に一人心当たりがあるんだけど気のせいだよな?
「ここですね」
あれこれ考えているといつの間にか病室の前で五十鈴が立ち止まった。
病室番号は1029号室、ネームプレートには冷泉の名前もあるし、ここで間違いないだろう。
余談だが俺の入院中にお見舞いに来てくれたのは家族と、たまに生徒会の人達くらいだった、学園艦と陸の病院だもんね!仕方ないよね!!べ、別に悲しくなんてないからね!!
五十鈴がドアをノックしようとした時だった。
「もういいから帰りな!!」
病室内からドア越しにも聞こえるくらい、大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
「いつまでも病人扱いするんじゃないよ!あたしの事はいいから学校行きな!遅刻なんてしたら許さないよ!!」
その怒鳴り声に、五十鈴も秋山も西住も面食らって戸惑っている。
一方俺は…別の意味で戸惑っていた、なんだか聞き覚えのある怒鳴り声だったからだ。
…まさか、いや、さすがにないだろ、うん。
「なんだいその顔?人の話ちゃんと聞いてんのかい!全くお前はいつも返事も愛想もなさすぎなんだよ!!」
「そんなに怒鳴ってるとまた血圧上がるから…」
冷泉の声が聞こえてくる、どうやら中には居るみたいだが…、この状況で部屋に入る勇気は俺にはない。
「か、帰ります…?」
「おう!そうだな、帰るか」
おぉ!さすが秋山、ナイス提案だ、よし、帰ろう、これは戦略的撤退であります!!
「え、で、でも…」
「そうですよ、せっかく来たんですし、ここは突撃です」
ここで発揮されるのが五十鈴の度胸ですか…、この状況で中に入る度胸とか。うん、やっぱり五十鈴には砲手が似合ってるわ。
「…失礼します」
五十鈴がドアをノックして中に入る、中には冷泉と武部、そしてベッドで座っているのが冷泉のばぁさんなのだろう。
…そしてこのばぁさん、間違いないなこれ。
あの時、大部屋でいつも俺を怒鳴り付けてた、ハッスルお婆さんじゃないか。
…やっぱり帰ればよかった。