やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
みほとかまほとかしほとか、普通に漢字でも良さそうなもんなんですが。
というか名前がひらがなの人って現実に居るのかな?知り合いには居ないけど。
『そろそろ撤収しないと日が暮れるな…』
「…ですね」
現副隊長さんがここから大洗まで冷泉達を送って戻ってくる往復にどれだけの時間がかかるのかはちょっとわからんが、このままだと姉住さんは島に置いてきぼりになるという事だ。
こちらとしてもヘリを借りてしまった結果なので、このまま放置するわけにはいかないが…、姉住さんも姉住さんでなんでまず俺に電話してくるのだろう?
「一度ダージリンさんに連絡して聖グロリアーナの学園艦に拾ってもらったらどうです?」
『………』
俺がそう言うと姉住さんは黙り込んだ、あっ…(察し)。たぶん連絡先知らないなこの人。
「俺から連絡しましょうか?」
『いや…、聖グロリアーナの学園艦はもう出港している』
まぁ…今回の件はダージリンさんには全く関係ないしね、それに聖グロリアーナの学園艦全体を巻き込む事にもなるか。
それにダージリンさんもあんな挑発しといてまた姉住さんと会うのは…面白そうだけど格好つかないしな。
「なら、西住に連絡したらいいんじゃないですか?」
『みほは…』
そう言うと姉住さんは言い淀む。…やっぱりこの人も妹を避けているのか。
西住が黒森峰から大洗に転校する際の姉妹の関係については知らないが…まぁ、いろいろあったのだろう。
…それを抜きにしても、だ。
「さっきのヘリでの件はちょっとひどいんじゃないですか?西住がお礼を言っていたのに無視するなんて」
『…みほが私に?』
え?何その反応、そんな初耳みたいに言われても…。
『ヘリの音で聞こえなかった…』
…あー、うん、確かに声小さかったしね、これは西住も悪いか。
そう考えるとどれだけすれ違いをすればいいのか、この姉妹は。
「なら問題ないでしょ、西住に連絡して現副隊長さんが戻ってくるまで家に泊めてもらえば」
『…いや、今はまだ会わないほうがいい、みほもそうだが、まだ私も気持ちの整理がついていない』
…これ以上はこの姉妹の問題か、他人の俺があれこれ口出しやおせっかいをする訳にもいかないな。
「じゃあどうするんです?現副隊長さんが戻ってくるまでここで待ってるんですか?」
『いや、ひとまず君の家にお邪魔したいが、構わないか?』
「…は?」
ーーー
ーー
ー
「…たでーま」
テンション低く家に帰ってくる、まさか家に帰るのにこんなにもテンションが低くなるとは。
「おっ、お兄ちゃんおかえりー、遅かったね」
リビングに入ると我が最愛の妹の小町がソファーに座りながら出迎えてくれた、その手にせんべいを持ちながらだけど。
「みほさん達から連絡もらったよ!試合勝ったって、あー!小町も行きたかったなぁ!!」
小町も試合見に行きたい行きたいと駄々こねていたが残念な事に塾のテストと重なってしまった、受験生だしな、そこは勉学優先だ。
「まぁなんとかだけどな、それより小町、せんべい食いながら喋るな、行儀悪いぞ」
「えー…別にいいじゃん、ここには小町しか居ないんだし」
ちょっとー、俺も居るんですよ。それに…、もう一人。
「…邪魔するぞ」
俺の背後からひょこっと現れる姉住さん、いや、本当に邪魔ですんで帰ってくれませんか?
結局、家に連れて来ちゃったよ…。まぁヘリを借りた手前責任は俺にあるし、あのまま放置する訳にもいかなかったしな。
「…へっ?」
いきなりの姉住さんご登場に小町は口にくわえてたせんべいを落とす、ちょっと、だから行儀悪いって。
「…西住まほだ、訳あって少し世話になる」
「あー、えと、妹の比企谷小町です」
あら珍しい、小町ちゃんが動揺してる。うん、そりゃするよね、いきなりお兄ちゃんが知らない女の子を家に連れて来たりしたら。
もし逆に小町が家にいきなり俺の知らない男を連れて来たら、俺ならそいつをぶっ潰すね。はっ…、姉住さん!逃げて!超逃げて!!
「あ、あの…西住まほさんって、あの黒森峰女学園の?」
「ん?あぁ、黒森峰女学園の西住まほだ」
姉住さんはテレビでインタビュー受けるくらい有名だしな、小町もすぐにわかったのだろう。
「ちょっとお待ち下さいね~、お兄ちゃん、ちょっとこっち来て」
ちょいちょいと小町が俺を手招きして呼ぶ、前半の姉住さんと話す声と後半の俺を呼ぶ声のトーンが明らかに違ってて怖い。
「ちょっとお兄ちゃん…、あんな大物どこでゲットしてきたの?」
姉住さんに聞こえないように耳打ちしながらひそひそと小町が言う。
「ちょっと小町ちゃん、人の事ポケットなモンスターのゴー的なアプリみたいに言っちゃ駄目だぞ」
どうでもいいけどあれ、流行るのもあっという間だったけどブームが落ち着くのもあっという間だったな。まぁ予想通りだけど。
「だいたい、別にゲットしてないから、試合会場の島で拾ってきただけだから」
「犬や猫じゃないんだから…、お兄ちゃんのその言い方もどうかと思うけど」
いや、さっきの小町ちゃんのポケットゴーモンスター的な言い方の方がよっぽどだけどな。
「西住まほさんって…みほさんのお姉ちゃんだよね?何でうちに?はっ!?まさかお兄ちゃんの事…」
「いやないから、…そこら辺はいろいろ面倒な事情があるんだよ」
小町の疑問は最もなんだが…この姉妹間の面倒事に俺は全く関係ないんだよなぁ。
「姉妹でお兄ちゃんを巡る骨肉の争いとか?」
「いや、だからないから」
「うん、知ってた、お兄ちゃんだもんね」
「それで納得されるお兄ちゃん悲しいんだけど」
まぁ小町はそこら辺の気配りはきちんと出来る奴だし、姉住さんに西住の事を変に詮索したりはしないだろう。
「………」
そんな俺と小町のやり取りを姉住さんは柔らかな表情で見ていた。
「…なんですか?」
「いや…すまない、兄妹仲が良いと思ってな…」
「…そうですか?」
ふと…戦車倶楽部でも西住に同じような事を言われたのを思い出した。…やっぱり姉妹だな。
「とにかく改めてよろしくですまほさん、時間も時間ですから、どうぞ、夕飯も食べてって下さい」
初対面の人相手ににこやかに接する小町のコミュ力はやはりスカウターが爆発するくらいのレベルだな。
「…君は本当に比企谷の妹なのか?」
これにはさすがの姉住さんもびっくり、というか普通に失礼じゃないですか?
「はい、残念ながらそこのお兄ちゃんの妹です」
それ以上に小町ちゃんが辛辣過ぎてお兄ちゃん悲しい…。
「夕飯の事なら私は別に構わない、迎えが来てくれるまでお邪魔させてもらえれば…」
おぉ、さすがの姉住さんもここは遠慮してくれますか。
「あー、でもせっかくお客さんが居るなら夕飯のメニュー変えようかな…本当はカレーだったんですけど」
「…いや、カレーでいい」
…ちょっと、姉住さん?さっきの遠慮どこ行ったの?
「え?でもせっかく来ていただいたんですからもっと豪勢な方が…」
「カレーがいい」
…やはり西住流に遠慮という言葉はないのだろうか、というか試合会場でもカレーパン現副隊長さんから貰ってたしカレー好きなの?キレンジャーの好物だよ?
ーーー
ーー
「それでですね!小町も来年から戦車道を始めたいんですが高校から始めるのって大丈夫かなって不安で…」
「確かに高校から戦車道を始める者は少ない、しかし日々の鍛練を続ければ決して力不足とはならないだろう…今日の大洗の試合もそうだ」
はい、そんな訳で夕飯です。
とはいえ隣で花咲く小町と姉住さんの女子会の如くのガールズトークに付いて行けず、俺はただひたすらカレーを食べる機械となってるけど。
今日の夕飯は姉住さんのリクエストもあってかそのままカレーとコロッケである。ちなみに親父とお袋は仕事でまだ帰って来ていない、大海原をかける学園艦の夜に輝く夜景の光は社畜の光。なお、その光は命を削る光である。
「黒森峰の学園艦も楽しそうですね、速度無制限の道路があるなんて、ちょっと興味あるんで今度まほさんの運転を体験したいです!!」
「そうだな…、機会があれば今度、私の車に乗ってみるか?」
「はい!お願いします!!」
さすが小町、ぐいぐい行くな、姉住さんも姉住さんでなんだか表情がものすごく柔らかくて優しい。
というか姉住さん車運転出来るのね、速度無制限の道路とか俺とか怖くて行きたくないんだけど。あぁ、自動車部の人とかは喜びそうだけど。
「いや待て小町、まさか黒森峰に行きたいとか言うんじゃないよな?あそこ女子校だし、お兄ちゃんと離ればなれになっちゃうよ?いいの?」
「んー…ちょっと興味はあるけどやっぱり大洗かなぁ、てかお兄ちゃん、それが引き留める理由になるなんて思ってないよね?」
え?ならないの?お兄ちゃんに会えなくなるとか行かない理由としたら充分じゃない?
「…そうか、少し残念だな」
とはいえ来年小町が黒森峰に行っても姉住さんはもう卒業してるしな…初心者の小町が黒森峰で活躍できるとは思えんし。
「しかしこのカレーは小町が作ったのか?」
「はい、うちは両親が仕事で遅いので、お口に合えばいいですけど」
「いや、充分だ、すまないがおかわりを頼む、比企谷、ソースを取ってくれ」
「…へいへいどうぞ」
それにしてもこのお姉さん…本当に遠慮しませんね、小町の料理の腕を褒めてくれるのはいいんですけどね。
「…あまり世話になりっぱなしも悪いな、そうだ、手土産があった」
そんな俺の気持ちを目で訴えているのが効いたのか、姉住さんはここに来る時ずっと持っていた紙袋を取り出した。
「貰い物で悪いんだが…これを後で食べてくれ、うなぎのゼリー寄せというらしい」
「遠慮します」
…本当にダージリンさんはなんてものをこの人に持たせたんだ、ヘリにのっけといて下さい。
ーーー
ーー
ー
「さて、夕飯の片付けも終わったし、小町はそろそろお勉強の時間なのです」
「…は?」
夕飯も食べ終え、洗い物も終了したと思ったら小町がそんな事を言い出した。
「…じゃあ俺も部屋に戻るとするかな」
「お兄ちゃん何言ってんの?まほさんそのままにしとくつもり?」
「いや…、だって」
小町のフレンドリーパワーでなんとか間が持っていたようなものなのに、その小町が居なくなってみろ、絶対間が持たないぞ。
「まほさんはお兄ちゃんのお客さんなんだからちゃんとおもてなしする事、いい?」
お・も・て・な・し、ときましたよ…そんな精神、俺にあるわけないでしょ?
「ではではまほさん、お兄ちゃんをよろしくお願いします」
「あぁ、勉強頑張ってくれ」
「はい、ありがとうございます!…お兄ちゃんも頑張ってね」
小町は最後に低めの声でワケわからん事追加すると本当にさっさと自分の部屋に行ってしまった。後にはリビングの残されたぼっち二人である。
「………」
「………」
無言…!圧倒的無言!!
まぁぼっち二人が揃えばそこに会話なんて生まれないよね。現副隊長が戻ってくるまでもう少しかかるらしいし、このままお互い無言なのはさすがに空気が重い。
「…すいませんね、小町の相手させちゃって」
「いや、久しぶりに懐かしい気分になった」
「…懐かしい?」
「なんとなくだが…小町は昔のみほによく似ている」
「…西住がですか?」
正直今の西住を見てるとそんな感じは全然しないけど、引っ込み思案だし、戦車乗ってないとおろおろしてるし。
「昔のみほはやんちゃでよくお母様に叱られていた、何故か私も一緒に…」
「あぁ、それはよくわかりますよ、俺も全然関係ないのに小町のせいで俺だけ怒られた事ありますから」
いや…あれ?全然違うな、俺のが被害者レベル高ぇぞこれ。なんで小町涼しい顔してるのに俺だけ土下座してたんだっけ?あの時。
「まぁ兄弟姉妹の上なんてそんなもんでしょ、貧乏くじ引かされてなんぼっていうか」
「そうだな、あの時も私が引ければよかったんだが…」
それが出来なかったのは西住流の後継者としての立場なのだろうか、おそらく西住に会いづらいのもその立場が原因なのだろう。
「…西住流はずいぶんと息苦しそうですね、嫌にならないんですか?」
「いや、ないな」
即答かよ…、もっと悩むもんかと思っていたが。
強化外骨格なんてなくとも、やはり根っこの所でこの人は西住流なのだろう、だったらこれ以上この話を続けていても無駄なだけだ。
「………」
「………」
再び沈黙、小町は自分の部屋に戻っちゃったし、うちの飼い猫のかまくらは姉住さんという知らない人がいるせいか出てこないし…。
いや、かまくらの場合知らない人というより姉住さん自体を怖がってそう、ほら、野生の本能的に。
つまり何が言いたいかって?誰でもいいんでこの気まずい雰囲気をなんとかして下さい…、何でもしますから。
そう思っていると、なんと!机の上に放置していた俺の携帯から再び砲撃音が鳴り出した。なん…だと?本当に今日はどうしたんだ?
ともあれこれで少しは時間が稼げそうだ、電話してるなら姉住さんとの気まずい雰囲気も仕方ないよね?だって電話中だもん。
てな事でこのきっかけをくれた相手に感謝する為、携帯の画面を見ると。
『西住 みほ』
…ヤバいよ、今一番来ちゃあかん所から電話来ちゃったよ。