やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
麻子
『明日は試合だ、遅刻する訳にはいかない、必ず朝起こしてくれ』
八幡
『珍しくわざわざメールしてくるかと思ったら殊勝な心掛けだな』
麻子
『みんな頑張ってるからな』
八幡
『そうか、ところで冷泉、今何時か知ってるか?』
麻子
『もうすぐ12時半だな』
八幡
『寝ろ』
「作戦会議で話した通り、相手のフラッグ車を撃破した方の勝ちです、シャーマンの性能は攻守共に私達より上ですが、落ち着いて戦いましょう、機動性を生かして敵を撹乱し、Ⅲ突の前に引きずり込んで下さい」
『『『『了解!!』』』』
…いよいよ始まりました、私は皆さんに指示を出したあと、いつものようにⅣ号から顔を出します。
空を見上げるとそこには八幡君の言っていた通信傍受機が打ち上げられていました、やっぱり…使ってくるんだ。
「…? 西住殿、どうしました?」
「…ううん、なんでもない」
これで私達の通信は相手側に筒抜け…、落ち着いて、慎重にいかないと。
「それでは作戦通り、まずは森へと向かいます、パンツァー、フォー」
今頃は八幡君もこの通信傍受機を見ているのかな…、八幡君の事だし、たぶん一人で見ているんだろうな。
ーーー
ーー
ー
「始まりましたね」
「あぁ」
「大洗学園の戦車は全車、森へと向かってますね」
「サンダースにはファイアフライがありますもの、当然と言えるわね」
先ほどのやり取りが嘘のように試合が始まってしまえば両校とも飲み物を飲みつつ、モニターに注目している。
まぁ森へと向かう理由はそりゃバレますよね、そもそも平原で真っ向からぶつかるメリットが大洗には無い訳だし。
「ペコ、知っていて?ファイアフライは本来、イギリスで開発された物なのよ、そもそも17ポンド砲のポンドはイギリス固有の名称なのだし、土台こそシャーマンだけどつまりアレはイギリス寄りの巡航戦車なの」
自慢気にそう語るダージリンさん、本当にこの人イギリス大好きだよね、ちなみに聖グロリアーナの学園艦は日本にあるしダージリンさんは日本人である。
「…既存のシャーマン戦車に17ポンド砲を強引に取り付け、重りでバランスまでとっている魔改造された物を開発と言えるかは怪しい所だがな」
「あら?そんな魔改造された戦車を最優先破壊目標にして、躍起になって攻撃していたのはどこの国だったかしら?」
…ドイツなんだよなぁ、つーか君達、喧嘩しないで、また空気がギスギスしてるし現副隊長さんがひっそりと胃を痛めてるから。
「えっと…対するサンダースの戦車は、…9両が大洗学園の戦車が居る森に真っ直ぐ向かっている?」
…やっぱり通信傍受機でこちらの作戦はバレてるのか、それにしたっていきなりフラッグ車以外の全戦車を投入してくるとか。
「…まほさん」
「あぁ…」
…この二人もこの異常さに気付いているのか、お互いに頷いている、あれ?意外と仲良いんじゃない?
そんなサンダース側の動きは当然知らない大洗学園のメンバーは作戦通り、まずウサギチームとアヒルチームを偵察に出した。
サンダース側の戦車はまずウサギチームのM3リーを包囲すべく、6両の戦車が向かう。…6両!?
マズイな…、物量で攻めるのも大概にして欲しい、様子見とかする気ないのかよ。
ウサギチームから通信を受けたであろう西住が、すぐにアヒルチームを連れて救援に向かった。
「さすがはサンダース、数にものを言わせた戦い方をしていますね」
いや、これはもうそんな問題じゃない、サンダース側は大洗の全戦車がこの森に居る事を知っているのだし、フラッグ車以外は攻撃に集中出来るのだ。
「こんなジョークを知っていて?アメリカ大統領が自慢したそうよ、我が国には何でもあるって、そうしたら、外国の記者が質問したんですって」
オレンジペコにダージリンさんが答える、そういや…なんか聞いた事ある気がする。
それは別として我が国には何でもあるって、それ、通信傍受機もあるって事ですかね?サンダースさん。
「地獄のホットラインもですか?って」
…ここ、笑うところなんですよね?いや、確かに通信傍受機を皮肉った上手いジョークなんですけど。
オレンジペコはきょとんとしてるし姉住さんは無反応だし現副隊長さんは胃を痛めてるし、俺一人笑えばいいの?アメリカっぽくHAHAHAHAとか。
とはいえ、やっぱりダージリンさんは気付いているっぽいな、試合始まってまだ少ししかたってないのに…やっぱりこの人とは戦いたくねぇ。
「あのM3、練習試合の最後に戦った娘達ね、ふふ…、頑張ってるのね」
シャーマン6両に包囲されながらもウサギチームの必死に逃げ回る様子を見てダージリンさんが微笑む、聖グロリアーナとの練習試合では逃亡した彼女達一年生チームだ、その成長には拍手してやりたい。
もうすぐ西住達あんこうとアヒルチームも応援に…、な!?
応援に向かう西住達を追う形でシャーマン三両が進んで来た、うち一両はファイアフライ、森の中ならばそこまで驚異にはならないが。
「M3に6両、Ⅳ号と八九式に3両、ですか…」
…これでサンダース側はフラッグ車以外の9両をこの森に投入、徹底的に物量で攻めてくるって訳か。
なんとか合流を果たしたウサギ、あんこう、アヒルの3チームだが、結果的に9両に包囲される形となった。
3チームはそのままこの包囲、森の中を抜けるべく南東へと向かう、だが、サンダース側は二両のシャーマンを回り込ませて出口を防いだ。
…これで完璧に囲まれた、相手がここまで通信傍受機をフルに活用してくるとは、こうなってくると西住が頼りだ。
あんこうチームのⅣ号がスピードを上げて二両のシャーマンに突っ込む、って事は…強行突破か。
あんこう、アヒル、ウサギの3チームがシャーマン二両の横をすり抜けてなんとか包囲から抜け出した、その隙にカバチームとカメチームも森から抜け出す。
…ふぅ、と大きく深呼吸した、気付けば手がめちゃくちゃ汗ばんでて気持ち悪いくらいだ。
森の中の攻防はサンダース側が圧倒的優位だったと言っていい、こちらはほぼ何も出来ず、一方的に攻撃を受けた形になったのだから。
だが…これでわかった、サンダース側は通信傍受機に頼りきっている、ここまで露骨にこちらの動きが読まれていれば事前に通信傍受機の事を知らなくても違和感がありすぎる。
「大洗学園はなんとか窮地を抜け出しましたね…」
「…妙ね」
ふと、黒森峰の現副隊長さんが眉を細めてそう呟いた、あ、ちゃんと試合見てたのね、ずっと胃を痛めてたからそれどころじゃないかと思ってたけど。
「どうしました?逸見さん」
「サンダース側の動きが大洗の行動を予測しているとしか思えないわ、いきなり大洗の居る森にフラッグ車以外を投入し、進行方向にさえ回り込む、勘のいい選手が居るとか、そんなレベルじゃないわね」
…なんだかんだ言ってもさすがは黒森峰の副隊長、姉住さんの忠犬であること以外は優秀だな、ノーヒントでここまで気が付くとは。
「エリカ、違和感に気付いたならその先を疑え」
「はい、隊長…、まさか!?」
副隊長さんはすぐに上空を見上げる、そこには当然、打ち上げられている通信傍受機が見える。
「ッ!?サンダース…、あんなものを使うなんて、戦車道に対する侮辱もいいところね」
そして苦々しく唇を噛むその様子は本当に戦車道に対して彼女は思いが強いのだろう、まぁ意識高いと言えばそれまでだが。
「あれは…通信傍受機、ですか、まさか先ほどの森での交戦は…」
「えぇ、通信傍受機を使って大洗の動きを読んでいたのね、まったく…無粋ですわ」
「だが、大会ルールに通信傍受機に関する記述は無い」
「ですが隊長!あんなもの、戦車道に対して侮辱です!!」
「審判側が反則を取らない以上、ルール違反ではない」
つまり…白って訳か、まぁ限りなく黒に近そうなグレーゾーンではありそうだが、もしかしたら来年から禁止される可能性もある。
「こうなると大洗学園はますます不利ですね…、ただでさえ戦車の性能でも、数でもサンダースに劣っていますし」
「あら、それはどうかしら、ねぇ?マックス」
「…なんで俺に聞くんですか」
「だってあなた、今少し嬉しそうだもの」
本当にこの人は厄介だなぁ…、奇策で戦うとなれば相性は悪いかもしれない。
「まぁ、とりあえず窮地は脱した訳ですし、ここから反撃しますよ、たぶん」
「ずいぶん自信がありそうね、それともただの空元気かしら?」
黙って見てろ現副隊長、サンダースが通信傍受機に頼りきっているのはわかったんだ、正々堂々の時間はおしまい、ここからはこちらもそれを利用させてもらう。
…それにしたってサンダースもせっかく通信傍受機を使ってるなら、もっと有効に使えばいいのに。勝負を決めるならまだしも、あそこまでこちらの行動を読んだ動きをしてくればそりゃわかる。
俺でさえわかってるんだ、西住だってとっくに気付いているはずだ。
「大洗側が動きましたね、あれは…何をしているんでしょうか?」
「八九式の搭乗者が戦車から降りて…、木材を集めてる?」
モニターにて、アヒルチームのバレー部メンバーがせっせと木材を集めて縄で縛っている。
結構な重労働だとは思うが…、この作業は日頃からバレーで鍛えているスタミナのある彼女達が適任だ。
集めた木材を縄で縛って八九式にセットすると八九式は木々の間に隠れた。
「あれは…ふふっ、なるほど、考えましたわね」
ダージリンさんがその様子を見て楽しそうに笑う、いやいや、面白いのはここからですよ。
隠れている八九式を目標にサンダースのシャーマンが三方向から包囲すべく進軍している、恐らく、こちらの通信を傍受しているのだろう。
大洗の車両がここで合流するとかだろうな…、だが、甘い。
八九式が動き出す、集めた木材もそれに引っ張られて大きく土煙を上げるその様子は、戦車の数を誤認させるには充分だろう。
「砂漠の狐、ロンメル戦術か」
姉住さん、そりゃ当然わかりますよね、この戦術は砂漠の狐、エルヴィン・ロンメルが実際に行った戦術なのだ。
ちなみに大洗在住のカバチームのエルヴィンとは一切関係ないのでご注意下さい、いや、たぶんエルヴィンはロンメル将軍に影響受けちゃってあんなんになっちゃったんだろうが。
まぁ影響受けちゃうのはわからんでもない、この人ガチでとんでもない軍人だし。
「エルヴィン・ロンメル、かのチャーチルにナポレオン以来の戦術家、とまで言われたドイツの軍人ね」
「あぁ、第二次世界大戦において圧倒的に優勢だったイギリスを何度も壊滅させた英雄だ」
ダージリンさんも眉を細める、この人イギリス大好きだもんね。なお、ダージリンさんは日本人ですし姉住さんは相変わらず空気を読まない模様。
そもそも黒森峰はドイツ戦車だし聖グロリアーナはイギリス戦車だし、やっぱりこの二人を混ぜてはいけない、混ぜるな危険!!
さて、これでサンダースは大洗の戦車がバラバラに逃げたと思っているだろう、となれば狙ってくるのは当然、フラッグ車であるカメチームの38(t)だ。
サンダース側はフラッグ車破壊の為にC1024地点へシャーマンを二両向かわせる、残念だがそこにはうちの砂漠の狐ことエルヴィンさんの乗るⅢ突含む大洗戦車が居る。
待ち伏せしてたⅢ突の放った砲撃がシャーマンに命中し、白旗を上げさせた。
残る一両もウサギチームが砲撃を行うが逃げられてしまう…、しかし、戦果とすれば上々か。
Ⅲ号突撃砲は名前に突撃砲とこそあるが、その砲身は回らない、火力も射程もあるが囲まれればあっという間に落ちる、故にこういう待ち伏せこそⅢ突の強みである。
「大洗学園が…先に一両撃破?」
「そのようだな」
「ふふ、やはりみほさん達の試合は面白いわ」
「ですが…、通信傍受機があるのにサンダース側は簡単に待ち伏せに引っ掛かりましたね」
「そこは彼が何か知っているのではなくて?ねぇ、マックス」
「さぁ…、故障でもしてたんじゃないですかね?」
無線でのやり取りが敵に筒抜けなら、連絡は無線以外を使えばいい、その為の作戦会議で伝えた携帯である。
とはいえ、電話では無線とあまり変わらないし、戦車の中は騒音が激しいのでまともに電話は出来ない。
今頃大洗の各戦車の通信手達は必死にメールにてやり取りをしているのだろう、隊長車であるⅣ号の武部なんかは特に大忙しだ。
皮肉たっぷりにメール打つの早そうな武部を通信手として誉めたけど…まさか本当にその技能が活躍する日がくるとは、本当に世の中何が幸いするかわからんね。
「ですが、試合はフラッグ車を叩かないと終わりません…、今の戦術も何度も通用しないでしょうし」
「そうね、さすがのサンダース側もフラッグ車は隠れてるでしょうし」
そう、言ってもまだ一両だけ相手の戦車を倒したにすぎない、元々の戦力差から考えても戦況が大きく動く訳ではないのだ。
だが、これで通信傍受機を利用する事が出来ると確認できた、次は西住も決着をつける為の作戦に出るはずだ。
試合に関しては八幡も出ている訳では無いので、原作を観戦させる事がメインになると思います。
まぁそのままだとさすがにつまらないのでちょっと展開は変えますが基本的にあまり変わらないと思って貰えたら。