やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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やはり、西住みほは選べない。

さて、ここで戦車道復活の最後の鍵となる西住みほについて、情報をまとめておこう。

 

西住に戦車道復活を伝えた時の彼女の反応が気になった俺は西住について少し調べてみた、そこ、ストーカーとか言わない。

 

ぼっちにとって情報とは何よりも大事なものなのだ、普段人と関わりがないので不意のトラブルにも対応出来るよう、情報は集める必要がある、そうすれば急な移動教室とかに気付けなくて俺だけ教室に残ってしまった過去の過ちも防げたはずだ。

 

理由が悲しい…。

 

まぁ今は西住だ、生徒会からの資料を改めて読み直してみると彼女の転校前の学校は黒森峰女学園、ネットで調べてみると過去に全国大会9連覇をしていた戦車道の中でも強豪中の強豪校だ。

 

あるバスケ漫画でいうヤマオーみたいなもんだろう。

 

そこで気になったのは黒森峰の得意とする戦術、どうやら電撃戦が得意なようだがこの学校の戦い方には戦車道の中でも有名な西住流戦車道という戦車道家元の戦い方が組み込まれているらしい。

 

黒森峰の隊長である西住まほなる人物は高校生戦車道大会のMVPでもちろん、西住流後継者の一人。

 

ここまで調べれば馬鹿でもわかるだろう、戦車道の家元、西住流、その西住流を使う隊長率いる黒森峰は西住みほが昔居た学校。

 

つまり、西住みほは単なる戦車道経験者という訳ではない、戦車道家元の後継者ともいえる人物なのだ、ともすれば黒森峰の隊長は西住の血縁者であろう、考えられるのは姉か親せきか。

 

だとすれば…、西住みほが家元である西住流も、戦車も、何もかも捨ててこの戦車道のない大洗学園に来たのは何故か?

 

これも調べてみれば簡単に見つかった、去年の戦車道全国大会、黒森峰女学園にとって10連覇のかかった大会ではあるが、この学校は準優勝に終わっている。

 

その試合結果だが、当時黒森峰のフラッグ車に乗っていた黒森峰の副隊長が敵の攻撃によって川に落ちた仲間を助けるため、フラッグ車を放棄して救出に向かったのが原因らしい。

 

俺は戦車道が嫌いなので詳しくは知らないが、フラッグ車とは将棋やチェスでいうところの王やキングみたいなものだ、味方がどれだけ残ってようがフラッグ車がやられれば負けとなる。

 

当然、放棄されたフラッグ車はあえなく撃破され、黒森峰は敗北、全国大会優勝を逃してしまう。

 

そして、その時フラッグ車に乗っていた黒森峰の副隊長というのが…。

 

「………」

 

あぁ、ようやく納得した、あの時の西住の態度が、彼女がこの学校に来た理由が、戦車道を拒む理由が。

 

悪い言い方になるが言ってしまえば、彼女のせいで黒森峰は敗北した。

 

戦車道家元の娘が、黒森峰の副隊長が、将棋でいう王でもあるフラッグ車の車長が、黒森峰を敗北へと導いたのだ。

 

大事な10連覇のかかった大会でこれだ、ただでさえ西住流後継者という期待もあった西住に、周囲はどんな反応をしたのか、俺にはわからない。

 

が、想像は出来る、負けた理由を一人に押し付けて糾弾するのは、集団における最も簡単で残酷な【反省会】なのだ。

 

彼等は考えないだろう、例えば大会当時、天候は悪く、雨が降っていた。

 

ならばその悪天候な中、川の近くを通らせた作戦は正しかったのか?

 

戦車の配置はそれでよかったのか?

 

当時まだ一年であり、戦車道全国大会に初めて出場したであろう西住に、いきなり副隊長とフラッグ車を任せた責任はないのか?

 

ほら見ろ、戦車道を知らない俺ですら、いろいろ考える事が出来るぞ。

 

それでも彼等は考えないだろう、彼等はただ、結果だけを受け入れて、自分達が不利にならぬよう、必死に戦犯を探すのだ。

 

集団における、一人の生け贄を探すのだ。

 

西住流の後継者と、勝手に期待して、勝手に失望するのだ。

 

だから彼女は逃げ出した、西住流から、戦車道から。

 

別にそれを否定するつもりはない、むしろ俺は肯定していいと思う。

 

逃げるのは悪い事ではない、よく逃げるな、とかいう奴らが居るが彼等は大した責任をもつ訳でもなく、この言葉を使っている。

 

逃げるのは生物が自己を守る上で必要な防衛手段だ、肉食動物に襲われる草食動物が逃げ出した所で、誰が責めようか。

 

草食動物でさえ、危機を察知すればキチンと逃げる、ならばそれより知恵のある人間が逃げなくてどうするっていうのだ。

 

だから西住みほは悪くはない、ただ彼女が悪かったのは、この学校に来てしまった運である。

 

西住には悪いが、生徒会が動いている以上、戦車道は復活する、そして生徒会は西住を諦めないだろう。

 

さて…、そうなると俺はどう動くべきか。

 

生徒会から押し付けられた以上、俺としても彼女に再び、戦車道を選択してもらうしかないのだから。

 

比企谷八幡はこの先、どう動く。

 

「私!戦車道やる!!」

 

…はい?

 

「戦車道やればモテモテでしょ、みほもやろうよ戦車道、家元だったんでしょ?」

 

あの…、武部さん、もうちょっと空気とか読んでもらえないでしょうかね?

 

「あの…、私は…」

 

「私、西住さんの気持ち、よくわかります、家も華道の家元なので」

 

「そうだったんだ…」

 

そうだったんだ…、うん、西住と同じ感想、まぁ言われてみれば確かに、五十鈴がお嬢様らしい理由がわかったわ。

 

「でも、戦車道って素晴らしいじゃないですか、私、前々から華道よりも、もっとアクティブな事をやりたいと思ってたんです、私、戦車道…やります」

 

「えぇっ!?」

 

あー…、もうめちゃくちゃだよ、完全に西住さん包囲網出来上がっちゃったよ。

 

こりゃあ俺の出番ないな、転校してからずっとぼっちだった西住にようやく出来た友達、その友達が西住を戦車道に誘ってる。

 

友達に誘われる、これは一瞬の呪いみたいなものだ、断ればその後の関係が気まずくなるし、俺、誘われた事ないからわかんねーけど。

 

俺とか生徒会が誘うよりよっぽど効率的だ、ミッションコンプリート、すまん西住、よい戦車道を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「比企谷ッ!!貴様、人一人マトモに勧誘する事も出来んのか!!」

 

翌日の昼休み、生徒会に呼び出された、デスヨネー。

 

広報の河嶋さんが俺を指差して怒鳴り付けてくる、怖い。

 

「西住さんの選択、香道になってます、もうおしまいです…」

 

副会長の小山さんもびくびく震えながら西住の必修選択科目のプリントを見せてくる。

 

西住…、やっぱ戦車道を選ばなかったか、まぁ仕方ない。

 

それより怖いのはさっきから黙っている生徒会長だ、面白くなさそうに椅子に座ってる。

 

「比企谷ちゃん」

 

「ふ、ふぁいッ!?」

 

名前を呼ばれ思わずビクッとして姿勢を正してしまう、ふぁいッってなんだよ…。

 

「西住ちゃん、ちょっと生徒会に呼んで来てくんない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

さて、やっぱりこうなったか。

 

だがまぁ、予想通りではあるので大して動揺はしない、さて、今の時間ならば西住は食堂だろう。

 

昼休みで人の多い食堂の中で、西住を見つける、例によって武部と五十鈴と一緒だ。

 

「西住、ちょっといーか?」

 

三人に声をかける、急に声をかけてきた俺に対して、今度の三人の態度は前回に比べて少し冷たい。

 

「あー!比企谷、生徒会の犬!!」

 

「…何のご用ですか?」

 

ふっ…、随分と嫌われたものだな、別に好かれてもないけど。

 

てか無視されなかったのが嬉しいくらいだ。

 

「生徒会から呼び出しだよ、西住を連れて来いってさ」

 

「どど、どうしよう…」

 

「大丈夫だよ、みほ」

 

「西住さん、心配は入りません」

 

明らかに怯えている西住に武部と五十鈴が優しく手を繋ぐ。

 

「比企谷、私達も一緒に行くからね!」

 

「構いませんよね、比企谷さん?」

 

「二人共…、ありがとう」

 

あー、友情って素晴らしいなー。

 

本当に心からそう思う、ここまで"予想通りに行く"とは素晴らしい。

三人に対して、俺は心の中で小さくほくそ笑みながらこう答える。

 

「あぁ、もちろん」


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