やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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秋山殿の潜入捜査で一番疑問というか違和感あったのは秋山殿がわざわざ敵にⅢ突が居る事言ってる事で。
出撃する戦車って相手側もわかってるのかな?でもそれなら秋山殿潜入する必要無いしなぁ…。


当サンダース大付属は誰でもウェルカムである。

大佐、敵に発見された!繰り返す、敵に発見された!

 

八幡?応答しろ!八幡!!

 

…などと小話しをやってる場合ではないな、さすがにちょっと調子に乗りすぎたか。

 

しかもよりによってサンダースの隊長、相手側のボスに見つかるとか、軍法会議ものだぞ。

 

いや、それ以前に捕まったらどうなるのん?捕虜扱いにされたりするんだろうか?

 

しまったな、秋山にそこんところは詳しく聞いておくべきだった、そしたら捕虜の扱いは戦車道規約に基づいてくれるんだろうな、とか格好いい事言えたのに。

 

「それで、改めて聞くけどコンビニの店員さんがうちに何か用なの?」

 

「あぁ、えっと…」

 

落ち着け、まだ大洗のスパイだとバレた訳じゃない、今の俺の格好はどこからどうみてもコンビニ店員だ。なりきるんだ、コンビニの店員に。

 

…コンビニの店員とかやる事多くてブラックだしなりたくないなぁ。というか働きたくないんだが。

 

「今日ここのバイトに入ったんだが、噂のシャーマン軍団が見たくて」

 

…まぁここら辺が妥当な言い訳だろう、本音もあるし、嘘を言うときは少し本当の事を混ぜれば真実性が上がるからな。

 

「嬉しい事言ってくれるわね!男で戦車が好きなんて、あなた、なかなかエキサイティングね!!」

 

サンダースの隊長、ケイさんは嬉しそうに俺の手を握るとぶんぶんと振ってくる、なんなのこの人さっきから、すげぇぐいぐい来るんですけど。

 

「それで、うちのシャーマンを見た感想はどう?」

 

「そうですね、まぁ…、やっぱりすごいです、これだけの車両を、しかもどれも整備が行き届いてますし」

 

大洗の自動車部も大概だが、これだけの保有数の戦車をしっかりと整備しているサンダースの整備士もさすがだ、まぁサンダースの場合整備士の数も多いだろうがな。

 

「まず整備から見る辺りなかなか通ね、うちは50両以上、全ての車両がいつでも出撃可能よ」

 

50両以上かよ、前情報じゃ40両以上と聞いてたけど、とんでもない物量だな。

 

「ただまぁ、それだけ戦車を揃えられる金があるのに、なんでシャーマンなんですか?ティーガーとか、パーシングとか、まだ強い戦車はあると思うんですが」

 

向こうはまだこっちの正体に気付いてないみたいだし、素直に気になった事を聞いてみる。

 

なんでも戦車道の大会ルールでは決勝戦でも車両制限は20両、50両以上のシャーマンを保有するならその数を半分でも減らせばもっと強い戦車も買えるだろうに。

 

というか20両かぁ、もし大洗が決勝戦までいけてもこっちは5両しか戦車ないし、20対5とかいう4倍差の戦力になるのか。あれ?これムリゲーじゃね?

 

「あら、シャーマンは良い戦車よ」

 

「それに関しては同意しますけどね、なんせ5万両も生産された大ベストセラーですから」

 

「Good!よくわかってるじゃない!丈夫で壊れにくくて居住性も高い、そして沢山作れる、これ、大事よ」

 

「あと操縦が簡単ですしね、なんでもバカでもわかるマニュアル付きとか」

 

これ、人によっては馬鹿にしそうな事だけど普通にむちゃくちゃすごい事なんだよなぁ…、道具ってのは誰でも扱えてこその道具な訳だし。

 

まぁ、うちにはマニュアルをちょろっと読んだだけで戦車乗り回すチートが約一名居ますけどね、あれが例外なだけでこの誰でも操縦が出来る、ってのは普通に恐ろしい事だ。

 

「そうよ、やっぱり戦車も信頼性が大事だし、それに、うちはシャーマンで戦うのがポリシーだからね」

 

ポリシーか…、うん、そういうのって悪くない気がする。

 

「それにしてもあなたなかなかわかってるじゃない、よっぽど戦車が好きなのね」

 

「えぇ、まぁ…」

 

「なら次からはこそこそ隠れなくていいわよ、うちはいつでもウェルカムだからね、歓迎するわよ」

 

やだこの隊長さん良い人過ぎない?やたらフレンドリーにぐいぐい来るし、当店は誰でもウェルカム…とか言ってくれてるし。あれ?その言葉だけ抜き出すと悪い人に見える!不思議!!

 

まぁ俺が大洗のスパイだと気付いてないからこう言ってくれてるんだろうけど。

 

…なら、少し込み入った話をしてもよさそうか?

 

「…一回戦は大洗って所と当たるんですよね?無名校で、戦車の数も少ないみたいですし、楽勝でしょ?」

 

…こんな所か?この人が隊長さんなら今のうちに少しでも考えを読んでおきたい所だが。

 

「んー、それがそうとも言えないかなー」

 

あれ?意外と警戒されてる?うちで警戒される要素なんて隊長が西住であることくらいだと思うんだけど、西住本人は自分は姉と違って有名じゃないって言ってたし。

 

「じつは相手の大洗はね、練習試合とはいえあの聖グロリアーナと結構いい試合してたって話なの」

 

「あー、へー、ふーん、そっすかー」

 

…っべー!これ!マジっべーよ!!普通にバレてるよ!!

 

「よく調べましたね、無名校なのに」

 

「サンダースの情報網を甘くみない事ね、うちにはそこら辺も結構優秀な子が居てね、アリサって言って…」

 

…アリサ?はて、どこかで、というかついさっき聞いたな、あれ?もしかしたらさっきのあいつも戦車道チームなのか?

 

「でもその試合、なんか大洗の方が反則したみたいだからね、ちょっと許せないかな」

 

…ギクッ。

 

「あー…、えと、そ、そうなんですか、何やらかしたんですかね?」

 

ヤバいよヤバいよ、なんかもう、手にすっげぇ汗がたまってる気がするよ、しかも許せないとか言ってるおケイさん怖いよ。

 

「残念だけどそれはわからなかったんだって、でもやっぱり戦いはフェアプレイにいかないとね」

 

…フェアプレイねぇ、でも隊長さん、あんたの所で見つけた通信傍受機はあれ?フェアプレイと言えるのかな?

 

でもなんかこの人、大洗の反則を許せないとか言ってたし、もしかしたら通信傍受機の存在を知らないのかもしれない、あれ、なんか隠してあったし。

 

…伝えとくか?言えばもしかしたら大会で通信傍受機を使うような真似もしないかもしれないし。

 

「あの…」

 

伝えたら、伝えたら…どうなる?それでうちが有利になるのか?

 

考えてもみろ、元々相手は強豪校で戦力は倍、戦車の性能も向こうが上、なら、まともに正面からぶつかっても勝ち目はない。

 

ならこちらが勝つにはからめ手しかない、そしてそのからめ手を決めるなら…。

 

「ん?どうしたの?」

 

「いえ…」

 

あの通信傍受機は、使えるかもしれない。

 

それに、俺はあの通信傍受機を見つけただけだし、それを試合に使うかはわからない、使うにしてもうちとの試合には使わないかもしれない。

 

「ただ…フェアプレイに行くなら大洗と同じ車両数で戦ってみるとかどうかなーって?」

 

咄嗟に出てきた言い訳みたいなものだが、あの練習試合を見ているなら大洗に戦車が5両しかないのもたぶんバレてるんだよなぁ…。

 

「…あっはははっ!なかなか面白い事言うわね、あなた」

 

ケイさんは何が可笑しいのか腹を抱えて笑いだした、なんかこの人、笑いの沸点低そう。

 

「確かにその方がフェアね、うん、面白い試合が出来そう」

 

え?マジでやってくれるの?サービス精神多すぎだろ。

 

「でもそれはさすがにノーね、こっちはルール違反している訳でもないし」

 

ですよねー、うん、さすがにそう都合良くはいかないか。

 

「それに、向こうがまたアンフェアな事するかもしれないしね」

 

「…それに関しては大丈夫だと思いますよ」

 

…いや、本当に。やった当人が保証しますから。

 

試合が始まれば、あとは俺は何も出来ないし、しない、それはもう決めた事だ。

 

あの時、あの場所であんこう音頭を踊る為にわざわざ集まった彼女達を、俺はただ信じる事にしたのだから。

 

だから…、だからこそ。

 

「大洗はアンフェアな事はしませんよ、向こうは…ね」

 

俺に出来る事は試合前、今、この時だけだから。

 

だからこそ…、試合前にやれるだけの事は全部やってやる。

 

たぶん、この人は相当に真っ直ぐでとんでもなく良い人だ、大所帯のサンダースのリーダーなだけはある。

 

戦車道をスポーツとして、正々堂々とフェアプレイで勝負に挑もうとしている。

 

ならば、フェアプレイを好むケイさんの事だ、もし通信傍受機なんか使ってるのがわかったら…。

 

「…そうねー、考えとこっかな。あははっ!なんだか楽しくなってきちゃったかもね」

 

本当に楽しそうに笑うケイさんに少し罪悪感を覚えるが、あの通信傍受機を使う使わないはそっちの勝手だ、使わないなら使わないで、こちらも真正面からぶつかるしかない。

 

「あ、あの、隊長?」

 

と、ケイさんとそんな話をしていると気付けば他の戦車道の隊員であろう女子が声をかけてきた。

 

「そろそろミーティングが始まりますが」

 

「んー、もうそんな時間かぁ、残念!もっと話していたかったんだけど」

 

…ミーティングって事はたぶん、大洗との試合に向けての作戦会議か。

 

「それで、少しは参考になった?大洗のスパイさん」

 

「…っ!バレてましたか?人が悪いですね」

 

「まぁ、あれだけ大洗贔屓の話をされたらね、でもあなたのおかげで試合が楽しみになったわ、感謝しなきゃね」

 

あー、まぁ、やっぱりバレますよね、それを承知でここまで付き合ってくれたとか、この人本当に良い人だわ。

 

「そういえばまだ名前を聞いてなかったわね?いつまでもコンビニの店員さんじゃ格好付かないでしよ?」

 

「…そうですね、エイトボール、とかでいいですよ」

 

ふと、何故か昔見た戦争映画の登場人物の名前が出てきた、まぁ潜入捜査ですし、八繋がりで。

 

「あははっ!いいわね!本名は試合が終わったら聞くわ、エイトボール、なんならあなたもミーティングに来る?」

 

「いや、さすがにそれは遠慮しときますよ」

 

どれだけサービスしてくれるのこの人、本当にウェルカムだな。

 

「フェアプレイに、でしょ?俺はここら辺でおいとましますよ」

 

あんまり借りを作り過ぎるのもアレだしな。

 

それに…俺はね、もう一つの潜入捜査の方は秋山に任せよう、俺が行くと鉢合わせしてややこしい事になりそうだし。

 

「そう?残念ね、さっきの歓迎する話は変わらないから、またいつでも遊びに来てね、なんなら今度は戦車に乗せてあげるわよ」

 

「え?マジでいいんですか!?」

 

やだ、八幡サンダースの子になっちゃいそう、これはかみなりの石使いますわ、唯一王?知らない子ですね。

 

さて、とはいえまだ仕事は残ってるんだよなぁ、秋山の為にも脱出ルートの確保くらいはしておかないとな。

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「逃げたぞー!!」

 

「スパイだ!追え追えー!!」

 

んで、やっぱりこうなっちゃうのね。

 

「すいません比企谷殿、見つかってしまいました」

 

「まぁ予想はついてたけどな」

 

隊長のケイさんは俺をミーティングに誘うくらいウェルカムな人だったけど、他のサンダースの面々はそうではないだろうし。

 

たぶん、ミーティングには秋山が潜入していたんだろうが、いくらサンダースが大所帯とはいえ、バレるよな。

 

「オットボールはどこだ!!」

 

というかそれより気になるのはサンダースの方々がオットボールとかいう謎の人物の名前を発してる事なんだけど。

 

「なぁ秋山、オットボールって誰?」

 

「えと…、私です、名前を聞かれた時、とっさに出てきちゃったというか」

 

なんでそこで戦車映画の名脇役の名前が出てきちゃうの?意外と余裕あったんじゃない?俺も大概だけどね。

 

「見つけた、オットボールだ!!」

 

「わわっ!見つかりました!!」

 

「とりあえず走るぞ!!」

 

慌てて俺は秋山の手を握ってその場から走り出す。

 

「え?あ、えっと…」

 

慌てては困惑しているのか、顔を赤くさせながらそれについて来てくれた、とっさとはいえごめんね?汚くないからね?

 

申し訳なく思いながら秋山の手を握りながら駆け出して俺が居たコンビニに向かう、裏口から出ればあとは港だ。

 

「あっれー?ヒキタニ君じゃん!どこ行ってたのマジで?職場放棄とかないわー、マジないわー」

 

あれ?なんかコンビニにやたらと人多くない?邪魔なんだけど、あとヒキタニって誰だよ?

 

「なんかこのマックスコーヒー?がやたらと売れて人足んないんだわー、マジヒキタニ君にも手伝って欲しいっつーか?」

 

え?マジであのPOPにそこまでの宣伝効果があったの?サンダースの人達どんだけ人生に疲れてるのよ。まぁ俺はヒキタニじゃなくて比企谷なんで手伝う必要ないですね。

 

とりあえずサンダース大付属にマックスコーヒー布教完了ということで内心にんまりしつつ、停泊してるコンビニ便に戻った。

 

「すいません…、最後の最後にバレてしまって」

 

「まぁ、目当ての情報は手にいれたんだろ?充分だ」

 

「はい、ありがとうございます!!比企谷殿は何をしてたんですか?コンビニに居なかったみたいですけど」

 

「…ん?俺か、そうだな…、マッ缶宣伝してガム売りさばいて他人の告白覗いて敵に見つかってた」

 

「あのー、もう一度聞いてもいいですか、…何してたんですか?」

 

いや、本当に。何してたんだろうなぁ…。

 

「ま、積もる話は後だ、とりあえず…帰るぞ」

 

「はい!大洗に向けてパンツァー、フォーですね!!」

 

いや、今俺達戦車に乗ってる訳じゃないからね?

 


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