やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
深い理由は特に無いし今後この小説でサンダース大の男の新キャラとか出さないけどね、まぁ大洗が共学の設定だし、女子校ばかりなのもアレなんで。
というかガルパンの世界、女子校多すぎでしょ?逆説的に男子校の学園艦も多いの?男だらけで海上生活とか誰が得するのよ?
こちら八幡、ただいまサンダース大付属高校に潜入中、大佐、指示を頼む。
という訳でやって来ましたサンダース大付属高校、学園艦といえば大洗ぐらいしか知らなかった俺だが、初めて他の学園艦を見てその規模の違いに驚いた。
そういえば聖グロリアーナの学園艦も大洗の二倍くらいの規模があったな…、単純にこの2つが金持ちなのか、それとも大洗が貧乏なのか、たぶん後者だろうなぁ…。
学園艦の規模の違いは当たり前だが、その規模に比例するように、サンダース大付属高校は単純になにからなにまでビックサイズだ、秋山曰く、艦内に多数のレジャースポットもあるらしい。
まぁそんなリア充御用達の施設に興味はないし、今回は潜入偵察に来ているので艦内をじっくりと見る予定なんてないが。
そして俺はといえば…。
「…っしゃいませ」
サンダース大付属の中にあるコンビニで今日も元気に接客中である、さすがはサンダース大付属、高校内にコンビニがあるとは素晴らしい。…違う、そうじゃない。
無事にサンダース大付属に潜り込めた俺と秋山だが、さすがの秋山もサンダースの男物の制服は持っていなかったらしい、いや、なんで女物の方の制服は持ってるのかとも思うけどね。
そんな訳でサンダースの戦車道チームへの偵察は必然的に秋山に任せる事になり、俺はといえばやることもないし、コンビニの制服で出歩くのは目立つし。
じゃあコンビニの制服で居て目立たない場所ってどこよ?と聞かれたらコンビニしかない、つまり、バイト中なのである、あれ?俺もしかして来る必要なかったんじゃね?
しかもこのコンビニ、マッ缶の扱いがすこぶる悪い、ドリンクコーナーの片隅に追いやられている、ここはマッ缶普及の為にも目立つ位置に置いといて素敵なPOPを書いてやるか。
【人生は苦いから、コーヒーくらいは甘くていい】
うむ、我ながら良い仕事をしたものだ、サンダースの戦車道チームがこのマッ缶に影響を受けてマッ缶のように甘ったるい試合展開をしてくれればこちらもわざわざ潜入した甲斐がある。ないか?うん、ないな。
「ちょっといいか、これを頼む」
特にやる事もなくなり、レジの前でぼーっとしていると一人の女子生徒に声をかけられた。
女子生徒…だよな?髪型もボーイッシュでベリーショートだし、なんかやたらとイケメンな顔立ちだけど。いや、胸はあるし、俗にいうおっぱいのついたイケメンだな。
「あぁ、は…い?」
だが、そんな事よりもそのおっぱいのついたイケメンの女子生徒が購入した商品の方に驚いた、ガムである。
いや、ただのガムならそりゃ別に驚きはしないんだが、この人、売り場のガムをレジの前に並べて全部買おうとしている。
「えっと…、これ全部ですか?」
「あぁ、あとこれも」
そしてマッ缶、やった、さっそくPOPの宣伝効果が出たな。いや、それよりもガムの方が衝撃的過ぎてなんも言えねぇ。
「えっと…、ありがとうございます」
「どうも、また仕入れてくれ」
謎のガム女生徒はそう言ってコンビニの袋を肩に担ぐと颯爽と店内から出ていった、あらやだイケメン。コンビニ袋の中身がガムだらけなのを除けばだけど。
まぁいいか、今はそんな事よりも仕事だ、仕事。
…いや、ちょっと待て、なんで俺普通にアルバイトやってんの?おかしくない?
「すいません、売り場のガムが無くなったんですけど?」
「え?ちょマジで!?なら倉庫から新しいの持ってくんべ、いやマジで」
先輩っぽい人はなんか店の奥でずっとスマホいじってるし…、俺、今日が初日なんですけど?
「…倉庫のどこにあるか教えて欲しいんですけど」
「いや、今大事なイベント中?みたいな?だから手が離せないっつーか?」
「あはは…、そっすか~」
渇いた笑いで返しながら決意する。よし、バックレよう。まぁこんな感じの適当な先輩だったおかげでコンビニバイトに紛れ込めたんだけどね、その点は感謝してるが。
ーーー
ーー
ー
さて、コンビニ、延いては仕事という概念から逃げ出す事に成功した俺はマッ缶片手にふらふらとサンダース大付属の敷地内をぶらついていた。
…言っとくけど、きちんとレジを通して買ったからな?
コンビニの制服で校内をうろつくのはさすがに目立つので、外を適当に歩いて人気の無い所で秋山の偵察が終わるまで待っていよう、というか始めからそうしておけばよかった。
長年のぼっち生活によって築かれたスキルの一つに、なんとなく人気の無さそうな所がわかる、がある。習性と言ってもいい。
それは初めて来た場所でも例外ではなく、生徒数の多いサンダース大付属の敷地内で見事にあまり人の来なさそうな場所を見付ける事が出来た。
…出来たんだが。
「その…、ずっと前から君の事が好きだったんだ!付き合って下さい!!」
「…たかし君」
はい、なんとも言えない場面に立ち会ってしまった、そうなんだよね、人気の無い場所ってこういうのあるよね。
校舎裏、人気の無いない場所で見つめ合う二人の男女、恋愛脳真っ盛りな武部とかこういうの好きそうだよなぁ。
…とりあえず隠れとくか、見つかったら面倒な事になりそうだし。
頑張れたかし君、俺は応援するぞ、フラれても人生まだまだこれからだしな。つーかフラれろ、リア充爆発しろ。
と、呪詛の念を心で唱えながら適当に近場で隠れられそうな茂みに入ると。
「ダメよたかし…、失敗よ、失敗しなさい…、お願いだから」
…先客が居た、短めのツインテールにそばかすが特徴的な女子である。
「…え?」
少女は俺と目が合うと一瞬、キョトンとした表情になり、瞬きを何度か繰り返すと。
「な!な!」
みるみる顔を赤くさせると俺の腕を強引に掴み茂みの中へと引っ張った。
「ちょっと…、何?いきなり何すんの?」
「うっさいわね!静かにしなさい!!」
いや、どう考えても今の君の声の方がうるさいからね?
茂みの中、すぐ真横で初対面の女子と密着しながら他人の告白見るとか何だよこのシチュエーション。
「あぁあ…たかしぃ、あなたには私が居るじゃない…」
しかもこの女子、呻き声にも似た言葉を発しながら怨めしい視線で二人の告白の様子見ているって事はアレか、 こいつもたかし狙いか、令呪を持って命ずる、自害せよ!たかし!!
そんな俺と彼女の呪いも奮闘虚しく、たかしと告白された女子は二人、手を繋いでその場から去っていった。もう本当に虚しい。
「…どうしてなの?幼馴染みの私が昔からずっとこんなに思っているのに、私の気持ちは伝わらないの!?」
いや…知らんがな、幼馴染みは負けフラグとかいうやつじゃないですか?
「というかなんなのよあんた!いきなり出て来て!コンビニの店員がなんでこんな所に居るのよ!?なんでたかしはあの娘が好きなのよ!!」
いや、後半はもう八つ当たりもいいところじゃないですかね…。
「いいわよ!笑いたいなら笑えばいいのよ!たった今、ものの見事にフラれた私を笑いなさい!!」
よくわからんが、なんかもうヒステリック起こしてるし、正直勘弁して下さい。
「と、とりあえず落ち着いたらどうだ、えと…飲み物ならあるぞ?」
「落ち着いてなんていられる訳ないじゃない!!」
ヒステリック女子は叫びながら俺からマッ缶を奪うとごくごくと飲み出す、あぁ、結局飲むのね。
「…ぷはぁ、甘ったるいわね」
一気に飲み干してヒステリック女子は一言だけ告げる、ちょっと、人の飲み物飲んどいてそれはないでしょ…。
「少しは落ち着いたか?」
「…何よ、たかしの奴、私の気持ちも知らないで」
「まったくだ、リア充爆発しろ」
なんか話し聞いてるとこいつはたかしの幼馴染みらしいし、そのたかしは先ほど告白した相手と良い雰囲気で去っていくし。
「え?」
「いや、お前みたいな奴に昔からずっと思われてて、それでいて他の女子に告白成功とか、鈍感系主人公はもうマジで爆発しとけって感じだな」
なんなのこの青春ラブコメ、何も間違ってないんだけど?
「…私を笑わないの?」
「は?笑う訳ないだろ、そんだけ誰かの事を思えるってのは単純に凄いしな」
だいたい、そんな事をネタにすれば中学生時代の俺のクラスメイトとやってる事同じじゃないか。
「…アリサよ」
「…ん?」
「アリサ!私の名前よ!あなた、見た感じコンビニの店員みたいだけど見ない顔ね…」
「あー、えっと…」
マズイな、偵察がバレたか?なんかアリサと名乗る女子生徒の顔が少し赤いんだけど、これって疑われてるのか?
「今日ここに来たばかりのしがないコンビニ店員だ」
「ふーん…、じゃあこれからは毎日会えるわね、いい?今日ここで起きた事は誰にも言わないでね、お願いよ」
「あぁ、当たり前だろ」
そもそも俺がここに居るのは今日だけなので、誰一人として言える相手も居ないのだが。
「ありがとう…、あなたのおかげで少し気が楽になったわ」
「そりゃ良かった、まぁたかしの事は気にするな、昔からお前の気持ちに気付かないような鈍感な奴だ、これをきっかけに逆に踏ん切りもつくだろ」
「…そうね、たかしが後悔するくらいの素敵な恋人を作ってやるわ!!」
アリサはぐっと拳を握ると決意を込めてそう宣言した、吹っ切れたような清々しい顔をしている。
「それで…えと、あなた、名前は?この後は暇なの?」
あ、マズイな、これ絶対疑われてる、とりあえず適当言って誤魔化してさっさと逃げよう。
「あ!悪いけどそろそろ戻らないと怒られるから、それじゃあな!!」
「え?あ!ちょっと待ちなさい!!」
我ながら下手くそな芝居を打ちつつ、後ろで何やら言っているアリサに対し聞こえない振りをしてさっさとその場から逃げ出す事にした。
ーーー
ーー
ー
さて、アリサから逃げ出した俺は慣れないサンダースの敷地内をうろうろとしている、先ほどの場所にもコンビニにも戻れなくなり、行く当ても無い。
こんな調子じゃ秋山と合流出来るかちょっと怪しくなってきたぞ…、と敷地内を歩いていると。
「…ん?」
その足取りがピタリと止まる、それも当然だ、ついに見つけてしまった。
「サンダース大付属高校戦車道チーム、戦車格納庫…」
サンダースの戦車道チームへの潜入は秋山がやっているだろうし、男でしかもコンビニの制服を着ている俺がここら辺をぶらつくのは目立つし、すぐにこの場から離れるのが一番だろう。
一番だろうが…、ちょっと見るくらいなら問題ないな、うん、ちょっとだけ、さきっちょだけだから大丈夫。
慎重に辺りを見回し、周囲に誰も居ない事を確認して戦車格納庫へと侵入。
この戦車格納庫、なんか変に離れた所にあるし、少し古いせいか今はあまり使われていないのだろう、おかげで格納庫の中には誰も居ない。
「M4シャーマンシリーズ…、さすが、戦車の保有数が全国一位と言うだけはあるな」
こんな使ってなさそうな格納庫にも何両か置いてある所を見るとサンダースの金持ちっぷりが際立つな、本当に1両くらいなら奪ってもバレなそう。
シャーマン強奪作戦である、この機体と砲弾は頂いていく!大洗再建の為に!!まぁバレたらルール違反どころか普通に犯罪ですけどね。
「…ん?」
そんな格納庫の更に奥、そこで俺はまるで隠すように置かれていた奇妙な物を見つけた、戦車ではない。戦車ではないが、それを俺は知っている、確か前にこれと同じ物をネットの画像で見た事がある。
「…通信傍受機」
…おいおい、なんでこんなものがサンダースの戦車道チームの格納庫にあるんだ?
通信傍受機、読んで字のごとく、相手の無線を盗聴する道具である、これを打ち上げて相手の無線のやり取りを拾うのだ。
まさか、これも試合に使おうって言うんじゃないだろうな?いくら金があるからってやり過ぎじゃないか?
というか、戦車道の試合的にそれっていいのか?後で秋山にでも聞いてみないとなんとも言えないが…、これがOKならこちらの動きは相手に筒抜けになるぞ。
「…マズイな」
それこそ勝ちの目すらなくなる、秋山もこれを見つけているかはわからないが、とりあえず早い所合流した方がよさそうだ。
通信傍受機を発見した戦車格納庫から出て、慎重に他の格納庫も見て回る、通信傍受機があったのは最初のあの格納庫だけのようだ。
そのままいくつかの格納庫を調べている最中だった。
「フリーズッ!!」
突然、背中に何かを突きつけられて誰かに声をかけられた、しまった!バレたか!?
というか何突きつけられてんの?フリーズって…、まさか銃とかじゃないよね?秘密を知られたからには生かしては返せないとか?
確認しようとチラリと後ろを振り向こうとしたら。
「おっとダメよ、そのまま両手を上げて、大人しくそこの壁に移動しなさい」
俺の背後を取った謎の女性はそれを許さないようで、渋々俺は両手を上げた。
「うんうん、素直でよろしい、それじゃあ…、バンッ!!」
「いや、なんでそこで撃っちゃうの?おかしいでしょ?」
思わずツッこみを入れてしまいながらも後ろを振り向くと、いかにも金髪のグラマラスなお姉さんといった人がけらけらと笑っていた。
その指をピストルの形にしている、いや、わかってたけどね、明らかに指の感触でしたし。
「あっはっはっは~、どう?驚いた?」
「えと…、誰ッスか?」
「それはこっちの台詞ね、うちの戦車格納庫でコンビニの店員さんが何やってるのかなー」
「えと…、それは、ん?うちの?」
「私はケイ、サンダース大付属の隊長よ、よろしくね、コンビニ店員さん」
ケイと名乗ったグラマラスなお姉さんは明るく笑うと握手を求めるように手を差し出してきた、なんなのこのフレンドリーなノリは?アメリカ人なの?欧米かっ!?
「お、おっけー?」
だからか、俺も思わず英語で握手返しちゃったじゃねーか、おっけーって何がですか、アメリカ被れなの?
…というかこの人、ひょっとして今隊長って言ってなかった?
「OK、よろしくね、コンビニ店員さん」
じゃあこの人がサンダース大付属高校の、戦車道チームの隊長。
戦車保有数は40両以上、一軍から三軍まであるチームをまとめるリーダーという訳か。