やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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思い返すと八幡の人生ハードモードっぷりはキッツいなぁ、まぁ自業自得なところもありますけど。
そもそも告白する勇気がある時点ですごい事なんですよね、しかも心情的に諦めるまで悟るまで何度も。

とりあえず八幡の同級生の皆さん、ちょっと酷すぎるでしょ。


秋山優花里の決意は強く、比企谷八幡のトラウマは深い。

あぁ…、なんだろう、自分が急に冷めていくのを感じた。

 

目の前で頬を赤く染めて懇願するように俺を見る秋山に反して、俺の方は頭がどんどん冴えていく。

 

頭が冴えれば思い出したくもない過去のトラウマが甦ってくる。

 

この言葉は俺にとって病原菌だ、悪性のウイルスでワクチンは無い、それほどに良い思い出が無い。

 

言えば「あの、友達からでいいかな?」とかわされ、その後は一切交流を持つ事はなく、言われればそれは罰ゲームの嘘告白で「何マジになってるの?普通にキモいんだけど?」ときている。

 

そしてどちらも翌日からはクラス全員の笑い者だ。だから、その場だけじゃなく、その後までずっと蔓延する病原菌である。

 

中学時代後半ともなればさすがに学習した俺は、罰ゲームの嘘告白をしてきた女子を逆に手酷く断ってやった事もあった。

 

はい、そしたら相手泣いちゃってね、「○○ちゃん泣かせるとか、あいつマジ最低~」ときやがって、クラス中のヘイトを集めた事もあったわ、オンラインゲームとかやれば俺、超有能なパラディン、チームとかまず組まんけどね。

 

だからこそ、この言葉は対処すら不可能な特効薬のない病原菌なのだ。

 

「…えと、比企谷殿、大丈夫ですか?」

 

「…何がだ?」

 

「その、とてもつらそうな顔をしていますので…」

 

…頭は酷く冴えている、大丈夫…俺は冷静だ。

 

ふぅ…、と大きく息を整える、落ち着け、ここは中学校ではないし、なによりもこいつらは中学生時代の同級生とは違う。

 

だから、嘘でも本意でも告白する事は"あり得ない"、もう期待するのはやめたはずだ、何を動揺する事がある、比企谷 八幡よ。

 

ここの秋山の言葉の意味を深く考えるな、文面だけを拾えばいい。

 

「なんだ?また戦車倶楽部に付き合って欲しいのか?」

 

…これだ、他に何の意味がある?一人で舞い上がるな、学習しろ、過去に嫌になるくらい経験したろ。

 

「いえ、その…今回は違うんです」

 

…何?まさか、もしかしてーーー本当に?

 

「その…、比企谷殿!!サンダース大付属への潜入偵察!私と一緒に付き合って下さい!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーは?

 

「サンダース大付属への…潜入偵察?」

 

「はい、私、少しでも西住殿のお役に立ちたいんです、でも…一人じゃ不安で」

 

「…くくく」

 

「…比企谷殿?何で今度は笑ってるんですか?」

 

「いや、つくづくお前は西住の事が大好きなんだと思ってな」

 

嘘だ、この場で一番笑われるべきは俺だ、だから俺は自分を笑う、危うくまた黒歴史を重ねてしまうところだった。

 

「もちろんです!!」

 

「つーか潜入偵察って…、サンダース大付属に忍び込むのか?いいのか、それ?」

 

またルール違反で大洗の反則負けとかになったりしないの?次はさすがに蝶野教官も許さないと思うんだけど。

 

「試合前の偵察は認められているんですよ、…やる高校は滅多にありませんけど」

 

まぁ、普段は海の上を進む学園艦だもんな、普通に考えたら相手の学園艦に忍び込むとかまず無理だ。

 

「…あの、付き合って頂けますか?」

 

「まぁ…戦車道を手伝うのが俺の仕事だしな、それなら仕事の範疇だ」

 

「ありがとうございます!さすがは比企谷殿!!」

 

秋山が俺の手をとって嬉しそうにぴょんぴょんとはしゃぐ。

 

…やめてくれ秋山、これは単なる罪滅ぼしだ。俺はお前の覚悟を勝手に勘違いして一人で舞い上がっていただけなんだから。

 

つくづく、お前の尊敬するべき人間じゃない。

 

「それに、アメリカのシャーマン戦車も見たいしな、戦車の保有台数が全国一位なんだろ?」

 

「あれ?私、比企谷殿にサンダースの戦車の話ってしましたっけ?」

 

「さっき西住がファイアフライって言ってただろ、ファイアフライとくればやっぱりシャーマン・ファイアフライだ」

 

長砲身の17ポンド対戦車砲を搭載し、射程距離はなんと3000メートル、ドイツ軍からも目の敵にされた戦車だ。

 

「さすがは比企谷殿です!そうです、サンダースの保有戦車はアメリカのシャーマン軍団なんです」

 

「そういや聖グロリアーナはイギリス戦車に片寄ってたな、黒森峰はドイツ戦車なんだろ?やっぱり普通はそうやって片寄らせるもんなのか?」

 

対して大洗は各国の戦車がごっちゃ混ぜの闇鍋状態だ、まぁ戦車探して寄せ集めた集団だしな。

 

「そうですね、性能に差がない方が隊列を組みやすいですし、訓練も捗るとは思います、そして何よりも整備がしやすいでしょうし」

 

「つまり、ここまでバラバラの戦車集団を完璧に整備して、仕上げてるうちの自動車部はマジチートだな」

 

「はい、いつも感謝しています!!」

 

しかし、この闇鍋っぷりが吉と出るか凶と出るか、案外、相手に戦い方を読まれない、という点では有利なのかもしれない。

 

「となると…、やっぱり狙いはファイアフライだな、どう奪う?」

 

「う、奪いませんよ!偵察以外はルール違反ですし!!」

 

え?奪わないの?敵の戦力減ると同時にうちが超絶パワーアップするんだけど。

 

「あぁ、そうだよな、さすがに試合で大洗がファイアフライ使ったらバレるもんな」

 

「いえ、そういう事ではなくてですね」

 

「…なら破壊か、C4が欲しくなるな、敵地で上手い事拾えたら良いが」

 

「あのー、比企谷殿、どこの学園艦にもC4はありませんよ」

 

「いや、M4シャーマンはガソリンエンジンだったな、なら灯油でも混ぜるか」

 

「あの、比企谷殿、サンダースの保有戦車は40両以上なんですよ?全部破壊するつもりですか?」

 

ぐっ…、多いとは聞いてたが40両もあるのかよ、やっぱり一両くらいパクってもバレないんじゃね?

 

「どんなトラブルが起きても代えが効く、常にベストな状態に出来るのがサンダースの強みなんです」

 

つまり…戦車は駄目か、甘いな秋山、戦車は駄目でも他に代えの効きようがないものがあるぞ。

 

「戦車が駄目なら人だな、食堂の飯に下剤でも混ぜて一軍メンバー全員引きずり下ろすか?」

 

「完全にテロじゃないですか…、なんで全力で破壊工作する気満々なんですか?偵察ですよ!偵察!!」

 

「いや、潜入とくれば破壊工作だろ、アウターヘヴンしかり、シャドーモセスしかり、あとビックシェルとか」

 

「いかにサンダースとはいえ、メタルでギア的な戦術核弾頭を装備した歩行戦車はありません!というか、あっても戦車道では使えませんから!!」

 

戦車道以外でも使っちゃ駄目なんだよなぁ…。

 

「…段ボールはいるか?」

 

「もちろんです、潜入偵察の基本ですから」

 

「…わかってるじゃないか」

 

「比企谷殿の方こそ、やはり私の目に狂いはありませんでした、もちろん、破壊工作は駄目ですけど」

 

お互いにほくそ笑み、どちらから合図をかわす事なく、握手をしてしまった。

 

うん、何だろコレ?

 

「…良かったです、比企谷殿がいつもの調子に戻ってくれて」

 

…見抜かれてたか、さっきの西住の事といい、秋山はやっぱり気配りが出来るな、もともとぼっちだったとは思えん。

 

いや、俺も気配りとか超出来るけどね、気配り過ぎて普段あんまり話さないくらいだから。

 

「まぁ、俺の事はどうでもいいが、一番大事な事をまだ聞いてないぞ」

 

「はい、なんでありますか?」

 

「…どうやってサンダースの学園艦に行くんだ?」

 

鳥になってくればいいのかな?蛇よ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

さて、あれから数日後、平日の朝だというのに俺の進行方向は学園とはまったくの別方向だ。

 

秋山からの誘いであるサンダース大付属への潜入偵察の決行日、それがまさに今日なのだ。

 

なんで平日にしたのかって?そりゃあサンダースが戦車道の授業やってないと偵察の意味がないからだ、おかげで学園を休む羽目になってしまった。

 

制服に着替え、小町に学園に行くと嘘を伝えて家を出るその様子はさしずめ、リストラされた事を家族に伝える事が出来ず、とりあえず毎朝スーツを着て家を出るお父さんみたいで想像しただけで泣きそうになってきた。

 

まぁ俺が今日一日学園に居なくても特に問題はないだろうけどな、ヘタすれば気付く奴さえ居ないかもしれない。

 

ちなみに西住達には潜入偵察の事は伝えていない、これは秋山の方から言い出した事だが、成功するかもわからないので余計な期待を与えたくないのだそうだ。

 

さて、そんな俺が今向かっている場所は…、これがなんと秋山の実家だったりする。

 

別に深い意味はない、合流場所に秋山が自分の家を指定した、ただそれだけだ。

 

「…ここら辺か、確か理髪店をやってるからすぐに分かるって言ってたが」

 

…あれか、看板にも秋山理髪店って書いてあるし、たぶん間違いないな。

 

間違いはないんだろうが…。

 

「あれ、お客さんかい?悪いけど…まだ店開いてなくて、というかその制服、大洗の学生さんだね?学園はどうしたんだい?」

 

店先を掃除していた、たぶん秋山の父親だろう人に話しかけられた、まぁずっとここら辺うろうろしてたし変に思われたんだろうけど。…不審者に思われてないよね?

 

しかし、うわー…、見つかっちゃったかぁ、えっと、確か秋山が父親に見つかったらこう言えって言ってたな。

 

「えと、おたくのお嬢さん、秋山さんを誘いに来たんです、一緒に学園に行こうと」

 

よし!我ながら完璧だ、噛まずに言えた、偉いぞ俺!!

 

「うちの…娘を?」

 

あれれー?なんだか雰囲気がおかしいぞぉ?さっきまで人当たりの良さそうなおじさんだったのに今は鬼の面が見えるんだけど?

 

「…お客さん、パンチパーマはお好きですか?うちの店に任せてもらえたら立派なパンチパーマにしますよ」

 

そしてどこからかハサミを持ち出す秋山の父親、え?ハサミ!?

 

というかパンチパーマがお好きですか?とかそんな質問を人生でされた事ねーよ!!今されたけど!!

 

犬とハサミは使いようらしいけど、その使い方は絶対間違ってる!いや、マジで!!

 

「いや、別に…」

 

「ちなみに料金は8000円です」

 

高いッ!!いや、パンチパーマの相場とかよくわかんないんだけど!!

 

「ちょっとあなた、店先で騒がないの!!」

 

そんな騒ぎに店内から一人の女性が出てきた、秋山によく似ているし、たぶん母親だろう。

 

「ごめんなさいね、うちの人が、優花里のお友達?」

 

「えっと…、同じ戦車道授業の選択者でして」

 

「戦車道に男だと!やっぱりうちの娘狙いか!!」

 

「あなたはちょっと黙ってて、優花里~、お友達よ!!」

 

いや、だから別に友達じゃないんですけど…、まぁいいか。

 

「比企谷殿、いらっしゃいませ、待ってましたよ!!」

 

「お、おう…」

 

とりあえず秋山殿の言ってた父親対策が完全にアウトだったんですけど…、今もすっげぇ睨まれてますし。

 

「お父さんッ!許しませんよ!!」

 

「あのー、とりあえず父は無視しちゃって構いませんので」

 

「あぁ、うん…」

 

「いってらっしゃい~、優花里、頑張ってねー」

 

いや、秋山の父親も当然気になるんだけど、それよりもさっきからすごい良い笑顔な母親の方がむしろ気になるんだが。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「すいません、うちの父が」

 

「危うく一方的にパンチパーマにされて8000円取られる所だったぞ…」

 

「すいません、父には今度料金は取らないように伝えておきます」

 

「違う、そうじゃない」

 

さすがにパンチパーマはない、俺のこの腐った目もプラスされればそれこそ誰も寄って来なくなりそうだし、あれ?それって結構いいんじゃね?よし、パンチパーマにしてみるか、…ねーよ。

 

「それにしても、なんか重そうな鞄だな、何入ってんの?」

 

「これですか?さしずめ潜入道具ですね、さすがに段ボールは持ってこれませんでしたが」

 

「ステルス迷彩とかあるの?」

 

「あ、ありませんよ、変装道具とカメラです、比企谷殿の分もありますから」

 

「…用意周到だな、ちょっと見ていーか?」

 

「はい、どうぞ!!」

 

秋山から潜入道具が入ったとされる鞄を受け取る、相変わらず無警戒な奴だな。

 

「サンダースの制服に…、コンビニの制服?サンダースの方はわかるんだけど、何でコンビニの制服が要るんだ?」

 

あと一番ツッコミたいのはこれらをどうやって手に入れたかなんだけど?それ、なんか聞いちゃ駄目な気がする。

 

「はい、我々は今から、コンビニの定期船に乗り込んでサンダースの学園艦に向かいます!」

 

「…は?マジで?」

 

「マジです」

 

「聞いてないんだけど」

 

「言ってませんでしたし」

 

これ…、密入国みたいなもんじゃないの?本当に大丈夫なの?

 

「ここからサンダースの学園艦まで着くのにどれくらいかかるんだ?」

 

「さぁ…、わかりません」

 

「…はぁ、行くか」

 

長い船旅になりそうでげんなりしつつ、そのまま鞄を持って歩き出す。

 

「はい!頑張りましょう、比企谷殿!!…あの、鞄」

 

「…別に、これも仕事の範疇だよ」

 

どうやら俺はまだ秋山の覚悟を見誤っていたらしい。

 

「あぁ、待って下さい比企谷殿!!」

 

並んで歩く俺と秋山。…どちらが尊敬されるべきか、そんなの一目瞭然だというのに。

 

「比企谷殿、向こうに着くまで退屈なので、戦車の古今東西ゲームでもしませんか?言えなくなった方が負けです」

 

「ふっ…いいだろう、お前とはいずれ決着をつけねばならないと思っていたところだ」


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